誠芳園芳園とは花の咲き薫る名庭園


私と漢方

漢方西洋医学融合

中国文化と中国医学

日本文化と中国文化

私考「日本漢方史」

病の正しい認識

病態を正確に把握

病態に最適の方剤を

「証」と「病名治療」と

異病同治と同病異治



各論−はじめに−

従来の虚実論

山本巌の虚実論

虚実による治療

気 血 水

気 -1

気 -2

気 -3

血 -1

血 -2

血 -3

水 -1

水 -2

水 -3

発汗療法(汗法)

補益と補養剤

四君子湯の展開

四物湯の展開

四苓散の展開

生薬解説
あ行
か行
さ行
た行
な行
は行
ま行
や行
ら行
漢方処方解説
あ行
か行
さ行
た行
な行
は行
ま行
や行
ら行

 匠の治療術ホメオパティ
漢方一貫堂医学
『漢方一貫堂医学@』
『漢方一貫堂医学A』
『漢方一貫堂医学B』
『漢方一貫堂医学C』
『漢方一貫堂医学D』
『漢方一貫堂医学E』
師語録
腹症について
漢方エキス剤の効かせ方
瘀血@
瘀血A
水@
水A
ヒバリ型とフクロー型
『漢方一貫堂医学F』
  『漢方一貫堂医学G』
『漢方一貫堂医学H』
『漢方一貫堂医学I』
『漢方一貫堂医学J』
『漢方一貫堂医学K』
『漢方一貫堂医学L』
『漢方一貫堂医学M』
『漢方一貫堂医学N』
『漢方一貫堂医学O』
『漢方一貫堂医学P』
病人の治し方

















































































































































































































































































































































































































































































































































    
  漢方革命 〜山本巌先生語録を中心に〜
                   −医療関係者の皆さんの建設的な意見をお待ちしていますー

  稀代の名医、故山本巌先生は漢方医で、大阪で山本内科を開院されていました。

  大学病院の専門分野で治らない患者さんを 教授や助教授からよく紹介されていましたが
  それらの壮絶な難病の患者さん達を、漢方でことごとく治していました。

  あらゆる難病を正確に治していくその治療は、
  西洋医学から見ても漢方から見ても、常識はずれともいえるすばらしい治療でした。

  うわさがうわさを呼び、山本巌先生の診療は見学する医師や薬剤師たちで溢れていました。

  一方で症状によっては、その場で漢方薬を服用した後 ストップウォッチで時間を計り、 
  20〜30分後に効果判定をしていました。 漢方薬には即効性もあるのです。

  山本流漢方は 従来の漢方とは根本的に異なっていて、
  西洋医学の長所である診断学や病態生理を重要視していました。

  そして、西洋医学の長所をとり入れ、漢方の短所を除いていたため
  漢方界でも西洋医学界でも主流派ではありませんでした。

  主流派ではないためにこのすばらしい山本流漢方医学が一般に知られないのは
  「医学界の大損失」だ と思うのは私だけではないと思います。


  漢方は 決して代替医療とされる程度のレベルではなく
  西洋医学との融合によって 第一の医学になるはずの治療医学です。

  それほど漢方の治療学としての効果は素晴らしく、
  それほど西洋医学の診断学や緊急医療の進歩はめざましい。

  ところが、
  近年 漢方薬のエキス化や保険適用によって 漢方薬が広く普及される一方で、
  漢方本来の的確な治療効果を発揮できていない。 何故なのでしょうか。

  現在、漢方を投与する医師や薬剤師は大きく分けて3つのパターンに分類されるといわれます。

  1つ目は漢方のスペシャリストを目指し、漢方一筋で頑張る人、

  2つ目は西洋医学を基本として西洋医学の限界の部分を漢方で補おうとする人達、

  3つ目は残念なことに一番多いだろうと言われますが、
       最初から 漢方なんて効くとは思っていない医師や薬剤師達。
       病院でも薬局、薬店でも、他にだすものがないし、患者さんも喜ぶから という理由。

  3番目の人たちは真面目に漢方を勉強しないでしょうから問題外だし、
  1番目と2番目の人達も残念ながらすこし違う。

  西洋医学と漢方を分けて考えるのではなくて、
  それぞれの長所を融合して一つの医学にすればいい。

  日本漢方も中国漢方もその治療効果に対してある程度の評価はできるものの、
  医学と言うにはまだ稚拙で改善されるべき点は多く、
  漢方本来の素晴らしい効果を充分に発揮していない。

  私はまだまだ浅学なため、どこまで上手く説明できるかわかりませんが、
  ここで山本巌先生の治療医学を紹介したいと思います。

  それは「漢方革命」という大それた題名を付けるに値することかも知れませんし、
  医学の発展にとっても、多くの患者さんにとっても大変有意義なことだと考えます。

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私と漢方

漢方の道を志して、あっという間に25年の年月が流れました。
多くの人がそうであるように、まず日本漢方、中国漢方を徹底して学びました。

日本漢方といっても、統一されたものではなく、
古方派、後世方派そのほか多様な流派があります。

当時は血気盛んな頃でしたから、
古方や後世方の大家とされる漢方医の著名な先生方に
積極的に(図々しく)アプローチし,問いかけたものです。

漢方専門薬局として 一人一人の大切な生命の相談にあずかるのですから、
もっとより良い治療、良い手法を と研究し続けるのは当然です。

大型書店や専門書店で関連の書物をすべて精読するのに10年もかかりません。
そうなると 漢方の主流派とはいえない書物にも目はとまります。

その中に、故山本巌医師の「東医雑録」や漢方一貫堂流の書物がありました。

古今東西の範疇にいれても天下の名医と思える山本巌先生の漢方医学は
従来の漢方とは土台の部分から異なり 「目からウロコ」 という言葉がピッタリで
「ナルホド そりゃあそうだ」と万人が思えるほどの治療医学なのです。

だからこそ10年弱もかけて目につけたウロコをクリーニングするのは
容易ではなく、山本巌流の漢方医学に切り替えるのに数年の歳月を要しました。

そして今、
そのころから10年ほどで、
私の漢方は自分でも信じられないほどの変わり方をしました。


あの時に 山本巌先生の書物に巡り会っていなければ、

あの日に 山本巌先生の薫陶を享けられる僥倖を得ることがなければ

と思うと、私は10数年前の私の探求心と幸運に百万べんの礼を言いたい。


私はまだまだ未熟で、学ばなければならないことが沢山ありますが、
山本巌先生の漢方医学を1人でも多くの人に知っていただくためにも
また自分の精進のためにも、すこしずつでも綴っていきたいと思います。

1人でも多くの人が本物の漢方医学に触れることができれば、

1人でも多くの人が私と同じ幸運に巡り会えれば、という一念が

私のつたない文章、未熟な見識を露呈する勇気を与えてくれます。

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漢方と西洋医学の融合

私が東洋医学に惹かれるのは、病人を悪い部分や現象だけでなく
その環境や人間関係をも含めた丸ごとの小宇宙として見つめるからです。

外因だけでなく、内因も見つめます。

「外因は 変化の条件であり、
 内因は 変化の根拠である。  外因は内因をとおして作用を起こす」

漢方医学は 治療学としては非常に優れていて、
西洋医学では考えられないような優れた手法がたくさんあります。

「気」「血」「水」や「冷え」などに対しての手法です。

西洋医学は 診断学としては非常に優れていて、
一つの疾病を検査によって診断し、病因を知り、病態生理を明らかにします。

そこで西洋医学の病態生理を診断の主体とし、東洋医学の病理観を加える、
そして東洋医学を治療の主体とし、緊急の処置を西洋医学で補う
という柔軟な手法を講じれば理想的な治療になるでしょう。

そのためには、
長年にわたって複雑化されてしまっている東洋医学の余分な部分を排除し、
合理的でシンプルにすべきだと考えます。


中国漢方にも日本漢方(のさまざまの流派)にも長所もあれば短所もあります。

それぞれが術を伝承するという長い年月の伝統と強固な姿勢により、
短所(欠点)までも含めてその流派の基本骨格の一つになっているかと考えます。

ところがその欠点を指摘し否定することは、流派の根幹を揺るがすことになり、
許され得ない不文律になっているのではないでしょうか。

漢方は本来、簡単シンプルであるべきなのに、
それらの欠点を正当化するため複雑になり「再現性」「客観性」のある効果を示していない。

この状況は 本来の目的である「治療」にとっては足枷になり、
これから漢方を学ぶ人達にとって非常に理解しにくくなり
漢方医学の進歩をさまたげる結果になります。

そこで、それぞれの流派の欠点である手枷、足枷を解き放てば
漢方はわかりやすくなり、非常に有用な治療医学になる、と確信しています。

そして、漢方がそのような医学になって初めて
東洋医学と西洋医学の融合も可能になり
病気に悩む万人の利益につながるのではないかと考えます。

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中国文化と中国医学

漢方を語るとき、中国文化に触れないと『画竜点睛を欠く』ことになります。
中国医学は、中国古代の天文歴法や宇宙人生観に大きな影響を受けているからです。

16世紀以前の中国はヨーロッパよりも高度の科学文明が栄えていて
紙をつくる技術・印刷術・火薬・磁針の発明も中国がはやく、世界一の先進国だった。

中国とヨーロッパとの大きく異なる点は、中国人の合理思想が
神や悪魔による自然現象の説明を否定してきたことにあります。

中国の(紙、印刷、火薬、磁針などの)文化が発達したのもそのためと考えられる。

ヨーロッパでは迷信的暗黒時代が中世を支配したが
中国では古い時代から合理的思想があって文化が進歩した。


  ヨーロッパでは迷信的暗黒時代が中世を支配したといわれ、
  古典がキリスト教の観念に適合するよう歪曲されていた。

  それは権威の文化で、この地上の世界は悪魔が支配し、
  いろんな現象はそれによってつくられるものが多く、
  これに惑わされると地獄に落ちねばならない。

  そして自然現象に関してもその解釈は全く誤った具体的説明をしていた。

  ルネッサンスを経て、
  コペルニクス、ガリレイ、ブルノー、ヴェサリウス、セルヴェトウス等の人達と
  宗教権威との間の長年の闘争を通して近代化が行なわれてきた。

  中国文明が何故、16世紀以降にヨーロッパに逆転されなければならなかったのか。

  それには中国が外部から遮断されていたこと、
  科挙の制度が科学の進歩をさまたげる原因になったこと。などが挙げられている。

  もし中国で役人となって立身出世をしようと思えば、
  古典を学ぶ以外に方法はなく、そして科挙の試験に合格しなければならなかった。

  試験に合格するためには古典の知識を習うことが必修条件だった。

  自然科学や技術の研究をしても、古典を批判して合格しなければ
  それを社会に生かす道は殆どなかった。

  中国には陰陽五行説などの思弁的だけど合理主義があって、いろんな文化が発展し、
  これをたち切って新しい経験的合理主義への移行がなされにくかったのだろうか。

  ヨーロッパの科学は観測実験を重視し、実証的、経験的に知識を確実にしていった。
  経験的合理主義をおしすすめていったために中国と逆転したのだと思う。

  中国の合理主義は近代科学に見られるような強力な実験の裏付けをもたず、
  その文化を充分に発展させる基礎となることができなった。

  中医学は中国では祖国医学であり、
  陰陽五行思想を中心に、臓腑論、経絡説等がまだ主体です。

  外来文化である西洋医学をどう利用して新しい中西結合の医学をつくるのか
  どのように進歩発展させていくか、非常な期待をもって注目していきたい。

  過去の陰陽五行思想を現在にどのように生かしゆくか、
  時間が必要かもしれない。でも悠久の歴史からみればほんのわずかのことです。



漢民族は黄河流域に定住し、農耕をするようになってから
季節の変動を知る必要性がおきた。

時の進行や季節の変化は日月をはじめ、天体の運行と規則的にあらわれる。
各王朝の帝王は日月星辰を観察させ、人民に暦を作って時節を知らせた。

天文の知識は支配者の大切な仕事だった。

太陽による昼夜の区別そして、天体の観測から
季節の変動が恒星の運動と密接に関係のあることを知った。

春秋の時代には、一年が365日あまり、
恒星は一定の順序で整然と循環してとどまらないことを知っていた。

それには土圭の発明が大きな貢献をした。土圭は日時計のことで、
はじめは三角形の盛り土で日影を測った。後に木の柱に換えた。

土圭を用いて夏至と冬至を正確に定め、その中間をとれば秋分と春分がはっきりわかる。

冬至から冬至まで一年とし、その間に月は十二回の満ち欠けを繰り返す。
十二という数は太陽と月の運行のかねあいから生じた暦法上のものです。

各王朝の帝王は、春耕、播種の時、収穫の時を広く人民に知らせねばならない。
そのためこの十二の数が農歴と深い関係ができた。

一年を十二に分けたため十二支と呼ぶ。
後漢の時代では子は一月、丑は二月・・・というようにわりあてている。

支は木の枝や川の支流のようにわかれることを意味している。
太陽に10個の種類があり、それにつけられた名前が甲乙丙丁・・・で十種類。

毎日ちがった太陽がのぼり10日で一巡する。従って10日を一旬という。
一ヶ月を三分し、十日までが上旬、二十日までが中旬、以下を下旬とした。

子丑寅・・・甲乙丙・・・を組み合わせて日次を記し、60日の順序を表すようにした。
これが記日法でさらに年を表示する記年法にも用いられ60年で一巡し、還暦という。

子をネズミ、丑をウシ、寅をトラ・・・のように
動物に割り当てたのは前漢の頃といわれる。

もともと十二支は直接動物と関係はなかったが、
文字を知らない農民たちに「絵とき暦」を与え、身近な動物でもって十二支を憶えさせた。

地球からみれば、恒星の規則正しい運行に反して、太陽系の木星、土星、金星などは
順行、逆行、停留など遅速のあるみせかけの運行をすることが発見された。

恒星の運動が季節の移り変わりとあまりにも密接な関係があるため、
この不規則な運動を示す五惑星が、天変地異、疫病の流行、戦乱、
はては人間の性質や運命、体の病理現象にまで深い関係をもつのではないか、
と考えたのだろう。つまり、天人感応説です。

このような発想から後世「運気論」や「推命法」を考えるようになったのだろう。


中国に発生し発展した医学の初期は、薬物も神農が百草を嘗めて薬能を知り、
鍼灸も皮膚の刺激による反応から病状と治療点を経験的に知った。

内経系の医学ももともとは純粋な経験による現象論から出発したが、
これを学問的に組み立て、理論体系をつくる段階で、人間を小宇宙と見立てて
天人感応、天地五行説等の考え方を人体に当てはめてつくられた。

人体に十二の経絡があり、気血が循環している、一呼吸に何寸進む・・・、
人体に三六五個の経穴がある、・・・・・・・宇宙は木火土金水の五行から構成された。

時令(気節)、生長化収蔵の発展過程、五気、五色、五味から
人体の構成の五臓、五腑、五官、五行、精神現象の喜怒憂悲恐の五分類法で分類した。

人体と自然現象まで相応関係を、相生、相尅、相乗、相侮的な形而上学的な考え方で
総てを五行に帰属させ分類した。

また後世には人体内臓、精神活動や薬物の性質も
五行比類的な類推法によって推論してきた。

鍼灸の物理治療だけでなく、薬物療法の学問においても、
経方と呼ばれる古い《傷寒論》《金匱要略》にもその影響を少しは受けているが、
以後の時方にはこの内経系の思想が次第に支配的となった。

ことに李東垣、朱丹渓等の金元大家からこの傾向は非常に強い。

自然現象から人体の生理、病理、薬物の作用まで
陰陽五行説的な帰類、比類による帰納的、又類推による理論が非常に多い。

たとえ形而上学的な発想から組み立てられた学説によって把えた現象でも、
因果関係が明瞭で再現可能性があれば、それを利用することはできるが。。。

そして、この内経系の世界観における学問の精華とも言うべき運気論も、
ここまでくれば足が地から離れて空理空論となる。

最近の中国医学界では、内部からも次のような否定的見解がみられる。

「陰陽五行説は古代の自然観で、素朴な唯物論と自然発生的な弁証法の思想を備え、
それは鬼神の逆信思想を受け容れないため、医学を向上発展させる原動力となった。

しかしこの種の理論はまた不完全なもので、
はなはだ唯心論と形而上学の影響を受けやすかった」



古代より、中国において自然現象の説明に役立った陰陽五行説も
一種の合理的な解釈法で、中国文化の発展に非常に大きな貢献をしてきた。

そして現時点でも、日本漢方が中国医学に学ぶべきことは非常に多い。

しかし、その根底にある思弁的形而上学的な五行説などは
医学として受け容れるには現実的とはいえないし、一考すべきかと私は思う。

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日本文化と中国文化

中国の人は、形式を重んじ原則を立てる、しかし事にあたっては実利的で
「大義名分」をたてながらも個々の現象に対応をするという気質があると思う。

古典や文献をみても、日本人と中国人では見方や理解の仕方が異がなることがある。

多少の誤りや事実とあわないことがあるときも、中国人は気にしない。
日本は非常に厳密にする傾向がある。

中国人には建前と本音があって、建前はあくまでも原則論としておいて、
実際にはそれに応じたやり方をする。
日本人にも建前と本音はあるが、その間の融通性は乏しい。

こんな話があります。
ある樹の下で二人の子供が争っている。
一人は日本人の子供で、一人は中国人の子供です。
日本の子供はその樹に梨の実があると言い、中国の子供はもう無いといっている。

成程、この樹には以前果実が沢山なっていたが、
今は殆ど無くなって、わずか1〜2個が残っているに過ぎない。

中国では、これは例外的な存在であり、現在ではもう「無い」と考える。
日本人は一個でも二個でもなっていれば「ある」という。

このように観点が異なるのですから、運気論や内経のような書は
日本人には全く現実と異なる空理空論を書いた書物に見えたのでしょう。

こうした性格の差異が医学の面においても
中医学と日本漢方の違いとなってくる。


中国の医学は陰陽五行論という眼を通して
自然の現象や生理、病態現象を把えて学問をつくる。これが原則です。

五行論で内臓を分類すれば、五臓や五腑になり、
あくまで五行が先で実体が後になる。六経的に分類すれば六臓と六腑になる。

また脳は五臓になく、脳の働きである精神現象も五つに分類して五臓に配当する。
融通性があるといえば、たしかに融通性がある。おおらかと言えば実におおらかです。

日本人の性格からすれば、
事実に忠実であろうとすればするほど、内経系の医学は空理空論に見える。

同じ《傷寒論》をみても
日本人のみるのと中国人のみるのとでは《傷寒論》がちがうのです。


杉田玄白にしても西洋の解剖学を勉強し、死体解剖を実施し、
「古人の諸説みな空言にて、信じがたきことのみなり」といった。

人体解剖を通して腎臓の実体をみれば、腎臓はあくまで泌尿器であって、
生殖器でもなければ先天の精(生命力)を臓するものでもない。

中国には昔から宦官というものがあっから、睾丸のこともよく知っていたはずです。


再現可能性のある学をつくるためには、
無数の個々の中から、普遍性を取り出して法則をつくるのですが、
個々の特殊性にとらわれると普遍性の法則はつくりにくい。

日本にいまだ漢方の学問体系がつくられないのは、
正直で融通性のききにくい性格の面が影響したのかもしれない。



古来より明治に至るまで、日本は中国文明の恩恵を受けてきた。
日本は地理的に最も極東に位置し、中国の文化圏にあった。

文字をはじめ、仏教・儒教・医学そして衣食住のほとんどの技術を中国から得た。
それが何故最も早く西欧文化を吸収して近代化をなし得たのだろうか。

日本は島国であり、常に外来の文化を輸入して、同化しつづけてきた歴史がある。

従って西欧文化の輸入にもあまり抵抗がなかった。
むしろ外来文化の輸入を尊ぶ気風がある。

漢方医学と称しても、もともと中国から輸入した医学であって、
独自に創造したものではなく、それが次第に同化したものです。

ところが日本人はもともと中国医学の根幹である陰陽五行思想をもたないし、
またこの思想は日本に深く根をおろさなかった。


福沢諭吉は「陰陽五行の惑溺を払わざれば窮理の道に入る可らず」と述べて、
「陰陽五行説」がながく日本の知識学問の発展をおくらせたとしている。

医学も中国から輸入したそのままの医学から、
次第に陰陽五行思想を省いて日本化をやって来た。

なかには中国の陰陽五行思想の医学を解説することに勉めた人もいたが・・・・・
「やはり蟹は甲に似せた穴を掘り」で自分に似たようになるものです。

日本漢方、とくに古方派漢方には、歴史の流れと文化の違いのなかで
中国から輸入した医学に対してどう対処してきたか、という一面があります。

中国文化と日本文化、さらには西洋医学と東洋医学の差はあるにしても、
病をもつ人にとっては、病気が治る医療が良い医療であって、
病気を治せる医学が良い医学である、ことを忘れないでいたい。

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私考「日本漢方史」

漢方を学び始めるとき、 どの漢方の流派を学ぶのか、
また、すでに漢方治療に携わっている人は、 ご自分の漢方の再評価のためにも、

日本漢方がなぜ現在のような形になったのか、 その長所が何で その欠点がどこにあるのか。

そして 「漢方は医学として今後どうあるべきか」 ということを考え構築するためにも
日本漢方の歴史を見つめることは たいへん有意義です。

また、江戸時代における 革命と復古を軸とした現在に至る流れを知れば、
現代の日本漢方を理解し易いのではないかと思います。


日本漢方医学の始祖、曲直瀬道三

漢方とは江戸時代の医療・医学のことで、明治になって名づけられたものです。

昔、長崎経由で輸入されたヨーロッパ式の医学を「蘭方」といったのに対して
「中国風の、とか中国流の」といった意味で「漢方」と名付けられました。


現存する日本最古の医書は、平安時代の「医心方」30巻(丹波康頼 984年)です。

この「医心方」は中国の医書「諸病源候論」(隋の時代610年)に準じて疾病を分類し
唐以前の医書200部以上から引用しているため、文献的価値が高いとされる。

「医心方」をまとめた丹波康頼の祖先は、
中国から移住した後漢の霊帝の子孫・高貴王だとされる。

丹波康頼の子孫は代々、官位の最高位御典医になり、江戸時代からは徳川家に仕え
多紀の姓を名乗り、幕府医官として一大勢力を奮った。

時代をさかのぼると、
414年に新羅国の金武が来日し天皇の病を治した。 とある。

538年の仏教伝来以後、そして飛鳥時代以後も急速に
朝鮮や中国の文化、そして医学も日本に輸入された。

623年、僧医恵日らが隋唐の医学を学んで帰国。

平安時代になると外国との交流は絶えたが、室町時代に(1487年〜)
田代三喜が12年間、明に滞在して金元医学(李朱医学)を学んで帰国した。

 金元の四大家

 宋の時代(金・元の時代と重なる)は、中国は世界一の大国であり
 世界中で最も文化も栄え、医学にとっても宋の時代は歴史的な爛熟期だった。

 金元の四大家のうち、李東垣と朱丹渓の二人の医学を合わせて李朱医学といわれる。

 李東垣は脾胃の補養を重んじ、朱丹渓は不足しがちな陰の滋陰、養陰を重要視した。

 李東垣は、病には「外感の病」と「内傷の病」があることを提唱し「補中益気湯」を作製した。

 張従正(子和)と劉完素(河間)も金元四大家といわれている。

 張子和は攻下派とされ、病は風・寒・暑・湿・燥・火および飲食物などの邪気が体内に停留することであり、
 発汗法・吐法・下法によって治療するべきだと考えた。

 劉河間は、病因として、外因のなかで火熱が最も重要だと考え、熱病には多く寒涼の剤を使用した。
 とくに防風通聖散により三焦の実熱、表裏の熱証を双解した。


曲直瀬道三(1507〜1594年)は、関東で田代三喜に10年以上師事し、
京都に帰ってから、すぐれた医療を発揮し、豊臣秀吉や徳川家康の2氏にも重んじられた。

曲直瀬道三は後進の育成にもつとめ、自身の豊かな臨床経験を加味して(「医心方」以来)
日本の歴史上初めて、中国医学理論を日本流に再編し実践的な医学体系を創始した。

そしてついに道三は「啓迪集」(1574年)「衆方規矩」(1769年)を完成した。
「啓迪集」は医学教科書として名高く「衆方規矩」は実践的な処方集として広く利用された。

これらの書は実践的な内容だったため、全国から弟子が集まり
道三の医学は日本医学の主流の位置を占めた。

道三は「啓迪集」の序文に「日本には察証弁治の書がない」と述べている。
それまでの日本医療は、「和剤局方」という処方集を主体にして
「こんなときはこの処方を与える」とした民間薬療法の延長のような(口訣漢方)程度だった。

「察証弁治」とは証を察して治療をする、すなわち患者を診て、病気の原因となりたち、
そして病態を判断して、その病態に最適の方剤を与える。ということで、
日本で始めて医学と呼ぶにふさわしい体系づけをした。

察証弁治とは中国医学の「弁証論治」と同じようなもので、
日本の「随証治之(証に随って治療する)」に病因と機序の追求を加えたものです。

反対から見ると随証治療を主とする現代の日本漢方には、
病気の原因と病気の発生機序、そして病態生理の認識が欠けている。

随証治療だけで対応できることも多いけれども、病因や機序そして病態を知らなければ
現代の新しい慢性病や難病に対しては応用できないことも多い。

  曲直瀬道三は医学教育も20数年行い、名声も高まった。
  御所や権力者たちから侍医として請われても誘いにのらなかった。

  正親町天皇から「翠竹院」の称号をもらったが
  御所付の医師として出仕することは辞退し、日常の診療に従事した。


ところが道三の派も三代、四代と時代を経るにつれて、
保身主義で温補療法にかたよった治療しかしなくなった

「啓迪集」の医学理論に束縛された門下生の理解度は下がり、保身だけで発展もなく
安易な治療マニュアルとして扱われるようになり、医学的価値も次第にうすれていった。

これは道三を始めとする後世医学の罪ではなく、
この時代の後世派医師のせいであると考えられる。

そして、江戸中期ごろに発生する古方派の台頭を許すことになる。

医と巫

 江戸時代までは、お祓いや加持祈祷のほうが医療よりも重視されていた。

 日本では流行病(はやりやまい)や疫病の「病因」を
 神道では、「死霊」や疫病神だとし、仏教では疫鬼、魑魅魍魎の仕業だとした。

 それほど、赤痢やコレラなどの流行病に、当時の医療は無力だった。

 というわけで、疫病がはやれば人々は神仏のたたりだと考えた。
 京都の「祇園祭り」も疫病追放の祈願だったといわれている。

 一方、中国では「山海経」や「西遊記」以後、化け物の類はあまり出てこない。
 中国では張仲景の「傷寒論」が、「医」を「巫」から切り離したとして評価される。

 疫病も傷寒とか中風、風寒暑湿燥火を病因として症候に応じて治療をし
 中国ではお祓いや加持祈祷のでる幕はなかった。

 ところが日本に中国の医学をもってきたのは主に僧侶、仏教家だった。

 江戸時代には中国の医療も入ってきて治療の研究もなされたが
 医療よりも僧侶による加持祈祷の方が利用されることが多かったと思う。

 昔、奥州の殿様が病気になり、
 祈祷師と医師がその治療の権利を争ったという。 そのとき、医師が
  「おまえは私を祈り殺せ、私はおまえに薬を与える。
  その結果、勝ったほうが殿様の治療をすることにしよう」 と提案した。

 医師は、祈祷師に下剤を与えた。 祈祷師は必死に祈った。
 しかし祈祷師は、途中で腹痛と下痢をして敗れたという。

 これは江戸末期の話ですが、示唆するものは大きい。


近年、漢方の流派は「後世派、古方派、折衷派」の3つに分けられている。

後世派とは
中国の歴史のうちの比較的新しい時代(宋から清のころ)の医学を重視する流派で、
曲直瀬道三がその代表的な人物とされる、古方派が台頭してから後世派と呼ばれた。

古方派とは
中国の歴史のうちの比較的古い漢代の医学(とくに張仲景の傷寒論)を重視する流派、

折衷派とは 両者の良いところを併せて用いる流派とされている。

ところで、後世派といっても道三の時代には決して(古方の聖典とされる)「傷寒論」を
否定するものでなく、治験録をみても傷寒の治療は「傷寒論」に法って行っていた。

曲直瀬道三を継いだ二代目玄朔は「外感は張仲景(傷寒論の作者)に則り、
内傷は李東垣に法り、熱病は劉河間に則り、雑病は朱丹渓に法る」と言っている。

一方で、古方派は難病痼疾には補法だけでは治せないといって、
あまりに極端に瀉法を強調しすぎたし補法の悪口を言いすぎた。

したがって結核を上手く治療できない者が多かった。
世の中にも私たち人間の身体にも純(100%の)陽もなければ、純陰も存在しない。
何事も長所は欠点であり、欠点はまた長所であります。

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御典医と町医者

また、ときおり折衷派と混同される「考証派」という派もあります。
中国の医書を整理し体系化したことにより考証学派とも呼ばれた。

考証学派の代表は多紀一門です。
多紀家は「医心方」をまとめた丹波康頼の子孫で、代々官位の最高位になり勢力を奮った。

多紀元考は神田・佐久間町に塾を開き(1765)、医生を養成した。(後の官立の医学館)
教育内容は「本草経」「素問」「霊枢」「難経」「傷寒論」「金匱要略」を主とした。

古来の名家としての地位を保持するため、曲直瀬道三の後世派に対抗したと考える。

江戸時代、幕府や藩に仕えるには官位がないと身分の高いものを診ることができない。
そこで幕府は位のない医師に僧位を与え、身分の高いものを診療できるようにした。

十万石以上の大名に仕える医者は、お経を読めなくてもかならず坊主頭にした。

坊主頭は大家医者のシンボルだったが、
大名以外では、裕福な金持ちの診療はしても一般の町人は相手にしなかった。

往診のときは、衣服を華美にして4人駕籠に乗り侍を供回りにして、
薬箱持ち、挟箱持ち、長柄持ち、草履持ちなどを連れて歩き、高額の謝礼を受けた。

ところが身分や身なり、肩書きはりっぱで理屈は達者でも、肝心の治療術は稚拙で
ほとんどの病は治せなかった。 治る人は自然治癒力で自然に治る人くらいだった。

学問を積んだ御典医が、何故ほとんどの病気を治せなかったのかは
中国医学の理論が事実から離れている、ということと実践不足の2点が考えられます。

中国の医学は虚偽や想像でつくっている部分が多く、例えば五行の相生相克理論なども、
事実と離れて立派につくりすぎていて実際は学問通りにはいかない。

また治療は 書物を読むだけでは決して上達しない。

いくら医学を学び、文献を考証し、著書を出しても、実践や経験がなければ
机上の空論、畳の上の水練と同じで実際の役には立たなかった。

それでも理屈を並べないと、殿様や高貴な身分の者は有難がらないため、
理論で武装して、医界に君臨しようとしたようです。

昔の中国医学のような再現性の低い学問では、
多くの成功・失敗の経験を重ねて腕を磨く実践による修練が重要です。

ところが、高貴な病人を診療する御典医は
もしも病人が死亡した時、治療の失敗や誤診とされることを最も怖れた。

この治療をすれば治るかもしれないと思っても、高貴な人になにかあれば、
どう処分されるかもしれないため、診るような恰好をするだけで治療はしない。

そのため多くの医師の会議による、あたり障りのない高貴薬の温補療法で責任を回避した。
人の口に戸は立てられず、坊主医者の治療は「大名の病は行き倒れも同然」
「死にたければ御典医にかかれ」と揶揄されるほど治せなかったようです。

実際の診療では、修練や経験のない医者の学は絵に書いた餅と同じで役に立たない。
はたして、幕府のかかえた医師で、役に立つ医師はどれだけいたのだろうか。

老中松平定信は、著書の中で
「幕府が抱えている医師達に支払っている諸費用を合算すると、
優に大藩の禄高と同じくらいの巨額に達するが、しかし役に立つ医師は1人もいない」
と述べている(大熊房太郎「漢方古昔物語」より)

また、徳川12代将軍家慶には側室が15人と20数人の子供がいたが
成人したのは13代将軍になった家定1人で、その他はみんな幼児の頃に死亡した。

御典医の中でも当代一の医師が将軍家に付くし、
将軍の子女には1人ずつ医師が付くはずですから、この事実も軽視できません。

一方で、御典医自身や、自分の家族、孫娘が病気したときには
片倉鶴陵(1751〜1822年)などの町医者の実力者に治してもらっていたこともある。

皮肉なことに特権のある将軍家や大名、裕福な金持ちは、御典医に診せて病気が治らず
御典医に診てもらえない町人や百姓が、町医者の治療により治っていたことも多い。

 ある時、水戸侯が江戸で中暑を患った。
 そこで江戸の名医大家を呼んで、手を尽くしたが万事無効で非常に危険な状態になった。
 万策尽きた時、某侍医が原南陽を推薦した。
 
 南陽は按摩を業として不本意の日日をすごしていたが、酒好きの彼の行きつけの酒屋で
 水戸藩の役人と飲み友達になっていた関係から推薦されたといわれる。
 
 南陽は水戸侯を診断して漢方薬を差し上げた
 「今、この漢方の名を申し上げるわけにはいかないが、服用半刻位で吐瀉される。
 すれば御病は平癒されるであろう。殿のお傍では窮屈である。
 御台所の片隅なと拝借して、お酒一升ばかり頂戴したい」と言った。
 
 はたして南陽の言の如く、吐瀉し、水戸侯はたちまち意識を回復し、やがて治った。
 水戸侯は命を救ってくれた南陽を徳として、侍医に抜擢し新地五百石を与えられたという。

 
 同じように、のちの大正天皇がご幼少のおり高熱で痙攣をおこし、
 その診療を依頼された浅田宗伯は診療するにあたって短刀を内着し、
 事成らざればその場を去らず切腹の覚悟で漢方薬の瀉剤を使用し、効を得た。
 
 当時の多くの御典医の中に、同じ漢方薬を考えた医者もいたとすれば、
 瀉剤を使用してまで万が一効がない場合の自分の立場を恐れ
 患者の命よりも保身を重視した。といえる。
 
 それとも本当に医の実力がなかったのだろうか。

町医者のほうが御典医よりも病人をよく治すことができたのは
実践の多さと中国医学の事実と離れた空理空論に束縛されなかったことが考えられます。

生涯、町医者でとおした後藤艮山は、他の医者に見放された患者もことごとく治療したため
常に患者は門前に溢れ、弟子も200人を超えたとされる。(1659〜1733年)

彼の医法は実証的なもので、効果のある理論や方法だけをとり入れた。

当時絶対視されていた曲直瀬道三流の医学理論でも、効果のあると思うものは使用し、
事実に即しない臓腑経絡や陰陽五行説などの思弁的理論は捨て、「傷寒論」治療でも、
灸や温泉、ヤツメウナギや卵などの栄養療法でも実用的なものはすすめた。

彼は従来の医師が坊主にし僧衣をつけて位を誇ったのに抗し
後頭部で髪を束ねる「くわい頭」にし平服を着た。門人達もこれにならい後藤流といわれた。

今、テレビでも江戸時代の医師といえば「くわい頭」の後藤流ですが、
江戸時代の医師は「くわい頭」だけではなく、官位をもつ坊主医者もいたのでお間違えなく。

後藤艮山は、病人の貧富の差別をする金儲け医者、坊主医者を嫌って言った。
「上は天子から下は庶民に至るまで患者を選んだり、医を金儲けの手段にしてはいけない」

後藤艮山の門下生からは、
香川修徳・松原一閑斎・山脇東洋らが育ち古方派が台頭する原動力となった。


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儒医出現の背景

「箱根山、かごにのる人、かつぐ人、そのまたわらじをつくる人」
・・・落語では「切れたわらじを拾う人」と言って笑わせる。

それほど江戸時代、徳川幕府の身分制度は厳しかった。

士農工商とともに、将軍や大名の子は生まれながらにして将軍大名であり
足軽の子は足軽、町人の子は一生涯町人であった。

いつの世も支配者は自分の地位を死守せんとする。
幕府は、中世以来日本人の精神面における支配者であった寺社の存在を怖れた。

織田信長による比叡山の焼き討ち、また豊臣秀吉も関与した長島・石山本願寺の死闘、
徳川家康や各大名と一向衆との間の闘争などは寺社との激突だった。

現世より来世が大切な宗教勢力は、死んでも降伏しないため凄惨を極めた。
このような経験はやがて、島原の乱にみるキリシタン弾圧や鎖国政策にもつながる。

幕府は長期間この封建国家を維持し、下克上や一揆、反乱を起こさないために
仏教などの宗教に代えて儒教による思想統制を強いた。

封建の階級制を維持するため、儒教の忠・孝・仁・義・礼・智などの思想は好都合で
(清)貧に甘んじさせ、下級武士の反乱も予防することになるため各藩もこれにならった。

中国や朝鮮でも、儒は治国の大道、聖賢の道として貴ばれていて、
徳川幕府でも綱吉の極端な儒教奨励によって儒者の地位が高まった。

身分制度が固定された封建社会では、儒は例外的な出世の門になった。
戦争のない時代、仕官の道もない下級武士、ことに浪人の中から著名な儒者が生まれた。

儒は人倫の大道を説く者として貴ばれたが、著名になっても生活手段がなく貧困にあえいだ。
「武士は食わねど高楊枝」と同じように「儒者も食わねど高楊枝」だった。

 伊藤仁斎(1627〜1705)は江戸時代を通じて第一の大儒だった。
 
 その名声は天下にとどろき、門人も一千人を数えるほど盛況になったが、
 貧乏から開放されることはなかった。
 
 ある年の暮、モチをつくモチ米を買う金がなく、子供にモチをせがまれたことを
 妻が夫の仁斎に訴えると、机に向かっていた仁斎は黙って羽織をぬいで渡したという。
 
 また、門人に対する熟心な講義や談論で夜おそくなると
 勝手から「もう油が切れます、明朝にしてください」 といわれるのが再々だったという。


太平の時代が長くなると、町人は経済的に豊かになり人口も増えた。

いままで病気になっても医者を呼ぶ余裕はなかった町人が、
診療を受けるようになったため町医者の需要が増えた。

 徳川幕府になって230年の間は全く戦乱がなく平和な時代が続いた。
 農業を始め各種産業の生産が増加し、経済のめざましい発展とともに人口が増加した。
 
 職人と商人は農村に住むことを許されず、藩主のいる城下に移され都市化が進んだ。
 これら職人と商人をあわせて町人といった。
 
 1721年江戸の人口は町人だけで50万人余り、
 参勤交代制で移動していた武士を加えると、100万人に達したと推定される。

 天下の台所といわれた大阪の人口は1703年、町人だけで35万人余り。
 京都は1681年武家を除いても57万人余りだった。
 
 ロンドンの人口を見てみると1661年に46万人、パリは50万人だった。
 したがって当時の江戸の人口は世界でも最大だったかもしれない。

当時医者の地位は低く、医療政策もなかったため、
誰でも簡単に医者になり収入を得ることができた。

漢字の読み書きができなくても医者になってしまう町人まで出現した。

また、貧困にあえいでいた儒者のなかで、医者を兼ねる者(儒医)も増えた。

中国や朝鮮では、儒者たる者が生活のために医師を兼ねるなどはあり得なかった。
この特殊な医と儒の関係が古方の出現に大きな影響を及ぼした。

一方で良医になるには中国医学の古典を読む必要があり、
漢文を習得する目的で儒学を勉強する医者もあった。

地位の低い医者より、大きな顔ができる儒者の社会的地位が欲しい者もいた。
香川修庵は「儒医一本論」を唱え、社会的に低い医の地位を高めようとした。

医者が儒を兼ねる者と、儒者が医を兼ねる者との気質の異なる2種類の儒医があった。


古方派出現の背景

当時、町人をはじめとする民衆の経済的発展は
享楽的だが合理主義で実証主義の民衆文化を育てた。

そして同じように、学問の世界にも新しい変化が生まれた。

徳川幕府は儒学の中でも、教学体系として整備されていた朱子学を奨励、利用したが、
伊藤仁斎は朱子学が重視した「大学」を孔子の著書でなく偽作であるとし、
より古い「論語」「孟子」から再出発すべきだと主張した。

中国にも日本にも尚古という思想がある。
あらゆる文化は古代に聖賢がつくったものであり、昔は完全なものだったが、
後世になるに従って人心が悪くなり、ゆがんできたという思想です。

また荻生徂徠はこのような古学を実用の学と位置づけた。

儒学の復古説がでれば医学に復古説がでても不思議ではないほど儒と医は近かった。

そして儒学の復古説に誘発された儒医たちによる医学の復古気運が生じた。

古方派が台頭した背景としては、儒学における復古主義による影響のほかに、
当時の人口集中化、交通の発展などによる、コレラの流行や梅毒の蔓延、
そして陰陽五行説などの中国思想に対する疑問、医師の質の低下などを挙げられる。

 古方派と後世派の疾患の考え方。 診断法、治療法の原則。
 
 @ 後世派の原則
   陰陽論、五行論、運気論といった中国自然哲学的思想によって組み立てられた医学で
   健康とは調和のとれた状態、 疾病は片寄りがあり調和のくずれた状態としている。

   調和のとれた状態が中庸だとして傾向分類法をとっている。
   
   二分類法では 陰陽論により、陰に偏しても陽に片寄っても病であるとして
   陰陽をさらに表裏、寒熱、虚実、気血、燥湿などの物差しで見つめる。

   五分類法では 五臓分類を行なってその相互関係を五行説の相生相克的に組立て、
   これを陰陽と組み合わせて弁証を細分化する。

   十二分類の経絡説が加わって
   経絡と臓腑の関係を結び、さらに病態の把握を細分化している。

   病因論は三因方による内因、外因、不内外因とし、人体を個々の局所に切り離さず、
   全体と局所、局所と局所の相関で把え、局所を通して全体を把える。

   また環境から切り離すことなく 環境条件も含めて把える。
   家庭、社会の中で人間がどう適応していくか、心身一如という全人間的な把え方をする。
  
   治療は 調和のくずれ、偏移を調和のとれた中庸の状態にもどすこととする。
   
   具体的には望聞問切という五感による四診で病態を診断し、
   汗、吐、下、和、清、消、温、補の各法で治療する。

 A 古方派の原則
   親試実験による実証の医学で、 想像や臆測でものを言わない。
   中国の思弁的哲学の陰陽五行論、臓腑経絡説、運気論などを捨てる。

   古代の傷寒論が 方と証を相対的に記載した経験的・実証の医学であったために
   傷寒論を範とした。  このため 革命が復古という形で行なわれた。

   吉益東洞は万病一毒論をとったが
   万病一毒・方証相対ではいろんな疾病を把握することはできない。

   吉益東洞のあと 帰納的分類法を知らなかったために
   そこで再び傷寒論の分類法である
   三陰三陽病、陰陽、虚実、表裏、寒熱、気血水などをとり入れて漢方概論をつくった。
   
   診断は 四診によって病態を症候群「証」として把える。
   その症候群「証」に応ずる方剤を与えて治療する。 即ち方証相対の診療を行なう。

   同じ陰陽虚実の言葉を使っていても、 中医学や後世派とは意味が異なるし、
   病因や病態の追求はなく、 そして方剤学もない。


@
日本人は、学問上では単純明快を好み
「イエスかノーか」「勝つか負けるか」「陰か陽」などと割り切ることを好む。
映画やお芝居でも善玉はあくまで善玉、悪玉はあくまで悪玉です。

中国では平素日常的に、陰陽五行の考え方が浸透していて形式を重んじ複雑を好む。

この日本と中国の文化の違いは、本当にビックリするくらいのもので
例えば日本とインド算数の違いくらいはあるかと思う。

日本では9×9までは暗記するが、インドの人は99×99まで暗記している。

これらの文化の違いが、日本人にとって、中国思想を理解しにくく
さらには後世派の五行論や臓腑経絡説をわかりにくくした大きな原因であると思う。

そして、町人たちの合理的で実証主義の気質は、思弁的で架空の理論を嫌った。


A
当時は町人文化が盛んになり、医療も貴族社会だけのものでなくなり、
その需要も増えて、漢字も読めない医者が出現するくらいだった。

また、当時の病気治療では傷寒のような急性熱病のウエイトが多かった。

町人や漢字も読めない医者は、学問や理論より実際の治療効果を望み
指示の書といわれるほど思弁的理論の少ない傷寒論を好んだ。

傷寒論は非常に簡潔な文章(名文)で、必要なこと以外は全く書かれていない。
症状と薬方の相対という形式で書かれ、あまり中国流の思想が介入されていない。

理論の多い中国の書の中で理論を書いていないのは、その出発点が非常に古く
木簡や竹簡に刻まれていたものを、紙の発明後、紙に写されたからと考えられる。

そのため簡潔な表現の中にあふれる内容をつめて、必要最小限度の文章にしている。
この単純明快さが、町人や漢字を読めない者には受けた。

傷寒論に従って治療すれば、病名や病因、臓腑などを考えなくても治療が可能で
想像や憶測の入ったものは不要だという立場を古方派はとった。


B
外感病による急性熱性病、すなわち傷寒は傷寒論によって治療し、
慢性病、すなわち雑病は金匱要略によって治療する。

傷寒を縦の病気とすれば、雑病は横の病気です。
この傷寒論と金匱要略を合わせて「傷寒雑病論」という一書だったという説もある。

しかし日本の古方派は五行五臓の思想が入っている「金匱要略」を好まなかった。

古方とは「傷寒論」「金匱要略」の薬方を使用する一派とされることもある。
しかし、古方派といっても三派に分けることができる。

永富独嘯庵(1732〜1766年)のように傷寒論一点張りで、
ときに金匱要略の処方をチョコッと使う派

浅田宗伯(1815〜1895年)を代表とする
傷寒の治療には傷寒論、雑病には金匱要略によって治療する派。(五行分類はしないで)

それから吉益東洞(1702〜1773年)のように、傷寒論の処方を少しは使ったにしても
実際の治療は傷寒論でもなければ金匱要略でもない「方証相対」派もある。

共通しているのは、思弁的医学から経験的、実証的な医学をめざし、
中国医学のなかで最も思弁的考えの少ない「傷寒論」を範としたことです。


C
世相が変われば病相も変わる。人口の増加と集中化、
交通の発達、海外との交流があり、1512年頃、梅毒が日本に侵入し大流行した。

今では顕性の梅毒を診た医師も少ないが、昭和の中頃までは蔓延していた。

「解体新書」で有名な杉田玄白(1733〜1817年)は、
著書「形影夜話」のなかでこう述べている。

「医は生涯の業で、とても上手、名人には達しないものらしい。
 自分は上手だぞと思ったら、もう下手になるきざしだ。

 これから言うことは、私のざんげ物語である。 どうか聞いてほしい。

 梅毒ほど世に多くて、しかも難治で、人の苦しみ悩むものはない。
 
 とかくするうちに、年々私の名ばかりむなしく高くなり、患者は日日月月に多くなり、
 毎年千人あまり治療するがそのうち7〜8百は梅毒患者である。
 
 もう4〜50年の月日がたったから、私が診た梅毒患者の数は数万にもなろう。
 それなのに、今年77才になるが完全な治療法がわからない」

当時の金瘡医は今でいう外科・皮膚科・婦人科であり、内科とは区別されていた。
杉田玄白が金瘡医だったにしても患者の約8割が梅毒というのには驚かされる。

梅毒はヨーロッパから入った新しい疾患で、従来の医学ではなんの役にも立たなかった。

吉益東洞は 後世派の医学が役に立たない理由は、陰陽五行説、運気論などの
中国の思弁的な空理空論が原因だと考え、後世派医学を正面から批判した。

「黄帝内経」由来の陰陽五行説や臓腑経絡説に基づく観念的・思弁的な医学から、
実証的合理主義の医学への革命を目指したとも言える。

疾病を治療するには昔の傷寒論の張仲景のように四診によって病の所在をつきつめ、
対応する薬剤を与える。治療は経験的、実証的なものでなければならない。とした。

   四診(漢方独特の次の4種の診断法の総称)

      望診:患者の全身や局所の状態を観察。
 
      聞診:患者の音声、咳嗽、胃部振水音などを聞く。
          口臭、大便臭などの排泄物の臭気をかぐ。
 
      問診:患者の愁訴、病状を細大漏らさずに聴く。
 
      切診:患者の身体の一定部位に触れたり、圧したりして病状を把握する。 
          脈診と腹診などがある。


吉益東洞は患者の症候群「証」と
それに対する薬剤「方」を与える「方証相対」の医学へと革命をおこした。
すなわち革命が復古という形をとった。

ただ「傷寒論」がそのまま梅毒の診療に役立ったのでは決してなかった。

思弁的な理論を排除し、実践的な医学をめざす医学革命の流れとは別に、
儒を主とする儒医たちは 臨床家としてというより、文学の徒として
尚古、崇古の意味から傷寒論を主とする古医学をとり、文章の解釈を優先した。

現在でもこの革命と尚古が混同されて、おかしな古方派が出現している。

そして昭和の漢方を指導した中で、次のように述べている者がいる
「漢方には進歩という思想はなく、尚古の思想がある。漢方医学の最高の古典が、
 すでに漢代に成立していたことを想うとき、そこに進歩を考える余地はない」

ここに儒医の影響による尚古思想がみられ、医学の進歩をさまたげていると思える。

儒医による尚古思想は、医学の進歩より傷寒論の名文そのものを高く評価し、
傷寒論医学に復古し、後退した。 進歩しようとする気もないように見える。

現代日本の漢方は、傷寒論至上主義の古方派が主流で
漢方とは 傷寒論を体得し修練を積んで熟達してゆくものであり
陰陽、虚実などの尺度により、傷寒論の処方を使用するものと考えられている。

そこには病因や病態の追求はなく、
方剤学もないため、医学としては稚拙で進歩もない。

「傷寒のなかに万病があり、万病のなかに傷寒がある」と言える名人は別として
私たち凡人が急性病に対する「傷寒論」を慢性病に応用するのは、かなりの無理がある。

また、傷寒論を主張していても、実際は傷寒論ではなく過去の経験的口訣によって
「〜〜のときは−−を使う」式の民間療法とあまりかわりない手法の人も多い。


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現代日本漢方の潮流

吉益東洞(1702〜1773)は現在の日本漢方に非常に大きな影響を与えた。

吉益東洞は、実践と観察という実証主義の立場を貫き、
傷寒論から陰陽も虚実も寒熱も表裏も病名も
みんな架空の理論として排除し、ただ症状と方剤だけを採った。

そして四診から得られる情報と方剤との方証相対の医学をつくろうとし
証からではなく、方剤から分析していった。

同じ薬物を含んだ類似の処方を分別し「類聚方」という書をつくり、
その中からさらに症状以外のものを削って「方極」「方機」を著述した。

そして次に方剤を分解して薬能を導き出そうとして「薬徴」をつくった。
ただ、個々の薬物を知って方剤を組んでいくまでには至らなかった。

吉益東洞はこれだけの仕事をしながら、何故、病人の証の追及をしなかったのだろう。

 方証相対と随証治療

  方剤と証を相対させる治療が「方証相対」であり、
  病人の証に合わせて処方し治療することを「随証治療」「随証治之」という。

  医療は本来、方に合わせて病人をさがす(方証相対)のではなく、
  病人の証に合わせて方を処す(随証治療)ものです。

  現代日本の古方派のなかには、漢方は証を診断し、
  方証相対によって「病名なき治療」ができるという人もいる。

  漢方は診断そのものが治療法だから、証を診断すれば病名がわからなくても
  治療できる。と書いたものもある。 たしかに漢方にはそういった利点もあります。

  しかし現代慢性病の証を四診だけで正確にとらえるには無理があります。

  万病を相手に、しかも限られた古方の方剤だけで、その病名もわからず、
  ただ四診で得た情報だけで その「証」だと診断し治療するのは無謀です。

  「敵を知り、己を知れば・・・・」 と言われるように
  「敵を知ること」 すなわち病の正確な情報は多ければ多いほど戦いに有利ですから
  病名診断による病態生理や、病の認識は重要です。

  また「己を知れば・・・」 すなわち生薬の薬能や方剤学の知識も必要です。

  ところが日本漢方では 「漢方は随証治療であり、病名治療ではない」という。

  「随証・・・」すなわち「証に随って」というのだから 「証」はより正確にとらえたい。
  証は自他覚症状だけでなく、諸検査による病名診断や病態生理の把握もしたい。

  たしかに西洋医学では、病名は診断されても治療法はないこともありますが、
  いつまでも現代の諸検査や病名、病態を軽視して
  四診だけにこだわっているようでは、日本漢方にはチョンマゲ時代からの発展はない。

東洞は上記の書を世に出しながら、実際の治療については門外不出とした。
そのために「たてまえ」は伝えられたが 「本音」の部分が知られることは少なかった。

吉益東洞といえば当時も現在でも古方の旗頭であり
その診療は「傷寒論」一辺倒だと思われ、またそのように記されてもいる。

方証相対による随証治之という方法論は同じでも、傷寒論とは
その内容は全く異なり「傷寒論」の方剤も少し併用しただけだった。

同じ時代を生きた杉田玄白と同じように東洞の診た患者の大部分が
梅毒患者だったことは、日本漢方界でも意外と知られていない。

東洞は広島で金瘡医として、当時流行していた梅毒に取り組み
水銀剤を主とする排毒療法を行なって優秀な治療効果を挙げた。

 @水銀剤を中心に、口中がただれ水銀中毒になるまで駆梅療法をする。
 A一旦、水銀剤を休薬し、その間に水銀中毒を解毒する吐剤や下剤を与える。
 B対症療法を併用する。       おおむねこのような治療法です。

一般に梅毒患者の多くは5年10年と長期にわずらい廃人となり死亡した。

梅毒は過去の歴史にはなかった疾患であるため、治療法もなかった。
それで陰陽、五行で組み立てている中国医学を空理空論であると排撃した。

従来の医学に革命をおこし医学そのものを変えなければ多くの病人は治らない
と考えて(人生50年といわれる時代に40才ちかくで)京都にのぼった。

全身のいたる所に症状がでる梅毒のただ中にあった東洞からみると、万病が一毒だった。
これが東洞のいう「万病一毒説」です。

梅毒だから外から見て知ることができる、「病の応は大表にあらわれる」 とし
現実の見証をもとに方剤を与える方剤中心の実証的医学への革命を目指した。

また、駆梅療法では水銀中毒近くにまでなるため
「薬、瞑眩せずんばその病、癒えず」 といった。

食道癌や胃癌、肝硬変、肺結核などと、梅毒とを鑑別できないこともあり
その場合、東洞の排毒療法を受けた患者は即死だった。ゆえに東洞は「天命説」を唱えた。

当時、東洞の破天荒な医説に対する評価は賛否両論があったが、
これらのことから、東洞が、証から病名も陰陽も排除した理由が分かります。

それでも証をできるだけ正確に把握し、病名(病気)を識別できていれば、
肝硬変末期の人を梅毒と間違え、水銀剤を与えて、死期を早めなかったろうし、
同じ病気でも進行度合いや病態差を知れば、より的確な治療ができたはずです。

「医の学や方のみ」と東洞は述べている。しかし医の学は方のみではなく、
むしろ病態が先です。方は証に随って処するものなので、処方は後にあるべきです。

また、個々の病状ではなく、その症状を呈する病態こそ大切です。
出来る限り正確に病態を把握し、処方する薬物の薬理作用を明確にしたい。

事実から遠ざかる架空の理論を除くのはよかったが、
中国医学の事実に基ずく分類法を取り入れるともっとよかったのではないかと思う。

一方で薬理作用(薬能)を求めた点では
東洞の革命は医学の革新であり、単なる復古ではないと評価できる。

東洞も排毒療法で治る病、治らない病を分類し、さらに治らない病の研究をし、
一方で、個々の薬物の薬能を知って方剤を組んでいくまでになればよかった。

しかし東洞1人の力で、また未開の江戸時代では無理からぬことだったのでしょう。
ところが、現在でも日本漢方の中には東洞の唱えた方剤中心主義の人もいる。

吉益東洞の二代目南涯は、
東洞の病名をとらず陰陽、虚実まで除くやり方は行きすぎだとし、
気血水分類を加え「傷寒論」「金匱要略」主義となり、医学革命が復古へと後退した。

南涯には儒医や考証学派の影響が大きかったと思う。
儒を主とする儒医や考証学派は臨床の実践家というより本読み学者です。
そのため医学の革命よりも儒家の復古説に従って「傷寒」「金匱」そのものを高く評価した。



吉益東洞の出現以後、江戸時代中・後期の漢方界は大きく変わった。

古方派は、吉益東洞に代表される現象論派と
山脇東洋に始まる実体論派の二つに分かれていった。

山脇東洋は内経系の臓腑経絡説に疑問を持ち、
観念的でない実際の人体構造を解明するため死体解剖を行なった。

東洋は解剖所見から「蔵志」2巻をつくったが、
これは後の前野良沢、杉田玄白、中川淳庵らによる「解体新書」の翻訳、出版につながる。

曲直瀬道三流の後世派も陰陽五行説などの中国思想を次第に嫌って、
実際の臨床経験に基づく口訣書を著し、日本化の傾向を示すようになった。

理論後世派はほぼ消滅し、東洞の極端な医説に反発する医家は
古方派医学と後世派医学又はオランダ医学とを折衷するといった展開を見せた。

古方後世折衷派には、望月三英、福井楓亭、和田東郭など、
漢蘭折衷派には、片倉鶴陵、華岡青洲、本間棗軒など、
考証派には多紀元簡、多紀元堅などがそれぞれ属する。

幕末の名医といわれた浅田宗伯は一般に古方後世折衷派とされているが、
古方流に後世派の処方も運用したので、むしろ古方派というべきでしょう。

1849年、長崎で天然痘予防の牛痘接種法が成功し、急速に各藩に広まり、
江戸時代末期にはオランダ医学の有用性はもはや無視できない状況だった。

明治政府は1870年佐賀藩医の相良知安らの進言に基づき、
医学教育はドイツ医学に範をとることを決定した。

江戸時代に権力の座にあった後典医達は古方やオランダ医学を圧迫してきた。

その圧迫されてきた蘭医を支持する者たちが明治政府の医政を指導し漢方を排した。
「江戸の仇を長崎で討った」ようなものだともいわれる。

「これは政治的に葬られたものであって、
漢方が医術医学として簡単に西洋医学におとるかは疑問だ」 という大学教授もいる。

漢方存続運動はさまざまな形で行なわれたが、1895年第8議会において、
漢方を医師開業試験科目に加えるとした医師免許規則改正法律案が否決されて、
公的には終止符を打った。

このような状態で漢方がなぜ生き残ることができたのだろうか。

西洋医学は病を病変という形態的変化で据えることは得意でも、
東洋医学のように機能的変化を重視し、人間の身体まるごとをみつめる全体観がなく、
それに対応する処方をもたなかった。

そのため婦人科その他の疾患で西洋医学に見放され漢方治療を求める患者が多く存在し、
生薬を取り扱う薬局や薬店のなかで漢方が存続していた。

明治30年代は漢方が最も衰退したころですが
こうした沈黙を破ったのが和田啓十郎(1872〜1916)の著書「医界の鉄椎」です。

この書によって、西洋医学の限界と漢方医学の優秀性が認識され、
西洋医学の限界を認識した多くの医師たちが、陸続と漢方を志した。

昭和初期、これらの医師たちによって漢方医学を復興しようという機運が生まれ、
多くの派閥を越えて一つにまとまろうという動きがでた。

終戦後、昭和25年には東洋医学会が作られた。
有力者同士で漢方は学であるか術であるかの『学術論争』が起き、
『術派』が勝って『学派』が会を去った。

かくして日本漢方は古方派が主体となり、学よりも術を重んじる風潮となった。

しかし日本漢方は「傷寒論」「金匱要略」の処方を中心に口訣で応用面を発展させたが、
西洋医学のように病態把握のために理科学や工学をとり入れることもなく、
生薬の薬能や方剤学などもほとんど顧みられることがなかった。

1960年台の半ば、漢方製剤の近代化をめざして漢方エキス製剤が開発され、
1976年9月薬価基準に収載されて、全国の病院、医院にも普及するに至った。

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病の正しい認識

病人を治すためには、次の3つのことが重要です。
 @病に対する正しい認識をもつ。
 A患者の病態を出来る限り正確に把握する。
 Bその病態に最も適合した方剤を与える。

誰が見ても当然のことなのですが、現実にはその当然のことがなされていません。
1つ1つを検証すると、漢方の修正すべき点が明らかになります。

@病に対する認識

病人を治療する上で最も大切なことは、
その病をどう認識するかということです。

病そのものを正しく理解しなければ治療の方針も立たないし、
ともすると、その治療によって身体に害を及ぼす医原病さえも生じてしまう。

相手を知らなければ、どう戦うべきかも分からない。
孫子も曰く 「彼を知り、己を知れば百戦百勝す」と。

例えば高血圧なら、血圧というものをどう考えるか、
「血圧が高いなら下げれば良い」 というのは稚拙で短絡的すぎて危ない。

例えば老人で 脳動脈が硬化している場合でも、心筋梗塞を起こしそうな時でも、
血流量がすくないと困るため、身体は圧力をかけて血液を流そうとします。

その結果として血圧が上がる。

このような病に対する認識があれば、
血圧は無理に下げないで 血流を良くしてあげればよいことがわかります。

血流がよくなれば、上がる必要がなくなった血圧は 自然に下がる。

血流が悪いため 血圧が上がっているときに、
悪い血流を改善しないまま 血圧を無理矢理下げると、、、、、

本来、必要な血液の拍出力を下げるため、血の巡りはもっと悪くなり
脳梗塞になり得るし、ボケにつながりかねませんね。

風邪に対する 解熱剤を含むカゼ薬も 抗生物質もおかしい。

身体が カゼウィルスをやっつけるために頑張って出す熱を、
むやみに解熱剤で下げてはいけない。

カゼの初期は 身体が熱を上げようとする力を助けて熱を上げてやれば
カゼウィルスをやっつけ、熱は上がる必要がなくなって下がるのです。

婦人病や肝臓病、アレルギー性鼻炎、喘息、アトピーに対する認識も
また 癌や抗がん剤に対する認識も少々洗い直すべきかと感じます。

すこし話がそれてしまいました。 話を漢方に戻したいと思います。


中国では 思弁による学問が発達し、
その医学は 陰陽五行説によって組み立てられている。

客観的事実よりも 想像による理論が進歩しすぎたため
想像による推論や、事実とは異なる理論に注意が必要であります。

中国医学の基礎理論の一つに五味五行説があり、生薬や食物の味を五つに分類して、
どの味がどの臓器に対して効果がある、として理論を展開しています。

ところが今の中国の本草学(日本で言う薬物学)で通用している味と、
実際に噛んでみた味とは ほぼ30%は一致していないと言われます。

肝臓に効くみたいだから本当は苦くても、味は酸、
ということにして、薬効から強引に生薬の味を歪曲している。
これではまるで土台のない高層ビルのように思えます。

五臓六腑にしても、現実の内臓ではなく、
五行の相生相剋によるもので、想像の世界で空理空論だといわれます。

顕微鏡や血圧計、CT、MRなどもなかった時代では、
やむを得ないことかもしれません。

ところが、空理空論であってもその全体観・大局観、そしてすぐれた治療法ゆえに
慢性病や難病が、あざやかに治ったりすることも少なからずありますから
漢方は治療医学として脈々と現代にまで伝えられてきたのでしょう。

それでも、現在も昔の時代に固執して、
人体構造・生理・病理も無視していては医学の進歩も発展もありえない。

やはり より正確な真実の情報に基づいて、
その上につくられた理論や学問でなければならない。

昭和の漢方の大家は、
「漢方の道を志すなら、漢方一筋に研究すべし」と教えた。
山本巌先生は
「漢方の道を志すなら、西洋医学も研究すべし」と教えた。

病人をより良く治す医学を築くためには、
優れた診断学である西洋医学の 病の認識を土台にして、
優れた治療学である漢方医学の「気・血・水」「陰陽・虚実・寒熱」の認識を融合したい。

まずは、病に対する認識を洗いなおす必要があるようです。

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病態を正確に把握

病人をより良く治すためには、病に対する正しい認識をもち、
患者の病態を出来る限り正確に把握することが重要です。

病態の把握が明確であればあるほど、より良い治療法を施しやすい。
そのための情報は客観的・定量的で正確なものが多いほどよい。

そこで西洋医学の病態生理を診断の主体とし、東洋医学の病理観を加えたい。

漢方(や中国医学)の原始的な五感に頼る四診(望診・聞診・問診・切診)だけでは
情報が主観的・定性的であるため病態を正確に把握できないことも多い。

腹証ひとつをとっても、
古来、数ある腹診書の腹証はみな異なり、ひとつとして同じものはない。

胸脇苦満というのは、腹診でとらえるのではなく
胸や脇が膨って(膨満感)苦しいという自覚症状とすればよいでしょう。

また腹診で少腹急結がなければ桃核承気湯が使えない。というのもおかしい。
これでは、せっかくの桃核承気湯の応用がきかなくなってしまう。

外から腹を診て、それで病気がわかり薬方が決まれば便利ですが、
現実はそうはいかないことが多い。

当たることはあるけれども、当たらないことが多くなると、
その診断法は採用しにくい。

また脈診でも、妊娠中であるとか、出産1ヶ月以内ということもわかります。
そして外感病の表証や、寒証、熱証の鑑別もできるけれども
脈を診て病気の全部が判断できるとなれば、それは妄想です。


胸脇苦満や少腹急結などの腹診や妙な脈診などにこだわっていては
方剤は自由自在に使えないし、様々の疾患に対して応用もきかない。


   中神琴渓はある人が方証相対の説を否定する理由を質問した時、

   「例えば、ここに涙を流して泣く者がいたとしよう。
   これを見て、いつでも悲しいから泣いているのだと思ったら、それは見当違いになる。

   その理由は、田舎の人が本願寺を詣でて泣くのは『ありがたくて』だし、
   芝居を見て泣くのは『面白くて泣く』のだし、
   腫物があって泣くのは『うずいて痛む』からだし、
   昔話を読んで泣くのは『感ずることがある』からで、
   また『神経過敏で泣く』人があり、『酒に酔って泣く』人もある。

   これらを、親を失ったり、あるいは子と別れて泣く者と同じように
   悲しんでいるといったらおかしなことになる。

   方証相対にこだわり、前後も考えずに病人を診察したならば、
   芝居を見て泣くものにも その背中を撫でて慰め
   『生者必滅、会者定離はこの世のならいだから、あきらめなさい』
   というような間違いをしてしまう。

   また、楠木正行は幼い頃の遊びにも、
   木の枝をもって剣術の練習をして父の志を受け継ごうとした、と昔話でもほめている。

   近ごろ、私が町を歩いていると、木の枝を持って遊んでいる子供がたくさんいる。
   これは芝居を見て真似しているのであろう。
   それを見て楠木正行と同じ志のある子供だとほめたらおかしなことになる」
                                            と言っている。    
                                  (中神琴渓・小田慶一編訳より転載)


昭和の漢方をリードした人たちは
「証」とは証拠・確証などという意味があることから、
「証」を症状や症候群の意味から漢方的診断に昇格させた。

患者の愁訴を中心に漢方的診察をして、腹証や脈証より得た所見から
実証とか虚証、陰証、陽証といった「証」を診断している。

その「証」の診断さえ誤らなければ
証という鍵穴に対して鍵ともいうべき「方」があり、
その方剤を与えると病は治る と考えられている。

ところが「証の診断さえ誤らなければ」であって
漢方のような古代の病態把握のままで「証の診断を誤らない」のは至難の業です。

昔は 結核も癌も梅毒も正確には鑑別できなかった。
実際のお腹の中を知らなければ 胃潰瘍か胆石かも分からない。

漢方や中国の医学がチョンマゲ時代も現在もあまり進歩しないのは、
いつまでたっても誤った理論を捨てないからだと思える。

この誤った理論のために、病に対する認識も病態把握も難しくなり
そのために優れた漢方の治療法が生かされないのはもったいない。


まずは長年にわたって複雑化されている東洋医学の余分なぜい肉を排除し、
初学者でも理解しやすいように合理的でシンプルにして

そして西洋医学の病態生理や、進歩した診断学も取り入れたい。

病態の把握が明確であればあるほど、より良い治療法を選択しやすいのです。

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病態に最適の方剤を

B病態に最も適応した方剤

病人を診て、得られた情報(証)を基に病態を把握して、
その病態に最も適合した方剤をつくるためには、薬物の薬能を熟知して(薬物学)、
どのように組み合わせて方剤をつくるか(方剤学)を理解しなければならない。

「随証治之」とは 病人の証に随って、最適の方剤を組み立てて治すということです。
「方証相対」とは 方剤を固定し、その方剤に相対応する病人をさがすことになります。

現在の(エキス方剤による)漢方は方剤を固定しているため、
方証相対ではあっても、随証治之にはなっていない。
これでは、人に合う服をつくるのではなく、服に合う人をさがすレディメイドです。

たとえ病名は同じでも、病態は多様で個人差もあり薬物に対する反応も異なる。

「随証治之」とは既製の方剤を与えることではなく、
その病人の証に随って最適の方剤をつくるオーダーメイド治療のことなのです。

たとえ既製の方剤を使用するにしても、
薬物の薬能や方剤の内容を熟知して 証に随って自在に応用して欲しい。

しかも現在の固定されたエキス漢方方剤のほとんどは
伝染病である急性熱性病の「症候群」に相対応する「方剤」
という条文形式で書かれた古代の書物『傷寒論』の漢方方剤なのです。


 中国では、紙が作られる以前は 竹簡や木簡に記載していた。
 だから『傷寒論』も長い文章を書く余裕がなかったのでしょう。
 竹簡などに記載した『傷寒論』を漢の時代になって紙に書き写したと思える。

 『傷寒論』には、薬物の薬能(薬物学)や、その薬物をどのように組み合わせて
 配合して方剤をつくったか(方剤学)が書かれていない。

 たとえ記載はされていなくても、薬物の薬能や、
 その方剤を組み立てた方意がなかったわけではない、と思う。

 薬能や方意がわからなくても病態の変化をよく診て、その証を正しくとらえれば、
 傷寒という感染症には ある程度は治療できるようにつくっている。
 そして、その全過程に百方に余る方剤を用意している。

    『傷寒論』の著者は、本の冒頭に次のように記入している。
      『私の一族はもと二百人に余るほどいたが、十年もしない間に
       その2/3が死亡した。傷寒で死んだのはその70%だった。
       苦しんで病死した惨状や横死を助けられなかった悔しい思いから、
       発奮努力してこの書をつくった』

 多くの医師が今すぐに薬能や方意を理解できはしないし、病は待ってくれない。
 そして、医師は能力がなくても、病に立ち向かわなければならない。

 本当は、病態に応じて処方をつくれるような実力を持ってほしいのだが。
 その時、最小限これだけの知識があれば、と著者は思ったのではなかろうか。

 『傷寒論』が指示の書となったのは、紙に余裕がなかったことと
 自ら処方する能力のない医師にも、傷寒を治療しなければならないこと
 が最大の急務だったためだろうと考える。

昭和の漢方家たちの多くが『傷寒論』そのものを尊信し、
その著者とされる「張仲景」を医界の孔子のように尊び、
仲景の言葉は一字一句がみな金科玉条、厳密で絶対的なものだとした。

こうした傾向がまだ現在にまで残っていて、本当に残念に思う。
現代でも『傷寒論』を信仰する愚かさがまだ抜けていない。

日本では、傷寒論をそのまま鵜呑みにして
その中にある方剤を 傷寒のみならず万病に用いる。

傷寒という疾病に対して『傷寒論』の指示どおりにその方剤を用いるなら、
方剤の中味が分からなくても、効果はあるように『傷寒論』は作られています。

しかし、伝染病である急性熱性病の『傷寒論』を万病に応用するのは無理がある。


  和田東郭は『傷寒論』を万病に応用することを
  「すり鉢を踏み台にも使える」と例えたが、
  それは すり鉢本来の使用法でなく、あくまで便法でありましょう。

  たとえば、ミカン箱を拾ってきて 机や下駄箱の代用にするのではなく
  机や下駄箱は、本来の機能と使用する人の意図に応じて設計して作りたい。


そのため今でも、薬物の薬能や方剤の内容を熟知している漢方家は多くはないし
随証治之(オーダーメイドの方剤をつくること)ができる医師・薬剤師は少ない。

また個々の生薬の薬能を知らず、何故それらの生薬を配合して方剤を作ったか、
という研究が未だ充分なされていない。要するに方剤もその中味も分かっていない。

方剤そのものの中味が分からないまま、
既製の方剤を単位として、病人の証から方剤を推測して用いる。
ちょうどクイズ問題や当て推量のようなもので、どうしても無理がある。


漢方にはどうして立派な医学がつくられないのだろうか。

その一つには、昭和の漢方を指導されたリーダーに、
漢方を科学化すべきだという一派と、いやあくまで術として残そう
と主張する人たちの間に対立が起き、学・術論争があって、
後者が勝利をおさめたことにもある。

だから『傷寒論』のような古代の原始的医学から一歩も踏み出せない。
現在でも、口訣や秘伝の類から進歩していない。

丸太の木材や、かつらでつくる吊り橋などは技や術でもよいが、
明石海峡にかける橋になるとそうはいかない。

学と術は両輪のように大切です。
術はその一人一代かぎりですが、学は積み重ねもできるし改革もできる。

漢方も常により良い医学をつくっていかなければならないと思う。

近年いろいろな書や文に、漢方とは、本来「証」を診断して、
その病人に(既製の)方剤を与えるものだ、
とか言われているのを見る。 果たしてそうであろうか。

「証」とは病人から得られる情報の全てであり、
情報は古来の四診によるものだけでなく、近代的技術も利用して正確に把握したい。

その病態を出来る限り正確に把握し、その病を認識し、判断して
それに応じて最適の方剤をつくって与えることが大切です。

方剤を固定すれば、レディーメイドと同じで必ずしも病態と一致しないが
既製方剤の合方や加減により、イージーオーダーのような方剤に近づく。

そのためにも私たちは薬物の薬能と方意を熟知しなければならない。

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「証」と「病名治療」と

漢方は「病名分類・病名診断をせず、証(症候群)を診断して治療する」としています。
「証」を症候群から漢方的診断へと昇格させたのは、昭和の漢方家たちでした。

漢方を西洋医学と対比させて、西洋医学が病名診断・病名分類であるのに対し、
漢方は証を診断するのが特徴で、そしてそれが漢方のすぐれた特性だと主張した。  

ところが中国の医学も、もともとは病名分類だったのです。

『傷寒論』の傷寒とは急性熱性疾患で、腸チフスに似た疾病に付けた病名です。
太陽病から厥陰病までも病名であり、そして『金匱要略』もすべて病名分類です。

病名分類を行なってその病の中でさらに証による細分化をやっている。

太陽病の中でも病人の正気や病邪の強弱また外環境によっても病態は刻々と変化します。
『傷寒論』では、太陽病をさらに中風と傷寒に分け、
詳細な分類を行ない、症候群と相対する方剤を記載している。

西洋医学と対比して漢方の特性を主張するために、本来あるべき病名診断を否定すると
病を正確に把握することが困難になり、ひいては治る確率まで下げてしまう。

目の前に病人がいるにもかかわらず
西洋医学や漢方医学が、その優劣を主張しているヒマはないと思う。

ただ「病を治す」ために、よい手法があるのなら、
それらを集積、統合して、より良い医学を作れば良いと思う。

やはり、病名分類も重要視して病態生理をできるだけ正確に把握する。
その上で漢方の病理観を加えれば、漢方のすぐれた手法を縦横無尽に発揮でき
その病に最適の方剤を処方し治療できる。

たとえば自己免疫疾患でも癌や乾癬、喘息、アトピー、アレルギー性鼻炎でも
病気の正しい認識をもち、病態をより正確に把握できれば最適の治療を施しやすい。


「証」を強調したもう一つの理由は、民間薬(療法)との区別化のためかもしれません。

民間薬とは、民間の言い伝えによって「〇〇、××といった症状の者には、この薬がよい」
というように使用し、効果も根拠もあいまいで、薬物も単味か2〜3味を配合したものです。

漢方は医学書の原典に法り、方剤を証に随って用いる。
即ち漢方では証を診断して方剤を用いるから、民間療法より高等なのだといった。

しかし、漢方も元々は中国での経験の集積から作られたものです。

薬物個々の薬能(薬理作用)を知り、どのように配合して方剤を作ったのか、
ということを理解しなければ民間薬も漢方も医学的には同じで、
簡単な薬物の組み合わせか、方剤という薬物の混合体か、だけの違いに過ぎない。

漢方的診断である「証」も大切だけれども
薬物個々の薬能や、生薬の組み合わせの方剤学をおろそかにしていては
漢方を医学と主張するにはおこがましい気がします。

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異病同治と同病異治

異病同治とは、異なる病気にも同じ処方で治療するということです。
たとえば大柴胡湯は高血圧症にも用い、胆石症や胃潰瘍にも用いる。
病人を大柴胡湯の証だと診断したなら、病名に関わらず大柴胡湯によって治療する。

同病異治とは、病気は同じでも証が違えば治療法が異なる。
たとえば同じ喘息でも、証によって
六君子湯、麻杏甘石湯、小青竜湯、半夏厚朴湯などを使い分ける。

それが漢方の特徴であり特性であると言う。

ところが西洋医学の抗生物質による治療一つ取り上げても異病同治で、
肺炎でも膿痂疹や腎盂炎でも同治のこともある。

また同じ病の膀胱炎であっても画一的に全く同じ治療はしない。はずです。

一つの生薬には多種類の成分が含まれていて、種々の異なった作用を持ちます。

たとえば半夏には鎮静作用もあり、鎮咳作用もあれば、止嘔作用もある。
従って、半夏は鎮咳薬にも配合され、嘔吐を止める胃薬にも使用される。

地竜は一般に解熱作用があり、発熱患者に用いる。
また筋肉の痙攣を緩める作用があるため、高熱時の痙攣に用いる。
脳出血のあとの痙攣性麻痺にも、パーキンソンにも、喘息の気管支痙攣にも用いられる。

檳?子には駆虫作用があり、中医薬学では多くは駆虫薬に分類され、
条虫の治療に用いられる。消化管の蠕動を亢めるため瀉下薬にも用いられ、
逐水作用もあるため、水腫浮腫にも用いられる。

麻黄には発汗作用・利水作用・気管支の痙攣を緩める作用もある。
小青竜湯は麻黄を配合していて、熱病のときには発汗解表剤であり、
浮腫に対しては利尿剤でもあり、また痙攣性咳嗽に対しては鎮咳剤でもあります。

ところで、麻黄は脉を速くし、発汗過多や心悸亢進、不眠を訴えることもある。
これらが病人の体質や、量の多い時にあらわれる。ということ知って前もって対応すれば
漢方には副作用は発現しないし、
反対に麻黄は眠くなると困る受験勉強や仕事中の風邪に便利に使えます。

ともあれ、生薬は一味でもいろんな作用があり
それらを組み合わせた方剤では、さらに複雑な作用をもつものです。

結局、異病同治や同病異治を漢方の特性であり不思議に思うなどというのは、
薬物や方剤の作用、そして病態生理をよく分かっていないためではないのだかろうか。

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各論−はじめに−

       病人をより良く治すためには

病の認識、正確な病態把握、そして最適の方剤を知りたい。

そのためには西洋医学の病態生理、病の認識と、その手法を充分に理解した上で
漢方のすぐれた病理観、病態の把握、そして治療方剤を活用したい。

病気について考える場合
 
 @病邪が外から正気を侵して発生する「外感病」
 
 A栄養失調、栄養過多、ストレス、不摂生などの「内傷の病」
 
 B身体内部の病邪によって発生する「雑病」

などに分けて考える。

正気と邪気の抗争である外感病は「正気の虚実」と「邪気の虚実」を見つめる。

内傷の病は正気の虚が問題で、「気虚」、「血虚」、「陽虚」、「陰虚」に分類する。

雑病は「血」、「水毒」、「気滞」なども含み、正気を助け邪を除く。

邪を除く方法として、汗、吐、下、和、清、消、温などがある。

そして疾病の性質を示す分類として「寒熱」は重要であり
疾病の状態を「陰陽」にて分類する。

漢方を学ぶとき、そこには日本漢方と中国漢方があり
そのどちらにも一長一短がある。けれども、できれば統一したものをつくり上げたい。

ここでは空論となりかねない五行説などを極力除いた上で
整然とした中国医学の類別法を活用したい。

以下に
「外感病」、「内傷の病」、「雑病」
「虚実」、「瘀血」、「水毒」、「気滞」、「寒熱」
「気虚」、「血虚」、「陽虚」、「陰虚」についてすこしずつ記していきます。

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従来の虚実論

虚実の判定は漢方の診断治療の根本をなすものです。
ところが漢方を医学と言うにしては虚実についての認識が統一されていません。

以下、千差万別ですが代表的な書物から虚実をみつめてみましょう。

    『漢方診療の実際』
 病情(病の状態)を明らかにするために、寒熱・虚実を分ける。

 陰陽という概念は、時には病位を現し、時には病情を示すために用いられる。

 虚とは病に抵抗していく体力の虚乏している状態をいう。
 実とは病に抵抗する体力の充実している状態をいう。

 一般に頑強な体質の人を実とし、
 虚弱な筋骨薄弱な人を虚とする説が行われているが、
 平素の体質は病気になった時の虚実に必ずしも一致しない。

 しかし、虚実も陰陽も同じく段階があり、
 かつ虚中に実があり、実中に虚があるから、
 これを看破するには多年の経験を必要とするのは言うまでもない。

    
『傷寒論梗概』(奥田謙蔵著)
 虚とは内容空虚の義で、生体に於いては、精気の異常に衰憊せる状態である。
 故に病に在りては、精気の挽回を図りつつ
 緩和に邪毒を排除しなければならぬのである。

 実とは内容充実の義で、生体に於いては、邪毒の体内に充満せる状態である。
 故に病に在りでは、発汗、吐下等の方法に因って、
 速やかに其の邪毒を排除しなければならぬのである。

 病が若し身体の欠陥に乗じて起こる時は、或いは陽病となり、或いは陰病となる。
 けれども、邪毒は一で、固より陰陽があるわけではない。
 唯だ人の体型、気質に随って寒と熱とに分かれるのである。

    『皇漢医学』(湯本求真著)
 虚実の虚即ち虚証とは空虚の意にして
 病毒未だ去らざるに精力既に虚乏せるものなれば
 脉は細、小、微、弱となり腹部も亦軟弱無力にして恰も綿花を按ずるが如く
 弾力消失せし護謨球を撫するが如し

 故に勿論吐下すべからず発汗も亦丈に戒慎すべく
 主として和法を施すべきものなり乏に反して実即ち実証とは
 充実の義にして病毒体内に充実するも体力猶是れと対抗しつつあるものなれば
 一般に壮実の観あり実、長、大、滑等の脉状を呈し腹部は緊満して力あり
 或いは堅硬にして抵抗強きものなれば汗吐下を徹底的に
 行わざるべからざるものなり。

    求真医談(漢方と漢薬誌)
 陰陽虚実は要するに一つの素質であって
 此の素質に応じて相違があり従って治療は異なる。

    荒木正胤
 虚とは病に抵抗する体力が弱い状態をいい、
 実とは病に対する抵抗力の充実している状態。病邪が体内に充満し、
 これを汗吐下の瀉法ですみやかに排除できる状態をいう。

 一般に頑強な人を実とし、虚弱な人を虚とする説があるが、
 平素の体質は病気になった時の虚実とは必ずしも一致しない。

 平素実証体質のものも虚証型の病情を呈することがある。
 また体の一部が虚し、他の部分が実していることもある。

     『臨床薬物証療学大系』
 虚とは空虚を言い。実とは充実を言う。
 しかし、充実した状態が健康というわけではない。

 健康は虚実のいずれの方向にも偏せず、ほどよく緊張が保たれた状態をいう。
 太りすぎていても、痩せすぎていても健康とはいえないのと同じである。

    『臨床医の漢方治療指針』
 「実とは邪気の充実するを云う」と説明され、
 体力気力がいまだ衰えず、生体反応の強い状態をさすのである。

 虚とは「精気虚するなり」と説明され、老人などの生体反応の弱いものをさす。

 往々にして生来虚弱な人の病を虚と解釈する向きもあるが、
 生来虚弱でも病気になると高熱を発することがある。
 この状態は実というべきである。


 「傷寒論」では
 このような解釈(「傷寒論弁正」「傷寒論述義」「傷寒論織」など)であるが、
 他方、先天性の虚弱な体質を虚と講する場合があることも事実である。
 他方、虚はまた空虚の意味にも使用される。

    『漢方保険診療指針』
 漢方治療はまず病人を陰と陽に分け、
 さらに防御反応を行っている生体の状態より虚と実に分けて治療する。

 虚は疾患に対する抵抗力の衰えている状態で、
 声が小さくて弱々しく、息切れして
 長く話せない、おとなしくじっとしていることが多く、すぐ疲れる、顔色が悪く
 食欲がない。動悸がうったり、自汗、盗汗があり、
 時々膨満感が起こり喜按(おさえると気持ちが良い)、
 脉に力がないなどの症状があるのを虚証という。

 実はまだ防御反応の強い状態で、声が大きく張りがあり体力もある。
 また症状も激しい。煩燥、高熱、激しい疼痛、
 膨満感があり拒按(おさえられるのを嫌がる)、便秘傾向、
 脉に力がある、時には譫言するものもある。
 これ等の症状のあるものを実証という。

 このうち、自汗、盗汗の有無、膨満感の経時的な変化、
 喜按か拒按か、脉の力の有無などが虚実の判定に役立つ。

 また虚証は発病後の時間の経った疾患に多く、
 実証は急性の疾患に多いこと、もともと体質が虚弱であるかどうかも参考になる。

 治療は虚証では温め補う補法を行い、
 実証は汗吐下などの攻撃的な療法を行う。


以上に述べているように、千差万別、支離滅裂で
「虚実については、いろいろの説があって定説はないが・・・」
と大塚敬節先生の言ったように漢方には定説がない。

定説や定義が明確でないのは何も虚実に限ったことではないけれども、
漢方を医学とするには定義を定めていかなければならない。

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山本巌の虚実論

ここで、山本巌先生の虚実論を紹介します。

従来の漢方を勉強している人には カルチャーショックで
それこそ「目からウロコ」状態になるかと思います。


大略
虚とは足りない、不足している。
実は満ちている、充満している、溢れる。
といった意味に使う。

日本の漢方では虚実について定説がなく、
多くの人が虚実は正気(体力、気力、免疫力)の虚実をさしている。

病人を虚証と実証に分類していて、
正気が虚している病人は虚証であるとし、
正気が充実している病人を実証として治療する。としている。

ところが、よく考えてみるとこの理論はおかしいことに気がつく。

治療法は、虚は補い実は瀉すという。
虚証なら正気が虚しているので、正気を補うのは当然である。

ところが実証に対する治法は瀉で、汗、吐、下を行う。
もし正気の実なら、なぜその正気をワザワザ瀉さないといけないのだろうか。
という疑問が生じる。

日本漢方では虚実は正気の虚実だけをさしていて、
中国漢方では、虚は正気について実は邪気について、だけを述べている。

虚実は 正気にもあれば邪気にもある と考えるほうが良い。

正気に虚実があるように、病邪(の毒力)にも虚実はある。
そして、傷寒のような外感病・感染症などでは正気と病邪の抗争として捉える。

陰陽について

陰とは、日陰・日の当たらない所・寒い・消極的な意味がある。
陽とは、日当たりのよい場所・温かい・積極的な意味がある。

疾病の時は、闘病反応が強くて熱は高く、症状が激しいのが陽証で、
正気と病邪の戦闘が熾盛です。

同じく疾病で、正気の病邪に対する闘病反応が弱く、
病状が静かである時は陰証です。

陰陽は 病状を指している と考えたほうがよい。

外感病の陰陽と虚実
       (病邪が外から正気を侵して発生する病を外感病といいます。)

傷寒のような外感病は、病を正邪の抗争として捉えると、
正気(闘病力、体力)にも虚実があれば、病邪にも虚実がある。



@正気が実している時、病邪が弱く虚であれば、発病しない。
 
 正気の実している人でも、コンディションが悪い時は、
 正気が一時おとろえて病邪に乗じられて発病することがあります。

 食べすぎ、飲みすぎで胃腸を痛める。風呂に入ってうたた寝する。
 寝不足。また、手術や放射線、抗がん剤などによっても虚します。

 この場合、正気が 恢復、充実してくると病邪を圧倒して治癒する。

Aもし、正気が実していても病邪が実の場合は、
 発病すると正と邪の抗争反応は強く、症状は陽証を呈し陽病に分類される。
 
 傷寒論では病位によりさらに太陽・陽明・少陽の三陽病に分類している。

Bもし、正気が虚の場合、病邪が実であれば
 病邪に蹂躙され闘病反応は弱く、症状は陰証で陰病となり死亡する。
 
 陰病ではまず正気を補い陽病とし、そこで病邪を瀉す。と言う手段をとります。

C癌や糖尿病の患者・老人・免疫不全や免疫力の低下した者のように、
 正気が虚している時、病邪の弱い弱毒病原体の感染の時は、日和見感染のようになる。
 細菌に侵されても、闘う力がないため、病態は静かで症状をあまり呈さない。
 
 現在の感染症は、
 昔の伝染病(古典的なチフス、麻痺、コレラ、痘瘡、赤痢など)よりも、
 MRSA(院内感染)や緑膿菌・日和見感染症などの
 正気の虚による弱毒性の感染などが治りにくく、問題になっています。

 このときには、虚した正気を補って正気を実にするだけで、
 正気が邪気を叩くため病はよくなる。

 問題になっているMRSAは、邪気を叩く抗生物質では良くならなくても、
 正気を補う漢方薬で治るのです。これは西洋医学にはできない手法です。

D正・邪ともに実の場合は陽病となり、最盛期は陽明病でAの状態になる。
 この時もし正気が急激に失墜すれば(ショックを起こして)厥陰になる。
 (抗がん剤などは正気を急激に弱めるので、注意が必要です)
 この場合はまず正気を補って陽明病とした後、病邪の実を瀉す。という手段をとります。

内傷の虚実

内傷は正邪の抗争ではなく、自分の体が弱って病気になる。

正気が充実していれば問題がなく、正気が虚している時が問題です。
正気の虚は補わなければならない。

この正気の虚を分類して気虚、血虚、陽虚、陰虚とし、
それぞれ補気、補血、補陽、補陰して治療します。


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虚実による治療

日本の漢方家たちのほとんどは
正気(人間の体力・闘病力、免疫力)の虚実をもって虚証・実証としている。
虚証とは正気の虚しているもの、実証とは正気の充実しているものを指しています。

これは昭和の漢方家たちが、
陰陽・虚実・寒熱・表裏といった中国の八網分類の虚実から思いついて、
たとえば大柴胡湯は実証の病人に用いる方剤、というような分類をしたことに始まります。

しかし正気にも虚実があれば、病邪(例えば最近やウィルスの毒力)にも虚実はある、
と考えるべきではないでしょうか。

今の漢方家のように正気の虚実だけをみて体力の実している者にだけ
麻黄湯とか大柴胡湯を用いるというのはどうでしょうか。

正気が虚していて邪気が実している場合、正気を補うだけでは治らなくて
病邪の実を瀉して初めて治ることがあります。

「日本医師会雑誌」の「古医書における漢方の使い方No.5」から古人の治験例で、
体力・正気の虚の病人に実証に用いる大柴胡湯を使用した3例をあげました。


症例@:古方便覧/六角重任(年代末詳、本書の序文に1781年の年記あり)
 
 50歳余りの酒客が、長らく左脇下が盤の大きさに硬満し、
 腹皮(腹直筋)が攣急して時々痛み、煩熱、喘逆してとこの臥することができない。
 顔色は痿黄で、身体もやせ衰えた。
 その後、春になっても潮熱を発するようになり五十日ほど経過した。
 私が大柴胡湯を与えると、およそ五十剤ばかりでその熱はやや下がり、
 また時々、紫円を与えて治療した。患者は私の指示どおり服用を続け、
 一年ばかりで宿痾は全治した。

  ┌患者の顔色は痿黄で、身体も痩せ衰えた。
  |・・・これでは正気(体力)が実しているとは思えない。
  |だが左脇下が盤の大きさに硬満し・・・即ち、左の脇下に病邪が実している。
  |そしてこの病邪を瀉す目的で大柴胡湯を与え、更にまた紫円で下している。
  |正気は虚しているが、病邪の実を除く目的で大柴胡湯を与えている・・・
  └のではないだろうか。


症例A:「続建珠録」の大柴胡湯治験/吉益南涯(1750〜1813年)

 浪華島之内の買人・伊丹屋某の治験
 腹痛し、腹中に一小塊があり、圧痛がある。
 身体がやせて、顔色が青く、便秘しているが食欲は変わりない。
 大柴胡湯を服用すること一年余りでやや軽快した。
 そこで患者が服用を怠って七〜八ヶ月経つと再発した。
 腫瘍は前回の倍くらいの大きさとなって水瓜のようである。
 煩悸して、木戸が劇しい時はまるで狂人のようである。
 諸医が治療したが効なく、南涯が再び診て、大柴胡湯に当帰芍薬散を兼用した。
 服用一ヵ月後に、クラゲ状のもの、その他を大量に下すこと九日ほどで完癒した。

  ┌身体が痩せて顔色が青く・・・
  |従ってこの患者も体力や正気が実しているとはいえない。
  |しかし腹中に一小塊があり圧通がある。
  |〜腫瘍は前回の倍くらいの大きさとなって水瓜のようである。
  |〜大柴胡湯に当芍を兼用してクラゲ状のものを大量に下す。
  |・・・即ち腹中にある病邪(の実)を下している。
  |正気は虚し、体力が実しているとは思えないが、病邪の実を瀉している。
  |大柴胡湯は病邪の実を瀉すのであって、正気の虚を補うものではないが、
  └正気が虚していても病邪を瀉さねばならない時は、以上の如く用いている。


症例B:橘窓書影/浅田宗伯(1815〜1894年)

 芝門前羽村屋重蔵六十余の例
 嘔吐下痢日々数十行、元気なく疲れる。
 大柴胡湯で下すこと二日で熱は大いに減じたが、
 千金断利湯と赤石脂丸を兼用して膿血は止んだ。
 さらに橘皮竹茹湯、真武湯などを用いて治療した。

  ┌嘔吐、下痢日々数十行、元気なく疲れている。
  |・・・即ち、これも正気(体力)が実しているとは思えない。
  |嘔吐・発熱は、腹中に病邪が実していると診断して
  |大柴胡湯で先ず病邪を瀉し、
  └その後に真武湯などで正気の虚を補っている。


以上の症例では先ず病邪を瀉しています。
たとえ正気(体力)が衰えていても、病邪の実は瀉さねばなりません。

最後の症例では先ず病邪を瀉し、後に正気(体力)を補っています。

しかし、先ず正気を補って後に病邪を瀉さねばならない場合もあり、
病邪を瀉すと同時に正気を補うなど
補・瀉を同時にやらねばならないこともあります。

いずれにしても、大柴胡湯は体力の充実とは関係なく、
病邪の実を瀉すものでした。一昔前までは・・・。

しかし、瀉剤には正気をも瀉す作用がある点に注意が必要です。

虚・実は正気にもあれば、邪気にもあると考えた方がよいと思います。

今の漢方では虚実は正気(体力)についてのみ考える学者が多いのですが、
虚実は正気の虚実だけでなく、病邪にも虚実があるとすべきでしょう。

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 気 血 水

病む人を、より良く治す為の第一歩は、
病を正しく認識する事、病態生理を正確に把握する事が重要です。   
そして最適の方剤を与える。

現実には、これらの当然のことがナカナカ出来ていないようです。

医学は、西洋医学だけでも東洋医学だけでもないし、
お互いに優れたものがあるんだから、 相互に研究し合えばよいと思う。

それぞれの組織の中枢の人には、
他者を受け容れるということが難しいのだろうか?

病む人をより良く治すことを、第一優先にするなら、
組織を守る事や、自分の流派にこだわることなどちっぽけだし、わびしい。

まずは西洋医学の優れた病の認識、病態生理を知る。
そして生化学検査や免疫学を知る方がより良い。

ところがそれだけでは残念ながら、治らない病気はあまりにも多い。
現代医学では慢性病の8割は治せていない、とも言われる。

病む人をより良く治すためには
東洋医学の病理観や病態のとらえかた、陰陽、虚実、寒暖、気血水、
そしてそれらに対する手法を縦横無尽に活用したい。

ここでは気血水について述べて行きたいと思います。

ただ注意していただきたいことは、
中国医学の五行理論を始めとした相乗相克などは、
実態とはかけ離れている事が少なからずあること、
一方、日本漢方の気血水理論も実際の病態とは
異なったりすることが多々ある、ということです。

     なお、昔は血は‘血液’ではなかった。
     その後、体液の赤い色をしたもの血とし、色のない水様の液体と区別するようになり、
     中国でも、中医学では「気・血・津」というように分類した。
     日本でも、南涯などのいう「気・血・水」説が出た。

     〜南涯の気血水説〜

     吉益南涯は、病人の病態は「気血水の変動によって発生する」と考えた。
     気・血・水を勝手にいろんな症状、
     例えば嘔吐でも、これは気による嘔吐、これは血の嘔吐、水の嘔吐というふうに分類して、
     薬も気・血・水に分類しようとしたんです。

     彼の気血水は、南涯自身の考えたものであり、ある証(症状)を「気が逆する証」だとか、
     「血気急するもの」「水気迫るの証」などと述べている。 これでは治療に役立ちにくい。

しかし、その実態・内容に関する認識はまだ非現実的なことが多い。
私たちは、これらを明確にして、病を治すために応用していかなければならない。


   次回は『気の医学』です。
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気 -1

漢方において‘気’という言葉はいろんな意味に用いられ、
それが一体何を意味しているのか混乱されていることが多い。

あるときは気体、ガスを意味し、あるときは精神作用を意味し、
時代により人によってその指している内容が異なる。

気の性質として、気は目にみえない、働きだけがある、即ち機能をさしている。

そして、人間を全体として把えるとき、
眼にみえる肉体という物質と、その機能。という把え方は非常によいと思う。

物質である肉体、即ち「体」を‘血’とし、
その機能である「用」を‘気’とし、 陰陽を‘血気’として把える。

生きた人間を生きたまま、
大きく 気と血、機能と物質として、気血の調和を健康、不和を失調(病気)とする。

現代の医学が病理解剖学を出発点としてきたため、
正常に対する異常が病変であるということから、形態学的変化が先ず主流となった。

現代の医学は、そのためどうしても機能的な異常よりも形態学的変化を優先してきた。

しかし病人も生きている。
形態と機能を同時に把えなければならない。 病人は屍体ではないのです。



「気」は形がない、目にも見えない。  その「気」というなかに、2通りあります。

その一つは 機能的な面の気で、
胃の働きが悪いとかの機能低下は「気虚」
機能の障碍を「気滞」「気閉」「気逆」というふうに言います。

機能的な面が損なわれると
過敏性大腸、痙攣性便秘、下部の消化管のジスキネジー、
過敏性腸症候群、胆道ジスキネジー、上部消化管のジスキネジーになります。

気管支喘息は、気道のジスキネジーということになりますでしょうか。

まあ大目に見て、機能の障碍ですね。 これらを「気滞」「気閉」「気逆」と言います。
胃の働きが悪いとかの機能低下は「気虚」と言います。


もう一つは 「精神・神経的な面の気」で、
機能障碍や、胃・十二指腸潰瘍など 機能以外にも、
眼で見える器質的な障碍を起こしてくる根元・・・・・といいますか、

漢方で「七情」などと言いますが、
精神的ストレス、‘うつ’などなど、一括して精神・神経的な作用も「気」といいます。

日本漢方では
これらの「機能的な面の気」と「精神・神経的な面の気」とを、あまり区別していません。


<気と血>

  人間を全体的に大きくとらえてみると、
  人体を構成する有形で物質的(肉体)なもの「血」と、
  機能的(無形)な面「気」とに大別できる。

  「血」とは、肉体の総称で物をさしている。 気はその機能、働きとして把える。

  気と血が合して生きた生体であり、血を離れて機能はあり得ない。
  「気」と血の解離は死、 なのです。

<気の病的変化>      気の病的変化には、主に気虚と気滞がある。

 〜気虚〜
   元気の不足によって引きおこされた状態。
   気は、機能をさしていて、気虚は機能低下の状態。

   先天的に元気が足りないとき、老化や疾病、過労、栄養失調などによっておきる。

 〜気滞〜
   気滞とは機能失調のうち、機能停滞を意味する。  

   その原因として精神的感情の抑鬱など心因性のもの、
   性格、飲食の失調、外邪などによっておきる、とされる。

<気滞の症状>

  脹った痛み、膨満感、苦悶感などであり、
  消化管、気道、膀胱、子宮などの平滑筋の緊張異常、痙攣によるものが主です。

<気滞の種類>

@ 脾胃の気滞   消化管の機能異常。
    食べた物が口から食道、胃、腸を経て肛門側へ送られる。
    これを‘胃気’といい降が順(正常)。
    ゲップ、嘔吐など逆蠕動は気逆、胃部膨満、痞塞感・・・・などは‘気滞’。

A 肺気壅滞       呼吸器及び心臓の機能失調。
    ‘肺気壅滞’は、息苦しい、呼吸困難の状態をさす。

B 肝気欝結   情動や、心因性のストレスが原因で自律神経、内分泌の異常をおこし、
    不安、緊張、抑鬱、怒り、ヒステリーなど情緒反応があり、脇胸膨張感、肩背痛、
    脇痛。  悪心、嘔吐、苦酸水を吐出する、心窩部の膨満などをおこしてくる。
    月経不順、乳房腫痛がおきる、
    胆道ジスキネージス、胃潰瘍、過敏性大腸症候群など。



         気虚 ―― 補気   気虚の治療は、補気で機能をよくする。
 気の病  {
         気滞 ―― 理気   気滞には、気閉には行気、気逆には降気を用いる。
                       この行気と降気を併せて‘理気’という。


  1.上部消化管機能異常

  2.胆嚢、胆道の機能異常

  3.過敏性腸症候群

  4.呼吸困難を主とする症候群

  5.下部尿路の機能異常     現在では、このような分類法もよいかもしれない。

 
行気薬には、陳皮、枳殻、青皮、香附子、厚朴、木香、烏薬などがあり、  

不安・抑うつには、香附子・紫蘇・薄荷、 

怒り・易怒には、黄連・山梔子・竜胆・宇金、 

イライラ・緊張には、柴胡・芍薬、 

ヒステリーには、甘草・大棗、 

鎮静・不眠には、黄連・釣藤鈎・酸棗仁・半夏等があります。

                                             このページのトップへ

気 -2

 理気

理気とは気を通じることにより気滞を改善することを言う。

気滞は、七情と呼ばれる喜、怒、憂、思、悲、恐、驚などの
さまざまな精神、感情の昂揚を引起こす外界からのストレスや
飲食の失調、外邪の侵襲また先天的な虚症体質が原因となる。

現代医学的には心身症、
中医学的には内傷とも呼ばれる諸症状を起こしてくる。

気滞により現れてくる諸症状は、自律神経系の緊張や昂進にともなう
消化管、気管支、血管壁、膀胱、子宮などの平滑筋の緊張や痙攣が
原因と考えられる。

気滞は痰湿、食積、お血、気鬱などのさまざまな病態と付随して
現れる事が多く、独立した症侯として現れる事の方が少ない。
また重症疾患であるほど、他の病態と複雑に関係しているので、
症例に応じて薬の加減が必要になってくる。


 気滞による諸疾患と症状による漢方の使い方

 A 脾胃系の生理的機能の失調により生じてくる疾患と症状

  1) 上部消化器官機能異常

   食道神経症
   逆流性食道炎
   食道、噴門痙攣
   胃炎、胃、十二指腸潰瘍
   呑気症

   症状  のどの閉塞感、食欲不振、胸やけ、胸痛
        心窩部膨満感、痛み、悪心、嘔吐嚥下困難

<のどの閉塞感>

 半夏厚朴湯 (半夏、厚朴、紫蘇、茯苓、生姜)

  半夏、厚朴、紫蘇  ---  向精神薬作用
  半夏          ---  中枢性及び末梢性の制吐作用
  厚朴          ---  鎮痙作用

<悪心、嘔吐>

気逆によるもの

 小半夏加茯苓湯   (半夏、茯苓、生姜)
 半夏厚朴湯      (半夏、厚朴、紫蘇、茯苓、生姜)
 茯苓飲         (枳実、陳皮、白朮、茯苓、生姜、人参)

冷えによるもの

 呉茱萸湯        (呉茱萸、人参、生姜、大棗)

炎症によるもの

 半夏瀉心湯       (半夏、黄今、甘草、黄連、乾姜、大棗)
 黄連湯          (半夏、桂枝、甘草、黄連、乾姜、大棗、人参)

湿痰によるもの

 カッ香正気散      (半夏、陳皮、白朮、茯苓、生姜、カッ香、紫蘇
                厚朴、白止、大腹皮、桔梗、大棗)

  半夏、生姜        ---  中枢性及び末梢性の制吐作用
  陳皮、枳実、大腹皮   ---  蠕動の促進作用
  茯苓、白朮        ---  胃内停水の利水作用
  黄連、黄ゴン、山梔子  ---  粘膜の抗炎症作用
  呉茱萸           ---  温裏して制吐、鎮痛作用
  カッ香           ---  芳香、化湿作用

<嚥下困難>

 利膈湯         (半夏、附子、山梔子)
 半夏厚朴湯      (半夏、厚朴、紫蘇、茯苓、生姜)

 利膈湯は食道の炎症、癌などによる嚥下困難を改善

<胸やけ、胸痛>

食道疾患によるもの

 順気和中湯     (半夏、陳皮、甘草、黄連、縮砂、香附子
              枳実、神麹、白朮、茯苓、生姜、山梔子)
 清熱解鬱湯     (枳実、陳皮、甘草、黄連、乾姜、生姜
              蒼朮、川キュウ、山梔子)
 小陥胸湯      (半夏、黄連、括楼根)

胃疾患によるもの

 半夏瀉心湯      (半夏、黄ゴン、甘草、黄連、乾姜、大棗)
 黄連湯         (半夏、桂枝、甘草、黄連、乾姜、大棗、人参)
 枳縮二陳湯      (半夏、陳皮、厚朴、香附子、枳実、縮砂
               木香、延胡索、茴香、草豆蒄)

  黄連、黄ゴン、山梔子   ---  粘膜の抗炎症作用
  木香、縮砂(香砂)     ---  健胃、鎮痛効果増強
  香附子            ---  解鬱して鎮痛効果

<心窩部膨満感、痛み>

 平胃散        (蒼朮、陳皮、甘草、厚朴、生姜、大棗)
 半夏瀉心湯     (半夏、黄ゴン、甘草、黄連、乾姜、大棗)
 黄連湯        (半夏、桂枝、甘草、黄連、乾姜、大棗、人参)
 越麹丸        (蒼朮、香附子、川キュウ、神麹、山梔子)
 延年半夏湯     (半夏、柴胡、別甲、人参、呉茱萸、枳実、檳椰子)
 枳実導滞丸     (枳実、大黄、神曲、白朮、茯苓、沢瀉、黄連、黄ゴン)
 保和丸        (半夏、陳皮、神曲、山査子、莢箙子、茯苓、連翹)

  陳皮、生姜、縮砂、木香     ---  健胃、鎮痛、蠕動を促進作用
  檳椰子、枳実、大腹皮      ---  蠕動を促進させ脹満の改善作用
  神麹、麦芽、山査子、莢箙子  ---  消化を助ける消導滞作用


 2) 過敏性大腸症候群

症状による漢方の使い方

<便秘型>

 桂枝加芍薬湯      (桂枝、芍薬、大棗、生姜、甘草)
 四逆散          (柴胡、芍薬、枳穀、甘草)
 九味檳椰子湯      (檳椰子、陳皮、厚朴、紫蘇葉、桂枝、木香
                 生姜、甘草、大黄)
 枳実導滞丸       (枳実、大黄、神曲、白朮、茯苓、沢瀉、黄連、黄ゴン)
 厚朴三物湯変方    (檳椰子、厚朴、枳穀)

  芍薬、甘草         ---  強い鎮痙、鎮痛作用
  芍薬、枳実         ---  鎮痙
  厚朴、木香、烏薬     ---  腸の鎮痙作用
  檳椰子、枳実、大腹皮  ---  蠕動を促進させ脹満の改善作用
  柴胡、芍薬         ---  疎肝解鬱
  黄連、黄ゴン        ---  抗炎症作用

<下痢型>

 甘草瀉心湯加茯苓    (甘草、大棗、黄連、黄ゴン、半夏、人参、生姜、茯苓)
 大建中湯          (蜀椒、乾姜、人参、膠飴)
 真武湯            (茯苓、芍薬、白朮、生姜、附子)
 参苓白朮散         (人参、白朮、茯苓、陳皮、縮砂、白扁豆
                  山薬、ヨク苡仁、蓮子、桔梗、甘草)

  甘草、大棗          ---  抗ヒステリー作用
  白朮、茯苓、陳皮、縮砂  ---  健胃、利水作用

<気滞によるもの>

 四逆散          (柴胡、芍薬、枳穀、甘草)
 九味檳椰子湯      (檳椰子、陳皮、厚朴、紫蘇葉、桂枝、木香
                 生姜、甘草、大黄)
 厚朴三物湯変方    (檳椰子、厚朴、枳穀)


<冷えによるもの>

 大建中湯      (蜀椒、乾姜、人参、膠飴)
 真武湯       (茯苓、芍薬、白朮、生姜、附子)

<炎症によるもの>

 枳実導滞丸       (枳実、大黄、神曲、白朮、茯苓、沢瀉、黄連、黄ゴン)
 甘草瀉心湯加茯苓  (甘草、大棗、黄連、黄ゴン、半夏、人参、生姜、茯苓)

<脾虚によるもの>

 参苓白朮散      (人参、白朮、茯苓、陳皮、縮砂、白扁豆
               山薬、ヨク苡仁、蓮子、桔梗、甘草)

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気 -3

  B 肝気鬱結により生じてくる疾患と症状

情動や心因性ストレスが原因で、
自律神経や内分泌の異常からおこってくる諸症状。

 1 肝、胆道系の機能異常

慢性肝炎
膵炎
胆嚢ジスキネジー

使用される漢方

 四逆散       (柴胡、芍薬、枳穀、甘草)
 柴胡疎肝湯    (柴胡、芍薬、枳穀、甘草、香附子、川キュウ)
 左金丸       (黄連、呉茱萸)
 小柴胡湯     (柴胡、半夏、黄ゴン、人参、生姜、大棗)
 柴胡桂枝湯    (柴胡、半夏、黄ゴン、人参、生姜、大棗、桂枝、芍薬)

  柴胡、芍薬、香附子        ---  疎肝解鬱
  芍薬、甘草または芍薬、枳実  ---  鎮痙、鎮痛


  2 自立神経系の諸症状

心臓神経症 動悸、呼吸困難、胸痛
更年期障害  → のぼせ、頭痛、肩凝り
ノイローゼ 不安、いらいら
不眠症


<動悸>

 柴胡加竜骨牡蠣湯
 炙甘草
 甘麦大棗湯

<のぼせ、いらいら>
 加味逍遥散
 黄連解毒湯
 三黄瀉心湯
 女神散

<不安、いらいら>
 柴胡加竜骨牡蠣湯
 加味逍遥散
 加味帰脾湯


  C 肺気壅滞により生じてくる疾患と症状

呼吸器、心臓の機能失調により生じてくる呼吸困難、胸痛などの諸症状

気管支喘息 呼吸困難
慢性気管支炎 → 咳嗽
肺気腫 胸痛
心不全
虚血性心疾患


使用される漢方

 七味降気湯    (紫蘇、半夏、香附子、茯苓、木通、桑白皮、白壇生姜、甘草)
 沈香降気湯    (紫蘇、沈香、香附子、茯苓、縮砂、甘草)
 蘇子降気湯    (蘇子、半夏、前胡、陳皮、厚朴、生姜、桂枝当帰、甘草)
 九味檳椰湯    (紫蘇、檳椰子、木香、陳皮、厚朴、生姜、桂枝、甘草、大黄)
              +呉茱萸、茯苓[浅田方]


症状による漢方の使い方

<呼吸困難>

呼吸器疾患によるもの

 蘇子降気湯      (蘇子、半夏、前胡、陳皮、厚朴、生姜、桂枝
               当帰、甘草)
 半夏厚朴湯      (半夏、厚朴、紫蘇、茯苓、生姜)

  厚朴、蘇子          ---  降気、平喘作用
  半夏、厚朴、紫蘇、前胡  ---  鎮静作用
  半夏、紫蘇、陳皮      ---  化痰、制吐作用
  半夏、前胡          ---  鎮咳、化痰作用
  桂枝、甘草          ---  強心、利尿作用

右心不全によるもの

 九味檳椰湯      (紫蘇、檳椰子、木香、陳皮、厚朴、生姜、桂枝、
               甘草、大黄)+呉茱萸、茯苓[浅田方]

  檳椰子、大黄、厚朴   ---  逐水作用
  桂枝、甘草        ---  強心利尿作用
  紫蘇、桂枝、生姜    ---  辛温発表作用

左心不全によるもの

 七味降気湯      (紫蘇、半夏、香附子、茯苓、木通、桑白皮、白壇
               生姜、甘草)
 沈香降気湯      (紫蘇、沈香、香附子、茯苓、縮砂、甘草)

  紫蘇、沈香、桑白皮       ---  肺や気道など上部の水をとる。
  紫蘇、半夏、香附子、白壇  ---  理気、止痛作用
  茯苓、木通            ---  利水作用


<胸痛>

呼吸器疾患によるもの

 括楼ガイ白白酒湯      (括楼仁、ガイ白、白酒)
 括楼ガイ白半夏湯      (括楼仁、ガイ白、白酒、半夏)
 枳実ガイ白桂枝湯      (枳実、ガイ白、厚朴、半夏、桂枝)
 柴陥湯             (柴胡、半夏、黄ゴン、人参、生姜、大棗、黄蓮、括楼根)

虚血性心疾患によるもの

 括楼ガイ白白酒湯      (括楼仁、ガイ白、白酒)
 括楼ガイ白半夏湯      (括楼仁、ガイ白、白酒、半夏)
 枳実ガイ白桂枝湯      (枳実、ガイ白、厚朴、半夏、桂枝)
 冠心U号方          (赤芍、川キュウ、紅花、丹参、降香)

  括楼仁、半夏   ---  去痰、鎮咳作用
  ガイ白        ---  鎮痛作用
  丹参、川キュウ  ---  血管拡張作用
  赤芍、紅花     ---  血小板凝集抑制作用

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 血 -1

 血について
「傷寒論」や「金匱要略」には、下記のように書かれている。

1.熱病の初期に意識障害、狂人のような精神異常がみられ、
 それが下血すると治るという現象がある。
 下血しないときは、桃核承気湯のような薬物を加えて血を下せばよくなる。
 
 以上のことから、熱病の初期の精神異常は
 「血」(血液が停滞した)によるためだと仮説を立てたと思われる。

2.熱病で高熱時に、せん語、意識障害、狂人の如くなったり、
 健忘になるのも蓄血、血があるため。

3.熱病で少腹部が膨満したり硬かったりして、
 小便が出ない場合は血でないが、小便がよく出ているときは、血がある。

4.熱病のとき、たまたま生理がきて、その生理が熱のためストップし、
 そのため精神異常をおこす。これは熱が血室に入ったためである。

5.月経が不利で、下腹部が膨満して病むのも血である。

6.挫傷もやはり血(内出血)が生ずる。杖刑のあとや、外傷後に
 発熱、精神異常や、頭暈、ブラブラ病、疼痛、麻痺などの症状がおきる。

7.出産後の自律神経、内分泌の異常、血脚気といった下肢の麻痺、RAなど。

8.月経異常、無月経などの現象と、月経前期症候群、更年期障害
 さらに広く血の道症なども血と考えられた。


 このような現象に対して血という仮説をたてて血を除く薬物で治療した。

 こうしてつくられた血という概念も
 年代や医家によってそれぞれに判断や意見が異り全く同じではない。

 しかも実際この血という病態は非常に複雑で
 おそらく単一の病態ではなく、いろんな病態を包括していると思われる。
 
 また、駆血薬、活血化の薬物も数多くの種類があり、
 そのなかの一つの生薬にも数多くの生物活性の物資を含んでいる。


 
血剤、駆血という治療が非常によく効く治療法で、
現代医学の難治といわれる疾病に対してもなおよく治すことができる。

西洋医学では,このような血に対する認識がないが
そのような眼で診ていると、血の病態は非常に多い。
 
山本巌先生の師、中島紀一先生も、
「諸悪は血だ。病(やまい)百のうち百まで血で解決する。
血というものを重視せよ…」 といわれた。

山本巌先生は、
「治らない病は血を考えよ。 
難治性のの病、慢性疾患のほとんど総てに血が咬んでからみあっている。
癒らない病、ことに女性は血の存在に注意せよ。
だが、血が単独に存在することは少ない」
血とは駆血剤を与えると改善される病態である」……といわれた。

血の血という概念と現代医学の血液は同じではない。
血液や血流と全く関係がないことはないが、血の病態はもっと広いものだろう。

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 血 -2


血の成因

1.外傷、挫傷による内出血。手術。

2.婦人の生理異常、出産、異常分娩。

3.熱病。

4.寒冷の外傷。

5.精神的作用。

  以上のようなものが成因の主要なものといわれる。


血の症状

T主要症状

  a疼痛
   固定性で移動しない。
   刺痛 紋痛 脹痛。
   昼は軽く夜間増強する。
   他の鎮痛薬が効きにくい。
   静脉系のうっ血による疼痛。

  b出血
   血液の色は紫黒色できたない。
   凝血やワカメのような感じのもの。
   突然多量に出ることもある。
   止血薬が効かないもとが多い。
   痔出血、食道静脉瘤からの出血など静脉からの出血。

  c腫瘤
   うっ血肝、肺のうっ血、及び心不全による臓器のうっ血腫大。
   静脉瘤症候群。
   ファイブロージス。
   強皮症、肺繊維病、ケロイド、癒着。
   子宮筋腫、癌、肉腫。

U自覚症状

   腹部の膨満感。
   寒熱の感覚。
   麻痺、しびれ。
   精神異常、健忘、幻覚、うつ状態。
   口乾、口燥。
   頭重、頭痛、眩暈、歯痛。

V他覚症状

  a顔面、口唇、舌、歯ぐき
   口唇の乾燥、あれ、紫黒色、及紫黒色の斑点。
   舌、舌質の紫色、紫色の斑点、血管の拡張、うっ血。
   歯ぐきの暗紫色;腫脹。

  b皮膚
   うっ血、紫色斑、皮下の内出血、細絡、静脉瘤、皮膚交錯、爪甲の紫紅色

  c脉証
   渋を標準とするが、脈ではナカナカわからない。

  d腹証
   少腹急結、堅塊、硬満、などと
   方剤の主治条文中にもあるが記載の諸説一定せず。

   臍下部の圧痛、抵抗、塊状物を日本では血の腹証としているが
   脾腫、肝腫も血と考えれば
   少腹とか、腹壁の筋肉の緊張や抵抗だけではおかしい。

  e大小便
   大便は軟便でその色が黒く、小便自利するときは血がある。

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 血 -3


 駆血薬

1.温性駆血薬
  当帰 川きゅう 紅花 莪朮 姜黄 乳香 鶏血藤 田三七

2.涼性駆血薬
  赤芍 丹参 牡丹皮 益母草 虻虫 しゃ蟲 仙山甲

3.平性駆血薬
  桃仁 蘇木 牛膝 水蛭 三梭 没薬


 駆血剤

1.基本的配合
  一般に駆血、活血去の基本組合せ。

  当帰 赤芍 桃仁 紅花 川きゅう 地黄 丹参   
  にプラス大黄とすることは非常に大切。 またはプラス梹椰

2.熱が加わる場合
  清熱涼血、清熱解毒、清熱降火薬を配合する。

  a)発熱する場合―清熱降火
   石膏、知母、黄ごん、山梔子、黄蓮、柴胡

  b)化膿性炎症―清熱解毒
   金銀花、連翹、蒲公英、敗醤、冬瓜仁、升麻

  c)炎症と出血―清熱涼血

3.陳旧性の血、結塊
  水蛭、虻虫、しゃ蟲、三梭、莪朮。
  (紫根、丹参、紅花、山豆根、か呂根)

  a.甲状腺腫
   昆布、海藻。
  b.脾腫
   別甲、沢蘭

4.腹部機能障害
  食道、胃、腸膀胱等の痙攣、逆蠕動、緊張亢進。
  枳穀、木香、烏薬、香附子、陳皮、青皮。

5.胸痛、胸内苦悶
  薤白、半夏、桂枝。

6.寒証
  干姜、附子、肉桂、呉茱萸、濁椒。

7.機能低下、気虚
  人参、黄耆、白朮。茯苓。

8.陰虚(エネルギー代謝亢進)、脱水
  熟地黄、麦冬、天冬、玄参、阿膠、石斛。

9.湿証、水滞
  茯苓、沢瀉、猪苓。

10.出血
  蒲黄、茜草、地楡、乱髪霜。

11.痰証
  南星、半夏、白附子。

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 水 -1

≪用語の解説≫

 水や湿に関して、漢方には明確な定義がなく、いろんな用語がでてくる。

 「湿」「湿家」、「湿痺」「風湿」「風水」「皮水」「水気病」「寒湿」「湿熱」・・・・・
 「湿邪」「水毒」などなど

<湿証>

 体内に過剰な水分が停滞し、浮腫のような状態のものを湿証。

<水証>

 体内過剰の水分が、胸水、腹水、関節水腫、水泡、緑内障のように
 水を認める状態を水証という。

<湿邪、水毒>
 
 外環境の湿が病因となるときには、
 邪、毒をつけて湿邪、水毒などという。

<湿との組合せによる病態>

 病人は一般に湿証、水証が単独であることは少なく、
 寒や熱、血、気滞などと複雑に合併していることが多い。

 しかしここでは、主に、湿証について述べます。

<湿熱>

 湿と熱が合している場合、炎症性の浮腫や
 炎症性滲出液、湿性肋膜炎、関節炎による関節水腫など、熱感や発赤を伴う。

 出血を伴えは血証が更に加わったものです。

<寒湿>

 浮腫、水滞があって炎症のない場合には、
 血行も悪く、また外環境の寒冷の作用を受け易く、冷たく腫れる。
 
 自覚的には痛を強く伴う。

<風湿>

 湿証の人が風(カゼ、感染症)に犯されると、中風にはならず、風湿になる。

 風湿のときは、身が重い、身重、関節痛があり、熱はあまり上昇しない、
 また午後に上昇する傾向がある。

 治療は発汗剤によるキョ風を強くすると湿が残って治らない。
 キョ湿と少し発汗を行うのがよい。

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 水 -2

≪主な症状と疾病≫

 主な症状

  ○ 身が重く感じる。動きにくく、動かそうと思うが自由にならない。
    立つ時、手をついて立たねばならない。
    階段につまづいて倒れそうになる。小さな石にもつまづくようになる。
    動くのがいやになる。

    じっとしていると動きにくいが、動かしていると動き易い。
    「朝のこわばり」という現象と同じ理由です。

    道など急ぐ時は息切れがする。

  ○ 皮膚に水が多く貯まると、しびれがでてくる。
    ちょうど座ってしびれがおきるのと同じです。
    初めはしびれがきていたのが長時間座ってからだったのが
    しびれるのが速くなる。
    夜に寝る時、臥して下側になった腕に痺れがおきる。
    指先、趾先からしびれる。  知覚鈍麻、麻痺
    
    筋肉や関節の疼痛がある。沈重疼痛が特徴。

  ○ 筋肉内に水が貯まると、「コムラ返り」がおきる。
    腓腹筋の強直性痙攣。

    また、眼瞼がピクピク痙攣する。

    浅い筋肉の浮腫では、不随意的にピクピクと表在筋が動く。
    太い筋肉では腓腹筋のコムラ返りと同じように筋肉が痙攣し、
    頸でも腰でも腰腹でもコムラ返りと同じ様な強直性の痙攣がおきる。
 
    時に狭心症と誤ることがある。EKGで鑑別ができる。
    この痙攣は、姿勢や労働による疲労とも関係があると思う。

  ○ めまい。動揺感
    頭がくらっとする。体の動揺感がおきる。回転性眩暈がおきる。

  ○ 天候との関係
    水腫があるための上記の症状は天候に関係が深く、
    雨の降る前には時に症状が悪化する。

    日本では湿気が多く湿度が高いことも症状を悪くする原因だと思う。

  ○ 頭部、脛骨前面を圧迫すると、陥凹する。
    腓腹筋を握ると痛む。

  ○ その他
    頭重、頭痛、眼圧上昇、クシャミ、鼻水、水様痰、耳漏、吐水、泄瀉、水様便、
    尿量減少、発汗(発汗が多いと楽)、転筋、腰痛、腰重、関節痛、関節水腫、
    腹水、胸水、水性帯下、皮膚の水泡、びらん、など。

 疾患
 
  アレルギー性鼻炎、緑内障、網膜剥離、小児喘息、
  良性発作性頭位眩暈症、動揺病(加速度疾患)、メニエル氏病、
  湿性肋膜炎、下痢腸炎、胃液過多症、肺水腫、
  心不全(うっ血性心不全)、うっ血肝、ネフローゼ症候群、腎炎、肝硬変、
  関節炎、RA、水泡性皮膚疾患、等々。

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 水 -3

≪利湿薬と利湿剤の分類≫ 

   利湿薬及び利湿剤をその作用機能によって次のように分類する。

 <利湿薬 > (1)利水滲湿薬
           (2)逐水薬
          (3)キョ風湿薬
          (4)芳香化湿薬

 (1)利水滲湿薬

    利尿作用があり、体内の水分を尿として除く薬物。

     a 利尿作用の比較的明確なもの。

滑石 灯心草 車前子

     b 体内に過剰の水分があるとき利水作用があると考えられるもの。
 
        茯苓 猪苓 沢瀉 防已 茵?蒿

        ヨクイニン 赤小豆

 (2)逐水薬

主に強い瀉下作用によって体内の水分を除く薬物。

        テイレキ子 牽牛子 檳榔

 (3)?風湿薬

皮膚、筋肉、関節などの身体外表に近い部分の疼痛、痙攣、麻痺を治療する薬物。

        独活 キヨウ活 木爪 防已 イ霊仙 秦ギョウ

 (4)芳香化湿薬

    主に下痢、腸炎の治療に用いる薬物で、消化管の水分を吸収して利尿する。
    発汗作用があり、体表の水分を汗として除くものもある。

        カッ香 蒼朮 紫蘇(子)

 (5)その他

        麻黄 附子 呉茱萸 黄耆など



 <利湿剤 > (1)淡滲利湿剤
          (2)清熱利湿剤
          (3)温化利湿剤
          (4)逐水剤

 (1)淡滲利湿剤

    茯苓、朮、沢瀉、猪苓などといった味の淡い、
    体内の過剰な水分を除く利尿薬を配合した処方。


       四苓湯  四苓散   五苓散(温化)
                     猪苓湯(清温)

       防已黄耆湯  防已茯苓湯

       茯苓杏仁甘草湯  木防已湯

       七味降気湯

       三和散

       導水茯苓湯
 
 (2)清熱利湿剤

    主として炎症に伴った浮腫に応用する。

       越婢加朮湯

       大青竜湯  小青竜湯加杏仁石膏

    関節炎などの炎症と浮腫、関節内の水を除く。

       越婢加朮湯  小青竜湯加杏仁石膏

       桂芍知母湯  続命湯  二妙散

       防已黄耆湯

    膀胱炎など尿路感染症に用いる方剤

       五淋散  猪苓湯

    黄疸の治療方剤

       茵チン蒿湯 茵チン五苓散

 (3)温化利湿剤

    体が冷えて、寒と湿のある場合に温めて寒と湿を除く方剤。

       真武湯  五苓散  苓姜朮甘湯

 (4)逐水剤

    瀉下によって強力に水分を除く。

       九味檳榔湯加呉茯  十棗湯

       大陥胸湯  テイレキ大蚕瀉肺湯

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発汗療法(汗法)

漢方は、急性熱病の初期に発汗療法を行なう。例えば、感冒・インフルエンザ・
咽頭炎・扁桃炎・中耳炎・乳腺炎・・・などにも用いられる治療法です。

  発熱した時、
  体温が上昇し始めると
   ↓
  悪寒を感じる。
   ↓
激しい時は悪寒戦慄のこともある。

脉は浮脉であり、その他に頭痛・筋肉痛・四肢痛・関節痛・肩こりなど
身体の外表に症状があり、食欲不振・腹痛・嘔吐・下痢など内部症状のない時期です。

頭痛・筋肉痛・関節痛・悪寒など外表の症状を表証と呼んでいる
(内部の症状を裏証という)。

この時期を『傷寒論』では太陽病と呼んでいる。
「太陽の病たる。脉浮、頭項強痛して、悪寒す。」
と定義している。このときの治療法が汗法即ち発汗療法です。

古人は感染症を外感病と考えて、外から病邪が侵入し、
先ず外表から次第に内部へと侵してくると考えた。

そして太陽病の時期には、
病邪がまだ内部に入らず、表(皮膚の近く)にあって表証を示している。
従って、発汗療法を行なって表にある病邪を汗と共に外部へ追い出す・・・と考えた。

この目的で、麻黄・桂枝・細辛・生姜・葱白・紫蘇・荊芥・羌活・・・などの
身体を温めて発汗させる薬物を配合して、
麻黄湯・桂枝湯・葛根湯・・・といった発汗療法の方剤をつくっている。

発病し、体温が上昇し始めるとa〜bの間は太陽病で悪寒を伴い、表証があり汗は出ない。

bに到るといくら体を温めても、もうそれ以上は体温が上昇しなくなり、
悪寒はなくなり熱感になる。

高熱が持続すると体は熱く、発汗が始まる。そして陽明病に移行する。

a〜bの間で体を温めると、悪寒はなくなり、速くb点の体温になり、
まだ温め続けるとそれ以上体温は上昇せず発汗が始まる。
いくら温めても、発汗のための体温はそれ以上上昇せずに汗が出る。


           


その発汗状態を4時間〜6時間くらい続けると、
表証もなくなり、熱も下がり、病が治る。

これが発汗療法です。この治療は下肢を湯に入れて、物理的に体温を上昇させ、
発汗させてもよい。必ずしも薬物によらなくてもよい。




方剤の薬用量と服用の注意

『傷寒論』では桂枝湯の服用法に注意事項を記載している。
「水七升でとろ火で煮て、三升に煮詰め、滓を去って、温かいのを一升服用し、
服用後は更に粥一升余りを啜り、(体を温めることで)薬効を高める。

布団を覆ってしばらく温める。体中から汗がジットリ出て汗ばむくらいがよい。
流れるほど発汗させてはよくならない。病を除くことができないからです。

もし一服で汗が出て病気がよくなると、一服だけでもうそれでよい。
一日分全部を飲む必要はない。

しかし、汗が出なければ前と同じような要領で服用し、
汗のない時は服用間隔を短くし、約半日で三服を服用する。

もし病が重い者は一日一夜を通して服用させ、常によく病状を観察し、
1日分を服み終わっても病症がまだある者には、更にもう1剤をつくって服用させ、
汗が出ないと2、3剤を服用させる」

このような注意は桂枝湯のみならず、どの方剤にも必要です。

酒飲みにも一口と一升酒の差があるように、
人体も薬物に対する反応は同じではないからです。

稀に、風邪の初期に葛根湯エキスを使う場合、
1回1包、1日3回、5日分、というように投与される事がありますが、
本来の発汗療法を知っているとおかしな話ですね。
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補益と補養剤

中国は二分類法を好み
疫病発生とその転変を、正と邪の力関係として把える。

邪が正に勝てば、病が発病し病は悪化する。
正が勝てば邪は却き、病は好転する。

病の治療には、
邪を除く?邪と正を扶ける扶正を行ない、これを扶正きょ邪と呼ぶ。

扶正とは正気を助け、病に対する抵抗力、治癒力を増強する。

この正の虚を分類して、気虚、血虚、陽虚、陰虚とする。

中国人は、健康とは
気血の調和、陰陽の調和のとれたもので、いずれに偏ても病になる。・・と考えた。

陽に偏して陰不足する場合があり、
陰に偏して陽が不足する場合がある。

気とは働き(機能)であって眼にみえないもの、
血は物質であって形があるが働きはない。

補法は八法の治療法のうち扶正であって、虚するものを補う。

注意
  1.薬剤だけにたよらない。
  2.食生活を大切にし、心身を鍛錬すべし。
  3.望外のことを求めない。
  4.実邪のあるときは扶正と同時に?邪を併用すべし。
  5.補益は一朝にしてならず。

補益
治療法中の補法であり、気血陰陽の不足を補う。
一般に補気、補血、補陰、補陽の四種に大別する。

これに用いる薬物を補養(益)薬、
補養(益)薬を主剤として組み立てられた方剤を補益剤とよぶ。



◎気血と陰陽
まず理解しやすいため、気血、気虚・血虚について述べる。

人間を大きく分けて、
人体の働き、即ち機能と物質の二つとする。前者が気で後者が血です。


機能と物質ー気と血

1)「気」・・・働き、機能が「気」であり、機能低下が「気虚」です。
  
  四君子湯が「気虚」を補う「補気」の基本処方です。
  四君子湯の元気を補う主薬は人参で、これに白朮、茯苓、甘草が加わったもの。

2)「血」・・・肉体、物質が「血」であり、物質の不足が「血虚」です。
  
  四物湯が「血虚」を補う「補血」の基本処方です。
  四物湯は物を補う主薬の地黄に、当帰、川弓、芍薬が加わったもの。


1.気虚
 気虚とは気の不足の意味であり、機能すなわち働きが悪い場合を指す。
 その場合、次の症状が現れる。
  1)顔色、ことに口唇の血色なく、白くなる。
  2)言葉に力がなく、大きな声が出ない。
  3)手足がだるく、力が入らない。
  4)脈が弱く遅い。
   そして疲れやすく、疲れなくともしんどい。何をするにも大儀である。
   すぐに眠くなる。
   
 気虚は、主に「脾の気虚」と「肺の気虚」がある。

〇脾の気虚
  脾の気虚は上記の症状の他に、食欲がない、食べるものに味がない、、など。
 
  その上、筋肉の緊張がゆるみ、内臓下垂、子宮脱、脱肛、ヘルニアなどを伴う時は、
  「中気不足」「中気下陥」という。
  この時は腸(消化管)の運動も緊張も悪いため、便秘または排便しにくい。
  そしてガスの排出も悪いため、腹が張る。

〇肺の気虚
  少し動くと息切れがして苦しくなり、ハアハアと呼吸が浅くなる。
  すぐに汗がよく出る。何か食べるとすぐ自汗が出る。

2.血虚
 身体の物質の不足である。従って
  1)体が痩せて細い。体に滋いが無い。
  2)皮膚につやが無く、カサカサして、シワがある。皮膚が薄くやせている。色が汚い。
  3)脈は細い。
  4)舌は細く、どちらかといえば乾燥している。
  5)尿量は多くない。

3.陽虚
 気も陽であるが、陽は熱でもあり、火でもある。
 従って陽虚の場合には、気虚プラス寒の症状が現れる。
                     (陽が虚すと寒を生じる。)
 従って気虚に加えて、虚寒の状態がある。
  1)よく寒がる。四肢が冷えて冷たい。
  2)口は渇かず、水を飲まないのに尿量が多く、色が白い。
  3)舌質は湿潤し、淡く、歯痕があることあり、苔は白い。
  4)大便も軟らかく下痢便となる。

 陽虚は冷えて、その寒の刺激で腸の運動が亢進すれば、
 腹痛を伴わない溏(ベタベタ)となる。
 
 腸内の水分が多ければ、水瀉となることがある。
 いずれも腹痛を伴うことがある。

 またその他に気虚で腸の運動が悪く、大便硬く便秘する。
 それが寒で便秘となる。この場合は便秘と下痢が交互に来たりすることもある。

4.陰虚
 陰は血をも含む。但し中国では津液水分・精・肉は血と別にしている。

 陰は寒であり、水である。そして陰が虚すると熱を生じる。
 従って陰虚の症状は血虚の症状は血虚プラス熱である。
 だからその上に
  1)手足が煩る。(五心煩熱)
  2)午後に潮熱が出る。(朝冷暮熱)
  3)口渇し、口中が乾燥し、
  4)小便は少なく、濃くなり、
  5)大便は乾燥して黒く小さく、量は少ない。
  6)舌は細く、紅く、乾燥して、舌苔は少ない。
  7)脈は細く、そして多い。

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四君子湯の展開

四君子湯の展開

四君子湯 『和剤局方』

[組成]
  人参 白朮 茯苓 甘草
[方意]
  本方は気虚の基本方剤であり、人参が主薬で、白朮、茯苓、甘草は
  消化吸収の働きをよくし、元気を益すための補助になる。
  
  人参と甘草はともに体を潤す性質がある一方で
  白朮と茯苓の配合により浮腫を防いでいる。
[応用]
  下記のような気虚の症候すべてが本方を用いる特徴になるが、
  本方単独で用いることはなく、
  通常は基本処方として、各処方の中に組み入れて使用される。
   ・面色萎白(望)
   ・言語軽微(聞)
   ・四肢無力(問)
   ・脈来虚弱(切)
  本方の口訣
   ・口唇の血色少ないとき・・・・・出血時
   ・飲食進み難きときを第一の目標とする
<応用例>
 1.痔出血・・・・・黄耆、白扁豆、槐角を加える
 2.脱肛・・・・・・・柴胡、升麻、蒼朮を加える
 3.老人ぼけ・・・丁香、木香を加える
 4.褥瘡・癰疽(傷口の治らないもの)
 5.慢性気管支カタル(老人)・・・黄耆、五味子、麦門冬を加える
 6.呼吸困難・・・蘇子、沈香、桑白、砂仁、木香、厚朴などを加える(喘四君子湯)
 7.脳軟化症(老人)


異功散 『小児薬証直訣』

[組成]
  四君子湯加陳皮
[方意]
  四君子湯の四味だけでは、
  胃炎患者で、もたれ、痞え、悪心のある場合に、薬液が痞えることがあるため、
  健胃作用のある陳皮を加えることにより、これを防いでいる。

 *陳皮
 (1)脾胃の気滞を除く。
    胃腸の過剰な緊張を除き、運動させる作用により、食欲が出て、
    胸の痞えや悪心・嘔吐がとれ、気持ちがよくなる。
 (2)燥湿化痰
    痰は粘液であり、粘液性炎症すなわちカタルを治す。


六君子湯 『万病回春』

[組成]
  異功散加半夏
[方意]
  前記異功散に、粘液を溶解し、
  中枢性及び末梢性の鎮嘔・制吐作用がある半夏を加えたもの。

  また、陳皮、半夏、茯苓、甘草の組み合わせは、
  痰飲の代表方剤である二陳湯であるから、
  六君子湯は四君子湯に二陳湯を合方したものともいえる。
  
  すなわち、六君子湯は気虚の者の痰飲(胃炎、胃カタル)に対する方剤。

 *半夏
 (1)鎮嘔・制吐作用・・・中枢性および末梢性
 (2)燥湿化痰・・・・・・・・・喀痰や粘液を溶解し、分泌を抑制する。
 (3)鎮咳作用・・・・・・・・・中枢性および末梢性
 (4)鎮静作用
[応用]
  胃腸の働きがふだんから弱い者の、胃炎・胃カタル
  および気管支喘息(主に乳幼児)の体質改善などによく用いられる。


香砂六君子湯 『和剤局方』

[組成]
  六君子湯加香附子、カッ香、砂仁(木香)
[方意]
  六君子湯の証で、
  さらに胃部膨満感や悪心・嘔吐などの気滞の症状が一層強い者に対して、
  行気の薬物である香附子、砂仁(縮砂)、木香と、健胃、鎮嘔・制吐および
  非タンニン性止瀉作用を有するカッ香を加えた方剤で。

*香附子
 (1)胃の働きをよくする。
 (2)気滞のためにおきる疼痛を止める(行気止痛)
 (3)精神的な原因による胃の疾患に用いる。
 (4)発汗作用

*カッ香
 (1)消化を促進し、食欲を増進させ、胸をスーッとさせる。
 (2)胃腸の神経に対する鎮静作用と、血行をよくして温める作用の結果、
    冷えによる嘔吐を抑え、胃腸の痙攣性疼痛を止める。
 (3)化湿止瀉作用

*砂仁(縮砂)
 (1)胃の働きをよくし、悪心、嘔吐を止める。
 (2)腹を温めて、下痢を止める。
 (3)胃の運動をよくし、過緊張を除き、心下部の痞えや膨満感をとる。
 (4)悪阻に有効で、安胎の効もある。

*木香
  胃腸の刺激による蠕動亢進や分泌促進を抑制するため、胃腸の過緊張や、
  冷えによる痙攣性の痛み、裏急後重などに用いる。
[応用]
  六君子湯に比べて、食傷(飲みすぎや食べすぎによる胃炎)のための膨満感、
  痞え、悪心、嘔吐、心下部痛などの気滞症状が強い者に用いる。


大四君子湯

[組成]
  四君子湯加黄耆
[方意]
  四君子湯に、自汗、盗汗を止める黄耆を加えたもの。


参苓白朮散 『和剤局方』

[組成]
  人参、白朮、茯苓、甘草、山薬、蓮肉、砂仁、扁豆、ヨクイニン、桔梗
[方意]
  ・人参、白朮、茯苓、甘草(以上、四君子湯)、山薬、蓮肉、白扁豆
                     ・・・・・・消化吸収同化の働きをよくする。
  ・茯苓、山薬、蓮肉、砂仁、扁豆、ヨクイニン・・・・下痢を止める。
  ・ヨクイニン、桔梗・・・・・・・・・酸臭の強い醗酵性消化不良に有効
  
  すなわち、脾の気虚で、消化の働きが衰えて、慢性の下痢をする時の方剤。

 *蓮肉
 (1)胃腸の働きをよくし、下痢を止め、食欲を増進させる。
 (2)不眠、心悸亢進を治す。
 (3)遺精に用いる。

 *扁豆
 (1)胃腸の働きをよくし、消化管の水分を除くため、食欲の増進や下痢に用いる。
 (2)利水の効(水腫に用いる)・・・・夏の胃腸病の要薬

 *ヨクイニン
 (1)利水作用があり、腸内の水分を除くため、下痢にも用いる。
 (2)清熱利湿
 (3)消炎、排膿の効

 *桔梗
 (1)鎮咳・去痰作用。
 (2)咽の痛み、声のかすれに用いる。
 (3)排膿作用
[応用]
  本方の口訣
  ・おなかの弱い者で、食欲がなく下痢しやすい。
  ・大病後の消化器の回復
  ・労倦不食の証


啓脾湯 『万病回春』

[組成]
  人参、白朮、茯苓、甘草、山薬、蓮肉、陳皮、沢瀉、山ざ子、大棗、生姜
[方意]
  基本的には、前記参苓白朮散とほぼ同様ですが、
  消導薬である山ざ子の配合がやや特徴的。

*山ざ子
 (1)肉類や脂肪の多い食物による消化不良に用いる(消導薬)
 (2)大腸炎や赤痢などの下痢に用いる。
 (3)血管拡張・降圧作用があり、瘀血の疼痛に使用する。
 (4)止血作用・・・・・山ざ子炭
 
  注意:胃潰瘍や胃酸過多には使用しないほうがよい。


帰脾湯

[組成]
  黄耆、人参、白朮、茯苓、甘草、大棗、生姜、木香、酸棗仁、竜眼肉(当帰)(遠志)
[方意]
  大四君子湯に木香、酸棗仁、竜眼肉を加えたもの。
            (『明医雑著』では、さらに当帰と遠志を加えている)

  大四君子湯に木香を加えると、
  木香には陳皮と同様に健胃作用があるので、大四君子湯加異功散の方意となる。
  
  酸棗仁と竜眼肉については、いずれも茯苓とともに鎮静作用がある。
  
  したがって、本方は精神的ストレスにより、
  食欲不振、体力・気力の低下をきたしたものに用いる方剤。
[応用]
  1.食欲不振、倦怠
  2.精神的ストレス、不安、緊張。
  3.不眠、心悸亢進、驚きやすい者。
  4.慢性で長期の出血・・・・性器、痔、尿路
  5.再生不良性貧血 溶血性貧血、バンチ氏病、白血病
  6.老人ぼけ・・・・木香、当帰の配合による(さらに丁香を加えるとよい)
  
   *精神的ストレスでも、イライラしたり、腹が立ったり、熱が出るような場合は、
   柴胡、山梔子を加えて用いる(加味帰脾湯)。


補中益気湯  ← クリック


玉屏風散 『世医得効方』

[組成]
  黄耆、白朮、防風
[方意]
  補気薬で固表止汗作用のある黄耆、白朮に、
  キョ風湿の作用のある防風を配合したもので、
  表虚自汗の者がすぐに風邪を引いて、
  くしゃみ、鼻水などを来たすような場合の方剤。
[応用]
  表虚自汗のものの感冒のほかに、表虚自汗の者の小児喘息、気管支喘息、
  アレルギー性鼻炎などに対して、桂枝湯と合方して用いる。



補気薬

人参
1.元気を補う(大補元気)。
   どんな病気でも、元気が弱り、気力のないときには必ず用いる。
   ・大出血時・・・・・独参湯
   ・大発汗時、大吐瀉後の虚脱・・・・・附子を配合
2.同化作用をよくする(補脾益気)。
   胃腸の働きをよくし、消化吸収がよくなる。
3.息切れ、自汗を治す(補肺)。
   少し動くと息切れがして苦しく、動けなくなる。よく自汗が出る。このような場合に
   黄耆と併用する。
4.体内の水分を保ち、口渇を防ぐ(生津止渇)。
   体内に水分が少なくなり、口が渇く時に用いる。
   ・夏季に大発汗し、水分の補給ができず、脈が細く触れにくくなる時。
    麦門冬、五味子と併用(生脈散)
5.精神の安定を謀る。
   体が衰弱し、過労を重ね、年老いて、食欲もなくなり、疲れるとかえって眠れず、
   常に不安となり、心悸亢進して、脱力感のある時に有効で、遠志、酸棗仁などを併用。


黄耆
1.元気をよくし、筋肉を強くする(補気升陽)。
  ・気力、体力が弱って、疲れやすく、体がだるく手足に力が入らない時。
   人参、白朮などの健脾益気の薬物を配合。
  ・筋肉の緊張が弛緩し、内臓下垂、アトニー、ヘルニア、脱肛、子宮脱などに対して。
   柴胡、升麻を加える。
2.自汗を止める。
   疲れやすい人で、疲れたり、食後や少し動いた時に発汗の多い場合に用いる。
   桂枝と併用すると、よく皮膚の汗、水腫、知覚異常などを治す。
3.浮腫を除く(利水退腫)。
   四肢、顔面などの浮腫に用い、利水作用がある。白朮、茯苓、防巳などを配合する。
4.知覚麻痺、運動麻痺などを治す。
   皮膚のしびれ感、知覚鈍麻や脳出血後の運動麻痺に用いる。
   当帰、川弓、桂枝や桃仁、紅花などを配合する。
5.皮膚の化膿症に用いる(内托の効)。
   炎症症状が少なく、化膿しても潰れず、また潰れて後が治りにくい場合の、
   皮膚の化膿症(癰、瘡)に応用する。


白朮
1.胃腸の働きをよくする。
  ・食欲を増進し、消化をよくし、健胃薬となる。人参、甘草を配合(補脾)
  ・腹が冷えて痛む時の止痛。乾姜などを併用。
  ・嘔吐、下痢
2、水湿を除く。
  浮腫や胃内停水、腸内の過剰水分を除く。
  ・寒飲(消化管に水分の多い者が、冷えて下痢をすること)
   茯苓、桂枝、乾姜、附子、人参などを併用。
3.自汗を止める。
   黄耆、浮小麦などと併用(表固止汗)
4.安胎の効がある。
   妊娠中の水腫、流産の予防によい。


山薬
1.消化器の働きをよくし、下痢を止め、体を元気にする。
   胃腸が弱く、食欲がなく、食べすぎるとすぐ下痢をしたり、常に慢性の下痢をしており、
   体がだるく元気のない者に、人参、白朮、茯苓、扁豆などと配合。(補脾止瀉)
2.咳嗽や呼吸困難に用いる。
   ・肺虚の咳嗽・・・少し動くと息切れがして苦しく、息を継がないと一気に話せず、
    よく自汗が出る者の咳嗽(益肺気)
   ・粘痰の咳・・・沙参、麦門冬などを配合(養肺陰)
3.消渇に用いる。
   口の渇きが甚だしく、いくら水を飲んでも渇きの止まらない者に用いる。
   ・主に発汗による場合・・・黄耆、五味子、天花粉に配合。
   ・熱(虚熱)による場合・・・麦門冬、生地黄に配合。
4.遺精、小便頻数に用いる(益腎固精)。
   ・遺精、夢精・・・熟地黄、山茱萸、竜骨などと併用(例:六味地黄湯)
   ・小便頻数・・・益智などと併用。
   ・帯下・・・竜骨、牡蠣、茜草と併用。


甘草
1.胃腸の働きをよくし、体の元気を益す(炙甘草)
   食欲が少なく、下痢をしやすく、元気の出ない者に、
   人参、白朮、茯苓などと配合して用いる(益気補脾)
2.心悸亢進を鎮める。
   発汗過多などで体内の水分が欠乏して、また内熱により、心悸亢進する時、
   体の水分を保ち、急迫症状をゆるめる。
   桂枝、生地黄、阿膠、麦門冬、人参などと配合する(炙甘草湯)
3.筋肉の痙攣や疼痛を止める。
   主に芍薬と合し、芍薬甘草湯として用いる(緩急止痛)
4.咽喉の腫痛、瘡瘍の腫脹などに用いる(生甘草)
   ・熱を下し、化膿を抑える(瀉火解毒)・・・金銀花、連翹、蒲公英などを配合。
   ・咽の痛みや腫脹・・・桔梗、薄荷、牛蒡子を配合。
5.咳嗽、喘息に用いる。
   鎮咳やキョ痰の薬物と配合して用いる。
6.口舌の瘡や炎症、小便不利、排尿時の痛みに生地黄、淡竹葉、木通を配して用いる。
7.解毒に用いる。
   附子の中毒、大黄の腹痛、アルコールの肝障害を防ぐ。
8.体内に水分を保つ。
9.緩和、矯味に用いる。
   非常に多くの方剤中に配合して、緩和と矯味薬として用いられる。


大棗
1.胃腸の働きをよくする。
   胃腸が虚弱で気力が少なく、体がだるい者などに用いる。
   津液の不足を補い、人参、白朮などと配合する。
2.鎮静作用がある。
   小麦、甘草と併用し、甘麦大棗湯としてヒステリーに用いる(養心安神)
3.緩和、矯味に用いる。
   甘草に似て、上記の目的でよく用いられる。
   甘草とは配合禁忌である大戟、芫花、甘逐などの峻下作用をゆるめるのにも用いる。
   また、半夏の副作用を抑える。


茯苓
1.消化機能をよくする。
   消化器の働きが衰え、食物を消化することができず、下痢をしたり、
   胃がつかえて苦しい時に、人参、陳皮、白朮などと併用する(健脾補中、健脾止瀉)
2.利水作用がある。
   本来は滲湿利水薬に分類されており、尿量が少なく、水分が体内や消化管内に滞り、
   浮腫、腹水、胃内停水、嘔吐、下痢の時に、
   猪苓、沢瀉、白朮などを配合して用いる(例:五苓散)。
3.めまい、心悸亢進に用いる。
   胃内停水などの停飲があるため、めまいや心悸亢進があるとき、
   白朮、桂枝、甘草、大棗などと併用する。
4.鎮静作用がある(茯神)。
   不眠、心悸、不安に遠志、竜骨、石菖蒲、沈香などと併用する。

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四物湯の展開

四物湯の展開

「気虚」の基本方剤が四君子湯なら、「血虚」の基本方剤は四物湯です。
現代、漢方の書では「気」と「血」の関係を次のようにすっきりと記述され、理解しやすい。

「血」は物であり物質的基礎を意味し、「気」は「機能」であり、働きを意味する。
健康とは気血の調和のとれた状態であること、と。

しかし現実には、気と血は対比ではなく、また気虚と血虚に境目もなく、
お互いに移行し合い、ときに一緒になって症状が出てくることもある。
だから血虚をひとことで表現するのはむずかしい。

なるほど「気虚」に四君子湯類を使うと正確に効果を得ることができる。
ところが「血虚」に四物湯類を使っても必ずしも有効とは限らない。

「血」という概念、「血虚」ということ自体がわかりにくいことも一因です。
「血虚」の意味あいは歴史を見つめても変化している。

現在の中医学では「血」を現代医学の「血液」として解釈しようとする傾向がある。
しかし実践でこの解釈にとらわれると不都合も生じるし、応用もきかなくなってしまう。

たとえば、大出血や急性の貧血だけでなく慢性の貧血でも、
貧血を「血虚」と判断して四物湯を用いると病人は弱まってしまうことが多い。

貧血の人は、もともと元気がなく消化吸収能も低く、
浮腫(低タンパク血症性浮腫)があったりする。 貧血の人の多くは「気虚」です。

ここに四物湯や西洋医学での鉄剤を服用すると、
胃が悪くなったり食欲が低下して弱ってしまうことが多い。

貧血は現象としては物の不足だけれども、
物の不足に至る以前のもともとの状態が気虚の状態なのです。

血虚がみられるときにも気血両虚(十全大補湯など)というかたちになる。
だから貧血には気虚の方剤、四君子湯類が主になります。


血虚と貧血とは全く関係のないことが多く、
漢方でいう「血」と現代医学の「血液」とは同じではないのです。

四物湯はたいへん重要な基本処方の一つですが、
「血虚」についてかなり誤解が多いため
初学者が漢方を勉強し治療に活用するうえで理解されにくく
正確な効果も発揮できていないように思う。

血虚は血が足りないとか物質的基礎が足りないとかということよりも、
その内容はさまざまな病態を含み、脳下垂体をはじめ
卵巣、その他種々の内分泌系および自律神経系の失調を指している。

浅田宗伯は血虚についてや四物湯の用途について上手くたとえている。

血虚とは「戸や障子の開け閉めが軋んだとき」のような病態で
四物湯とは「戸や障子の上下の溝に油をひくようなもの」だと表現した。

具体的には、皮膚がガサガサしているとか、
筋肉が動かないとか運動麻痺とかもみんな血虚になります。

全身的な栄養障害というよりも
局所的な栄養障害といえるし、循環器障害とも考えられる。

四物湯は血虚の基本方剤ですが四物湯単独で使うことはなく、
合方、加減方として様々の病態に頻用される。

また四物湯を含んだ漢方処方は非常に多いけれども、
当帰・川弓・地黄・芍薬の四味すべてではなく、
中の二味、三味をとり入れて使っている処方が多い。

この場合もその処方に四物湯の方意があると考えるほうがよい。

ここでは「四物湯の展開」として、まず基本処方としての四物湯を見つめ、
次に構成生薬である当帰・川弓・地黄・芍薬について探っていきたい。



四物湯の大略

血虚の主方(自律神経系、内分泌系の失調による諸症)、
ことに婦人の自律神経系、内分泌系の異常による月経異常、無月経(閉経)、
生理痛、月経過多、および妊娠中の出血、機能的性器出血、切迫流産などに用いる。
そして次のような病態にも頻用する。


皮膚の異常

皮膚の老化や萎縮、 皮脂腺、汗腺も萎縮して分泌が悪く、
乾燥し、鱗屑、亀裂を生じかゆみを訴える。

皮膚はカサカサし毛髪は乾固し、色つやは悪く、爪はもろくなる。
このような皮膚の病態に四物湯を用いると良い。

また潰瘍や骨折で肉芽の増殖が悪く、治りにくい場合でも
四物湯によって治癒が促進される。褥瘡などに配合して応用する。

四肢の運動麻痺、知覚麻痺、筋肉萎縮や変形、腰痛などの疼痛
これらは脳血管障害による片麻痺、脊髄カリエス、小児麻痺などによるものも含む。

また眼の視力障害、聴覚の異常にも用いられる。


栄養障害、脱水

これには2つのパターンがあります。

1つは、新陳代謝の亢進により、いくら食べても太れない。
「気」とは機能であり、「血」とは物だとされる。気が亢進しすぎると物が不足する。

同化作用よりも異化作用が亢進している状態です。
亢進した異化作用を抑えるか、同化作用を四物湯によって強化するかを考えます。

もう1つは、慢性の疾患で、長い経過のため栄養が衰え、皮膚はカサカサで
筋肉は痩せ、骨も痩せて粗鬆となり、身体全体が脱水し、痩せて枯れたようになる。

また腸内も乾燥するため大便もコロコロになる。

これは機能低下すなわち気の不足による。または気血ともの不足による栄養障害です。
気の不足のため肉体すなわち血が不足する。

不足した気を補うか、気と血を同時に補うかを考えます。



また、これらの血虚によって物質代謝が亢進して体温が上昇したり、
身体が熱くほてるなどの熱症状を「血虚の発熱」といい、
熱症状の甚だしい病態を「陰虚」という。


出血について 〜止血作用〜

四物湯のルーツをたどると、「金匱要略」に記されている芎帰膠艾湯があります
芎帰膠艾湯から甘草・艾葉・阿膠を除くと四物湯(当帰・川芎・芍薬・地黄)になります。

芎帰膠艾湯は、金匱要略では婦人妊娠病門にあり、次のような性器出血を適応としている。

  @一般に婦人の性器出血に用いる
  A流産や早産のあと、性器出血の止まらない者に、
  B妊娠中の性器出血、とくに切迫流産の危険があるときに

   Bは本方の最も適応する症です。
   @とAは本方が良い場合もあり、
   駆血剤、または気虚の四君子湯類が適応する場合もある。

ここで面白いのは、四物湯がAにもBにも効果があるということです。

AとBは西洋医学的に見ると反対の病態で、矛盾していて理解されにくいと思います。

切迫流産のときは子宮を収縮させると悪いのとは反対に
産後の出血には子宮を収縮させると止血されやすい。

四物湯は子宮に対して調整作用をもつとしかいいようがなく
西洋医薬のように一方通行ではなく、たるんでいる時は縮めて縮んでいるときは緩める。

こんな漢方薬ならではの身体に優しく、使いやすい作用があります。

本方の地黄・芍薬・阿膠・艾葉は止血剤であり、
本方を婦人科的出血に用いるのは当帰・川を配合しているからです。

阿膠・艾葉のない四物湯でも止血作用があり、出血の強いとき芎帰膠艾湯を使う。

また阿膠で止血作用の強いのは褐色の汚いのが良くて、きれいなゼラチンは作用が弱い。
したがってゼラチンの入った芎帰膠艾湯のエキスなどは、四物湯とその効果に大差はない。

四物湯は外傷性の出血や吐血、喀血、鼻血、血尿、
胃・十二指腸潰瘍の出血、痔出血などにも効果がある。

ただ同じ出血でも、
酒飲みの赤ら顔の者、炎症や動脈性の出血には、瀉心湯や黄連解毒湯が良く、
慢性化した場合は黄連解毒湯に四物湯を合方した温清飲が良効であったりする。

また駆血剤が有効であったり、気虚の四君子湯で始めて止血することもある。


婦人科・産科に、そして

四物湯が初めて記載されたのは和剤局方(1151年)です。

性器出血に芎帰膠艾湯を用いているうちに
月経異常などに対しても月経調整作用が確認されたのだと思う。

そして止血の阿膠・艾葉を除き、四物湯として月経異常だけでなく、
内分泌・自律神経系の失調にも効果のあることがわかり広く応用してきた。

四物湯は始め止血剤であり、時代を経て産科・婦人科の聖薬となり、
次に男女を問わず内分泌系・自律神経系の異常に有効なため利用されるようになった。



当帰の薬能

1.血行をよくし、主として下半身及び四肢末端に作用し、
  腹部や四肢,頭部を温める(温経散寒)・・・・活血作用
 
   <代表処方>当帰四逆湯   当帰+桂枝・細辛など

2.月経異常に用いる(補血調経)
  子宮筋の痙攣や収縮を弛緩させる。 また血流をよくして子宮の発育を促す。
   
   <代表処方>四物湯   当帰+川・白芍・地黄
            生理不順、月経痛、閉経等を治す。

    血行を良くする作用も子宮に対する作用も複雑で、
    局所作用だけでなく、上位の神経などに作用し、
    自律神経や内分泌系を介して作用することもある、と考えられる。

3、疼痛を軽減する。例えば子宮筋あるいは小動脈の痙攣を緩和するので、
  月経痛あるいは閉塞性血栓血管炎、糖尿病性壊疽などの疼痛にも適用。
  
  また打撲や産後の血による疼痛を治す(散止痛)
  打撲によりうっ血や内出血、紫斑をつくり腫脹、疼痛あるとき、
 
   <代表処方>通導散   当帰+紅花・蘇木・大黄など 

4、大便を軟らかくする(潤腸通便) 腸管内に水を貯留。
  当帰は油を多く含むため、腸管内に水分を溜めて大便を軟らかくする。
 
   <代表処方>潤腸湯   当帰+桃仁・杏仁・麻子仁・大黄など。

    また、体内の水分不足により筋肉が痙攣するときには
    当帰が体内で水分を保ち痙攣を止める。

5、化膿性炎症、潰瘍の治療に用いる(排膿消よう) 排膿・肉芽増殖促進効果
  炎症による血流の鬱滞を除き、腫脹を除き、排膿を助ける。
  肉芽の増殖を盛んにして、潰瘍の治癒を促進する。
 
   <代表処方>千金内托散   当帰+黄耆・人参・肉桂など
                痔ろうなど慢性化膿症にも適用。



川芎の薬能

1.血管を拡張して血行をよくし痛みを止める(きょ風止痛)
  
  1)脳や頭部の血流をよくし、頭痛を止める。
    脳貧血や血管痙攣による頭痛によい。
   
   <代表処方>川茶調散   川+細辛・キョウ活・防風・ビャクシなど
             感冒やインフルエンザなど感染症に伴う頭痛に用いられる。 

  2)四肢の血行をよくし、血行障害による四肢のしびれ、麻痺、疼痛に用いる。
   
   <代表処方>疎経活血湯   川+防風・防巳・威霊仙、キョウ活、蒼朮など 

  3)冠血管拡張

   <代表処方>冠心U号方   川+丹参・赤芍など
                 狭心症の胸痛 

2.血による月経障害を治す(活血調経)
  1)無月経、稀発月経に用いる(月経過多や出血の多いものには注意)
   
   <代表処方>四物湯   川+当帰・芍薬・地黄 

  2)難産、後産、産後の出血等に用いる(産後の子宮の収縮をよくする)
   
   <代表処方>芎帰調血飲   川+当帰・赤芍・桃仁・紅花・牡丹皮など 

3.精神的ストレスによる胸脇部の痛みに用いる(行気解欝)
   
   <代表処方>疎肝湯   川+柴胡・白芍・枳殻・紅花・桃仁など 
 
4.排膿効果→膿の形成と軟化を促進。化膿症、潰瘍の治療を促進する
   
   <代表処方>千金内托散   川+当帰・桂枝・黄耆・ビャクシなど



芍薬の薬能

1、筋肉の痙攣を止める・鎮痛効果(舒筋止痛)
  主として平滑筋の痙攣を止めるが、骨格筋の痙攣にも有効。
  
1)消化管、胆道、尿路、子宮等の痙攣性疼痛(腹痛)に用いる。
  
   <代表処方>芍薬甘草湯  芍薬+甘草

  2)月経時、妊娠時の腹痛に用いる。
  
   <代表処方>当帰芍薬散  芍薬+当帰・白朮など 
  
  3)中空臓器の痙攣性疼痛や痙攣性便秘に甘草を併用。

 冷えによる腹痛には乾生姜、炮附子などと配合。
  
 殊に腓腹筋の痙れん、胸腹部の疼痛に甘草を併用。
  
 冷えが認められるときには、桂皮、当帰、炮附子などと配合。

2.収斂作用
  
  1)止汗作用
   過度の発汗を抑制する。 
   発熱性疾患の発汗過多を抑える目的で配合する。
  
   <代表処方>桂枝湯  芍薬+桂枝など 
  
  2)止血作用(斂陰止血)
    血管を収縮して止血する。鼻出血、喀血、下血、性器出血などに適用。
   
   <代表処方>帰膠艾湯   芍薬+地黄・阿膠・艾葉など

  3)また桂皮、川、当帰などの服用による
    血管拡張、出血傾向、頭痛、のぼせ、動揺感、回転性めまいなどを抑制
    胃液分泌を抑制するので胃酸過多症にも適用。

3.向精神作用(柔肝止痛)
  気分がイライラしてよく腹を立て、気を使って起きる脇痛、腹痛を治す。
   自律神経の興奮に対して用いる。
 
   <代表処方>四逆散  芍薬+柴胡・枳実など 

4.月経不順、不正性器出血を治す(養血調経)
  白芍は補血、鎮痛の作用があり、血虚による月経不順、不正性器出血に
  月経痛、下腹部痛等を伴うものを治す。
   
   <代表処方>四物湯  芍薬+当帰・地黄・川

5.うっ血除去効果
  打撲によるうっ血、皮下溢血、硬結、疼痛、感覚消失などに適用。



地黄の薬能

 生地黄(乾地黄と鮮地黄)と熟地黄とに分けて考えます。
 同じ植物ですが、加工(修治)法によりその作用に差が出て、使用法が異なる。
 
 生地黄は、解熱消炎(清熱涼血薬)、
 熟地黄は、滋養強壮(補血)に分類される。
 

熟地黄の薬能

熟地黄は、地黄の根を乾燥し、酒につけて蒸してつくる。
この様に加工すると、生地黄にある消炎解熱作用や止血作用はなくなる。

1.体内の水分量を保持、潤し脱水を防ぎ、口渇を除く  (生津止渇)潤燥効果
  
  1)体内の水分を保ち、麦門冬や天門冬のように脱水を防ぐ。
    
    熟地黄+山薬・五味子
  
  2)腸燥便秘に用いる(潤腸通便) 緩下効果
    腸管内水分量を保持し、糞便を軟らかくする
   
   <代表処方>潤腸湯   熟地黄+当帰・桃仁・杏仁・麻子仁など

2.栄養を補い老化を防ぐ(滋腎育陰)  栄養障害改善効果
  老化現象で痩せた筋肉を太らせ、骨、足腰を丈夫にし、
  老化萎縮した皮膚を回復させる。
  
  また神経の反射機能をよくし、膀胱の機能をよくする。
  小児の発育不全、老化の防止に用いる。
   
   <代表処方>六味丸   熟地黄+山茱萸・山薬など

3.強心作用   吸気性呼吸困難に適用
  地黄には弱いが強心作用があり、肺水腫、うっ血性心不全(主に左室不全)に用いる。
  
   <代表処方>八味丸   熟地黄+沢瀉・茯苓・桂枝・附子など 

4.自律神経、内分泌の調整に働く(補血調経)
  下垂体−卵巣系のホルモンの失調による月経不順や不正性器出血を治す。
  月経異常、糖尿病、バセドウ病、などにも適用。
   
   <代表処方>四物湯  熟地黄+当帰・川・白芍

5.胃障害をひき起こすことがあり、これを防止するためには、黄柏又は呉茱萸を併用。


生地黄の薬能

1.消炎解熱作用(滋陰降火)
  解熱作用があり、熱性疾患に用いる。一般に熱病の初期には用いない。
  
  熱病で身体の水分が欠乏して脱水状態(口渇など)が認められるときに用いる。
  解熱作用は熱中枢に作用するのではなく、細胞の物質代謝または熱生産を抑制して
  発汗を伴わないで解熱させると考えている。
  
  新陳代謝の亢進を抑制するためバセドー氏病のような甲状腺機能亢進を抑える。
  
    <代表処方>知柏地黄丸  生地黄+知母・黄柏など 
  
                また扁桃炎、咽頭炎にも適用。

2.消炎止血作用(涼血止血)  炎症性、充血性出血に適用。
  血熱による出血に用いる。

  吐血、鼻血、性器出血、崩漏下血、斑疹紫黒等において、
  血管透過性を抑制し凝固作用促進することにより止血する。
  
   <代表処方> 犀角地黄湯、 四物湯   生地黄+牡丹皮・赤芍など
  
3.1)脱水による口渇を治す(生津止渇)
    熱性疾患で脱水して口渇するものを治す。
  
   <代表処方>増液湯   生地黄+玄参・麦門冬など 
  
  2)緩下作用(潤腸通便)
    腸管内水分量を保持し、便を軟らかくする。

4.流産防止効果
  下腹部痛を寛解し、切迫流産に用いると流産防止の作用がある。
  性器出血を止める。

5.強心利尿作用
  吸気性呼吸困難にも適用。

    <代表処方>八味丸  生地黄+桂枝・附子など 
                  
6.自律神経系・内分泌系機能の調整効果
  月経異常、不正子宮出血、糖尿病、バセドウ病などにも適用。

7.胃障害をひき起こすことがあり、これを防止するためには黄柏又は呉茱萸を併用。

                                 
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四苓散の展開

四苓散の展開 @

昔は消化管に数多くの門があるといわれた。
その中で現在でも使用されている門は肛門、幽門と噴門の三つです。

使われなくなった門の一つに闌門があり、回盲部のあたりにあったと考えられる。

古人はこの闌門を通して濁水は膀胱に、糟糖は大腸に送られると考えていた。
そしてこの作用を小腸“泌別の作用”といったのです。
 
下痢というのは、この作用の機能障碍であって、
膀胱へゆくべき濁水が大腸に流れこむためであると考えた。 臨床的仮説ですね。
 
したがって、下痢の治療には、大腸に流れて行く水を膀胱に送ればよい。
そこで茯苓、白朮、蒼朮、猪苓、沢瀉、滑石などの利水薬を用いた。
 
茯苓、白朮、猪苓、沢瀉の四苓散は、腸内の水を抜く基本処方です。



五苓散と猪苓湯
 
五苓散も猪苓湯も四苓散の展開と考えられないことはない。
茯苓、猪苓、沢瀉が共通で、朮と桂枝か、滑石と阿膠かの違いになる。

この場合両者に共通する症状は……、
 @下痢
 A煩渇…口渇が甚だしく水を飲む。それでもなお口が渇いて水を欲しがる。
 B小便不利
 A、Bは(血中の及び体内の)脱水のためであり
 @の下痢はその原因です。 そして消化管内には水分が多い。

消化管内は体の外ととらえ
下痢のため体内・血中の水分が失われて、脱水症をおこしているとした。
 
五苓散の朮と桂枝か、猪苓湯の滑石・阿膠かは、炎症のちがいによる。
 
五苓散の場合は、体温の上昇があるときも悪寒を伴い、脉は浮いて、
口唇や口の中は渇いていても、舌色は正常で舌苔は白苔です。

すなわち、初期の炎症でも悪寒があるため、
風寒の状態で、まだ表の時期であり桂枝や朮を用いる。

五苓散で発汗して熱が下がる。尿量が増加し、水を与えなくても脱水が治る。
これは消化管の水が五苓散で吸収されるからなのでしょう。
 

猪苓湯は炎症の熱が深く、表でなく裏にはいった時期で、
五苓散が太陽病の時期なら、猪苓湯は陽明病の時期です。

悪寒はなくむしろ悪熱する。 同じ利尿作用がある薬物でも、
滑石のように熱を抑え消炎解熱作用のある薬物を加える。
 
阿膠は体内の脱水を防ぐために加えるもので、
黄連阿膠湯の阿膠と同じように、脱水と解毒による不眠、煩躁に加えたものです。
 
臨床的な鑑別は、

@悪寒(微熱)があれば、五苓散。
A悪寒し、発汗があれば、猪苓湯。
B舌色が絳で、苔が黄なら猪苓湯。
C尿色が希薄であれば五苓散、尿色が濃ければ猪苓湯です。

[注意]
・これは熱病の下痢の場合です。
・口渇も尿不利も体内の脱水を示す症状で、五苓散、猪苓湯の両方ともにある。
・煩躁・不眠は猪苓湯が強いが、五苓散にも煩躁はある。
・舌証になれることも大切です。


それぞれの薬味の作用は次のようになります。

茯苓
 古来、浮腫、水腫、下痢、嘔吐、腹水等に用いられ、
 「水湿」や「痰飲」の薬として用いられた。
 動物実験で利尿作用がある。 木通、猪苓より作用が弱い。

 Nа、K、Clなどの排出も増加する。尿細管の再吸収を抑制する……と記載がある。

 しかし、実際に茯苓や朮が、浮腫、水腫、下痢、腹水に対して利水作用があっても
 健康な人間に利尿作用があるとは限らない。

 動物実験では、先ず浮腫の動物をつくらねばならないではなかろうか。


 茯苓と同じように、また茯苓と配合して
 消化管の水、関節内の水や筋肉内の浮腫の水分を 血中に吸収する作用。

沢瀉 猪苓
 沢瀉や猪苓は茯苓や朮に比較すると利尿作用が強い、と考えている。

桂枝
 腎血管や末梢血管を拡張させて利尿作用を助け、浮腫の水分を吸収する。
 また、発汗作用があり、悪寒発熱時に五苓散を用いると多量の発汗をみることがある。
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四苓散の展開 A



苓姜朮甘湯

[組成]
  茯苓、乾姜、朮、甘草。

[解説]
  本方は腎著の方剤です。

1 腎著の病は飲食に異常がない。即ち消化管に病気がない。(中焦脾胃の異常がない)。

2 腎著の病は小便自利していて、 腎臓の機能に障碍がない。
  尿量はむしろ多く、しかも口渇がない。従って糖尿病のような消渇ではない。
  寒冷のため発汗が少なく、それで尿量が増加している。

3 身体が重い、腰重きこと五千銭を帯びるようで体が重い。ことに腰が重い。
  
  立居振舞が鈍く、 動作が機敏にいかない。
  坐るとき、立つとき「やっこらしょ」と掛け声をかけるようになる。
  
  「脚や腕に鉛が入っているようだ」「腰に石をくくりつけているようだ」などと表現する。
  これは筋肉内の浮腫を意味する。
  リウマチの朝のこわばり現象と同じようなもの。

4 「形水状の如し」これは水肥りで腫れているようなもの。
  皮下の浮腫を含むものもある。

5 「水中に坐する如く、腰中冷」 ことに下半身が冷えることをさす。
  身体に浮腫、筋肉内の水滞があるため、外部環境から寒冷の作用を受けて冷える。

 浮腫があればそのために血行障碍もそれに加わって冷えの症状がさらに強くなる。
 茯苓と朮でこの浮腫を除き、乾姜で温めるという方剤です。

 杏仁を加えて腎著湯という。 杏仁にも鎮咳作用のほかに浮腫を除く作用がある。



苓桂朮甘湯

[組成]
  茯苓、桂枝、朮、甘草。

[解説]
  本方は茯苓と朮で浮腫を除く。
  桂枝という血行をよくする薬物を加えると、浮腫を除く力が強くなる。
  
  また、胃腸の血行もよくするため利尿作用も増強される。
  次のようなときに応用される。

     (1) 潜在性の浮腫に対して

     (2) めまいに対して

     (3) 心悸亢進に対して
 
 

連珠飲

[組成]
  当帰、川きゅう、芍薬、茯苓、朮、桂枝、甘草。

[解説]
  本方は四物湯と苓桂朮甘湯を合方した処方です。
  苓桂朮甘湯も四物湯もともに応用範囲が広いため、本方の応用は非常に広い。

 四物湯は三段の変化をとげている。
 最初はきゅう帰膠艾湯として婦人性器出血に用いたのは《金匱要略》の時代。
 
 そのうちに、婦人の生理異常など女性の自律神経内分泌系異常の治療方剤として
 有効なことが分かり、
 出血の多量時以外は艾葉を除いた四物湯を婦人の聖薬として
 用いるようになったのが《和剤局方》の時代。

 その後婦人ばかりでなく男子も含めて、
 すべて血虚に対する補血の方剤として用いられるようになった。
 
 血虚は貧血ではなく、四物湯は増血剤ではない。
 これをまちがえると全く使用法を誤ることになる。
 
 血虚はむしろ自律神経・内分泌系の失調の状態です。

@出血に対する方剤として
  本方は竹中南峰の茵荊湯と似た方意をもっている。
  
  四物湯を止血剤として、例えば胃潰瘍の出血に柴胡四物湯を用いるのは有名で
  即ち茵荊湯の蒲黄、荊芥の代わりに四物湯を用いて止血をする。

 苓桂朮甘湯は出血による眩暈、心悸亢進、浮腫に用いる。

A婦人血の道症の方剤として
  四物湯も苓桂朮甘湯もともに
  婦人の内分泌・自律神経系の異常による生理不順や生理異常をはじめ、
  更年期障害、不定愁訴に用いられ、婦人の百病に応用する。



沢瀉湯《金匱要略》

[組成]
  沢瀉、朮。

[解説]
  胃内に停水が多く、そのために頭に物を冒されているような感がして眩暈がする。
  (暗室にいるような、また舟に乗っているような、雲の上を歩くようなめまい)
  そして尿量が少ない。
  このような場合に用いて水を尿に取り、めまいを治す基本的方剤です。



茯苓沢瀉湯《金匱要略》

[組成]
  茯苓、桂枝、朮、甘草、沢瀉、生姜。

[解説]
  これは「食べたものを嘔吐し、口が渇いて水を飲みたがる者」
  に用いるように指示されている。
  “胃反”は、胃炎、胃拡張などの胃疾患による嘔吐であって、
  食べたものを嘔吐する。
  胃反の嘔吐で悪心が強く、ゲェゲェいうときには、半夏や生姜を主薬とした方剤、
  例えば大半夏湯、小半夏湯、生姜瀉心湯などを用いる。

  五苓散の“水逆の嘔吐”は、嘔気が少なく、渇して水を飲み、
  飲んだ水より多い量の水を噴出するように、投げ出すように吐出する。
  その吐物は食べた物より水が多い。 そして尿量は減少する。

本方は五苓散からすれば猪苓を除いて、生姜が入っている。

丁度五苓散の水逆の嘔吐と、胃反の嘔吐の中間の症であって、
口渇があり水を飲まんとし、小便不利の点は水逆に似ている。
そこで、五苓散から猪苓を除き、嘔気に対して生姜を加えている。

エキス剤なら、五苓散と小半夏加茯苓湯の合方でもよい。



五苓散 《傷寒論》《金匱要略》

[組成]
  茯苓、猪苓、白朮、沢瀉、桂枝。

[解説]
  出典は、《傷寒論》で、熱病の傷寒のための方剤として組まれたものと思われるが、
  その応用は必ずしも熱病に限らない。
  一種の利尿剤と考えれば、浮腫をはじめ種々の病に用いられる。
     (1)熱病の場合
     (2)雑病の場合



猪苓湯 《傷寒論》

[組成]
  猪苓、茯苓、沢瀉、滑石、阿膠。


真武湯 《傷寒論》

[組成]
  茯苓、白朮、附子、生姜、芍薬。

[解説]
  本方も、茯苓と白朮に附子を加えた利水の方剤で、五苓散の加減法です。



附子湯

[組成]
  茯苓、朮、附子、人参、芍薬。

[解説]
  本方は、真武湯の生姜の代りに人参が入り、薬味の量が多少の違う類方であり、
  嘔、下痢などの消化管の水の症状は指示はされず、
  四肢、骨節(関節)の水滞と冷えと疼痛に用いるように指示されている。

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生薬解説

一般的に記されている生薬の薬理作用については、
疑わしい作用が少なからずあるため、臨床の場で検証する必要性があります。

経口投与ではない実験による作用や、生体外または試験管内の実験に基づくものがあるし
実験に用いられた動物の種差の問題もあります。

比較的近縁の種と思われるマウスとラットとの間においてさえ
例えば大黄の主成分センノシドAの瀉下作用の機序自体が異なるのです。

動物に効いても人間に効くとは限らない。

また、例えば、黄連の成分はベルベリンと言われますが
黄連の鎮静作用はベルベリンではないように思えます。

ベルベリンは黄連でも黄柏でも同じですが脳の血液脳関門を通らない。
ベルベリンは腸から吸収されないらしいし、大黄と煎じると沈殿します。

この沈殿したものは、塩酸に入れても、人口胃液とか腸液ぐらいでは溶けない。
こうなると、黄連と大黄を含む三黄瀉心湯の鎮静作用はベルベリン以外の作用です。

漢方を科学するといってベルベリンを一生懸命定量しても
違うものを定量して、見当違いをやっているように思えます。

さらには、近年、論文量産や業績主義による弊害として
残念な事に、信頼性に欠けるものも見受けられます。 玉石混合ですね。

どの生薬にも、一つの生薬には多くの成分を含むため
一つの生薬から一つの成分を抽出して薬理作用を言うには無理があります。

ましてや、複数生薬の相互(特に相乗又は拮抗)作用に関しては
巨大コンピューターをフル稼働しても難しいそうです。



山本巌先生は、その著『東医雑録』の中で、
「個々の薬物の働きと、薬物を組み合わせるとどうなるか、倶に服んで結果を出そう。
“我こそは現代の神農たらん”と人生意気に感ずる志のある者は来れ。
漢方の先生は薬物と患者である」 と述べている。

山本巌先生は、毎日患者さんに単味の生薬や適合すると考えられるエキス剤を飲んでもらい、
5分、15分でその効果を判定して、生薬単味や処方の作用について確かめていかれた。
 
頭痛、肩こり、めまい、鼻水、咳、腹痛などの症状の患者に
5分、15分のテストで患者の自覚症状の改善率を効果判定し、
有効でない場合には、第二、第三の生薬単味や処方を飲ませて同じように判定された。
 
連日これらのことを繰り返し、データを膨大に蓄積、整理することにより
どのような病態に対して、生薬単味や、その組み合わせが有効かということを判定していった。

また、過去の漢方医の治験や処方の中から、どれが最も有効なのかを、実際に比較検討し、
さらになぜ有効なのかを、病態と処方との関係から説明できる理論を作り出していこうとされた。
 
また、異なる病気であっても、その病態が類似すると考えられる場合には、
共通の薬物を用いて、それが有効かどうかを判定するということを繰り返して、
各病態に対して最も有効だと考えられる方剤と、その加減方を決めていかれた。


やはり、一つの生薬、組み合わせることによる生薬の相互作用
そして、処方としての作用を一つ一つ臨床の場で検証し、積み重ねていく必要性があります。

ここでは、一つ一つの生薬の成分については記さないで
現時点で信憑性のある生薬の薬能について記していきたいと思います。

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阿膠

@止血効果→下血、血尿、性器出血などに。

    当帰、芍薬、地黄と併用   EX、キュウ帰膠艾湯
        阿膠で止血作用が強いのは、褐色の汚いのが良くて、
        きれいな精製されたゼラチンは無効だと考えている。
        従ってゼラチンの入ったキュウ帰膠艾湯(またはそのエキス剤)などは、
        四物湯とその効果は大して変わらないと考えられる。


A潤燥効果→体内水分量を保持し、脱水を防ぐ。

     EX、猪苓湯
        滑石などの強い利尿作用により体内の脱水をおこさないように
        配慮して阿膠を入れている


B鎮静効果→熱と脱水などによる不眠や胸内苦悶に。

     黄連、黄ごんと併用       EX、黄連阿膠湯

C他の配合生薬と一緒に煎出すると、
 容器に焦げ付くことがあるので、煎じた後に加えて溶かす。
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茵陳蒿

清熱、利湿、利胆作用

@利胆効果→黄疸、または胆石症。

              EX、茵陳蒿湯

A解熱・抗炎症・利水効果。

              EX、茵陳五苓散

   茵陳蒿は黄疸治療の要薬であるが、
   なくとも温熱の病態に使用することもある。
   解熱(清熱)には柴胡の作用に似て代用される。
   その差は茵陳蒿の方がマイルドです。

   陰虚の体質で体が燥いて実熱のあるときに柴胡を用い、
   湿潤性の体質のものの熱には茵陳蒿がよい。
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鬱金(宇金)

@温性。

A鬱血除去

  気血の鬱帯により起る胸痛、腹痛などに。
  また、生理痛や乳房が張る痛みに。

B利胆、利尿、鎮痛効果。

  腎結石による腎臓部の痛み、胆石による胸脇部の痛み。
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烏薬

@温性。

A鎮痙・鎮痛効果→寒冷刺激によって起るお腹が張っての痛み(特に臍部周辺痛)、
   月経時及びその前後の腹痛、下痢に伴う腹痛、筋肉のこりと痛みなどに。

   とくに寒冷による胃腸、胆道、尿管、膀胱などの中空臓器の平滑筋の痙攣性疼痛に。
                            EX、きゅう帰調血飲第一加減

B機能障害改善効果→頻尿などの膀胱機能異常など下半身の機能障害に。

   胃腸の蠕動を調え、腸のガスを排出。

C血流改善

   脳血流を改善、脳血管障害の後遺症に。

                            EX、烏薬順気散

   烏薬は膀胱の筋肉の収縮力や括約筋の収縮力をつよめ、
   また、異常緊張を除き、遺尿や頻尿を抑制する作用があると考えている。
   木香と似た作用があるけれど、
   大腸よりも膀胱の痙攣、緊張亢進による頻尿、残尿感などに配合される。

     ≪参考≫行気薬
     気滞を治し、気の巡(めぐ)りをよくすることを行気という。行気に用いる主な薬物は、
     香附子 木香 烏薬 そして陳皮 青皮 縮砂 枳実 厚朴などがある。

     香附子
       脾胃の気滞にもよく、嘔吐を止める。が、疎肝解鬱の作用があり、
       肝鬱の気滞によく、脇痛、月経痛にもよい。

     木香
       主に脾胃の気滞によく、心下部の痛み膨満と下痢の腹痛、裏急後重によい。

     烏薬
       下焦の行気に長じ、頻尿など膀胱の機能異常によく効く。
       下腹痛、寒疝などによい。

     陳皮 砂仁
       脾胃の気滞によい。

     青皮
       疎肝の作用があり、肝鬱によく、乳房痛、睾丸痛に用いられる。
       枳殻より緩和な作用がある。と同時に精神的ストレスによる機能異常に有効で、
       柴胡と併用して脇痛に配合される。イライラ、緊張のときにも配合する。
                                    このページのトップへ

延胡索

@温性。

A鎮痙・鎮痛

  冷えによる胃腸のれん縮性疼痛、出血を伴う排尿痛、月経痛などに。

                           EX、安中散、きゅう帰調血飲第一加減

Bうっ血・内出血除去

  脇痛、腰痛、関節痛、打撲痛などに。

鎮痛作用が非常に強く、鎮静、鎮痙作用もあり、体中どこの痛みにも有効。

さらに活血の働きがあり、血液の循環をよくし、
打撲等の出血(オ血)も除き、鬱血による疼痛、痙攣による疼痛を除く。
そのため月経の痛み、胃腸の痙攣による疼痛、などにも用いられる。

淋症の出血に用いると、オ血を除いて痙攣も止め、淋瀝や出血にもよい。
したがって腹痛、脇痛、生理痛、頭痛などや打撲の痛みや関節痛にも用いられる。

また、薬の性質が「温」であるため、冷えによる痛みによいが
「熱」の痛み、即ち炎症性の痛みに使用する場合には
抗炎症性の薬物を配合しなければならない。

                                    このページのトップへ

黄耆

@疲労に、生体防御能増強、筋緊張増強に

   気力や体力が衰えて疲れやすく、体がだるい、手足に力が入らないとき。

   制癌剤の服用、放射線の照射などによる免疫低下に。

   柴胡、升麻と配合して
   アトニー、内臓下垂症、脱肛・子宮脱のような臓器ヘルニアなどに。
     弛緩した筋肉の緊張を強くし、丈夫にする。
                  柴胡、升麻と併用 EX、補中益気湯

「肝臓の保護作用があり、肝のグリコーゲンの減少を防止する」と。
また、「黄耆には正常の心臓の収縮力を増強する作用があり、
疲労衰弱した心臓ではさらにその作用が顕著である」と中医学の書に記載されている


A利水作用


   抗利尿作用を示す人参の効果との重要な差異。
   防巳、茯苓、白朮などと配合して顔面、四肢などの浮腫を除去する。
      ことに発汗しやすい、弛緩した、しまりの悪い皮膚のものによい。
                  白朮、防巳と併用 EX、防已黄耆湯

利尿作用があり、実験的腎炎に対して之に拮抗する作用がある。
尿中の蛋白を減少させ、ラットの血清性腎炎の発生に対し、黄耆を大量に経口投与すると、
その発病を抑制し、尿蛋白の発生を抑える。
また已に蛋白尿のある場合は対照に比べて早く蛋白尿を止める。


B汗腺機能異常改善

   疲れやすくて疲れるとしばしば発汗する、わずかな動作で発汗する、
   食後しばしば発汗する、寝汗をかきやすいなどの発汗異常に。
      表の虚を強くする。 また皮膚近くの水を利す作用があるため
      皮膚皮下の浮腫、自汗、盗汗を止める作用がある。

                  防風、白朮と併用 EX、玉屏風散

C皮膚の知覚異常、運動麻痺などに

   当帰、川きゅう、桂皮、紅花、桃仁などと配合して、
   皮膚のしびれ感・知覚異常、脳出血後の運動麻痺などに。
     皮膚の血管を拡張し、血行を良くして皮膚の栄養を改善する。
                  桃仁、当帰、川きゅう、地竜と併用 EX、補陽還五湯      
D皮膚の化膿症に
    炎症症状が激しいときは用いない。
   炎症反応が弱い皮膚の化膿性病変で、化膿が不十分なとき、
   化膿しても膿栓が自壊して排膿しないとき、
   または排膿後、良性肉芽の増生が悪いときに。 治癒力が少ないときに用いる。
         人参、桂皮、当帰、川きゅうと併用 EX、千金内托散
  黄耆は昔から瘡家の要薬であり、一口に“排膿生肌”の作用があるといわれ、
  十分に化膿させ、自然に排膿させる作用と、
  排膿後の治癒を速やかにするという二つの作用がある。
  膿が自潰しないときに用いると膿がよく張って自然に排膿するようになる。
  次に、膿が出て潰瘍となったが、いつまでも治らないときに黄耆を用いると、
  肉芽が増生して癒えるのである。
  これを“生肌”作用という。これは補法に属する。


  この場合には黄耆を生で用い、炙らないのが原則である。
  炙して用いると、膿をやわらかくするよりは炎症を盛んにするからである。
  また化膿しない以前に用いると炎症を盛んにするからよくないといわれる。


≪人参と黄耆の差異≫
人参は補気の作用が強く、体内に水分を保つ生津と、鎮静作用の安神の効があり、
黄耆は補気(元気を補う)は人参に及ばないが、益気升陽と固表止汗、
内托(化膿を促し、瘡を治す)の能があり、最も大きい違いは利水退腫の作用である。

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黄ごん

@寒性。
     清熱涼血安胎の作用がある。

A消炎解熱作用

  発熱性疾患、炎症性の充血又は出血(下血、血尿など)などに。
     細動脈を収縮して炎症性充血を抑えるので止血作用もある。
                              EX、黄連解毒湯
  上気道炎、気管支炎、肺炎などの呼吸器の炎症による咳嗽に。
            桑白皮、杏仁、母貝と併用  EX、清肺湯 
  温熱の下痢に用いる。
      細菌性下痢、腸炎で腹痛、裏急後重、悪臭ある便などに。
                     芍薬と併用  EX、黄ごん湯

B降圧作用

C流産防止効果
  切迫流産で熱症のあるものに用いる。
  安胎の(抗流産)作用があり、妊娠中に用いられる様々な処方に組み入れられている。
  また加えられる。

                      白朮、当帰、芍薬と併用。
                                    このページのトップへ

黄柏

@寒性。

A消炎解熱作用

 陰虚発熱、 骨蒸潮熱を治す。
 足がほてり熱くて眠れない、腰や下肢がだるく痛む、口渇など。

                    知母と併用  EX、知柏地黄丸

B消炎作用

 1)腸炎、下痢、膿血便を治す。
  抗菌、消炎作用があり、下痢、腹痛、裏急後重に用いる。

                             EX、黄連解毒湯
 2)下肢の炎症に用いる。
  下肢の運動麻痺、腫脹、疼痛に用いる。

                             EX、三妙散
 3)化膿性炎症に用いる。
  皮膚の化膿性炎症を治す。
  湿熱による黄色の帯下に用いる。

C黄疸を治す
                             EX、茵ちん蒿湯
黄柏は湿熱を治す。利尿作用があり、局所の充血を軽減させる。
すなわち消炎の力があり、皮下出血の吸収を速やかにするなどの効果もある。
また、陰虚による発熱を下すため、知母と配合して使われる。
知母を併せると、慢性腎盂炎によく、六味丸に加えて用いる。
                                    このページのトップへ

黄連

@寒性。

A鎮静解熱作用
黄連には鎮静作用があって、瀉心湯、黄連阿膠湯は不眠、イライラ、ノイローゼなどに用いられる。
朱砂安神丸も朱砂のような安神薬(鎮静剤)と配合して、不眠、精神不安、心悸亢進などに用いられる。
その作用は頭蓋内の充血を除いて、脳の充血による精神不安を鎮静させると考えている人もある。
また大黄の瀉下作用と併せ、脳の充血を腹腔の方へおろすと考えている人もある。
このようなことは一応仮説として、いずれ証明しなければならないであろう。
黄連と桂枝を配合したものは交泰丸で、不眠や鎮静に用いる。(呉茱萸を配合した左金丸同様)苦いのである。
瀉心湯は苦くないが、黄連と桂枝の交泰丸や、黄連阿膠湯は苦い。
従って苦味の部分は鎮静には関係がないのではなかろうか。
黄連と甘草を煎じると苦味は少なくなるが、このときの沈澱は水で薄めると溶けるようで、
あまり強い結合ではなさそうだ。

 脳充血による精神不安を鎮静。
 怒りや興奮を鎮める
                         EX.黄連解毒湯
黄連は清熱瀉火の剤で、清心除煩(心の熱を清し、
胸中の煩すなわちもだえを除く)の働きがある。
心火亢盛して煩燥して眠られない者に用いる。
精神的興奮も鎮め、色々な精神的悩みやストレスを除いて眠られるようになる。
慢性で長期にわたる不眠には、黄連単味や、苦寒の薬ばかりでは効果がなく、
かえって桂皮を少し加えるとよく効く場合がある。
理由としては、
@桂皮には脳の血管に対して拡張させる作用があり、
黄連の作用を強くするのではなかろうか。
Aまた、左金丸も黄連に呉茱萸を少し加えている。
これは、黄連の寒が強すぎるのを抑えるためのものなのか。
B昔から諺に言う「甘いも、鹹いも塩の味」の如く、
砂糖単味よりも少量の塩を加えて方が甘みを強く感じるのに似たようなものか。
いずれともまだよく分からない。
いずれにしても、三黄瀉心湯、黄連解毒湯を用いるほど上部に充血や出血の
強くない場合には良いようである。


清熱薬の配合の方法    上記の各種の清熱薬をどのように配合するか。
発熱、炎症に対して清熱の薬物を用いて治療する場合、
高熱や炎症症状の強いときには、清熱瀉火の薬物を多量に使用する。
石膏にしても100gぐらい使用することもあり、充血と充血による腫脹の強いとき、
すなわち赤く腫れているときには、黄連を多く用いる。
黄連、黄ゴン、黄柏、山梔子などは、
清熱の作用と同時に体内の湿を燥かす、清熱燥湿の働きがある。
したがって湿熱のある場合にはよいが、体内に湿がなく、燥熱の場合にはよくない。
上述の熱性疾患では、
発熱のため、または発汗、嘔吐、下痢などがあれば、体内の水分が失われる。
気分病の時期に用いる白虎湯であっても、体内の水分が失われることを考え、
石膏、知母、と同時に粳米、甘草を加え、
白虎加人参湯では更に人参を加えて体内の脱水に対し、配慮している。
竹葉石膏湯も、熱病で、おおむね熱がとれた後、余熱があって脱水し、
皮膚もカサカサして潤いなく、胸が苦しく、口渇し、咳や嘔吐のある場合に用いる方剤である。
熱に竹葉、石膏を主に配し、嘔吐、咳嗽に半夏、脱水には人参、粳米、甘草に
さらに滋陰薬の麦門冬を加えている。
黄連、黄ゴン、竜胆、黄柏などは、炎症の浮腫を除き、湿熱を去るが、
体内の水分の不足するものにはよくない。
そこで同じく消炎の作用があって水分を貯える清熱涼血(や滋陰薬、補血薬など)の薬物を
組み合わせて拮抗させるのである。
出血のある場合は、止血作用もあるので、ちょうどよい。しかし、出血のない場合も、
また局所性の炎症では全身的な発熱がなくても、消炎の意味で清熱涼血薬を配合する。
したがって清熱涼血の薬は、温病の営分、血分の熱ばかりでなく、局所的炎症の場合にも
上記の理由から配合するのである。
たとえば、黄連と生地黄の配合は、中医学的に言うと”瀉火して陰を傷らず”で、
薬方では黄連解毒湯に四物湯を加える例に似ている。
化膿性炎症にはもちろん清熱解毒薬を配合する。


B消炎作用。止血効果
 細動脈を収縮して炎症性充血を抑えるので止血作用もある。。
出血、ことに体の上部における出血の止血には黄連がよく、
血腫の駆オ血には大黄が黄連より優れている。

炎症や動脈の充血を抑制し、出血を止める。
動脈の充血や、細動脈側の血管を収縮させて止血するのではないかと考えている。
その特徴は、動脈に充血があり、血管が拡張しているということがその眼目であろうと思う。

注意
内出血の場合、出血した血液が貯まっているのを除くときには大黄を加えるのがよい。
外出血の止血を望むときには、黄連、蒲黄炒を加えるのがよい。
治打撲一方には、桂皮・川キュウ・丁香・木香など脳に充血をおこさせる薬物が多いため、
脳内出血、頭部挫傷の時、受傷直後は注意を要すと考えている。
黄連・大黄を多く加入して、川キュウ・桂皮・丁香などは控えるべきである。


 1)身体上部の炎症に
   目、舌、口内、歯肉や頭部の炎症に。

 2)皮膚の炎症に
   日光皮膚炎、化膿性炎症などに。

 3)黄疸を伴う炎症に
   肝炎、胆のう炎に。
中国では、広範な抗菌作用、また抗原虫作用、抗ウイルス作用や抗真菌作用もあると記載されている。
細菌性の下痢、腸炎、口内炎、化膿性炎症、皮膚の炎症など、広くいろいろの炎症の治療に用いられる。


C健胃作用

 胃粘膜の充血性炎症を治す。
 制酸作用がある。
                         EX.半夏しゃ心湯
D降圧作用

E抗菌作用

 細菌性下痢、腸炎に。
 化膿性炎症に。

F黄連に対する感受性の差が強いため、その服用により、
 胃のもたれ感、腹中冷感、下痢などを訴えるときには、
 呉茱萸湯で治療、または、まえもって呉茱萸や乾生薑などを配合する。

黄連の味は非常に苦く、当薬(センブリ)同様苦味健胃薬となる。
黄連は消炎作用があるため、胃に炎症があり、食欲不振のとき用いる。
次に述べる充血や炎症を抑制する作用がある。
それで胃カタルや胃炎があるとき、黄連を用いる場合は熱証である。
熱証の場合、脉は数、舌は紅く、口や舌は乾燥し、口渇があって水を飲み、
それでも尿量は少なく、尿の色は濃い。顔色や結膜も赤い。
大便は色が濃く、便秘傾向があり、また便臭が強い。
胃の粘膜は充血して赤い。出血、糜爛のある時によい。

大黄黄連瀉心湯は、大黄と黄連の二味からなる単純な方剤で、
沸騰している湯で振り出して服用する。
“酒をのみすぎた翌朝、胃部が痞え、食欲がなく、重苦しい、少し悪心がある”ときに服用すると
センブリや黄連の苦味を想像して、どんなに苦い薬かと思いきや、全く苦くない。
はじめは胃が悪いため舌の味覚が落ちているのであろうと考えていた。
そこで、三黄瀉心湯をつくって服んでみたところが、これも苦くない。
黄連、黄ゴン、大黄の各々を振り出してみた。
黄色透明の黄連単味の振り出しが最も苦く、その味は長くあとまで残った。
黄ゴンは煎茶位の苦味しかない。大黄は渋かった。
大黄と黄連の浸出液を混合すると、混濁して沈澱が生じた。
そして苦味はなくなるのである(この沈澱物は、稀塩酸や弱アルカリでは溶けないようである)。
そこで、黄連の苦味が効くのではない。
私自身(山本巌先生)の経験では、
酒をのみ過ぎた翌朝の急性胃炎や心下痞は、主に大黄の効ではないかと思う。
だが大黄単味を振り出して服用すると嘔吐する
(平素ならば嘔吐しないが、二日酔いのときは胃が悪く嘔吐するのであろう)。
黄連を加えるとのみ易く、嘔吐しない。
漢文をやっておられる先生方に時々、「三黄瀉心湯は苦いか」と質問するとほとんど苦いと答えられる。
黄連単味の浸出液と、三黄瀉心湯のどちらが苦いかと尋ねると、
三黄瀉心湯の方が苦いと思っておられる方も割合に多いものである。
ベルベリンという成分はただ腸炎の場合に有効なので、
鎮静、止血、解熱、その他の消炎にはあまり関係ないのではなかろうかと考えている。
大黄黄連瀉心湯の大黄2g、黄連1gを熱湯で振り出し熱い湯液を服用すれば、それほど寒涼剤とは思われない。
出血の場合に、瀉心湯は一度冷やして冷服させなければ、かえって出血がひどくなるであろう。
林億以来、大黄黄連瀉心湯の黄ゴンの有無が問題になる。傷寒に用いることのない現在では、
明確には実証し難いが、宿酒、二日酔いによるものは、黄ゴンはあってもなくてもよい。

                                    このページのトップへ

遠志

@温性。

A去痰作用

 悪心性去痰で気道の分泌を高めて去痰する

Bゆるやかな鎮静作用。不眠に
                         EX.帰脾湯

C軽度の悪心をひき起こすことがあるので用量に注意。
                                    このページのトップへ

艾葉

@温性。
    散寒除湿の作用がある。


A止血効果 
    出血時間と凝固時間を短縮する。

 特に婦人科領域の出血に。
    虚寒性の月経過多に阿膠とよく併用する。


B流産防止効果。
    安胎作用がある。

 下腹部痛、性器出血などの切迫流産の兆候があるときに。

                         EX、きゅう帰膠艾湯
C寒証の腹痛に。
                                    このページのトップへ

莪朮

莪朮は三稜と作用が類似しており、両者はよく併用される。

@温性。

A月経異常(月経痛、無月経、月経不順)、

  1)月経異常(月経痛、無月経、月経不順)に用いる。
    月経痛があり、無月経で下腹部に腫瘤を触れるようなものに用いる。
  2)月経痛、胸腹部痛、脇下腹部痛等に使用する(行気止痛)
    気滞血によるものに用いる。

B腹部腫瘤に使用する(破通経)

  腹部腫瘤(肝硬変による肝脾腫大、ガン等)に用いる。
  抗腫瘍作用があるといわれる。
  消化器系及び生殖器系の悪性腫瘍に三稜とともに配合。

C健胃作用(消食化積)

  不消化物の胃腸内残留に用いる。
        反対に胃障害をひき起こすことがあるので用量に注意。

                                    このページのトップへ

かっ香

@胃腸症状を伴う感冒に用いる(化湿解表)

  頭痛、腹痛、嘔吐、下痢等の胃腸症状を伴う感冒に、
  消化管内の貯留水を吸収利尿すると同時に発汗解表する。

                    EX、かっ香正気散

A血行をよくして胃腸を温め嘔吐を止める(温胃止嘔)        

 冷たい飲食物の摂取による胃障害や胃腸のれん縮性疼痛にも用いる(行気止痛)
                    EX、不換金正気散
 
B消化機能促進に基づく食欲増進効果(胸をすっとさせる)が認められる
  食欲を増進し、嘔吐、下痢、腹痛を止める。(化湿脾胃)

                                    このページのトップへ

葛根

@鎮痙効果

  主として項部から背部にかけての筋肉に強張り
  または上肢の筋肉の強張りに使用。

            芍薬、甘草と併用。 EX、葛根湯

@消炎解熱作用(散熱解表)

  外感病、表証があって悪寒、発熱、口渇、頚背部に筋肉の強ばりのある者。

            麻黄、桂枝と併用。 EX、葛根湯

A消炎止痒作用(宣毒透疹)発疹促進

  炎症に伴う掻痒に用いる。

            升麻と併用。    EX、升麻葛根湯

B体内の脱水を防ぐ(生津止渇)

  解熱作用によって体内の水分の喪失を防ぎ口渇を止める。

            知母、石膏と併用。

C下痢に用いる(止瀉作用)

  急性腸炎、細菌性下痢等湿熱の下痢に用いる(収斂消炎作用)。

            黄ごん、黄連と併用。 EX、葛根黄連黄ごん湯


                                    このページのトップへ

滑石

@寒性。

A消炎利尿作用

  消化管の水を血中に吸収して尿量を増加させ
  尿の浸透圧が低下するため膀胱、尿道の刺激を和らげる。
  尿道炎、膀胱炎、尿路結石に。

           猪苓、茯苓、沢瀉と併用  EX、五淋散、猪苓湯
滑石は利尿作用があり、消化管(とくに腸内)の水を取るのは強く、
血中の水を利尿する作用も強いため、猪苓湯では、脱水しない配慮として阿膠を加えている。
したがって、猪苓湯を浮腫のないときや消化管内に水が少ない場合に用いるときは、
水を多目に服用させなければならない。(例えば尿路疾患)

B水様性の下痢に用いる

  腸粘膜保護、抗炎症、利尿作用がある。

           猪苓、茯苓、沢瀉と併用  EX、猪苓湯

C熱性疾患で口渇、尿不利の者に用いる。

                                    このページのトップへ

か呂根

@寒性。

A消炎解熱、鎮咳作用(潤肺止咳)

  上気道炎、気管支炎、肺炎など呼吸器の炎症に。
  気道の炎症による咳嗽に用いる。

            柴胡、黄ごんと併用  EX、柴胡桂枝乾姜湯

B潤燥・去痰作用

  発汗などによる体内の水分量低下とそれに伴う口渇に
  脱水を潤して口渇を止める(生津止渇)


  また、乾咳で痰は粘稠少量で咳をして痰が切れにくいものに
  水分の少ない痰を潤して喀出しやすくする。

C排膿効果

  化膿性炎症に。

                                    このページのトップへ

か呂仁

@寒性。

A抗化膿性炎症・去痰作用

  肺又は気道の炎症のため、黄〜緑色の粘稠な膿性痰を喀出するときに、
  知母、冬瓜子、貝母、よく苡仁などと配合して、
  粘稠な痰を軟らかくして喀出しやすくする。

  胸にひびいて痛む(胸痛ある)者を治す。(化痰散結)

  急性気管支炎、肺炎、肋膜炎の痰、咳、胸痛に用いる。
    
            半夏、黄連と併用       EX、小陥胸湯

B消炎排膿作用

  肺膿瘍、気管支拡張症、急性乳腺炎、急性虫垂炎等に用いる。

C粘滑性緩下作用

  脂肪油で水分がすくないころころの便を軟化する。
  か呂仁は油脂成分が多く、大便の水分を貯え、大便を排出させる。

D狭心症などの胸痛に、薤白などと配合して適用。(化痰散結)

            薤白、半夏と併用       EX、か呂薤白半夏湯

                                    このページのトップへ

地黄

@寒性。

A消炎解熱作用(滋陰降火)

 解熱作用があり、熱性疾患に用いる。熱病で体の水分が欠乏して
 脱水状態のとき、細胞の物質代謝を抑制し、熱産生を抑制して解熱させる。
             知母、黄柏などと併用  EX、知柏地黄丸

 脱水による口渇を治す(生津止渇)

 熱性疾患で脱水して口渇するものを治す。
             玄参、麦門冬などと併用 EX、増液湯

B消炎止血作用(涼血止血)

 炎症性又は充血性出血に用いる。
 吐血、衂血、便血、崩漏下血などに
 血管透過性を抑制し凝固作用促進することにより止血する。
             牡丹皮、赤芍などと併用 EX、犀角地黄湯、四物湯

 また扁桃炎、咽頭炎に適用。

C緩下作用(潤腸通便)

 腸内に水分を保ち便を軟らかくする。

D流産防止効果

 切迫流産の下腹部痛を寛解し、性器出血を止める。
 
E強心効果

 吸気性呼吸困難に適用。
             桂枝、附子などと併用  EX、八味丸

F自立神経系・内分泌系機能の調整効果

 月経異常、不整子宮出血、糖尿病、バセドウ病などに。

G胃に負担になることがあるが、
 これを防止するためには黄柏又は呉茱萸などを併用。
                                    このページのトップへ

生姜

@熱性
 アドレナリンβ様作用(糖・脂質代謝促進の結果、熱産生が増加し、身体を温める)
 および抗セロトニン作用に基づく。 主として腹部及び胸部を温める。

 発汗解熱作用(散寒解表)      桂枝などと併用  EX、桂枝湯
 外感風寒に用いて頭痛、鼻閉等を治す。
           

A制吐・食欲増進・整腸作用(温中止嘔)

 腹部の冷えによる悪心、嘔吐、腹痛、下痢などに適用。
                       半夏などと併用   EX、小半夏湯、半夏厚朴湯

B鎮咳作用(化飲止咳)

 胸部の冷えによる水様性鼻漏、
 多量の泡沫状痰又は喘鳴(呼吸時ゴロゴロ音)を伴う咳嗽に適用。

 気管支カタルを治す。
                       半夏、陳皮などと併用 EX、二陳湯

C強心・昇圧・抗ショック効果

 ショック又は虚脱など急性末梢循環不全に炮附子と併用。

 ※未乾燥根茎には弱い発汗・解熱効果と比較的強い制吐効果が認められる。

          
                                    このページのトップへ

甘草

@胃腸の働きを良くして、体の元気を益す(益気補脾)

 気力や食欲が少ない、下痢しやすい、元気のない者に。
                  人参、白朮、茯苓と併用     EX、四君子湯

A心悸亢進を鎮める(益気復脈)、潤燥・鎮静作用

 発汗過多あるいはエネルギー代謝亢進などの原因で
 体内水分量が減少して心悸亢進、脈結代をひき起こしたときに。
                  人参、麦門冬、地黄、桂枝と併用 EX、炙甘草湯

 潤燥効果はミネラルコルチコイド様作用に基づくので、
 用量によっては浮腫を生じることがある。

 また大棗などと配合してヒステリー状態の神経症状を緩和する。
                  大棗、小麦と併用    EX、甘麦大棗湯

B筋肉の痙攣や痛みを止める(緩急止通)

 消化管のれん縮性疼痛、胆石症・尿路結石症などの疝痛発作や骨格筋の痙れんに。
                  芍薬と併用        EX、芍薬甘草湯

C消炎作用、抗化膿作用(解毒医瘡)‥‥生甘草を用いる。

 咽喉の腫痛、瘡瘍の腫脹などに用いる。
 1)咽喉の腫痛
                  桔梗と併用       EX、桔梗湯
 2)風熱表証に用いて熱を下し、化膿を抑える。
                  金銀花、連翹、牛牽子などと併用   EX、銀翹散

D咳嗽、喘息に用いる(潤肺きょ痰)‥‥生甘草を用いる。

 肺熱の咳嗽に用いる。粘稠で切れにくい痰を伴った咳嗽に
 上気道炎、気管支炎
                  杏仁、貝母、などと併用

E緩和、解毒に用いる

 大黄服用による腹痛、炮附子の副作用、アルコールによる肝障害などを軽減。

 ※炙甘草は、切断した甘草を鍋に入れ、数分間加熱(炒る)したもので、
  (しみこむ程度のハチミツと少量の水を加えることもある)
  気力回復・食欲増進・鎮静効果が発現し、
  心悸亢進、不整脈などの症状に用いる。

                                    このページのトップへ

桔梗

@去痰作用(きょ痰止咳) 鎮咳効果は弱い。

 痰の分泌を多くして喀出しやすくする。

 半夏と併せて鎮咳去痰薬として用いる。
        
A咽喉の炎症(咽痛)に用いて痛みを止める

 咽頭痛、嗄声などに
                甘草と併用     EX、桔梗湯

B排膿作用(排膿消癰)

 1)せつ、癰、皮下膿瘍などに用いて排膿させる。
                 枳実、芍薬と併用 EX、排膿散及湯
   炎症の強いとき  
                石膏と併用      EX、桔梗石膏

 2)気管支拡張症、肺化膿症
           葦茎、冬瓜子、貝母、紫苑 EX、葦茎湯合四順湯

                                    このページのトップへ

菊花

@消炎解熱作用(散熱解表)

 外感風熱による頭痛、発熱、目の充血、咽痛等に用いる。
             桑葉、薄荷、連翹などと併用   EX、桑菊飲

A眼の充血、眼痛、目のかすみに(清肝明目)
 
 1)風熱による眼痛(結膜炎)に。
             シツリシ、木賊などと併用     EX、止涙補肝湯

 2)頭がふらつく、眼がかすむなど肝腎不足に。
             枸杞子、地黄、山茱萸などと併用 EX、杞菊地黄丸

B鎮静効果
   不眠症に。

 ※野菊花は抗化膿性炎症効果。

                                    このページのトップへ

枳実

@消化管の蠕動促進作用

  胃内容停滞感、腹部の膨満感・圧痛などがあるときに使用して
  胃腸の蠕動をスムーズにして不消化物移送と腸内ガスの排出を促進する。 

 1)消化管の蠕動を亢進して不消化物を下方へ送り排出させて、
  腹満、腹痛、便秘などを治す。 裏急後重にも用いる。

  大黄に配合すると、その瀉下効果の発現時間を短縮する。
       厚朴、大黄、芒硝と併用        EX、大承気湯

 2)平滑筋の痙攣を緩めてジスキネジーを治す。

  胆道ジスキネジー、尿管ジスキネジー、過敏性腸症候群等

       芍薬、甘草、柴胡と併用        EX、四逆散

A幽門痙攣を除き蠕動をスムーズにし溜飲を緩解する

  胃内食物が下方へ通過しないため、心下部が痞え胸苦しいのを治す。
       陳皮、生姜、白朮、茯苓などと併用   EX、茯苓飲
  また嘔吐反射や逆蠕動運動などを抑制する。

B去痰排膿作用
       桔梗、芍薬などと併用         EX、排膿散及湯


  ※枳穀は、シネフリン含量が枳実のそれの約1/2で、
    枳実よりも作用が緩和なので、虚弱体質には枳穀を用いる。

           
                                    このページのトップへ

きょう活

@温性。

A発汗解熱作用(散寒解表)

 外感病にも使用するが、主に風湿に用いる。

B鎮痛作用(去風止痛)

 1)風湿による関節痛、筋肉痛、しびれ、強ばり等を治す
          防風、独活、威霊仙等と併用      EX、疎経活血湯

 2)頭痛に用いる。
          川きゅう、びゃくし等と併用        EX、川きゅう茶調散

※胃の弱い人には少量から(嘔吐を生じやすい)。

                                    このページのトップへ

杏仁

@温性。

A利水作用、鎮咳作用

  麻黄又は茯苓、白朮などと配合して浮腫に適用。

  肺、気道粘膜の浮腫を除いたり、痰の量を減少させる結果として、
  呼吸困難を寛解、喘鳴、多痰を除き鎮咳させる。 
  杏仁の利水作用が鎮咳に働く。

  気道炎症を伴う鎮咳に  麻黄、石膏、甘草などと併用  EX、麻杏甘石湯

B腸燥便秘を治す(潤腸通便)

  杏仁の脂肪油が腸を潤し排便を促進。
             麻子仁、枳実、大黄などと併用 EX、麻子仁丸 

  ※直接的な鎮咳ではなく、肺、気道粘膜の浮腫、多痰を除き鎮咳させる。
    副作用を考えると、成人の1日量として10gを越えないようにしたい。
                                    このページのトップへ

金銀花

@寒性。

A抗化膿性炎症

 皮膚化膿症の化膿性炎症に用いる。
                                 EX、たく裏消毒飲

B解熱作用(散熱解表)

 感冒や感染性疾患の初期で、発熱、熱感、頭痛、咽喉痛などの熱証のある者に。
 
                荊芥、連翹 などと併用   EX、銀翹散

C出血性炎症に用いる
                                    このページのトップへ

苦参

@寒性。

A消炎利尿作用(清熱燥湿)

 湿疹、皮膚炎、陰部掻痒症等に用いる。血熱、湿熱を治す。
 血管透過性亢進、充血、出血などに。
               知母、石膏などと併用         EX、消風散

B鎮痒効果

 湿疹・皮膚炎、蕁麻疹などに内服、または外用として
 (10gを水500mlで煎出して250mlまで濃縮したもので患部を洗浄)。

C抗真菌・抗トリコモナス効果

 膣カンジダ症、膣トリコモナス症などに外用。

                                    このページのトップへ

荊芥

@発汗解表作用(散寒解表) 弱い発汗効果
 発熱性疾患の頭痛、鼻閉、咽頭痛、結膜炎等に。

 1)風熱表証‥‥熱感を伴うとき
     薄荷、柴胡などと併用      EX、銀翹散

 2)風寒表証‥‥悪寒を伴うとき
     防風、生姜などと併用      EX、荊防敗毒散

A咽痛を治す作用

 咽頭痛、咽喉炎、扁桃腺炎に用いる。
     桔梗、甘草などと併用

B止血作用

 炒って炭化したものを鼻出血、下血、性器出血などに。

C止痒作用

 湿疹、皮膚炎、蕁麻疹の痒みを止める。
     防風、薄荷などと併用      EX、消風散
                                    このページのトップへ

鶏血藤

@温性。

A造血促進効果

  放射線治療などによる赤血球、白血球、血小板などの減少に。

B慢性関節リウマチの関節炎に。

C脳血管障害による運動麻痺、感覚障害に。

                                    このページのトップへ

桂皮

@熱性

 アドレナリンβ様作用(糖・脂質代謝促進の結果、熱産生が増加し、身体を温める)
 及び末梢血管拡張作用により寒冷のため収縮した皮膚、筋肉や四肢の血管を拡張し、
 体表部や四肢を温め、しびれ等の感覚異常、筋肉の痙れんを抑制して疼痛を改善。

     白朮、茯苓、附子等と併用    EX、桂枝加朮附湯

 腹部を温めて、冷えによる月経閉止、下腹部痛、腰痛などを改善。

A発汗・解熱作用

 体を温める作用は強いが発汗作用は弱い。

       生姜等と併用          EX、桂枝湯

 桂皮に麻黄を配合すると発汗効果は増強され、芍薬の配合で発汗効果は抑制される。

                    EX、葛根湯

B血剤とともに用いて、血行をよくして駆血作用を助ける。

     桃仁、 牡丹皮等と併用     EX、桂枝茯苓丸

C血行をよくして利尿作用を助ける

 1)小便不利、下肢の浮腫等に腎臓の血流をよくして利尿作用を助ける。
     
      白朮、茯苓等と併用       EX、五苓散

 2)強心利尿作用‥‥桂枝‐甘草に強心利尿作用があり、動悸、気の上衝を抑える。

       甘草 等と併用         EX、苓桂朮甘湯
   心不全に適用。
   ただしショック・虚脱による急性末梢循環不全には禁忌。

D脳循環改善作用

 脳循環血量の低下による
 後頭部の頭痛、首筋のこり、立ちくらみ、耳鳴りなどを改善。

E副作用

 鼻出血、喀血、吐血、痔出血などの出血を助長するので、
 出血しやすい傾向が認められるときや過多月経には注意。

 また頭痛(こめかみ〜前額部)や回転性めまいをひき起こすことがある。

 ※日本漢方では、よく
  桂皮はのぼせを下げる、といいますが、桂皮はのぼせさせる生薬です。
 
  ここの認識を間違えてしまうと
  上記のような副作用を発現させてしまう。

  正確に言うと、桂皮はのぼせを下げるのではなくて
  気の上衝を引き下げるのです。

  気の上衝を、のぼせと勘違いしてしまっているように思います。

  気の上衝というのは、例えば脳貧血などで、
  末梢血管が収縮して、皮膚が蒼白になり脈拍がはやくなる。
  それで心悸が上へ上がってくるような状態です。 それを抑える。

  この点はくれぐれも間違えないでください。
                                    このページのトップへ

決明子

@抗炎症作用

 主としてブドウ膜の炎症に用いる。
                   EX、洗肝明目湯
A緩下作用

 作用が弱いので軽度の便秘に。

Bおだやかな降圧作用。
                                    このページのトップへ

玄参

@寒性。

A潤燥、抗炎症作用

 体内水分量を保持し、脱水症を防止。

 眼や咽頭などの発赤、腫脹、疼痛に適用。
 咽喉部の腫脹、疼痛(咽喉炎、扁桃腺炎)に使用。

B頸部リンパ節腫大に適用。
   
C血管拡張作用

 血栓性動脈炎(壊疽や閉塞性血栓血管炎)に用いる。
 特発性脱疽、バージャー病などに

      当帰、金銀花等と併用      EX、四妙勇案湯
                                    このページのトップへ

膠飴

@緩和・矯味効果。

 ※他の配合生薬と一緒に煎出すると、容器に焦げ付くことがあるので、
   他の生薬を煎出して布ごし後の温液に加えて溶かす。
                         EX、大建中湯、小建中湯
                                    このページのトップへ

紅花

@温性。

A月経異常に(活血通経)
 
 1)血による月経痛、無月経、月経不順に

     当帰、川きゅう、赤芍、地黄、桃仁等と併用  EX、桃紅四物湯

 2)産後の血に用いる‥‥出血して諸症状がよくなる。

     桃仁、当帰、益母草等と併用       EX、きゅう帰調血飲第一加減

B血行をよくして、うっ血や腫脹を除き、痛みを除く(散止痛)
 
 1)狭心症には、冠血流をよくして胸痛を除く
   冠動脈拡張・血栓形成抑制効果
     川きゅう、丹参、赤芍等と併用        EX、冠心U号方

 2)打撲、挫傷、捻挫など血や内出血による痛みを除く。

     当帰、赤芍、桃仁、大黄等と併用     EX、調栄活絡湯
     当帰、蘇木、大黄等と併用        EX、通導散

C血行をよくし、(活血散
 褥瘡の予防、凍傷の予防、潰瘍の難治性のもの等に用いる。
 
 副作用:月経過多、出血傾向の者や妊婦には注意して。
                                    このページのトップへ

香附子

@気分の憂うつな者に
 
 1)精神的ストレスによる
   胃炎、胃潰瘍、月経痛、生理不順、乳房の張りや痛みなどに。

     柴胡、芍薬、枳穀、川きゅう等と併用   EX、柴胡疎肝湯

 2)感情の抑うつや精神的緊張を緩める。気うつ又はうつ状態に。

     紫蘇葉等と併用           EX、香蘇散

A気滞のために起きる胸腹や胸脇から上腹部にかけて張った感じや痛みに。
 そして子宮痙攣、月経痛を治す。
 
     当帰、川きゅう、芍薬、地黄、烏薬、延胡索  EX、きゅう帰調血飲第一加減

B胃の働きをよくする

 悪心、げっぷ、胃部膨満感、消化不良、食欲不振に用いる。
  
     縮砂、木香等と併用         EX、香砂六君子湯

C血管を拡張して血行をよくする

 冠状動脈硬化による狭心症や脳血管障害の後遺症に用いる。

     赤芍、川きゅう、紅花、丹参等と併用   EX、冠心U号方
                                    このページのトップへ

粳米

潤燥効果
   体内水分量を保持し、脱水症を防止。
                          EX、白虎湯
                                    このページのトップへ

厚朴

@温性。

A鎮痙(クラーレ様)作用

 食道、噴門、幽門、小腸、大腸などの局所のれん縮を寛解し、
 蠕動運動を正常にする。

 また大黄に配合すると、瀉下までの時間を短縮する。

     枳実、大黄、等と併用      EX、大承気湯

 咽喉頭部に狭窄感又は閉塞感があるときにも用いる。

     半夏、生姜等と併用       EX、半夏厚朴湯

B健胃・整腸作用

 胃腸機能の異常や消化不良のため、腸管内に内容物やガスが停滞し、
 腹部膨満感、腹痛、しぶるときなどに
 お腹を温めて、腸管の痙攣を抑制して腹痛や裏急後重を治す。
 下痢に伴う腹痛を治す。

     蒼朮、陳皮等と併用       EX、平胃散

C利水作用

 腸管内の水を尿として除いて下痢を止める。

D鎮咳作用

 気管支平滑筋の痙攣を緩め、気管支を拡張して咳を止める。
 気管支炎、気管支喘息等の呼吸困難に

     麻黄、杏仁、陳皮等と併用    EX、神秘湯

E筋弛緩作用

 パーキンソン症候群などに用いる。
                                    このページのトップへ

牛膝

@駆血作用

 主として上半身の充血を軽減し、下半身の血液循環をよくする
  のぼせ、頭痛、めまい、鼻出血、吐血、歯痛、
  月経困難症(月経痛、無月経、月経不順)、産後の胸腹痛などに用いる。

                      EX、折衝飲

A抗炎症・利尿作用

 膀胱炎、尿道炎、尿路結石などによる
 血尿や腰痛、排尿痛、排尿困難などに用いる。

B筋肉や骨格を補強するために配合し、
 腰部や膝関節の疼痛・屈伸困難、筋骨の萎縮による歩行困難などに用いる。

 1)老化現象による腰痛。

    杜仲、続断、桑寄生、地黄等と併用      EX、独活寄生湯

 2)風湿による手足の疼痛

    蒼朮、黄柏等と併用             EX、三妙散

 3)打撲、捻挫(血)による腰、手足の疼痛。

    当帰、川きゅう、赤芍、地黄 桃仁、紅花  EX、調栄活絡湯
                                    このページのトップへ

呉茱萸

@熱性
 アドレナリンβ様作用
 (糖・脂質代謝促進の結果、熱産生が増加し身体を温める)に基づく。
 主として腹部及び胸部を温める。

A制吐・利尿作用。

 胃部が冷え、胃内に貯留水があって唾液などを吐く寒証の嘔吐に用いる。
 また寒証のしゃっくりにも有効。

        人参、生姜、大棗等と併用      EX、呉茱萸湯
 お腹を温めて幽門の痙攣を除き、蠕動を整えて悪心、嘔吐を止める。

B鎮痛作用

 胃部が冷えて、空えずき・よだれなどを伴う発作性偏頭痛、

 寒冷刺激で四肢の冷えを伴った腹痛、脇痛、月経痛などに用いる。
         当帰、桂枝、細辛等と併用   EX、当帰四逆加呉茱萸生姜湯
 しもやけにも用いる。

※呉茱萸は
 制吐の半夏、温中散寒の乾姜、利水の茯苓、降気の枳実を兼ねた作用がある。

 ただし胃に充血性炎症が認められるときには黄連を併用。
 黄連の副作用を防止するために配合するときには、黄連の1/5量でも有効。

                                    このページのトップへ

牛蒡子

@抗炎症解熱作用

 風熱感冒で発熱のある者に用いる。

    金銀花、連翹、荊芥、薄荷等と併用  EX、銀翹散

A抗化膿性炎症・排膿作用

 咽頭に発赤、腫脹、疼痛を伴う咽頭炎、扁桃炎、上気道炎などにに用いる。

    荊芥、防風、連翹等と併用      EX、駆風解毒湯
    薄荷、桔梗、甘草等と併用      EX、柴胡清肝湯

B鎮痒作用

 湿疹、蕁麻疹の掻痒に対して用いる。

    防風、蝉退、荊芥等と併用      EX、消風散

                                    このページのトップへ

五味子

@温性。

A鎮咳・去痰作用

 寒証で多量の泡沫状痰を伴う咳嗽に用いる。

      半夏、乾姜、細辛等と併用    EX、小青竜湯

B収斂作用

 発汗過多、寝汗、慢性下痢、遺精などに用いる。

 ○止汗作用

  体が虚して多汗(自汗、盗汗)のものに用いる。

 ○脱水を防いで口渇を止める(生津止渇)
 
  発汗過多等で、脱水して口渇のあるときに用いる(脱水のショック状態)

      人参、麦門冬等と併用       EX、生脈散

 ○腎虚によ遺尿、多尿を治す

      竜骨、牡蛎、附子

 ○滲出性中耳炎‥‥滲出液の分泌を抑制する。

      茯苓、桂枝、甘草等と併用     EX、苓桂味甘湯

                                    このページのトップへ

柴胡

@消炎解熱作用

 感冒やインフルエンザの悪寒、発熱、往来寒熱(悪寒と発熱が交替で現れる)
 弛張熱(38℃以上の発熱が日差1℃以上で上下し、平熱まで降下しない)に。

    高熱症状には、必要十分量を用い黄ごん、などと併用。
                             EX、小柴胡湯
                    
A鎮静、鎮痛作用(疎肝止痛)  視床下部〜脳下垂体上部に働いて鎮静

 精神的ストレスによって緊張感、焦燥感又は不安感をもつ状態となり、
 自立神経系や内分泌系を通して身体に影響を及ぼし、
 食道・噴門部のれん縮によるのどがつかえた感じ、胸苦しさ、
 胸腹部の痛み・張る感じ・苦悶、
 心窩部膨満感、悪心、嘔吐、食欲不振などの症状が認められるときに適用。

 脇痛(胸脇苦満)を除き、月経調整作用がある。
 イライラ、不安、緊張など精神的ストレスを除く。

B筋緊張増強作用(升提作用)

 黄耆、升麻と配合して、
 平滑筋又は骨格筋の緊張が減弱(弛緩)した状態に適用。

 胃下垂、脱肛、子宮脱を治す

    升麻、黄耆、人参 等と併用          EX、補中益気湯
                                    このページのトップへ

細辛

@温性  アドレナリンβ様作用
 (糖・脂質代謝促進の結果、熱産生が増加し身体を温める)に基づく。

 手足の冷えを温め、冷え性を治す。

    当帰、桂枝等と併用         EX、当帰四逆湯

A鎮痛作用

 精油には局所麻酔作用があり、寒冷刺激による比較的表在性の痛みを治す。
 例えば頭痛、舌痛、神経痛、歯痛、咽頭痛、関節痛などに。

 また寒冷と湿気による筋肉の疼痛、痙れん、麻痺にも適用。

B鎮咳・去痰作用

 肺が冷えて痰が多く(大量の希薄な痰)、咳が出るものを治す。

 細辛は温める作用と利水作用があり、寒湿痰を治す。

    乾姜、五味子等と併用        EX、小青竜湯

 くしゃみ、水様性鼻漏、多量の泡沫状痰を伴う寒証の咳嗽に適用。

 空咳や炎症性で粘稠な痰を少量喀出するときは、
 熱証の咳嗽であるから注意。

C弱い発汗解熱作用。

 1)風寒による比較的表在性の寒を温める(抗アレルギー作用)。

   くしゃみ、鼻水、咽痛等で始まるカゼ(上気道炎:寒証型)
   や アレルギー性鼻炎に用いる。

 2)陽虚の体質の外感病(少陰病)に用いる(発汗解表作用)。

    麻黄、附子等と併用          EX、麻黄附子細辛湯
                                    このページのトップへ

山帰来

○抗化膿、抗炎症作用
  膿尿または悪臭を伴う帯下などが認められるとき、
  あるいは膿皮症に用いる。
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山査子

@消化促進作用

 肉類による消化不良に用いる。

A高血圧症、冠不全、中心性漿液性脈絡網膜症などに用いる。
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山梔子

@寒性。

A消炎(解熱)作用

 炎症性充血を抑える。
 眼の炎症、肝炎、食道炎、胃炎、腸炎等に用いる。

 湿疹・皮膚炎などの皮膚の充血・熱感などに。

B利胆作用

 肝炎、胆のう炎、肝膿瘍等による湿熱の黄疸を治す。

     茵ちん蒿、黄柏 等と併用        EX、茵ちん蒿湯

C消炎利尿作用

 小便不利し、血淋、渋痛する者に用いる。
 腎盂腎炎、膀胱炎、尿道炎、血尿に用いる。

     木通、車前子、滑石 等と併用     EX、五淋散

D止血作用

 血管を収縮して止血
 熱証の結膜充血、鼻出血、喀血、吐血、血尿、性器出血などに用いる。

     黄連、黄ごん 等と併用         EX、黄連解毒湯

E鎮静作用

 怒りや興奮、心煩、不安を鎮める(心胸部の煩熱を除く)。
 不眠症にも適用。
    
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三七

三七、または参三七・田三七・田七とも呼ばれる。

@温性。

A駆血作用、止血作用(化止血)

  打撲、捻挫による内出血や外傷による出血で?血による腫脹、疼痛に用いる。

  脳出血、喀血、吐血、下血、性器出血など、あらゆる部位の出血に用いる。

    EX、眼底出血、脳出血、性器出血など

B消炎鎮痛作用(化止痛)

 血による腫脹、疼痛に対して消炎鎮痛作用により消脹止痛する。

    EX、関節炎、癌、潰瘍などに用いる。

C慢性肝炎、高脂質血症などに適用。

D品質にかなりのバラツキがあり、
  特に止血効果が認められないものがあるので要注意。
                                    このページのトップへ

山茱萸

@滋養作用

  骨、筋肉、組織などの老化現象に用いる。

A収斂作用

  自然発汗、発汗過多、寝汗や遺尿、多尿、夜尿などに用いる。

                     EX、六味丸、八味丸
                                    このページのトップへ

山椒

@熱性

  主として腹部を温め、寒証の平滑筋のれん縮を緩和するので、
  寒冷刺激による腹痛、嘔吐などに用いる。

                      EX、大建中湯

  一方熱証の平滑筋のれん縮には芍薬を用いる。

A局所麻酔効果。
                                    このページのトップへ

山豆根

@寒性。

A抗化膿性炎症作用
 咽喉の炎症に用いる。

B悪性腫瘍(特に肺癌)に用いることがある。

C胃障害をひき起こしやすいので
 用量に注意(1日量2g程度)。
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酸棗仁

@不眠に用いる(養心安神)

 顕著な効果は認められないが、ストレスにより食欲もなくなり、
 食べても十分消化されず、体力低下し驚きやすく、動悸、不眠などのときに。

 1)熱症の不眠に用いる

    茯苓、川キュウなどと併用        EX、酸棗仁湯

 2)健忘、不安、不眠に用いる

    四君子湯加当帰、竜眼肉、遠志    EX、帰脾湯

A止汗作用(益陰止汗)

 虚弱者の多汗、自然発汗、寝汗に用いる

    五味子、芍薬、人参などと併用
                                    このページのトップへ

山薬

@健胃・整腸効果

  消化機能を促進し、下痢を止め、体を元気にする。

  胃腸が弱く、食欲も少なくて、食べ過ぎるとすぐ下痢をする者に用いる。

  慢性の下痢があり、体がだるくて元気がないときに、

    人参、茯苓、白朮、白扁豆、?苡仁などと併用     EX、参苓白朮散

A咳嗽や呼吸困難に用いる(潤肺止咳)

  少し動くと息が切れて苦しく、咳嗽や汗が出るものに用いる。

B口渇を治す(生津止瀉)

  口渇が甚だしく、いくら水を飲んでも渇きが止まらないときに適用。
  発汗や虚熱により脱水して口渇するものを治す。

     葛根、天花粉、五味子などと併用

C遺精、頻尿に用いる(益腎固精)

   熟地黄、山茱萸などと併用           EX、六味地黄丸
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三稜

莪朮は三稜と作用が類似しており、両者はよく併用される。

@温性。

A月経異常(月経痛、無月経、月経不順)、

  1)月経異常(月経痛、無月経、月経不順)に用いる。
    月経痛があり、無月経で下腹部に腫瘤を触れるようなものに用いる。
  2)月経痛、胸腹部痛、脇下腹部痛等に使用する(行気止痛)
    気滞血によるものに用いる。

B腹部腫瘤に使用する(破通経)

  腹部腫瘤(肝硬変による肝脾腫大、ガン等)に用いる。
  抗腫瘍作用があるといわれる。
  消化器系及び生殖器系の悪性腫瘍に三稜とともに配合。

C健胃作用(消食化積)

  不消化物の胃腸内残留に用いる。
        反対に胃障害をひき起こすことがあるので用量に注意。
                                   このページのトップへ

紫根
@寒性。消炎解熱作用

A出血性炎症を治す(活血透疹)
  火傷など血熱によるもの、その他血熱による発疹(麻疹、皮膚炎)に用いる。

  抗炎症・肉芽増殖促進効果
    軟膏として局所適用すると創傷治癒を促進。
      外用として  →当帰 などと併用      EX、紫雲膏

B抗化膿性炎症に

C悪性腫瘍(絨毛癌など)に使用することもある
                                   このページのトップへ

紫蘇葉

@発汗解熱作用(散寒解表)
  体を温め、発汗作用がある。 麻黄−桂枝のように強くない。
  紫蘇葉単独では効きが悪いので、
  生姜、防風、荊芥などの辛温解表薬を併用して、体を温めて発汗を促す。

    生姜、陳皮などと併用       EX、香蘇散

A健胃作用(健胃止嘔、行気寛中)
  胃が弱くて食欲のない者がカゼを引いたとき、葛根、麻黄などは胃を障害する。
  紫蘇葉は食欲を増進し、上腹部を楽にしてムカムカを止める。

    半夏、生姜などと併用       EX、半夏厚朴湯

B鎮咳去痰、利水作用(去痰止咳)
  肺や気道の浮腫を除き、鎮咳去痰の作用がある(紫蘇子の方が効果が強い)。

C魚介類の中毒を治す
  魚介類の中毒で、吐瀉、腹痛、蕁麻疹に生姜を配合して30g位水煎する。
                                   このページのトップへ

シツリシ

@鎮痛・鎮痒作用
 湿疹・蕁麻疹の掻痒に適用。

A結膜炎、角膜炎などで充血と流涙が認められるときに。
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芍薬

@鎮痙・鎮痛効果

 筋肉の痙攣を止める。主として平滑筋だが、骨格筋の痙攣にも有効。

 消化管、胆道、子宮、尿管、膀胱など
 中空臓器の痙攣性疼痛や痙攣性便秘に甘草を併用。

    甘草と併用             EX、芍薬甘草湯

 月経痛、妊娠時の腹痛に用いる。

    当帰、白朮などと併用          EX、当帰芍薬散

 冷えによる腹痛には桂皮、乾薑、当帰、炮附子、などと配合。


A収斂効果

 止汗作用  発熱性疾患の発汗過多を抑える目的で配合する。

    桂枝などと併用             EX、桂枝湯

 止血作用  血管を収縮して止血する。

    地黄、阿膠、艾葉などと併用       EX、キュウ帰膠艾湯

 血管収縮などによる止血作用で鼻出血、喀血、下血、性器出血などに適用。

 また桂皮、川キュウ、当帰などの服用による
 血管拡張、出血、頭痛、のぼせ、動揺感、回転性めまいに用いる。

胃液分泌を抑制するので胃酸過多症に適用。

B鎮静効果 向精神病薬として

 自律神経の興奮に対して用いる。
 気分がイライラしてよく腹を立て、気を使って起きる脇痛、腹痛を治す。

    柴胡、枳実などと併用          EX、四逆散 

 動揺感を伴っためまい、あるいは精神的緊張によるめまいに適用。
ただし立ちくらみには不適。

C月経調節効果

 月経不順、不正性器出血を治す(養血調経)

 白芍は補血、鎮痛の作用があり、
 血虚による月経不順、不正性器出血に月経痛、下腹部痛等を伴うものを治す。

    当帰、地黄、川キュウなどと併用       EX、四物湯

Dうっ血除去効果

 打撲によるうっ血、皮下溢血、硬結、疼痛、感覚消失などに適用。
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車前子

@寒性。

A消炎利尿作用。

 急性尿道炎や膀胱炎などで排尿困難、排尿痛、頻尿等あるものに用いる。

    茯苓、沢瀉、木通、滑石などと併用     EX、五淋散

 うっ血性心不全で水腫を呈するもの

    牛膝、地黄、山茱萸などと併用       EX、牛車腎気丸

 角結膜炎による目の充血、眼痛などの眼疾患を治す(消炎利水作用による)

    黄ごん、決明子、菊花などと併用       EX、洗肝明目湯

 尿不利で下痢するものにも

B鎮咳・去痰作用もある

  粘稠な痰又は膿性痰を喀出する咳嗽に。
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縮砂

@温性。

A鎮痙効果

 ○食道や胃の過度の緊張を寛解し、食道及び胃の運動をスムーズにする。

   お腹を温めて嘔吐を止める(温胃止嘔)

     香附子、かっ香 などと併用         EX、香砂平胃散

 ○胃部のつかえや心窩部の膨満感などがあるときに適用。

   消化管の運動をスムーズにして痛みを止める(行気止痛)
   消化不良に対して木香を配合して腸蠕動を亢め、
   消化吸収を促進し、ガス停滞による腹痛を止める。

     木香、人参、白朮 などと併用       EX、香砂六君子湯

 ○また腹部を温め、木香と配合すると、下痢などによる腹痛を緩和する。

   お腹を温めて下痢を止める(温脾止瀉)
   寒がる、四肢が冷たい、腹が張る、水様性下痢といった脾陽虚の下痢に対して

     蒼朮、かっ香、厚朴 などと併用        EX、香砂平胃散

B制吐効果

   つわりに用いる。 口中で噛むと悪心が消失する。
                                   このページのトップへ

熟地黄

@潤燥効果

  体内を潤して体内の水分を保ち、脱水を防ぎ、口渇を除く
  胸中・手のひら・足裏のほてり、午後の微熱、寝汗などの症状に。

  また腸管内水分量を保持し、糞便を軟らかくし緩下効果もある。腸燥便秘に用いる

    当帰、桃仁、杏仁、麻子仁などと併用   EX、潤腸湯

A栄養障害改善

  長患いや、老化現象で痩せた筋肉を太らせ、骨を丈夫にし、
  足腰を補強し、視力減退や皮膚の萎縮などを改善。

  また神経の反射機能をよくし、膀胱の機能を良くする。

    山茱萸、山薬などと併用         EX、六味丸

B強心作用

  地黄には弱い強心作用があり、吸気性呼吸困難、肺水腫、うっ血性心不全に用いる。

    沢瀉、茯苓、桂枝、附子などと併用    EX、八味丸

C自立神経系・内分泌系機能の調整

  下垂体―卵巣系のホルモンの失調による月経不順や不正性器出血を治す。

    当帰、川キュウ、白芍などと併用       EX、四物湯

  月経異常、糖尿病、バセドウ病などにも用いる。

D胃障害をひき起こすことがあるが、これを防止するためには黄柏や呉茱萸を併用。
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小茴香

@温性 お腹を温めて腹痛を治す
  寒冷の飲食物で胃を冷やしたり、寒疝により起こる腹痛を治す
  (空腹時痛が多い、冷えによる腹痛、生理痛にも有効である)

    桂枝、良姜、延胡索、縮砂などと併用    EX、安中散

A健胃作用 
  消化不良を治す
  冷えによる腹部膨満感を消化管内ガス排除によって改善。

    生姜、厚朴などと併用

B鎮痙作用、鎮痛作用
  冷えによる消化管のれん縮性疼痛を軽減
  寒冷にさらされて腰痛又は坐骨神経痛が発症したときに適用。

C白帯下に用いる
  四肢外表の冷えによる寒湿白帯下に用いる。
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小麦

@鎮静・緩和効果

  甘草、大棗、と配合してヒステリー状態の神経症に。
                  EX、甘麦大棗湯
A制汗効果

  自然発汗、寝汗に適用。
                                   このページのトップへ

升麻

@抗化膿性炎症効果
 口内炎、扁桃炎、咽頭炎など身体上部の化膿性炎症に適用。
    歯痛       EX、立効散 加味清胃散
    副鼻腔炎     EX、辛夷清肺湯
    咽喉痛 
 
A弱い発汗・解熱効果。
 解毒、透疹に用いる。麻疹の初期で発疹が遅いときに。
   葛根などと配合       EX、升麻葛根湯

B鎮痛効果
 頭面部の疼痛で風熱の症状があるときに用いる。

C筋緊張増強効果
 内臓下垂症、脱肛・子宮脱のような臓器ヘルニアなどに
   黄耆、柴胡などと配合。     EX、補中益気湯
                                   このページのトップへ

蜀椒

@熱性
 主に腹部を温め、寒証の腸管の痙攣性疼痛に平滑筋のれん縮を緩和して鎮痛する。
 寒冷刺激による腹痛、嘔吐などに。お腹を温めて腸蠕動の亢進を抑制し腹痛を止める。

     →乾姜、人参、膠飴       EX、大建中湯

 蜀椒は胃粘膜に対する刺激性が強く
 胃液の分泌を亢進させるため、膠飴を入れて緩和する。

 一方熱証の平滑筋のれん縮には芍薬を用いる。

A局所麻酔効果
                                   このページのトップへ

辛夷

@温性。

A鼻閉塞寛解効果
  副鼻腔炎、慢性鼻炎による頭痛、鼻づまり、膿性鼻汁等に効果
  鼻粘膜の浮腫を軽減する。
              EX、葛根湯加辛夷川きゅう
B鎮痛効果
  頭痛に川きゅう、白し、などと配合して適用。
                                   このページのトップへ

地骨皮

@消炎解熱作用
  陰虚の血熱、骨蒸潮熱、盗汗、自汗に用いる。
  結核の末期のように自汗、盗汗のある陰虚の熱に用い、
  発汗を抑えて脱水を防ぐ。

A呼吸器系の炎症に用いる
  気管支炎、肺炎、結核で発熱や咳嗽があり、
  痰が少し粘稠膿性で脱水傾向のある者に用いる。

B体を潤し、脱水を防ぐ
                                  このページのトップへ
 

地竜

@鎮静、鎮痙、解熱作用
  高熱時の痙攣、や四肢の痙攣、脳血管障害による痙攣性麻痺等に用いる。

A気管支拡張作用があり、呼吸困難を治す
  痙攣性咳嗽や気管支喘息に用いる。

B降圧作用

C慢性関節リウマチに用いる
  溶血作用があり、関節や血管内外の凝血塊や血腫を溶解して除く。
                                  このページのトップへ

石膏

@強い寒性。

A消炎解熱作用
  発熱性の感染症で高熱、汗出、口渇、等を呈する者に。
     知母などと併用           EX、白虎湯

B麻黄と配合すると、抗炎症効果とともに利水効果が発現。

  肺熱による咳嗽、呼吸困難、口渇、高熱、気道の炎症に
  充血、腫脹、浮腫を消退させる   例えば越婢加朮湯、麻杏甘石湯など。

    麻黄−石膏は滲出性炎症による浮腫を治す。
       麻黄、杏仁などと併用        EX、麻杏甘石湯

C化膿性炎症を治す

  炎症を抑制して膿を希薄にする。中耳炎、蓄膿症等で膿汁の濃いときに用いる。
     桔梗と併用、    EX、桔梗石膏
          連翹、金銀花等と併用することもある
D胃熱の口渇を治す
  胃熱による歯周炎、歯根炎、口内炎を治す。
    黄連、生地黄、牡丹皮などと併用   EX、清胃散

※ 熱証に適用し、内臓の寒証には用いてはならない。
  少量では無効なので、
  ふつう1日量20〜30g、悪寒がなくて高熱の場合は1日量50〜100g使用。
                                  このページのトップへ

川キュウ

@温性。

A血流量増加・鎮痛効果
 主として上半身に作用するが、特に脳循環を増加させるので、
 血管性頭痛や感染症に伴う頭痛に用いる。
 また寒冷刺激による血液循環減少に起因する
 しびれ、筋拘縮、筋痛、運動麻痺などに用いる。

 1)脳や頭部の血流をよくし、頭痛を止める。

      細辛、キョウ活、防風、白シなどと併用      EX、川キュウ茶調散

 2)四肢の血行をよくし、血行障害による四肢のしびれ、麻痺、疼痛に用いる。

      防風、防已、威霊仙、キョウ活、蒼朮などと併用  EX、疎経活血湯

B冠血管拡張・血栓形成抑制効果
       狭心症や冠不全に適用。

      丹参、赤芍などと併用            EX、冠心U号方

C鎮静・鎮痛効果
 精神的ストレスによる胸脇部の膨満感、疼痛に適用。

D月経異常又は微弱陣痛に用いる。
 無月経、稀発月経に用いる(月経過多や出血の多いものには注意する)

E排膿効果
 膿の形成と軟化を促進。
                                  このページのトップへ

川骨

@寒性。

A駆お血効果。
 出血を止め、血管外に漏出した血液を吸収し、
 血液循環を回復して挫傷した組織を修復するなどの効果が期待される。
                     EX、治打撲一方
 また分娩前後の止血の目的で適用。

B利水効果。
 茯苓、白朮、猪苓、木通などと配合して適用。
                                  このページのトップへ

赤芍
@婦人の閉経を通じる作用(活血調経)
             EX、桂枝茯苓丸  キュウ帰調血飲第一加減

A打撲によるオ血(しこり)の痛みを止める(去オ止痛)
 1)オ血やうっ血、血行障害のため知覚麻痺(しびれ)疼痛等のあるものを治す。
   内出血を吸収する。
             EX、調栄活絡湯、 桃紅四物湯
 2)冠不全の狭心痛
             EX、冠心U号方

B血熱による衂血、吐血、子宮出血等を止める(涼血止血)
             EX、犀角地黄湯
                                  このページのトップへ

青皮

@温性。

A健胃効果。

B鎮痙効果。

C鎮静効果
 精神的ストレスを寛解。
                                  このページのトップへ

蒼朮

@温性。

A止痢効果

 急性の水様便性下痢又は消化不良症に適用。
 白朮は胃腸機能が悪く、食欲がない人の下痢に用いる。
 消化管の水分を小便にとり下痢を止める

 脾胃寒湿、食欲不振、腹脹下痢等ある者に
          厚朴、陳皮などと併用  ex.平胃散

B利水効果。

 四肢、躯幹の筋肉、関節の水分を除いて痛みを止める
 悪寒、水症を伴った遊走性の筋肉痛に適用。

 白朮よりも強いが、消化機能を増強する効果はない。関節水腫などに適用。
 風湿、寒湿によって引き起こされた関節や身体の疼痛を治す。

 あるいは、清熱薬を併せて湿熱により引き起こされた腰膝腫痛、麻痺痿弱等に用いる。
          黄柏、牛膝などと併用  ex.三妙散

C外感風寒で悪寒、頭痛、無汗に用いる。
                                  このページのトップへ

桑白皮

@寒性

A消炎、利水、鎮咳作用
 気道の炎症性の咳嗽、呼吸困難に用いて、
 消炎、利尿作用により、気道の炎症と浮腫を除き、鎮咳する。

 1)気管支炎の炎症に伴う濃痰が多量に出るとき

     黄苓、貝母、桔梗、杏仁などを併用   ex.清肺湯

 2)大葉性肺炎

     麻黄、杏仁、石膏、甘草などを併用   ex.五虎湯

B利水利尿作用
 顔面、眼瞼、四肢などの熱証の浮腫に。
 腎炎、ネフローゼ、心不全の浮腫、アレルギー性の急所性の浮腫などに

     茯苓、大服皮などを併用       ex.五皮湯

 また肺水腫で労作時呼吸困難あるいは
 起坐呼吸があり、呼吸時ゼーゼー又はゴロゴロという音がするとき、
 蘇子、又は蘇葉と併用。
 
                                  このページのトップへ

蘇子

@温性。

A鎮咳・去痰、利水作用

 気道粘膜の浮腫を除き、痰の量を減少させて、
 呼吸困難、喘鳴(呼吸時ゴロゴロ音)を伴った吸気性呼吸困難があるときや
 気管支平滑筋の痙攣による咳嗽を鎮静させる。

      半夏、前胡、厚朴、陳皮     ex.蘇子降気湯

B制吐作用。
                                  このページのトップへ

蘇葉

@解熱効果。

A上咽頭神経反射作用。
             ex.半夏厚朴湯  
B鎮静作用。
             ex.香蘇散
C胃粘膜保護作用  
                                 このページのトップへ

蘇木

@駆お血効果。内出血、月経異常に用いる
 
 桃仁、牡丹皮を用いる場合より、お血の症状が強いとき用いる。

     大黄、紅花、などと併用   ex.通導散

A打撲、捻挫による内出血、皮下溢血の腫脹、疼痛に用いる

 打撲、捻挫の重症のときに用いる。
 打撲による内出血を除き、痛みを止める。     

B止血作用
 お血による出血に用いる。断続的、持続的で一般の止血薬が効かない時に。

     ex.痔出血、食道静瘤からの出血など静脈の出血、産後の出血など。

B妊婦には禁忌。
                                 このページのトップへ

蝉退

@抗炎症解熱作用

 風熱感冒に用いる。

A止痒作用

 湿疹、蕁麻疹に用いる。
      防風、荊芥、牛蒡子などと併用  ex.消風散

B鎮痙、鎮痛作用

 抗痙攣作用があるが弱い。
                                 このページのトップへ

大黄

@寒性。

A瀉下作用
 大黄の瀉下作用は、大腸を刺激して蠕動を亢めて排便させる。
 したがって、小腸性下痢と違って栄養の消化吸収を障害しない。 
1)慢性便秘
   +甘草、芒硝など ex.桃核承気湯

2)老人の腸燥便秘
   +当帰、地黄、桃仁、麻子仁、枳殻など ex.潤腸湯、麻子仁丸

3)熱性疾患の便秘
   +枳実、厚朴  麻痺する腸管を刺激して蠕動を亢め、小腸の通過時間を短縮する。 
           ex.大承気湯

B消炎作用、抗化膿性炎症
 発熱性の炎症性疾患に適用。
 また抗菌作用があるので化膿性炎症にも有効。

C止血効果
 充血を抑制し、毛細血管の透過性を抑える作用があるので、
 頭部、顔面など体上部の充血によるめまい。出血
(脳出血、結膜充血、眼底出血、発狂、鼻出血、歯肉出血など)に適用。

D血液循環障害改善効果
 打撲による皮下溢血、血腫などに適用。
 骨盤内充血を除去するので月経困難症、無月経などにも適用。

  お血を去り月経を通じる(逐お通経)
  お血による無月経、打撲損傷に用いて、腹中の血行をよくし骨盤内に充血を起こす。
     +桃仁、紅花、蘇木など ex.桃核承気湯、通導散

E利胆効果
 急性肝炎、胆石症などによる発熱を伴った黄疸に適用。

F長時間煎出すると瀉下効果が低下する
                                 このページのトップへ

大棗

@温性。

A健胃
 胃腸の働きをよくする
 胃腸虚弱で下痢しやすい者に用いる。

B鎮静効果
 甘草、小麦と配合してヒステリーに用いる。 ex.甘麦大棗湯
 
C緩和効果
 甘草の効果に類似。
 半夏の副作用(強烈な舌のしびれ感、咽喉の刺激感など)を軽減する。
 生姜も同じく半夏の強烈な舌のしびれ感、咽喉の刺激感などを軽減する。

D潤燥効果
 体内水分量を保持し、脱水症を防止。
                                 このページのトップへ

大腹皮

泌尿器系と消化器系とを通して、体内の貯留水の排出を促進。

@消化管の痙攣を止め、蠕動を正常化して停滞した内容物を排出する作用と、
  消化管の余分な水を利尿して下痢を止める。

      +カッ香、厚朴、陳皮、白朮、茯苓などと併用  ex.カッ香正気散

A利尿作用(利水消腫) 小便不利や脚気腫満、腹水等に用いる。

   肝硬変のような静脈系のうっ血を伴う腹水には
   利水の薬の他に活血化オの薬物を配合する。

      +紅花、牡丹皮、当帰などと併用        ex.分消湯血鼓加減
                                 このページのトップへ

沢瀉

@寒性。

A消炎利尿作用。

  熱証による口渇を寛解し、浮腫には顕著な利水効果が認められる。
  消化管の水を尿として排出し下痢を止める。水腫を治す。
         +猪苓、白朮などと併用  ex.五苓散

  また頭に帽子などをかぶったような感じがしてめまいするときに用いる。
         +白朮などと併用     ex.沢瀉湯

B肝脂肪減少効果

  脂肪肝に適用。
                  このページのトップへ

丹参

@冠動脈拡張・血栓形成抑制
  血行をよくし、オ血による痛みを止める。

 1)狭心症に使用する。
   抗凝血作用、冠動脈の拡張作用、冠血流量を増加させる。
    +川キュウ、紅花、赤芍など   ex.冠心U号方

Aオ血による月経障害、月経痛、産後の障害を除く。

B神経症の不眠、頭痛等に用いて鎮静作用がある
    +拍子仁、酸棗仁、遠志、茯神など ex.天王補心丹

C丹参一味で四物湯と同じ作用がある
                                 このページのトップへ

知母

@寒性。

A消炎作用 (清熱化湿) 陽明病、気分証等の高熱、煩渇に用いる。

          石膏などと併用。ex.白虎湯

 湿熱の皮疹に用いる  抗炎症作用として働く。

          苦参、石膏、地黄などと併用。 ex.消風散

B解熱作用(滋陰退熱)

 手足のほてり、盗汗、腰下肢がだるく痛むなど、陰虚火旺の症状を治す。
          黄柏などと併用。 ex.知柏地黄丸

 口渇を治す、脱水を防ぐ(生津止渇)
   熱病による多汗などで脱水して口渇するのを防ぐ作用がある。

 午後になると微熱を示すときに適用。

 肺熱の咳嗽、呼吸困難を治す(潤肺止咳)

C鎮静作用

 神経症、遺精などに適用。

D副作用

 軟便又は下痢便になることがある。
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地楡

@止血作用(涼血止血)
 一般に下半身の出血(消化管潰瘍による下血、痔出血、血尿、不正性器出血など)
 に適用するが、鼻出血、喀血などにも有効。

  熱証の出血、特に血便に用いる。

    ex.痔出血に用いる(消炎止血作用)

          +当帰、防風、黄ゴンなど ex.槐角丸

A収斂作用

 消化管に対し止血・止痢的に作用。熱証にも適用。
                                 このページのトップへ

丁香

@温性

 胃部を温める。

A血液循環促進作用

 脳動脈硬化症、脳梗塞あるいは老年痴呆などで
 著しい健忘症状や情動の異常が認められるとき、
 補中益気湯に木香と共に加味して適用すると脳の血液循環を改善する。

B制吐効果

 寒証の嘔吐、腹痛などに適用。

C鎮痙作用

 消化不良症、急性胃腸炎等で冷えて腹痛するものを治す。
 寒証の嘔吐、吃逆(しゃっくり)、吐乳等を治す。

      +柿蒂、人参、生姜など  ex.丁香柿蒂湯
                                 このページのトップへ

釣藤鈎

@降圧作用 鎮静作用

  高血圧に伴う、頭痛、めまい、ふらつき等を治す。

   +菊花、防風、石膏、半夏、陳皮、茯苓など ex.釣藤散

A鎮静、鎮痙(抗痙攣)作用

  高熱時の痙攣(熱性痙攣)、憤怒痙攣、てんかん、チック症等に使用する。
  鎮静作用により不眠症(イライラして寝付きが悪い者)にも使用される。

   +柴胡、茯苓、半夏、陳皮など ex.抑肝散加陳皮半夏

 ※長時間煎出すると効果が低下するので、他の配合生薬の煎出終了5分前ぐらいに
  煎出液に加えて短時間煎出することが望ましい。
                                 このページのトップへ

猪苓

@利水作用

  胃腸管の水や組織の水腫を尿として排出することにより、下痢を止め水腫を治す。

     +沢瀉、白朮、茯苓など ex.五苓散

A消炎利尿作用

  腎臓結石、尿路結石、膀胱炎等で利尿を必要とするときに用いる。
  湿熱によらず燥熱によらず熱や炎症のある場合尿は少なく濃くなる。
  このとき、尿量を増加させて尿の浸透圧を低下させてやる目的で猪苓を用いる。

     +茯苓、沢瀉、滑石など ex.猪苓湯

   ※ 吐瀉が激しいときには体内の水が消化管に移動して脱水状態となり、
     口渇のためしきりに水を飲むが、吸収されないで嘔吐や下痢する。

  利尿効果は沢瀉、木通に優り、浮腫又は水症に対しては顕著。
                                 このページのトップへ

陳皮

@温性。

A消化管機能障害改善作用

 胃腸の緊張を除き運動をスムーズにし
 胸のつかえ、心窩部圧迫感、腹部膨満感、悪心、げっぷ、放屁
 などの消化不良の症状に枳実、厚朴、木香などと併用。

 血色が悪く、気力や食欲がなくて疲れやすい傾向があるときには、
 黄耆、人参、白朮などと配合。

 また他薬による胃障害の副作用防止のために、しばしば処方で配合される。

     下痢、腹痛を伴う消化不良に
              +蒼朮、厚朴など ex.平胃散

B抗カタル効果  (カタルは粘膜の滲出性炎症)

 胃カタル又は気管支カタルに伴う多量の粘液を除去して、
 悪心、嘔吐を抑制したり、多量の粘稠な白痰の喀出を減少させる。

 半夏、茯苓、生姜と配合して用いる
                     ex.二陳湯、参蘇飲

    半夏が粘液を溶解し、茯苓がこの溶解した粘液を吸収する。

    半夏の鎮咳去痰作用を茯苓、陳皮、生姜が補う。

C弱い発汗効果

 軽症のかぜに適用。
   ※作用は概して緩和であるので、処方の主薬となることはない。
                                 このページのトップへ

冬瓜子

@寒性。

A利尿効果

  尿量減少、浮腫、腹水などに適用。

B抗炎症・排膿効果

  内臓の化膿症に適用。

C弱い去痰効果

  肺又は気道の炎症に適用するが、カロニンの効果に劣る。
                                 このページのトップへ

当帰

@温性。月経異常に用いる

  血虚補充効果。血流をよくして子宮の発育を促す。子宮筋の痙攣や収縮を弛緩させる。

  ex.生理不順、月経痛、閉経等を治す。

          +川キュウ、白芍、地黄など ex.四物湯
A血流量増加効果

 主として下半身及び四肢末梢に作用し血行をよくし、腹部や四肢を温め、疼痛を軽減する。

 例えば子宮あるいは小動脈のれん縮を緩和するので
 閉塞性血栓血管炎、糖尿病性壊疽などの疼痛に適用。

 打撲等により内出血、腫張、疼痛があるとき、
 また、うっ血や内出血があり、胸腹部が膨満して便秘するときに大黄と併用。

 他の活血化オの薬物を配合してオ血を除く。

         +紅花、蘇木、大黄など ex.通導散

B浸透性緩下効果

  当帰は油を多く含むため、腸管内に水分を溜めて大便を軟らかくする。

         +桃仁、杏仁、麻子仁、大黄など ex.潤腸湯

C排膿・肉芽増殖促進効果。  化膿性炎症、潰瘍の治療に用いる

  炎症による血流のウッ滞を除き、排膿を助ける。

         +黄耆、人参、肉桂など ex.千金内托散
                                 このページのトップへ

桃仁

@駆オ血効果。月経困難症、無月経、月経閉止などに適用。

  なんらかの原因によって月経が閉止し、また過少月経となり、そのため生理痛
  (腹痛、腰痛)、自律神経異常のような症状、頭痛、顔面がのぼせて赤柴色となり、
  足腰は冷え、冷えのぼせになったり、不眠やイライラなど更年期障害の症状、
  血の道症といわれるような症状を呈するときに用い、下血させると症状が消失する。

         +当帰、川キュウ、赤芍、地黄、紅花など ex.桃紅四物湯

 また打撲直後の皮下溢血・漿液の漏出または外傷による内出血に用いると、
 漏出した血液を吸収して痛みを緩和する。

         +当帰、赤芍、紅花、大黄など ex.調栄活絡湯

A粘滑性緩下効果。 脂肪油で糞便を軟化し、排出を促進。

  老人の便秘のように水分が少なく、大便が乾燥して便秘するとき。

         +当帰、地黄、麻子仁、大黄など ex.潤腸湯

B抗炎症・排膿効果。   化膿性炎症に適用。

  1)気管支拡張症、慢性気管支炎、肺気腫等に急性の感染症が起き、膿痰が出る。
    そして血痰が混ざるとき肺ヨウと呼んだ。これに用いる。

         +芦根、ヨクイニン、冬瓜子など ex.葦茎湯

  2)直腸周囲膿瘍、前立腺炎、骨盤腹膜炎などは腸ヨウと呼んだ。
    桃仁は消炎、駆オ血効果、排膿作用があると考えられ、これに用いる。

         +冬瓜子、牡丹皮、ヨクイニン、大黄、芒硝など ex.大黄牡丹皮湯

C熱病の精神異常に用いる

  少腹が張満し、大便が黒く、小便がよどんでいるときに大黄や芒硝を配合する。

         +桂枝、大黄、芒硝など ex.桃核承気湯

D成人の1日量として10gを越えないようにしたようがよい。妊婦には禁忌。
                                 このページのトップへ

独活

@風湿の水除去・鎮痛効果

  筋肉、関節などの湿証、水滞による疼痛、運動制限、しびれ感、感覚消失などに。

  筋肉は痙攣して重だるく、関節が腫れ痛む、
  特に、項背部の筋肉や下半身の関節の余分な水分を除き痛みやしびれを止める。

  肩こり、肩関節周囲炎や四肢の骨、関節、筋肉などの老化現象、老化による腰痛に。

A発汗解熱作用

  風寒感冒、頭痛、身痛に用いる。
  血管を拡張して血行をよくし、発汗解表、鎮痛作用などがある。

      +荊芥、防風、キョウ活など ex.荊防敗毒散、十味敗毒湯

  ※キョウ活は主として上半身の症状に、独活は主として下半身の症状に用いる。
                                 このページのトップへ

杜仲

@温性。

A筋肉や骨格を補強するために配合し、腰痛症などに適用。
  老化に伴う腰痛に用いる、腰や筋肉を強くする作用がある。

  下肢が軟弱で力がない、めまい、インポテンツ、頻尿等ある者に。
  
        +牛漆、桑寄生、続断、独活、キョウ活など ex.独活寄生湯

B安胎(流産防止)作用

  妊娠中の出血や切迫流産に用いる。

C降圧作用
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土別甲

@寒性。

A鎮静効果。

B抗潰瘍効果。

C癒着除去効果。

D腫瘤縮小効果。
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人参

@消化吸収機能をよくして元気をつける

疲労回復効果 手足がだるい、過労、衰弱している時などに適用。

 胃腸の働きをよくして消化吸収機能を亢め元気をつける。
 食欲不振を改善し、消化・吸収・同化促進作用

      +白朮、茯苓、甘草など   ex.四君子湯、補中益気湯

 心窩部のつかえ・痛みまたは胸痛などが認められるときに適用。

A元気を補う、大出血後のショック状態に用いる

 大出血、大発汗、吐瀉後のショック状態に用いる
       (脈沈微細、四肢厥冷、自汗等を呈する)

      +附子など         ex.独参湯、参附湯

B肺気を補い息切れがして苦しく動けなくなり、よく自汗が出るという者に用いる。

      +白朮、茯苓、甘草、蘇子、桑白皮など ex.喘四君子湯

C体内の水分を保ち、口渇を防ぐ

 体内に水分が少なくなり、口が渇くときに用いる(脈が細く触れにくいとき)

 ・・・・熱性疾患で脱水したとき等。

      +麦門冬、五味子など    ex.生脈散

D精神の安定を図る

 体が衰弱して不安、不眠、心悸亢進して脱力感等あるときに用いる。

      +酸棗仁、遠志など     ex.加味帰脾湯

E貧血症に用いる 造血促進効果
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貝母

@寒性。肺気道の炎症による痰を除く。 抗炎症性鎮咳・去痰効果

 痰の量が少なく粘い、乾咳で痰が切れにくいものに用いる。

 熱のため体の水分が減少して痰が粘くなったものに用いる。

 燥熱痰に用いる。痰の分量を増やし切れやすくする。

  ex.肺結核、慢性気管支炎、気管支拡張症

    +桔梗、甘草、紫苑など        ex.四順湯

A粘痰があり喀出困難で咳に苦しむ者に用いる

 熱を下し、体の水分を保ち、気道を潤して痰を出やすくして咳を止める。

    +連翹、山梔子、知母など       ex.二母散

 気道に炎症のある陰虚体質の者に用いる。
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麦門冬

@乾性咳嗽に用いる
 
 乾咳と稠痰が出、咽や舌が乾燥するときに気道粘膜の分泌を促進して、
切れにくい粘稠な痰を軟化して喀出しやすくする。

 半夏の鎮咳作用を用いるときは、
 半夏の燥性を予防する意味で麦門冬、人参、粳米など体を潤す薬物を加える。

   半夏、人参、粳米などと併用      EX、麦門冬湯

A脱水を防いで体を潤す
 
 熱病や異化作用亢進で体内の水分(津液)が消耗して脱水し、口渇があり、
 舌や口が乾燥するときに、体内水分量を保持して改善。

 生地黄、玄参などの清熱涼血薬を配合して用いる。

   生地黄、玄参などと併用        EX、増液湯

B強心作用

 熱性疾患等で発汗過多により頻脈、血圧低下等のショック症状があるときに用いる。

   人参、五味子などと併用        EX、生脈散

C腸燥便秘に用いる

   生地黄、玄参、大黄などと併用 
                                 このページのトップへ

薄荷

@弱い発汗・解熱効果。

  熱感があって発熱、頭痛、目の充血、咽痛などがある者に用いる。

      +防風、桔梗、甘草などと併用 ex.清涼散

A鎮痛・鎮痒効果

  頭痛、皮膚の掻痒などに適用。湿疹、蕁麻疹に用いる。

B抗炎症効果

  清涼感があって血管を収縮し、充血を除き、腫脹を引かせる。
  炎症性の咽頭部の疼痛、腫脹、頭痛、目の充血に用いる。

      +荊芥、防風、桔梗、甘草、連翹、金銀花などと併用  ex.銀翹散

C鎮静効果

  緊張感、いらいらなどに適用。柴胡の効果に類似。

      +柴胡、芍薬などと併用 ex.逍遥散
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半夏

@温性。

A鎮咳効果

半夏は中枢性の鎮咳作用(リン酸コデイン類似作用)と、
粘液を溶解する作用があり、気道の喀痰を溶解して痰の喀出を容易にする。

咽頭などからの刺激による反射性咳嗽に適用。

  1)鎮咳作用

   麻黄、五味子などと併用    ex.小青竜湯
    麻黄は痙攣性の咳嗽を止める作用。
   
  2)去痰作用

   陳皮、茯苓などと併用     ex.二陳湯、半夏厚朴湯
湿痰の多い咳嗽を止める作用があり併用。

B鎮嘔制吐作用

中枢性の鎮嘔作用、吃逆を止める作用。
カタル性の悪心・嘔吐、つわりなどに適用。

  1)胃寒、痰飲嘔吐に
   生姜、茯苓などと併用     ex.小半夏加茯苓湯
 
  2)慢性胃炎・・・・胃カタルを治す
   陳皮、茯苓、人参、白朮などと併用  ex.六君子湯

C副作用

 単独で使用すると、舌のしびれ感、咽喉の刺激感などがある。
 これらは乾生姜を配合して煎出することによって防止できる。
                                 このページのトップへ

白し

@温性。

A発汗解熱作用、鎮痛作用

 1)感冒頭痛に使用する。

    きょう活、防風、川きゅう      EX、川きゅう茶調散

 2)風湿による関節痛、筋肉痛を治す。

    防風、きゅう活、威霊仙     EX、疎経活血湯

B膿の水分や組織の浮腫を除き燥かす作用

 膿を軟化、排膿する
 腐肉を排出し、肉芽を増殖して治癒させる作用がある。

    黄耆、当帰、川きゅう、肉桂   EX、千金内托散

C鎮痛・鎮痒効果

 頭痛、顔面痛、歯痛又は皮膚の掻痒などに。
                                 このページのトップへ

白朮

@温性。

A胃腸の働きをよくし、食欲を増進し、消化をよくし、健胃薬となる。

    人参、茯苓、甘草 などと併用     EX、四君子湯

B急性吐瀉、胃カタルを治す

 嘔吐、下痢、腹痛、胃の粘液性炎症(カタル)を治す。

    人参、乾姜、甘草 などと併用     EX、人参湯

C利尿作用(利尿消腫)

 茯苓と配合して組織や消化管内の貯留水を除き、
 循環血液中への移動を促進する、浮腫、胃部浸水音、慢性下痢に適用。

    茯苓、猪苓、沢瀉 などと併用     EX、五苓散

D表虚の自汗を止める(固表止汗)

 疲労やわずかな動作での発汗や、寝汗をかきやすいときに黄耆と併用。

    黄耆、防已 などと併用        EX、防已黄耆湯

    黄耆、防風 などと併用        EX、玉屏風散

E安胎の効がある

 妊娠中の水腫、流産の予防に用いる。

    当帰、川きゅう などと併用      EX、当帰芍薬散
                                 このページのトップへ

檳榔子

@温性。

A利尿、瀉下作用

 瀉下と同時に体内、腹水、関節内の水を排出する。

 浮腫の強い脚気や衝心に用いる。

    大黄などと配合        EX、九味檳椰湯

B大腸の運動機能異常(ジスキネジー)を治す。

 便秘するとき、便通がないため、腹が張り、腸内容が停滞するときに用いる。
 また、排便後の後重するものを治す。

 悪心、嘔吐、胃腸のれん縮痛、しぶり腹などには、
 枳実、厚朴、陳皮、木香などと配合する。

C駆虫効果

 条虫症などに。
                                 このページのトップへ

茯苓

@利水作用

 白朮と合わせて用いられることが多く、貯留した間質液、
 関節腔内の滲出液、消化管内の水などを循環血液中へ移動させる。
 利尿効果は沢瀉、猪苓、木通に劣る。

 1)尿量が少なく、水分が体内や消化管内に滞り、
   浮腫、胃内停水、嘔吐、下痢等がみられるとき使用する。

      白朮、猪苓、沢瀉などと併用      EX、五苓散

 2)頭眩、めまい、身体動揺感等に用いる。

      白朮、桂枝、甘草などと併用      EX、苓桂朮甘湯

 3)筋肉内の水を除く、またピクピク動くのを止める。

      防已、黄耆などと併用         EX、防已茯苓湯

A消化管内の水を除き、胃腸の働きをよくする。

 胃内停水や腸の水を血中に引き込んで
 下痢を止めるとともに、胃腸の働きをよくする。

      人参、白朮、陳皮などと併用      EX、参苓白朮散

B鎮静、精神安定作用、心悸亢進を治す

 動悸を伴う浮腫のある者に用いる。桂枝−甘草に強心利尿作用があり、
 茯苓、牡蛎に鎮静作用があり、これらを併せて心悸亢進や不整脈を治す。

      桂枝、甘草、牡蛎などと併用    EX、苓桂朮甘湯、
                         柴胡加竜骨牡蛎湯
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炮附子

@熱性
 アドレナリンβ様作用
 (糖・脂質代謝促進の結果、熱産生が増加し、身体を温める)に基づく。
 主として四肢などの末梢を温めるが、腹部も温める。

A強心利尿作用

 身体機能が衰弱して水分代謝が低下している者に用いる。

 1)うっ血性心不全による浮腫を治す。

      茯苓、沢瀉、肉桂などと併用     EX、八味丸

 2)冷えて、下痢、腹痛して尿量少ない者や
   皮下に水が溜まって浮腫のある者を治す。

      白朮、茯苓などと併用        EX、真武湯

B手足の末梢を温め、痛みを止める

 新陳代謝機能の衰退による著しい寒証や、寒冷のため極度に冷えて、
 四肢の筋肉が痛むとき、または冷えて神経痛や腹痛が認められるときに
 新陳代謝を盛んにして熱を産生し、
 更に血管を拡張し血行をよくして四肢の冷えを温め痛みを止める。

      桂枝、甘草、白朮などと併用     EX、桂枝加朮附湯

C近年は使われないが、昔はショック状態に用いられた。

 附子は強心作用があり、大汗、大出血、大吐瀉、失血などの後の
 顔面蒼白、呼吸微弱、脈微弱、血圧低下、冷汗があり、
 チアノーゼ、四肢厥冷等を呈する、急性循環不全に用いる。

      乾姜、甘草などと併用        EX、四逆湯

D副作用

 微量のアコニチン系アルカロイドに感受性があって、服用後四肢のしびれ、
 めまい、心悸亢進、胸内苦悶などが認められるときには、
 苓桂朮甘湯加香附子、牡蠣。
 なお、本生薬の購入時、アコニチン系アルカロイドの残存量を
 購入先から確認しておく必要がある。
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防已

@寒性。

A利水作用(利尿消腫)
  
  1)浮腫や関節水腫に用いる。特に下半身に浮腫の強い者で、
    膝関節の水腫、しびれ、腓腹筋の握痛
    および身体が重いものに用いる。漢防已か木防已を用いる。
    
    +黄耆、茯苓 などと併用  ex.防已茯苓湯

  2)心不全で肺水腫の者

    +人参、桂枝、石膏などと併用  ex.木防已湯

B風湿による関節痛に用いる
  
  風湿で脈浮、悪風のある者、湿の者(水太り)が風邪を引いたとき、
  あるいは関節炎、リウマチ、筋肉痛のある者に用いる。

   +朮、黄耆 などと併用  ex.防已黄耆湯

※鎮痛、抗炎症作用には清風藤を用いる。(エキス剤の防已は清風藤) 
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防風

@温性。

A弱い発汗解熱作用

  外感病に用いて発汗して表証を除く。
  辛温解表薬なので風寒の表証に用いるが、
  風熱、風湿の表証にも用いられる。
  
    荊芥などと併用 ex.荊防敗毒散

B鎮痛・鎮痒効果

  頭痛、四肢関節の疼痛・腫脹又はや化膿症の初期などに適用。
  
  1)風湿による筋肉や関節の痛みを治す。

      蒼朮、ヨクイニン などと併用 ex.桂枝芍薬知母湯、疎経活血湯

  2)頭痛に用いる。

      川キュウ、白シなどと併用  ex.川キュウ茶調散

C皮膚の掻痒や化膿症の初期などに適用。止痒作用

  湿疹、蕁麻疹のソウ痒を治す。

      荊芥、薄荷などと併用  ex.消風散

D止瀉作用。下痢、腹痛を止める。

      白朮、芍薬などと併用  ex.痛瀉要方
                                  このページのトップへ

樸そく

鎮痛・鎮痒・抗炎症作用
 
  打撲などによる骨や筋肉の疼痛、
  または湿疹・皮膚炎に適用。
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蒲公英

@寒性。

A抗化膿性炎症作用。

  1.  疔、ヨウ、乳腺炎、肺ヨウ、腸ヨウ等化膿性炎症に用いる。

      金銀花、連翹などと併用    ex.五味消毒飲

  2.目の炎症に用いる

B乳汁分泌促進作用。
                                  このページのトップへ

牡丹皮

@消炎解熱作用(清熱涼血)

  抗炎症作用があるため、発熱や局所の炎症にも用いる。

  1)陰虚の発熱や異化作用亢進による発熱に用いる。

       地黄、山茱萸 などと併用 ex.六味丸

  2)肝経の欝火による月経不順、月経痛、めまい、
    脇痛やオ血による手掌、足蹠の灼熱、口唇の乾燥等に用いる。

       柴胡、山梔子などと併用 ex.加味逍遥散

A閉経、打撲、捻挫に用いる

  打撲による皮下溢血・腫脹やオ血による月経閉止などに適用。

  閉経、打撲、捻挫による内出血、うっ血や痛みを治す。
  炎症性の腫張を冷やして腫れ痛みを引かせる。
  動脈を収縮して充血を抑える。

     桃仁、赤芍、桂枝などと併用 ex.桂枝茯苓丸

B抗化膿性炎症

  虫垂炎(腸ヨウ)や皮膚化膿症に用いる。

     桃仁、ヨクイニン、大黄などと併用 ex.大黄牡丹皮湯

C消炎止血作用

  炎症性の出血、熱病の出血斑、吐血、衂血等に用いる。
                                 このページのトップへ

牡蛎

@止汗作用。 自汗、盗汗を止める。

    +黄耆、麻黄根などと併用

A鎮静作用、抗不安作用

  鎮静作用があり、動悸、不安感、不眠等の症状を鎮め、落ち着かせる。
  このため不安神経症、心臓神経症等に用いられる。

  +桂枝、甘草、茯苓などと併用 ex. 柴胡加竜骨牡蛎湯 or 柴胡桂枝乾姜湯

B鎮静、鎮痙作用

  熱病のため体が衰弱して、めまい、ふらつき、筋の痙攣などを呈する者を治す。
  また、高血圧症で頭痛、めまい、ふらつき、耳鳴り、不眠等ある者に用いる。

  +竜骨、石決明、牛膝、釣藤鈎などと併用

C腫瘤を軟化させる(軟堅散結)

  頚部腫瘤(頚部リンパ腺炎、甲状腺腫)、腹部腫瘤(肝脾腫大)等に用いられる。

  +鼈甲、芍薬 などと併用 ex.緩ゲン湯(=柴胡桂枝乾姜湯加鼈甲芍薬)

D夢精、不正性器出血、帯下等に用いる。

  +竜骨、桂枝などと併用 ex.桂枝加竜骨牡蛎湯

E制酸作用。胃酸過多症、胃潰瘍などに

  +良姜、延胡索、小茴香、縮砂 などと併用 ex.安中散
                                 このページのトップへ

麻黄

@温性 熱産生促進。

A発汗解表作用  体を温めて発汗を促す。

  桂枝など、皮膚の血行をよくして体を温める薬と
  合わせて用いると発汗作用が強くなる。  ex.葛根湯、麻黄湯

  主に表寒実証
  (発熱、悪寒、脈浮緊、頭痛、肩こり、関節痛等ある者)に用いる。

B利水作用(利水消腫)

  利水作用によって体の過剰な水分を除く作用がある。

  麻黄−石膏で消炎利水作用があり、滲出性炎症による水腫を治す。
                    ex.麻杏甘石湯、越婢加朮湯

  そのほか、身体の浮腫や関節の水腫、気道粘膜の浮腫を除く。
  胸膜炎の胸水、心膜炎の心膜水腫、関節水腫などに適用。
 
C気管支拡張作用(宣肺平喘)

  気管支平滑筋の痙攣(呼吸困難)に対して
  気管支を拡張するエフェドリン類似作用がある。
  気管支喘息や痙攣性の咳に用いられる。
         甘草などと併用 ex.甘草麻黄湯、麻杏甘石湯

D副作用
 1)発汗作用があるため、
   汗の出やすい人や暑い時期に用いると発汗過多を起こすことがある。
 2)エフェドリン等興奮性の物質を含むため、
   心悸亢進、不眠等を起こすことがある、ときに排尿困難。
 3)胃を障害して食欲をなくすことがある。

  芍薬甘草湯などの服用あるいは合方によって防止又は軽減できる。
                                 このページのトップへ

麻子仁

@瀉下作用(潤腸通便)

  腸の蠕動運動が低下して
  腸管の水分が減少したために起きる老人の腸燥便秘に用いる。

   杏仁、枳実、大黄などと併用  ex.麻子仁丸

   当帰、地黄、桃仁、枳殻、大黄などと併用  ex.潤腸湯
                                 このページのトップへ

木通

@寒性。

A消炎利尿作用

  尿道炎、膀胱炎などで、排尿困難、排尿痛、頻尿等伴うものに用いる。
  
       茯苓、沢瀉、車前子、滑石などと併用 ex.五淋散

B浮腫を治す

  筋肉、四肢、関節内などの貯留水を除去し、
  筋肉の痙れん、四肢及び関節の痛、麻痺感、運動麻痺などを寛解。

       猪苓、沢瀉、桑白皮などと併用

C乳汁分泌促進効果。
                                 このページのトップへ

木防已

@寒性。

A利尿効果

  うっ血性心不全に適用。

B抗炎症・利尿効果

  リウマチ性関節炎、変形性関節症に伴う炎症性関節水腫に適用。
                                 このページのトップへ

木瓜

@温性。

A風湿による下肢の筋肉痛を治す。利水・抗痙れん効果。

  組織の水分を血中に吸収して風湿による下肢の筋肉痛(こむらがえり)や関節痛を治す。

  1)慢性関節リウマチ

    独活、秦ギョウ、威霊仙などと併用   ex.舒筋立安散

  2)こむらがえり(腓腹筋の痙攣)による下肢痛(舒筋止痙)

    檳ロウ子               ex.九味檳ロウ湯加木瓜

B霍乱の嘔吐、下痢に用いる

  腹中を温め、消化管の水分を血中に吸収して下痢、嘔吐を止める。

    附子、白朮、茯苓などと併用      ex.実脾飲
                                 このページのトップへ

木香

@温性。

A鎮痙効果

 寒冷刺激又は精神的ストレスによる
 胃腸の過度の緊張、機能異常などに基づく腹痛に。

  平滑筋の痙攣を緩め腹満、腹痛を止める。
  胃腸が寒冷の刺激を受けて、蠕動亢進、分泌促進のある場合、
  これを温めて痙攣性の痛みを止める。
  胃腸の弱いものがお腹をこわして嘔吐、下痢、腹痛する場合、
  木香は腹痛、下痢を止める。
  
     人参、白朮、茯苓、甘草、カッ香などと併用 ex.銭氏白朮散

B健胃・整腸効果 心窩部の膨満感又は蠕動を抑制するのでしぶりなどに。

細菌性下痢の腹痛、裏急後重を治す

  大腸性下痢(大腸カタル)に用いる。
  消炎作用のある黄連、黄ゴン、黄柏と、
  腹痛を治す木香、芍薬、甘草、厚朴、ビンロウ子、枳殻などとを組み合わせる。
  黄連、黄ゴン、大黄、ビンロウ子、芍薬、甘草などと併用 ex.行和芍薬散

胃の働きをよくする

  消化不良、食欲不振に用いる。
  人参、白朮、茯苓、半夏、陳皮、縮砂などと併用 ex.香砂六君子湯

C血管を拡張して血行をよくする

  冠状動脈硬化症による狭心症や脳血管障害の後遺症等に用いる。
                                 このページのトップへ

益母草

@子宮収縮と止血作用(妊婦には禁忌)

  血滞による月経不順、月経前に少腹張痛し月経量の少ない者に用いる。

  当帰、赤芍、川キュウなどと併用 ex.キュウ帰調血飲

              月経困難症、月経不順、無月経などに適用。

A産後血滞腹痛、外傷後オ血をなして痛む者を治す

  産褥期又は産褥後の各種障害、静脈瘤性症候群、

  当帰、白芍、香附子などと併用

B利水作用、血圧降下作用(利尿消腫)

  腎炎の浮腫、血尿、高血圧に使用する。
                                  このページのトップへ

ヨクイニン

@利水作用(利尿消腫)

A関節炎による疼痛、浮腫を治す
  
  筋肉リウマチ、リウマチ性関節炎等に用いて浮腫、疼痛を緩解する。

  麻黄、甘草、杏仁などと併用 ex.麻杏ヨク甘湯

B抗炎症排膿作用 化膿症で膿汁が希薄で多量のときに。水いぼに適用。

  1)肺ヨウ(肺化膿症、気管支拡張症)・・・・・・嘔吐、膿痰。

    芦根、冬瓜子、桃仁などと併用   ex.葦茎湯

  2)腸ヨウ(虫垂炎、直腸肛門周囲膿瘍)

    牡丹皮、敗醤などと併用  

C皮膚の角化抑制効果

    炎症性又は角化症、限局性又は汎発性強皮症、疣贅などに適用。

D腸管内貯留水の排泄を促進するので下痢を抑制する。

    人参、白朮、茯苓などと併用   ex.参苓白朮散
                                  このページのトップへ             

竜骨

@鎮静効果     牡蛎と同じように用いる。

  めまい、不眠、耳鳴り、臍下の心悸亢進(動悸)などに適用。
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竜胆

@寒性。消炎解熱作用

A抗炎症・利胆作用

  肝炎、胆嚢炎並びに泌尿器、生殖器などの炎症、
  膀胱炎、尿道炎、急性結膜炎(肝胆実火)等に用いる。

  目の充血、腫張、口が苦い、難聴、脇痛等あり、
  イライラ怒りっぽい等肝火の症状を治す。

      山梔子、柴胡、黄ゴンなどと併用   ex.竜胆シャ肝湯

  黄疸を治す    インチンコウ、黄柏などと併用

B化膿性炎症に。淋濁、帯下(黄色)に用いる。

C健胃作用。
                                  このページのトップへ             

連翹

@化膿性炎症に効果    皮膚化膿症など化膿性炎症に用いる。

  金銀花、蒲公英などと併用

A解熱作用      発熱性疾患、膿皮症などに適用。

  発熱、熱感、頭痛、咽喉通等を伴う感冒などの風熱表証の解表に用いられる。

  荊芥、金銀花などと併用    ex.銀翹散
                                   このページのトップへ             

漢方処方解説



  より良い治療法を求めて、漢方治療に関心をもつ医師や薬剤師は少なくない。

  しかし、現在日常の診療に従事されていて、
  いまさら、基本的勉強が大切だから「傷寒論」だ「金匱要略」だ「中医学」だといっても
  日暮れて道遠しの感をもたれる医師や薬剤師も多いと思われる。

  本当に知りたいのは、日常の自分の診療体系のなかの不得意な部分を、
  漢方製剤をどう使って、どうカバーするかということなのでしょう。

  そして、
  漢方や中医学専門でなくても、また、「漢方の証」や「腹証」や「中医学」などを知らなくても
  だからといって漢方方剤が使えないとは思われない。

  もちろん、ある程度の基礎知識は必要です。

  必要な基礎知識というのは従来の日本漢方や中医学ではなく、
  できるだけ正確な疾病の認識と病態生理を知り、
  そして個々の生薬の薬効と生薬の組み合わせにより生まれる薬効を知り、
  病態にあった漢方処方を知る、 ということです。



  厳密には同一の病人は二人とはいない。
  しかし、群を対象とするときには、処方を固定しなければならない。

  オーダーメイドの個人に合わせた漢方処方がタクシーで自宅まで送りとどけるようなものなら
  レディースメイドの固定された漢方製剤は、鉄道やバスで自宅の近くまで送るようなものです。

  処方を固定した場合には、合方や加減法は非常に大切です。

  葛根湯は辛温解表剤ですが、
  石膏を加えると辛涼解表剤となり、傷寒から温病まで広範囲に使える。

  辛夷と川を加えると、葛根湯加辛夷川となり
  蓄膿症(副鼻腔炎)に使われます。
  辛夷は鼻粘膜の浮腫を治し、川は頭痛を止めます。

  鼻炎や蓄膿症のため鼻粘膜が腫れ、
  ポリープができたり、鼻閉があり、嗅覚がなくなったりするときに用います。

  もし膿性鼻汁が多いとき、炎症症状が強いときは石膏や桔梗を加えます。
  
  桔梗には排膿作用があり、石膏は消炎作用が強い。
  
  大黄を加えると抗炎症作用が強くなる。
  濃い膿には石膏を、薄い膿にはヨクイニンを使います。

  五十肩には独活や地黄を加え、
  関節炎の水腫には蒼朮やヨクイニンを加えます。
  
  茯苓や朮、附子を加えて神経痛やリウマチに使うこともあります。

  葛根湯も成分の7つの生薬に固定すると、その応用範囲は非常にせまいものになります。

  この意味では加減の出来ない処方は、交換レンズのない一眼レフのようなものです。
  たとえエキス製剤をつくっても、加減のできるようにしておきたい。

  単なるエキス製剤では売薬と同じで、使える範囲はせまい。
  これを拡大して使うには、現状では、うまく合方していかなければならない。

  ベストではないにしても、エキス漢方にはそれなりのやり方が必要になる。

  現在のエキス処方は製薬会社主導のもので、
  定まった方針がなく無定見につくられたとしか思えない。

  エキス製剤として処方を固定化し、新しい漢方を作るのであれば、
  「エキス漢方にはエキス漢方の道がある」 といいたい。

  ある基本的処方と、これに加えられる単味または複合のエキス剤を
  つくれるように方針をきめた製剤化が大切になります。

  つまり、固定化された漢方エキスには減法をおこなえない欠点があるので、
  合方と加減で組み立てられるような方式をつくるほうがいのです。



  古来、幾星霜を経てなお光を放つ名方は、
  永い間に淘汰され、その中で実証された有効性の高い処方であります。

  既存の処方を中心に加減するか、個々に処方をつくるかは、
  セット旅行と個人旅行のようなもので、いずれにも長短がある。

  はじめは、既存処方を中心にして加減していくのが堅実でしょう。

  この場合、運用する処方の数を多くするか、
  代表的な少数の処方を用いて運用範囲を広くするか、またはその中間か、になります。

  処方を学ぶときには、はじめから数多くを使うことよりも、
  ひとつの処方を十分に使いこなせるまで頻繁に使用し、
  その処方を愛し十分に自分のものにすることが大切だと思う。




安中散

[適応症」
1.胃酸過多に伴う胃の痛み(上腹痛)
  胸やけ、酸水を吐す。
  
  過酸性の胃炎で
  胃、十二指腸潰瘍に伴う胃の痛み、胸やけ、酸水、ゲップや胃液が上がってくる時。

2.冷えて起こる腹痛、腰痛(下腹部から腰に連なって痛む)、冷えによる生理痛、胃痛。

[解説]
 安中散には次の二つの処方がある。
 ・和剤局方
  甘草、延胡索、良姜、乾姜、茴香、肉桂、牡蠣
 ・もう一方
  乾姜を除き、縮砂を加えたもの
 
  乾姜は体を温める。ことにお腹(裏)、内臓を温める薬。
  縮砂はお腹を温める作用もあるが、主な作用は悪心、嘔吐を止める作用である。

[方意]
 延胡索、良姜、甘草、茴香、肉桂・・・・・鎮痛作用があり胃の痛み、胃痛に配合している。
 縮砂、茴香          ・・・・・悪心や嘔吐を止める作用がある。
 牡蠣             ・・・・・制酸作用があるがエキス剤や煎液ではその作用は弱い。
                   牡蠣は末が良い。
 乾姜、良姜、肉桂      ・・・・・温める作用、ことにお腹、内臓を温める。

 従って本方は鎮痛と温裏(お腹を温める)、制酸の作用がある。

[応用]
1.胃の薬として
 a、胃酸過多による胃痛、胸やけ酸水、ゲップ、・・・・・胃酸過多、胃、十二指腸潰瘍
   悪心、嘔吐を伴えば縮砂の入った処方が良い。
 b、胃が冷えて例えば冷たい飲料水、冷たい食べ物をたべて、
   胃が痛む時には
   乾姜の入った処方が良い。

2.お腹の冷えを温める薬(温裏薬)として
  お腹が冷えるのは冷たい飲食物ばかりでなく、
  下肢が冷えると、下肢で冷えた血液が腹に帰って腹部を冷やす。
  下腹部から腰にかけて痛む。
  ガスが腸にたまり、腹痛、腹満、下痢・・・・・、女性では生理痛・・・・・などがおきる。

[注意]
 一般に安中散は、胃酸過多の胃痛、胸やけの処方であると言われる。
 しかし、やせ型で腹部筋肉が弛緩する傾向にあり、・・・・とありますがこれはオカシイ。

 太っていようが痩せていようがそんなことは関係ありません。
 このようなヘンテコリンなことが、日本漢方にはよくありますので注意されたい。
 これは和剤局方に「面黄肌痩、四肢倦怠」と書いてあるからなのかもしれません。
 また、遠年日近とあるように、慢性でも急性でも用いる。
 
 長年悪いと痩せることもありますが、急性では太っていてもかまわない。
 太っているとか痩せているとかではなく、筋肉が弛緩しているとかいないとかでもない。
 
 また、胃酸の多い者は、食欲が減退することは少なく、むしろよく食べる。
 貧血があると面(顔面)は血色がなくなり、黄色人種では面黄(顔面が黄色)になる。
 また冷えた時も面黄となる。
 
 また、神経質であるとか、神経性胃炎を適応症にあげている。
 しかし、これも関係ありません。
 
 浅田宗伯は
 「世の中では幽門狭窄、胃拡張の主薬といっているけれども、
 吐水、嘔吐の進んだものには安中散は効果はなく、
 腹の痛いものを目標に使いなさい」「反胃に用ゆるにも腹痛を目的とすべし。
 また婦人血気刺痛に効あり」と言っている。
 
 日本では昔、乾姜の代わりに縮砂を用いて嘔吐に用いてきた。
 
 胃は食べ物が肛側に向かってスムーズに送られる作用があり、
 嘔吐は胃の働きに反して上にあがってきて起こる。
 
 反胃は嘔吐するものを言う。胃に逆らうもの、胃に反するものの意味です。
 縮砂を加えて嘔吐を抑えるようにしていますが、
 胃拡張や幽門狭窄の吐水、嘔吐の進んだものには効果がない。


胃酸過多の診断と治療

 胃酸過多の人は食欲が平素からある。痛くても食べられる。
 
 夏季、暑いと一般には食欲が低下する。
 胃酸の分泌の多い人は、暑くても食欲はあることが多い。
 
 秋になり一般には食欲が進む。天高く馬肥ゆる時は胃が悪くなる。
 悪くなる前は、無性にお腹が減っていくらでも食べられる。
 
 今食べたのにすぐお腹が減ってこんなに食べてよいのかと思う。

 空腹時に痛みを感じるようになり、少し食べると痛みが治まる。
 胸やけ、酸水が上がってくる。
 
 これらの症状には、
 安中散や、重曹など制酸剤、Hブロッカーなどを与えるとよくなる。

 しかし安中散は散として使わなければ制酸作用は弱い。
 胃酸を押さえるだけなら、Hブロッカーの方がよく効く。
 
 安中散はお腹が冷えて起こす腹痛、胃の痛みに用いる。
 胃酸過多にはその効果は弱い。温裏(お腹を温める)の薬です。
 
 胃酸過多には黄連が一番良く効く。
 胃酸を押さえるばかりでなく、抗菌作用もある。  

 Hブロッカーは服用するとよいが効果が持続しない。
 服用を止めると、胃酸はまたもとの状態に戻る。
 
 黄連は服用を中止しても、胃酸は増加しなくなる。値打ちがありますよね。
 黄連湯、半夏瀉心湯、生姜瀉心湯、などが良く用いられる。
 
 しかし黄連は腹を冷やす。だから乾姜、肉桂、呉茱萸を加えて温める。
 
 後世方では五積散加黄連、山梔子を用いる。

 胃、十二指腸潰瘍に用いると、胃酸を押さえるばかりでなく再発しにくくなる。
 胃、十二指腸潰瘍の痛みには、解労散、または延年半夏湯が良い。

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葦茎湯
 
 [組成]
 蘆根、桃仁、冬瓜子、ヨク苡仁

 気管支拡張症及び慢性気管支炎などで
 慢性に膿性痰 あるいは血痰を喀出するときに適用。

 四順湯と合方し、去痰、排膿作用を増強する。
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茵陳蒿湯

 [組成]
 茵陳蒿、山梔子、大黄。

 抗炎症性利胆剤。

1)肝胆疾患に応用
 @急性肝炎の黄疸症状に小柴胡湯、又は大柴胡湯を併用
 A劇症肝炎に小柴胡湯、黄連解毒湯を併用
 B肝膿瘍に大柴胡湯併用
 C急性胆嚢炎・胆管炎に小柴胡湯、又は大柴胡湯、黄連解毒湯を併用

2)皮膚疾患に応用
 @自家感作性皮膚炎で膿疱を形成したときに十味敗毒湯、黄連解毒湯を併用
 A食事性蕁麻疹に小柴胡湯、又は大柴胡湯を併用
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烏薬順気散
 
 [組成]
 烏薬、枳実、陳皮、白シ、麻黄、白キョウ蚕、川キュウ、桔梗、乾生姜、大棗、甘草。

 扇風機やクーラーの風など外因によるしびれ
 又は運動麻痺、脳血管障害やパーキンソン症候群の筋固縮、

 痙性運動麻痺又は言語障害、
 あるいは授乳時の腕枕による肘のしびれなどに適用。
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越婢加朮湯

[作用]
 本剤は利水剤であり、とくに炎症性の滲出液に用いる。

[組成]
 麻黄・石膏・甘草・大棗・生姜・白朮
 1)麻黄−石膏・・・・・利尿作用、抗炎症解熱作用。
 2)麻黄−甘草−白朮・・・・・利尿作用
 3)生姜−大棗−甘草・・・・・健胃作用。

金匱要略に「裏水には越婢加朮湯之を主る。甘草麻黄湯之を主る。」とある。
すなわち、甘草麻黄湯、越婢加朮湯ともに麻黄・甘草の利尿薬を含んでいる。

越婢加朮湯は石膏を含んでいるから、炎症性の浮腫、水腫によい。
裏水は一身面目浮腫とあって全身性の浮腫の方剤です。

石膏があっても、必ずしも炎症がなくても使用できる。
また、蒼朮が入っていると利尿効果が増強される。

茯苓、附子を加えると、
茯苓は朮と共に水を利し、附子は水も利すが、痛みにもよく効く。

関節炎やRAの関節水腫、疼痛にも用いる。
炎症性水腫をよくするが、RAが治るわけではなく
RAを治すためには他の漢方処方が必要になる。

[適応症]
 1.滲出性胸膜炎・・・・・炎症と胸水を除く。
 2.関節の浮腫・・・・・関節炎の貯留した水を除く。
 3.ネフローゼ、腎炎の浮腫、水腫。
 4.蕁麻疹・・・・・湿疹の水泡、滲出液に。
 5.緑内障・・・・・前房水を除いて眼圧を下げる。
   開放性隅角緑内障、閉塞性隅角緑内障を問わず眼圧を下げる。

[運用の実際]
1.浮腫
(1)急性腎炎・ネフローゼ型腎炎
  急性腎炎の浮腫・乏尿、とくに皮膚化膿症・扁桃炎などによる腎炎によい。
  
  ネフローゼ型腎炎では、低たんぱく血症・アルブミン低下
  α2グロブリン増加・βリポタンパクやコレステロール増加を呈するもの、
  ステロイドに反応するタイプによい。
  
  妊娠浮腫や習慣性流産にはよくないといわれている。
(2)炎症性の浮腫
  局所の炎症の初期で、発赤・熱感とともに、周辺の浮腫(腫脹)を伴うものに用いる。
  増殖性を呈する炎症には効果がなく、その場合には他の漢方処方が必要になる。
  
  急性結膜炎で眼瞼の浮腫がみられるときや、関節炎の腫脹・関節内水腫に効果がある。
  
  関節炎では熱感(自、他覚的)発赤・腫脹・水腫などを呈する急性期や再燃のときによく、
  
  関節リウマチ・結核性関節炎などに使用してもよい。
  ただし、石膏の量が重要で、炎症が強いときには非常に多量を要することもある。
  それゆえ、エキス剤では無理なことが多い。
  
  なお、やや慢性化した関節炎には続命湯を用いる。
  続命湯は麻黄・石膏・乾姜・甘草に当帰・人参・桂枝・川弓・杏仁を加えたもので、
  関節周囲の筋肉・組織の萎縮や削痩が生じた場合に適し、
  当帰・桂枝・川弓で循環を促進し、杏仁は浮腫を軽減する。
(3)胸水
  湿性肋膜炎の胸水に、小青竜湯加石膏と同様に加える。
  
2.湿疹・皮膚炎など
  越婢加朮湯は消炎・抗化膿と利水の効果があるところから、
  炎症性の充血・発赤と浸出液が多い皮膚病変に効果がある。
  
  湿疹は、炎症性の浸潤が基礎にあり、漿液性丘疹・海綿状態が特徴です。
  
  貨幣状湿疹も発赤・湿潤・ビランした局面を呈し、
  初発に半米粒大の湿潤のつよい丘疹から湿潤した局面をつくる。
  
  このような状態や自家感作性の皮膚炎で同様の状態を呈するものに有効です。
  
  汗疱状白癬の水疱・膿疱・滲出液の多いビラン面や、化膿性炎症にも用いてよい。
  
  石膏が化膿性炎症に効果があるためですが、
  抗化膿の金銀花・連翹を加えることも多い。
  
  ただし、湿疹・皮膚炎などの反応性皮膚疾患や白癬症・真菌症も、
  以上のような状態だけでなく複雑な病態を示すので、すべてに有効なわけではない。
  
  一般に、反応性皮膚疾患には消風散を基本にするとよい。

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黄連解毒湯

[組成]
 黄連・黄ごん・黄柏・山梔子

[適応症]
 表層性胃炎
 出血
 精神不安
 全身性の感染症による目・舌・口内・歯牙・歯周あるいは頭部の炎症
 皮膚の炎症
 黄疸をともなう炎症
 化膿性炎症
     以上に対し、消炎・止血目的として単独であるいは合方して応用する。

[応用]
1.急性感染症(インフルエンザ・日本脳炎・流行性脳脊髄膜炎・敗血症など)
  皮膚化膿症などで、熱盛を呈するもの。

2.各種の炎症性出血や発疹
  急性肝炎・急性胃腸炎・細菌性下痢・尿路感染症・
  急性胆のう炎などで、湿熱を呈するもの。
 
3.自律神経失調症・更年期障害・神経症・不眠症・高血圧症・
  口内炎・歯痛・神経性胃炎などで、心火旺・肝胆火旺・胃熱を呈するもの。

[使用上の注意]
 本方は苦寒性がつよいので熱証以外には用いない。
 
 また、熱邪は陰液を消耗しやすいので脱水症状に注意し、
 陰液を保護するようにつとめたい。
 
 止血薬として用いる場合にも熱証である事を確かめる必要がある。
 
 気虚(気不摂血・脾不統血)や血おの出血には用いるべきではない。

[運用の実際]
 黄連解毒湯・三黄瀉心湯は、一般に以下の状況に用いる。
 
 1)表層性胃炎
  胃粘膜が充血して、びらん・出血・カタールをともなう場合に応用する。
  
  暴飲・暴食・濃度の高いアルコールなどによる急性・慢性の表層性胃炎に適している。
  ただし、このような状況に対しては、原南陽の中正湯がもっともよい。

中正湯は三黄瀉心湯・平胃散・半夏瀉心湯の合方と考えられるもので、
半夏瀉心湯や黄連湯を用いる状況よりも炎症がつよい場合に応用する。
ふつうは山梔子を配合して用いると、食道炎ともなうものにも適している。
  (※中正湯:半夏・陳皮・厚朴・木香・甘草・白朮・乾姜・大黄・黄連・黄ごん)
  
方中の黄連・黄ごん・大黄は、充血・炎症を抑制し出血を止める。 
また、大黄はタンパク凝固によりびらん面に対する収斂作用をあらわす。
   (したがって、食道・胃粘膜などにびらんがあるときには、
       三黄瀉心湯あるいは黄連解毒湯加大黄を用いるとよい)
厚朴・白朮・陳皮は平胃散で、木香は胃の働きをよくし陳皮と同じく食欲を増し
胃のつかえやもたれを改善する。
  
半夏・厚朴・生姜は悪心・嘔吐を止め胃部膨満感をのぞく。
以上のような配合になっている。

エキス剤では、三黄瀉心湯・平胃散・半夏瀉心湯の
合方、あるいは三黄瀉心湯・半夏厚朴湯・二陳湯の合方を代用すればよい。
  
また、この場合の三黄瀉心湯は少量でよい。

  慢性化したものや軽症なら、五積散と黄連解毒湯の合方(五積散加黄連山梔子)
  あるいは半夏瀉心湯・黄連湯などを用いればよい。

 2)出血
  黄連解毒湯・三黄瀉心湯にはともに止血作用がある。
  ただし、適応する出血状態は、
  鮮紅色・大量で勢いよくでるもので、動脈性の出血と考えられる。
  
  また、出血はしても貧血を呈することは少なく脈も力がある。
  怒ったり興奮していることも多く、飲酒による出血もこの状況を呈することが多い。

  三黄瀉心湯は吐血・鼻出血など上部の出血に、
  黄連解毒湯は下血・血尿など下部の出血に用いる習慣がある
  (山梔子の有無の違いであろうか)。  いずれも冷やして服用させる。

 3)精神不安
  いらいら、怒りっぽい・興奮・眼の充血・顔色が紅い・のぼせ、甚だしければ
  狂躁状態などを呈するものに用いる。
  脳の充血や高血圧などにともなう上記症状に有効。

 4)炎症
 1.全身性の感染症
   高熱・顔面紅潮・精神不安・不眠・いらいら・意識障害・うわごとなどの症状に
   吐血・鼻出血などの出血をともなう炎症。
 2.身体上部の炎症
   目・舌・口内・歯牙・歯周あるいは頭部の炎症・
 3.皮膚の炎症
   日光皮膚炎・化膿性炎症・火傷など。
 4.黄疸をともなう炎症
 5.化膿性炎症

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乙字湯

[組成]
 柴胡・升麻・黄ごん・甘草・大黄・当帰

 (1)柴胡・黄ごん、(升麻、大黄)…消炎解熱作用。
 (2)当帰…血流をよくする作用(活血作用)
 (3)柴胡・升麻…脱出した痔核を肛門内に引き上げる(升提作用)
 (4)大黄…瀉下作用、消炎作用、駆血作用(痔静脈のうっ血を除く)

[適応症]
 (1)痔核…内痔核、外痔核、内痔核脱出等に用いる。
 (2)外陰部掻痒症、肛門掻痒症に用いる

[解説]
 本方は、原南陽がつくった方剤で、
 もとは生姜と大棗があり当帰はなかったが,のちに浅田宗伯が当帰を入れた。

 当帰は血液の流れを良くする最も有効な薬物です。
 痔疾に色々の種類がありますが、本方は主に痔核に用いる。

 痔核は痔静脈の静脈瘤症候群であり、直腸静脈の流れが悪いのが原因です。
 痔静脈にうっ血をおこさせることがよくない。
 
 便秘は野菜の摂取量が少ないことも原因で、便秘すれば、血液の粘度が上昇し、
 血が粘くなって、うっ血がおきる。・・・・と考えている。

 従って、大黄を上手に使うこと。上手く排便し当帰で血流をよくする、
 または桂枝茯苓丸のような駆血剤を合方すれば、痔核疾患はよくなる。

 柴胡・升麻は東垣以来、升提といって、脱出した痔核を肛門内へ引きあげる、
 といって南陽も加えている。

 しかし浅田宗伯は、濕熱清解の功に取るがよし。 としている。
 浮腫や滲出性の炎症に効くということで、どちらも正しいのではないかと思う。

 黄ごんは、柴胡、升麻に加えて、抗炎症、解熱の作用がある。

 痔核の脱出カントンしてものすごく痛み、どうにもならないときは、麻杏甘石湯がよく効く。

 升麻には止血作用がある。
 しかし出血量の多いとき
 静脈血なら、帰艾膠湯を併用し、
 動脈血の出血なら、三黄瀉心湯、黄連解毒湯を併用する。
 
 槐花散、槐角丸など止血の薬物もある。
 若し、当帰が足りなければ、当帰芍薬散を加える。

 いずれにしても、便通に個人差が大きいので
 できれば、大黄抜きのエキスをつくり、桃核承気湯、大甘丸などと
 その人に応じて配合したい。
 

 処方を固定すると、適応の範囲が狭くなり、乙字湯のエキス剤も効かすのに工夫がいる。
 
 効かないのは処方が悪いのではなくて、処方を充分に使いこなせないからです。

 〇〇〇〇の何番では仕方がない

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五苓散

[組成]    
  沢瀉・猪苓・茯苓・朮・桂枝      《傷寒論》《金匱要略》

[効能]    
  利水作用(利尿作用)

[適応症]   
  水逆の嘔吐(ロタウィルス感染症の吐瀉)下痢。
         
  浮腫、水腫。
         
  緑内障。
 
[解説]
本方は利水作用の薬物で構成された利水剤であり、
浮腫、水腫や緑内障などに用いる。その応用は広い。
 
茯苓、朮は組織間や胃腸内、眼球内の水を血中に吸収する作用があり
胃中や腸管内の水を吸収して嘔吐や下痢を止め、眼圧を低下させると考えている。
 
桂枝は腎血流量をよくし、沢瀉は血中の水分を腎臓で尿として排出すると考えている。

出典は、《傷寒論》で、熱病の傷寒に用いるため組まれた方剤と思われるが、
熱病だけではなく一種の利尿剤と考えれば、浮腫をはじめ種々の病に用いられる。


(1)熱病の場合 (熱病の場合は脉が浮で微熱がある)

熱病で、汗が多量に出ると脱水となるため、口が渇いて水を飲みたくなり
苦しくて眠られず、少し水を飲ませると直に消化管から吸収されて脱水は治り、口渇も止む。
 
ところが、“消渇”という病態がある。 これは、いくら水を飲んでも渇きが治らず
咽が渇いて水を欲しがる。しかも、小便が少量しか出ない。

これは、飲んだ水が胃腸にはいっても
血中には吸収されないため、脱水は治らず、渇がよくならない状態です。
 
胃部をたたいてみると、チャプン、と振水音がして、胃内には多量の水が貯まり
いくら水を飲んで胃に入っても血中に吸収されないため、口渇が治らない。
 
普通の水ならコップ一杯が胃に停滞する時間は30〜40分。
滲透圧を等張につくれば3〜5分で吸収されるというが、
五苓散を服用すれば、この胃中の水が血中に吸収される。

夏期に五苓散の証は多い。

さらにもっと激しいものに“水逆”の嘔吐がある。

水逆と名づけられる嘔吐とは、
血中の水分が胃や腸に逆に出て、そのために、胃中の水分を嘔吐する事を言う。

普通の嘔吐とは違っていて悪心がない。血中の水分が不足して口渇が甚だしくなる。
半夏の類で、嘔気があり、ゲェゲェ言って少ししか出ない嘔吐とは全く異なる。

水を飲むと、その水は血中に吸収されず、血中から胃に出てきた水と併せ大量の水を吐く。
噴き出すように、投げ出すように、ごぼっと出る。
 
出るとまたのどが渇いて水を飲み飲むとまた吐く。
ロタウィルス感染症の場合にも見られる。
脱水しているから、口渇、尿不利で、口は渇き小便は出ない。下痢をすることもある。

五苓散も煎剤では、のむとすぐに嘔吐するため薬が効かないことがある。
五苓散末を葛湯で練って与えると、おさまる。 服用して15分嘔吐しなければ治る。
もし15分以内に嘔吐すれば、もう一度同じように与える。

葛湯、片栗、重湯のようなねんばりとした液を猪口に少し入れて、
その中に五苓散エキス散や末を入れて練り、口に入れる。
 
すると、嘔吐や下痢が止まり、口渇がなくなり、尿が大量に出る。
熱があるときは、発汗して熱が下がる。
水を飲まないのに一服か二服で見事に効いてしまう。それも30分以内に。

同じような病態の小児仮性コレラの水逆の嘔吐に対しても、一服で効果をあらわす。

この水逆の嘔吐は、血中の水分が、胃腸に逆流し、体内は脱水だが、
消化管内はダブダブに水がある。五苓散は、消化管の水を血液中へ吸収させ、利尿する。
 
すなわち、茯苓と朮は腎臓に作用して利尿作用があるというよりは、
消化管内の水分や血管外の水を血中に吸収させるような働きがあるように思われる。
 
これ等については今後の研究にまたなければならない。
 
五苓散には消炎、解熱の薬物が入っていないため、
炎症性浮腫(水腫)にはそれだけでは、使えない。

桂枝は熱病の場合、ことに悪寒のあるときには発汗して熱がさがる。
 
猪苓、沢瀉はどちらかといえば、血中の水分が過剰になると
利尿する作用があるのではないかと考えている。
 
それは、方剤から逆に考えるのです。
したがって苓姜朮甘湯のように、小便自利しているときは沢瀉や猪苓は入れてはいない。

 
(2)雑病の場合

五苓散は熱病以外にも用いられる。
 
例えば、古来から小児の陰嚢水腫の水を除くとき、陰茎の包皮が水腫様に腫れているとき、
すなわち限局性の浮腫の治療に応用している。
 
腎炎、ネフローゼなどの全身性の浮腫を除く。
 
下痢のとき腸管の水をとる。
 
水によるめまい、頭痛に用いられる。
 
例えば偏頭痛のときなどにも応用される。

桂枝は、熱病でなく雑病のときは発汗作用よりも末梢の血管を拡張し血行をよくして、
浮腫を除く力を増強し、また腎血管を拡張して強心利尿作用があると考えている。
 
どの方剤についても言えることですが、
《傷寒論》の条文が示す病態は熱病についてのものです。
 
これを雑病に用いるときには熱病と同じではない、
ということを常に誤らないようにしていただきたい。
 
「悪寒がある」というのは熱病について言うときであって、
雑病には悪寒もなく、四苓散でよいという人もあるが、
桂枝のはいった処方が上記の理由で四苓散よりも良い場合も多いと考えている。
 
「悪寒のないときには桂枝を除け」というのは、
傷寒すなわち熱病について言うことなのです。
 
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猪苓湯

[組成]
猪苓、茯苓、沢瀉、滑石、阿膠。    《傷寒論》

[効能]
利尿作用、消炎、止血作用。

[適応症]
尿道炎、膀胱炎、尿管結石の排尿困難、排尿痛、血尿、下痢。

[解説]
熱病では、
初期に(太陽病)悪寒がして発汗せず、
桂枝で温めて発汗すれば治るものに五苓散を用いる。

咽燥、口苦している場合は、
桂枝でさらに温めて発汗すると脱水をおこすため五苓散はよくない。
このようなときや悪熱し、発汗しているものに猪苓湯を用いる。

渇して水を飲まんと欲して、小便は出ない。これは体内に水分が不足している状態です。

水の不足なら水を飲めばよいはずですが、
五苓散の病態と同じように、いくら水を飲んでも消化管から血中に吸収されないため、
茯苓と滑石でもって消化器官内の水を血中に吸収させる。

五苓散を用いる者は熱病初期のため、
まだ体内の脱水があっても熱毒(中毒症)にはなっていない(傷津)。
だから茯苓と朮で水を消化管から血中に吸収すればよい。

猪苓湯の病態は、悪熱し、発汗し、脱水のみならず、
中毒症(消化不良性中毒症)のように燥と熱毒のため舌質も紅から絳になる(傷陰)。

茯苓と滑石で消化管内の水を血中に吸収すると同時に、滑石でその熱毒を制し治す。
血中は水で潤い、熱が下がり、口渇も咽燥もよくなる。

五苓散は“傷津”、猪苓湯は“傷陰”と考えて鑑別をすればよい。

滑石は、消化管(ことに腸内)の水を取り、血中の水を利尿する作用も強いため、
脱水しない配慮として阿膠を加えている。

猪苓湯は少陰病でなく、陽明病です。
しかも体内の脱水と熱毒(これを中国では“傷陰”という)のため、煩して不眠の状態で
熱と下痢、嘔のため、脱水と熱毒により煩して眠れない。

水を飲んでも嘔吐するか下痢となって体内に水が吸収されない。
この水を滑石と茯苓で血中に吸収させて脱水を治す。滑石で熱を制する。

阿膠には止血作用があり、血尿などにも用いられる。



雑病では
いつの時代からか、頻尿、排尿痛、排尿困難などに用いられるようになり、
現代では膀胱炎、尿道炎、尿路結石に応用されている。

したがって、本方を浮腫のないときや消化管内に水が少ない場合に用いるときは、
脱水しないように、水を多量に服用していただきたい。

これは前記の病態とは異なります。
脱水とか、不眠などとは全く関係がなくてよく、飲めば水は容易に血中に吸収される。

暑淋といって、夏季、発汗多量で、尿量は減少し、
尿は濃厚になり、排尿時に灼熱間があり、少量淋瀝する。

このように、水を飲んでも発汗が多くて尿量が増加しないときにも猪苓湯は用いられる。
排尿する尿量を増加させ、熱をとるため暑淋は治る。

脱水を防ぐため阿膠がある。

猪苓湯は、
猪苓、茯苓、沢瀉、の利尿薬、
滑石の消炎、利尿作用、
阿膠の止血作用、
        などを配合してつくられた方剤です。

しかし猪苓湯のままでは、一種の利尿剤で、あまり効果はなく
血尿など出血には、 四物湯を合方し、
膀胱炎、尿道炎の消炎には、 山梔子、黄ごんなどの入った五淋散、八正散などがよい。
黄連解毒や竜胆瀉肝湯などの併用が必要なときがある。
結石には排石湯がよい。
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桂枝湯
  
[組成]
  桂皮・芍薬・大棗・甘草・生姜

桂枝湯の出典は『傷寒論』で、麻黄湯と共に発汗(解表)剤の代表です。
(桂枝湯は発汗作用が弱く『傷寒論』では解肌と言っている)。

メーカーは、桂枝湯の適応症、使用目標を次のように記している。

[適応症]
体力が衰えた時の風邪の初期

[使用目標]
1.体力の衰えている人。
2.頭痛、発熱などがあり、発汗傾向がある場合の風邪の初期。


はたして、上記の適応症、使用目標は正しいのだろうか。

[適応症]に記載されている「体力が衰えた時の風邪の初期」・・・

[使用目標]にも「体力の衰えている人」と記載されている。

このような適応症、使用目標になってしまっているのは
日本では、桂枝湯は虚証に用いる方剤、とされ
虚証とは体力の衰え、体力・闘病力が弱いと考えているからです。



原典の『傷寒論』では桂枝湯の適応症は、
「太陽病、頭痛、発熱、汗出、悪風者」となっている。

太陽病とは・・・「太陽の病たる。脉浮、頭項強痛して、悪寒す」と定義されている。

急性熱病(感染病)の初期は太陽病で始まることが多い。
そして太陽病は、病の軽重によって中風と傷寒に分けている。

「太陽病、発熱、汗出で、悪風、脉緩者。名づけて中風となす」・・・・と定義している。


太陽病の症状は、
@脉浮 A悪寒(さむけ) B頭痛、項痛・・・などの表証があって、裏証はない。

太陽病で、発熱・汗出で、悪風(脉浮)のものは中風です。
従って、桂枝湯の証(適応症)は太陽病の中風です。

そして中風とは軽症の熱病であり、脉も浮脉で緩。悪寒(さむけ)も強くない悪風です。

悪風と言うのは、温かくしている時、例えば布団を覆っていると悪寒はなく、
体は温かくなり、ひとりでに少し汗が滲み出る。布団から外に出て、
すきま風にあたったり、便所に行くため廊下に出てすこし寒い空気にあたるとゾクッと寒い。

即ち悪寒のなかで、ごく軽い悪寒を区別して悪風としている。
これはほんの少し体を温めてやると汗が出て治る。  即ち軽症の熱病です。

桂枝湯は発汗作用の弱い発汗剤です。 この場合の虚は、病邪が虚、即ち病邪が弱い。
病が軽いので、体が衰えているのではない。

従って、メーカーのいう桂枝湯の適応症、使用目標は根本的に誤った適応症だと思う。

◆桂枝湯

[組成]
   桂枝・芍薬・生姜・大棗・甘草

[方意と薬能]
   本方は桂枝という体を温める薬物を主とし、生姜にも体を温める作用がある。
   この二味は、熱病の初期に起こる悪風・自汗の時期に与えると、
   発汗し、汗が出て熱は下がり病が治る。

   しかし、発汗が少ないから治らない。だから、少し温めてもっと汗を出すと治る。
   しかし、汗がダラダラと流れるように出るのは脱汗で、出すぎては治らない。
   
   芍薬は止汗作用があり、汗の出すぎるのを制する。
   桂枝湯は、芍薬を加えて発汗にブレーキをかけている方剤です。

即ち桂枝湯は、
桂枝・芍薬が主薬で、生姜・大棗・甘草は矯味緩和のための薬物と考えてもよい。

後世の方剤なども処方中に記載してなくても、煎じるときは生姜・大棗を加えるものです。

ただ生姜は健胃作用がある。また血行をよくし、体を温める作用もあるから、
軽い発汗作用もあり桂枝を助ける。民間では、生姜をあめ湯に入れてかぜ薬に用いる。

◆方剤の薬用量と服用の注意

『傷寒論』では桂枝湯の服用法に注意事項を記載している。

   「水七升でとろ火で煮て、三升に煮詰め、滓を去って、温かいのを一升服用し、
   服用後は更に粥一升余りを啜り、(体を温めることで)薬効を高める。

   布団を覆ってしばらく温める。体中から汗がジットリ出て汗ばむくらいがよい。
   流れるほど発汗させてはよくならない。病を除くことができないからです。

   もし一服で汗が出て病気がよくなると、一服だけでもうそれでよい。
   一日分全部を飲む必要はない。しかし、汗が出なければ前と同じような要領で服用し、
   汗のない時は服用間隔を短くし、約半日で三服を服み、
   もし病が重い者は一日一夜を通して服用させ、常によく病状を観察し、
   1日分を服み終わっても病症がまだある者には、更にもう1剤をつくって服用させ、
   汗が出ないと2、3剤を服用させる」


このような注意は桂枝湯のみならず、どの方剤にも必要です。

酒飲みにも、お猪口酒と一升酒の差があるように、
人体の薬物に対する反応は同じではないからです。

また、病にも強弱があり、薬物も生薬を使用すれば薬効にはバラツキが大きい。
そのため、あらかじめ薬物の量を定めることは難しい。
方剤に記された生薬の分量はあくまで参考です。

桂枝湯について述べると、桂枝は皮、即ち桂皮を用いているが、
最もよく効くのは太さ2〜5cmの桂枝で、5mmくらい以下になるとあまり効はない。

また、太い木の幹の皮も効きが悪い。
そして品種によっても、産地によっても効果は異なる。
だから桂枝三両とあっても、どれを用いるかによって決して同じ効ではない。

二千年も昔に用いていた桂枝と今のが同じかどうか。
有効成分も明確でない現在では、分量を固定することは難しいのです。

従って上記の注意のように、
少し服用させて発汗状態をみて有効量を定めなければならない。

師の経験では、エキス剤の桂枝湯には発汗作用がほとんどなく、無効であるという。

これはおそらく、製造過程で桂枝の有効成分が飛んでしまっているからだと思う。

今のエキス剤の桂枝湯は主役の桂枝の有効成分を含まない桂枝去桂枝湯と同じだと思う。
しかしこれも少し工夫すれば解決はつきます。

桂枝湯エキス剤の薬効を評価する場合は
発汗療法を行なう前に、現在の桂枝湯のエキス剤には太陽病の中風に対して
発汗作用があるかどうか、を証明してもらわないと困る。

桂枝湯に発汗作用がなければ、
瀉下作用のない薬剤で下法を行なっているのと同じで意味はないのです。
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桂枝加芍薬湯
  
[組成]
 桂枝 芍薬 生姜 大棗 甘草
[効能]
 主として腹部内臓、平滑筋の痙攣性疼痛を止める。
[解説]
 主薬は芍薬で、芍薬には平滑筋の鎮痙作用があり、痙攣性の疼痛に用いる。
 ブスコパンを使うようなものです。

 痙攣性の疼痛は、痛みに波があり
 強く痛むときと、痛まないときが交互にくる。

 芍薬の作用を助けるのが甘草で、
 芍薬は蜀椒と反対に少し冷やす作用があり、炎症性の腹痛によい。
 お腹を冷やさないために、桂枝と生姜を加えている。

 芍薬甘草湯に、生姜・桂枝を加えて
 体や内臓を冷やさないようにした方剤が桂枝加芍薬湯、とも考えられる。

 腸内に排出させねばならない物があるときや便秘の時に大黄を加える。
 これが桂枝加大黄湯です。

[適応症]
 腹痛、痛みに波がある痙攣性の疼痛、反覆性臍疝痛。

[類方]

 <小建中湯>
  本方に飴を加えた処方に小建中湯がある。
  反覆性臍疝痛、痙攣性便秘、嘔吐などおこし易い小児に
  平素から与えておくとよい。

 <黄耆建中湯>
  さらに黄耆を加えた処方で、疲れ易い、
  自汗といって汗の出やすい子供は元気がなく、息切れなどもおこす。

  漢方では表が虚しているといって、小建中湯に更に黄耆を加えて用いる。

 <当帰建中湯>
  小建中湯に当帰を加えた方剤で、当帰は足、手を温め、
  生理痛、月経困難、子宮筋腫の下腹痛、腰痛を兼ねる者に用いる。

 <帰耆建中湯>
  化膿性皮膚疾患、カリエス、慢性骨髄炎など難治性の炎症性疾患で
  体力低下を補うのに用いるため、当帰、黄耆を配合した。

芍薬甘草湯、芍薬附子湯などは急性、突発性の痛みに、
桂枝加芍薬湯は主に腹痛に、
建中湯の類は、平素から服用しておく方剤です。
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葛根湯
  
[組成]   葛根・大棗・芍薬・生姜・桂皮・麻黄・甘草

製薬メーカーは、適応症、使用目標、注意事項を下記のように記載している。

[適応症]
自然発汗がなく頭痛、発熱、悪寒、肩こり等を伴う比較的体力のあるものの次の諸症
感冒、鼻かぜ、熱性炎症の初期、炎症性疾患(結膜炎、角膜炎、中耳炎、扁桃腺炎、
乳腺炎、リンパ腺炎)、肩こり、上半身の神経痛、じんましん。

[使用上の注意]
@次の患者には投与しないこと。
 1.食欲減退、悪心、嘔吐のある人。
 2.発汗傾向の著しい人。
A次の患者には慎重に投与すること。
 病後の衰弱期、著しく体力の衰えている人。

[使用目標]
1.比較的体力のある人。
2.うなじより背筋にかけて凝り、自然に汗の出ない場合。
3.頭痛、発熱、さむけのある感冒などの熱性疾患の初期。
4.顔面及び頭痛の炎症性諸疾患。



しかし製薬メーカーの記載した適応症はよく分からない。
それは全く異なった病態を混ぜ合わせて記載しているからです。

急性熱病(感染症)と肩こり、上半身の神経痛とはお互いに全く異なった病態です。

悪寒・発熱・頭痛・無汗というのは、急性熱病(感染症)の初期で、発汗療法をする時の条件(証)です。
肩こり、上半身の神経痛のときは関係のないことで、これを同じに記載すること自体誤りです。


発熱・悪寒のあるのは、熱病(炎症性疾患)の場合であり
肩凝り・神経痛は、必ずしも熱病の場合だけとは限らない。
全く異なった病態を同じにしてはいけない。

a.自然発汗がない。
  自然発汗がないというのは、熱病に発汗療法を行なう時の条件です。
  夏の暑い時、スポーツや仕事をしたときに自然発汗がある。
  それでも肩こりに葛根湯が使えないことはない。
  単なる肩凝りだけの治療には自然発汗があって使えるのです。

b.比較的体力のあるもの。
  これも体力があるのではなく。病邪が表に実して、
  強く発汗して病邪を追い出さなければならない状態です。
  桂枝湯のような発汗力の弱い方剤では発汗させられないため麻黄剤を使う。
  即ち、体力の実ではなく病邪の実です。

c.悪心、嘔吐のある人。
  『傷寒論』では、悪心・嘔吐のある人に葛根湯を与える場合には、
  半夏を加えて葛根湯加半夏湯を用いる。
  それが証に随って方を処すことではないのだろうか。

 半夏は中枢性にも末梢性の嘔吐も抑制する作用があり、生姜も健胃・止嘔作用がある。
 葛根・麻黄は胃炎や胃潰瘍、胃の弱い人には注意する必要がある。

 陳皮・枳穀などを加えるのもよい。また半夏には鎮咳作用もあり、
 葛根湯加半夏湯をカゼ薬とすれば葛根湯よりその応用範囲が広い。

 それに桔梗・枳実を加えると、更に去痰作用も加わる。頭痛を伴う場合は、
 川弓・白シ・細辛などを加えた方剤がよい。葛根湯も上記の基本処方では、
 項背強を伴う熱病の発汗剤だけで、いかにも適応の範囲が狭い。

d.発汗傾向の著しい人。
  熱病の発汗方剤であるから、太陽病で自汗のある人には用いる方剤ではない。
  
  しかし、熱病でない単なる肩凝りだけの人は、夏汗が出ていても使用する。
  発汗とはあまり関係がない。葛根湯は(麻黄湯も)熱病でない人が服用しても、
  一般に普通の使用量では汗は出ない。

※注意 麻黄は量が多い時、また麻黄に敏感な人は脱汗することがある。
     また、不眠・心悸亢進を訴えることがある。麻黄は新しいものはよくない。

     古い品物がよい。麻黄は先ず水で煮るとアブクが多く出てくる。
     これを取り除いてから他の薬を入れて煮るように、麻黄の入った方剤は指示している。

     新しい麻黄はアブクが多い。古くなるとあまり出なくなる。
     煮てもアブクが出なくなるとその必要はない。

e.葛根湯と桂枝加葛根湯
  太陽病、項背強几几、反汗出悪風者。桂枝加葛根湯主之。
  太陽病、項背強几几、無汗悪風。葛根湯主之。

即ち、桂枝湯を与える病人(太陽の中風)で項背強る者に
葛根を加えて桂枝加葛根湯を与え、
太陽病の傷寒で脉浮緊・無汗・悪風・発熱の症状を呈し、
麻黄湯を与える場合で項背強る者には、麻黄加葛根湯にせず葛根湯をつくっている。

項背強に葛根はよく効く薬物であるが、芍薬も筋肉の拘攣によく効く。
そこで、桂枝湯に麻黄と葛根を加えている。

熱病でなく、肩こりだけなら麻黄は必要でない。
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麻黄湯
  
[組成]   麻黄・桂枝・杏仁・甘草


製薬メーカーの記載した適応症が分かりにくいのは
全く異なった病態を混ぜ合わせて記載しているからです。

以下が製薬メーカーの記載です。

[適応症]
悪寒、発熱、頭痛、腰痛、自然に汗の出ないものの次の諸症
感冒、インフルエンザ(初期のもの)、関節リウマチ、喘息、乳児の鼻閉塞、哺乳困難

[使用上の注意]
次の患者には投与しないこと。
1.発汗作用が著しく、或いは、既に強く発汗し脈の弱い人。
2.著しく体力の衰えている人。

[使用目標]
1.比較的体力のある人。
2.関節痛、および筋肉痛があり、自然に汗の出ない場合。
3.感冒など発熱性疾患の初期。
4.頭痛、喘息、せきなどを伴う場合。



◆麻黄湯の適応症

急性熱病(感染症)と  乳児の鼻閉塞で哺乳困難や喘息とは
お互いに全く異なった病態です。

悪寒・発熱・頭痛・無汗は急性熱病(感染症)の初期で、発汗療法の条件(証)です。
喘息・鼻閉塞のときは関係のないことで、これを同じに記載すること自体誤りです。

また[使用上の注意]に、著しく体力の衰えている人には投与しないこと。
そして[使用目標]に、比較的体力のある人。        をあげている。

麻黄湯は発汗作用が強く、
表(皮膚の近く)にある病邪を発汗によって追い出す強い方剤です。

熱病の初期、発熱し、悪寒が強く、布団や衣類を重ねても悪寒はとれず、
発汗力の弱い方剤、例えば桂枝湯などでは汗が出ないような時、
麻黄と桂枝を併せて発汗作用を強くした方剤です。

脱汗や心悸亢進を起こしやすいため、その使用には注意を要します。
そして脱汗は正気の実している人でも起きることがある。

日本の漢方家は、
実証とは体力の充実した人とし、麻黄湯は実証の方剤、としている。
だが、本方は病邪が表に実しているのであって、体力の(正気の)実ではない。

日本漢方は病邪の虚実を正気の虚実と誤っているとしか考えられない。

桂枝湯は、
発汗作用のある桂枝に止汗作用のある芍薬を配合し、発汗の行き過ぎを防いでいる。

麻黄湯では、桂枝に更に強力な発汗作用のある麻黄を主薬として加え、
しかも芍薬のような止汗作用のある薬物を除いている。

麻黄は、熱病で発熱して悪寒が強く、汗の出ないとき用いると発汗する。
しかし熱病でない時は発汗しない・・・のが普通です。

甘草麻黄湯・越婢加朮湯・大小青竜湯も熱病でない時はむしろ利尿作用がある。
そこで浮腫に用いられる。そして発汗作用はない。
しかし無熱の人でも麻黄剤で脱汗する人もある。

従って、熱病の発汗作用に用いるときは脉浮緊で
悪寒が強く、無汗であることが大切な条件です。

主治の条文に悪風となっている。 が、ほとんどは悪寒です。

それどころか悪寒戦慄で鳥肌が立つこともある。
桂枝湯などで少しぐらい温めても汗は出ない。



麻黄湯、葛根湯は病邪の実に対する方剤であり、
決して体力の実した正気の強いものだけに対する方剤ではなく

そして、桂枝湯は病邪の虚に対する方剤であり、
決して体力の衰えた正気の弱いものだけに対する方剤ではないのです。



生薬は一味の薬物にも数多くの成分があり、いろいろな薬理作用がある。

麻黄湯も決して発汗作用だけではない。
熱病でなく、浮腫や喘息にも用いることができる。

杏仁は利尿作用があり、体内の過剰な水分を除く。
麻黄・甘草に杏仁を配合すると、この利尿作用は強化される。
浮腫の治療に用いられ、骨節疼痛、身疼腰痛を除く。

また麻黄には気管支の痙攣をゆるめ、痙攣性咳嗽に効があり、
気管支喘息、喘鳴にも用いられる。
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参蘇飲

参蘇飲−−−紫蘇葉、前胡、葛根、半夏、桔梗、枳穀、木香、
         陳皮、茯苓、人参、甘草、生姜、大棗

カゼの漢方薬といえば、葛根湯が有名です。

しかし、漢方誠芳園薬局では、
普通のカゼには「参蘇飲」。
感染性胃腸炎や胃腸型のカゼには「霍香正気散」
をおすすめしています。
 (インフルエンザには他の漢方処方を選択します)

どちらも私の大好きな漢方処方で、
錠剤もありますので便利ですヨ。

普通のカゼには「参蘇飲」

それでは何故、葛根湯ではないのでしょうか、

葛根湯をカゼに使う場合は、
初期だけに限って 発汗解表薬として使うべき処方です。

表証 (悪寒、発熱、頭痛、筋肉痛、肩こり、関節痛などの身体体表部の症状)
の中で悪寒 (または悪風)、頭痛、肩こりを目標に、
発汗するまで (決して1日3回ではなく)温服する処方なのです。
 
発汗療法剤ですね。

反対から見ますと、
食欲が落ちていたり、寒気がなかったり、
セキやタンがあるときには使いにくい。
葛根湯にはセキやタンに効く生薬が入っていない。

麻黄 イコール、エフェドリンとして鎮咳薬という認識が強いようです。
麻黄は広い意味では鎮咳薬と言えなくもないのですが、
正確に言うと鎮痙薬なのです。

セキにはやはり半夏を加えたい。

胃の弱い人には麻黄がこたえることもあります。
ですからカゼには案外使いにくいのです。

私が葛根湯を一番使うのはカゼのときではなく、
項背強、すなわち肩こりのときが多いですね。
 (よく言われる虚実にはあまり関係しません)

では、葛根湯をふつうのカゼに使うにはどうすればいいか。
   
   胃の負担を減らしたい−−−麻黄を抜く
   セキやムカムカに対して−−半夏、前胡
   解表作用を加えたい−−−-葛根、前胡、紫蘇葉、陳皮、生姜
   痰に対して−−−−−−−-枳穀、桔梗
   健胃作用−−−−−−−--陳皮、茯苓、枳穀、木香、人参を加える

   結局こうなると「参蘇飲」になるのです。
      
      参蘇飲−−−紫蘇葉、前胡、葛根、半夏、桔梗、枳穀、木香、
               陳皮、茯苓、人参、甘草、生姜、大棗

  ふつうのカゼには参蘇飲。
  錠剤は常備薬としてもおすすめです。
  
  胃腸もよくなるカゼ薬ってめずらしいのではないのでしょうか。


参蘇飲は標準処方として広い範囲に応じますが
普通は加減法を加えたものをすべて参蘇飲といいます。

肺寒咳嗽には五味子、乾姜を加える。
エキスなら小青竜湯を合方する。

高熱のときには柴胡、黄ゴン、知母、石膏などを加える。
エキスなら小柴胡湯や白虎湯を加える。

かわいたセキには麦門冬を加える。 など
既製服のようなエキスでもこのようにすれば変化に応じることができます。

「方簡なる者はその術日に精し、方繁なる者はその術日に粗し」
などというのは、こういうことをいっているんだと思います。

使う処方は少なくても、基本を熟知し加減できれば
いろいろな病態に応じることができます。


以上は風邪になった時の漢方薬についてですが
風邪の予防と治療には、何といっても「休養・すいみん・保湿」が大切です。
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霍香正気散

胃腸型のカゼには「霍香正気散」

カゼは主として、急性上気道炎、呼吸器の急性炎症です。
ところが、インフルエンザのうち、
腹痛や嘔吐、下痢などの胃腸型のカゼや 感染性胃腸炎があります。

  インフルエンザのB型やSRV(小型球型ウィルス)、
  またコリサッキー、アデノウィルスによっても
  胃腸炎を起こすことがあると言われています。

  または、昔の小児仮性コレラ、白色便下痢症と言われていた胃腸炎も
  ロタウィルスによる感染性胃腸炎ということになりました。
  
  一時、世間をにぎわしたノロウィルス、
  これも同じような気がしますが確認できていません。

 症状
 
 軽いものは微熱、軟便、嘔気、身体がなんとなくだるいなど。
 「ちょっと胃腸の調子が悪いのかな」 という程度のことも多く、
 胃腸型のカゼとは気がつきにくいものも多いです。
  
 重いものでは、嘔吐、腹痛、下痢、疲労倦怠でグッタリし、
 入院して点滴が必要になる人もいます。

一般に嘔吐、下痢と言えば漢方処方としては、
五苓散を思いうかべる人が多いと思います。

しかし、私はこれらの急性の感染性胃腸炎型には、
漢方では霍香正気散が代表処方と考えます。
その効果の早さにビックリされる人も多いです。
    
   霍香正気散
      腹痛に対して−−−芍薬、厚朴、甘草
      下痢に対して−−−白朮、茯苓、霍香、大腹皮
      嘔吐に対して−−−半夏、生姜、霍香、陳皮など
      発汗解表薬−−−-霍香、紫蘇、白?
   
   平素はふつうの胃薬としても使えます。
   錠剤は常備薬としてもおすすめです。

普通のカゼには 「参蘇飲」、
感染性胃腸炎や胃腸型のカゼには 「霍香正気散」。

私は、このような優秀な処方が
世間に知られていないのは、あまりにももったいない
と日々、思っています。

以上は風邪になった時の漢方薬についてですが
風邪の予防と治療には、何といっても「休養・すいみん・保湿」が大切です。

呉茱萸湯
     〜傷寒論、金匱要略〜

[適応症]
 頭痛、片頭痛、嘔吐。

[組成]
 呉茱萸・人参・生姜・大棗

[効能]
 胃を温め、胃の冷えによる片頭痛を止める。
 胃が冷えて、悪心、嘔吐するのを止める。

[解説]
 本方は頭痛の薬であり、その頭痛のほとんどが片頭痛です。
 また女性に圧倒的に多く、生理の始まるころ(初潮のことではない)におきる。
 それと、疲れた時に発作性におきる。
 
 頭痛のおきるときは、先ず頚筋(くびすじ)が凝ってくる。
 そして耳のうしろから、こめかみの所へきて、そこから頭の中へ痛みがくる。
 
 そのとき、めまいや悪心、嘔吐を伴うことが多く
 そのほとんどが乾嘔で、吐物は少なく、粘液、胆汁です。
 
 冷え性の人に多く、手足が冷えている。
 
 例えば、真夏の高校野球の名物、甲子園のカチワリのような冷たいものを
 大量にガーッと食べて、こめかみがギューと痛んだ経験のある人もいるかと思いますが
 このように胃が冷えるとおきる片頭痛が呉茱萸湯の証だと思う。
 
 呉茱萸には、
 半夏のように悪心、嘔吐をおさえる作用があり、
 乾姜、生姜のようにお腹を温める作用があり、
 茯苓、朮のように胃の中の水を吸収し、
 枳実のように、消化管の蠕動をスムーズにする作用がある。
 
 人参は胃の痞えや痛みに対する薬物です。
 
 呉茱萸・生姜は、半夏・生姜すなわち小半夏湯と似て、悪心、嘔吐の胃薬で、
 胃を温める作用が異なるだけです。

 茯苓飲とも似ていますが、茯苓飲を用いる状況は
 幽門の運動機能異常(陳皮・枳実・生姜で緩解)と
 胃液の分泌亢進(白朮・茯苓で解消)があるだけで、寒証はみられず、
 胃内容の逆流はあるが悪心をともなう嘔吐はない(それで半夏の配合がない)。

 嘔吐や下痢の時にはたいてい心下部が軟らかくなりますが、
 幽門部が機能的に通過が悪く胃内容が停滞しているときには心下部が膨満して硬い。

 幽門部の機能異常を緩解するのが、呉茱萸・枳実で
 胃内の分泌過剰を吸収するのが、白朮・茯苓・呉茱萸
 悪心・嘔吐には半夏・生姜・呉茱萸が奏効する。

 したがって、悪心も寒証もみられないときには茯苓飲、
 寒証がなく悪心をともなうときには茯苓飲合半夏厚朴湯がよい。

 呉茱萸湯は乾嘔して胃内容は出ず、唾液や粘液だけがでて頭痛するものに用いる。

 身体が冷えておきるシャックリにも良く効きます。
 冷えのない人のシャックリには甘草瀉心湯加陳皮がよい。

[注意]
 傷寒、金匱の時代は、人参は、心下痞、胸痛の薬物として利用され、
 補虚の薬物として使われていなかったと思う。
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平胃散

[適応症]
 下痢。 下痢に伴う腹痛。

[組成]
 蒼朮・厚朴・陳皮・甘草・生姜・大棗

[解説]
 本方は、名称が平胃散であるため胃の薬と間違われることもありますが
 現在ではむしろ平腸散と呼んだほうがよい。・・・と思う。 整腸剤です。
 
 漢方では下痢を止めるために、腸の水分を吸収し尿として排出する。
 だから大便がかたまる。
 
 厚朴は腸管の痙攣、蠕動運動を制して、腹痛を止める。
 それでよく、裏急後重(しぼり腹)に用いられる。
 
 甘草はこれを助ける。
 
 陳皮には健胃作用があり、生姜・大棗とともに用いる方剤です。

[注意]
1.本方には、細菌に対する抗菌作用はない。単なる下痢止めの整腸剤です。
  細菌性のものは抗生物質を併用。
2.蒼朮と白朮。
  蒼朮と白朮と共に利尿作用がある。
  蒼朮が水を除く力はすぐれている。
  白朮には健胃作用がある。胃の弱い人、胃の悪いときは胃の働きを助ける。
  下痢に用いるときは、白朮は茯苓と併せて、その力を強める。


香砂平胃散
[組成]
 蒼朮・陳皮・枳実・木香・甘草・生姜・香附子・砂仁・かっ香

 平胃散に半夏・かっ香という悪心、嘔吐を止める薬物を配した方剤で、胃腸薬です。
 
 半夏には鎮咳作用もあり、胃腸型のカゼに用いる基本方剤の一つです。


胃苓散
[適応症]
 下痢、腹痛に用いる整腸剤。
 とくに水瀉性の下痢、大便の水分の多いとき。

[組成]
 蒼朮・厚朴・陳皮・白朮・茯苓・猪苓・沢瀉・桂枝・甘草・生姜・大棗・芍薬

[解説]
 これは、平胃散と五苓散の合方に芍薬を加えた方剤です。
 
 白朮・茯苓・猪苓・沢瀉は利水薬で、
 蒼朮を助けて腸の水分を吸収し尿として排出し、腸を乾かす。
 
 桂枝は腎血流をよくして之を助ける。
 
 芍薬は厚朴を助け、腸の痙攣を除き腹痛を止める。

[効能]
 下痢止め、止瀉の効がある。
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五積散

[適応症]
1.腰痛
  風呂に入るなど温まると楽になり、冷えると悪化する腰痛(腰冷痛)、
  腰股攣急、小腹痛、頭痛、臂痛、腹痛、下肢痛。
2、腹痛、下痢
  お腹が冷えて下痢するとき。
3、カゼ
  軽症のカゼ common cold

[組成]
 蒼朮・厚朴・陳皮・麻黄・桂枝・芍薬・白し・半夏・桔梗・枳穀
 茯苓・乾姜・甘草・当帰・大棗

[解説]
 衆方規矩の中寒門に、
 寒が臓腑 (核)に中れば 理中丸(人参湯)。
 経絡 (外部《殻》)に中れば 五積散が良い、とされている。

 五積散はクーラー病、 人参湯は冷蔵庫病。
 
 麻黄、桂枝、芍薬、川弓、白しは
 解熱と発熱による一般症状を除き、
 
 半夏、枳穀、桔梗は
 鎮咳去痰薬などを併せると カゼが楽になる。
 
 蒼朮・厚朴・陳皮・甘草・大棗・生姜・白しは、
 平胃散加芍薬甘草で、下痢、腹痛によい。
 
 乾姜・桂枝・当帰・川弓は
 外部(皮膚、筋肉、関節、骨など《殻》)も温めるし、 内臓(核)も温める。
 
 外環境からくる冷えを受けて、又、冷たい飲食物や下肢を冷やして、
 お腹が冷えておきる腹痛、下痢、腰痛、四肢痛、筋肉痛、関節痛に用いる。

[効能]
 十六種の生薬を配合した方剤で、従って数多くの効能がある。

[運用の実際]
 本方は、当帰・川弓・桂枝・麻黄のように
 末梢の血行を促進して体表部を温める薬物と、

 乾姜・肉桂のように
 腹腔内を温める薬物が配合され、
 
 さらに茯苓・蒼朮・厚朴など
 湿をのぞく薬物も加えられている。
 
 平胃散・二陳湯・桂枝湯・桂枝加芍薬湯・
 苓桂朮甘湯・苓姜朮甘湯・当帰芍薬散・続命湯など
 さまざまな処方の複合とも考えられる。
 
 そのため、少し加減すれば非常に多方面に応用できる。
 
 桂枝湯加麻黄白シは 発汗解表の感冒薬であり、
 
 平胃散は 胃腸薬で、
 
 さらに当帰・乾姜・桂枝・川弓などの温裏キョ寒薬が配合されている。
 
 冬期の感冒・老人や冷え性の人の感冒などに非常によく、
 
 麻黄湯・葛根湯などで胃を障害される人の感冒にもよい。
 
 寒冷による腰痛にもよく奏効する。
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人参湯(理中湯)

[適応症]
 お腹が冷えて、腹痛、下痢をするとき。

[組成]
 人参・乾姜・朮・甘草

[効能]
 お腹を温める。
 冷えによる腹痛、下痢を止める。

[運用の実際]
 1)内臓の寒証に
  腹痛・悪心・嘔吐・下痢があり寒証と診断したときの代表処方で、
  急性・慢性の内臓の寒証に用いる。
  
  甘草乾姜湯が主体で、乾姜で内臓・四肢を温め、
  炙甘草で寒冷刺激による平滑筋の痙攣や緊張亢進をゆるめ鎮痛する。
  これに人参・白朮を加えたものと考えればよい。

 2)貧血症に
  人参には血色素・赤血球を増加する作用があるらしい。
  また、乾姜・白朮がこの作用を助ける。
  
  鉄欠乏性貧血・胃性の貧血・抗がん剤や
  コバルト照射などによる再生不良性貧血に、反鼻などを加えて用いる。
  
  また、胃手術後の貧血の予防に用いる。
  四君子湯・補中益気湯の類はみな同じです。
  
  これらのエキス剤では、人参湯が配合薬物が少ないところから、
  単位量中の人参含有量が多いと考えられるので、これを応用する。

 3)低酸症に
  人参は胃酸を増加させる。過酸症には適さない。

[解説]
 臓腑の中寒は
 冷たい飲み物、食べ物によって胃袋を氷嚢代わりにして腹中を冷やしたり、
 又は下肢を冷やし、下肢で冷えた血液による内部冷却によって腹腔を冷やす。
 このように、腹(内臓)を冷やし、腹痛、下痢を起こす時に本方を用いて腹を温める。

中寒、冷えによる下痢、腹痛の特徴。
 1、下痢の量は多くなく、ベタベタで頻回。
 2、大便、ガスは臭くない。
 3.下痢をしても、尿量が多く、口渇はない。   “自利、渇せず” です。
   冷えると汗が出ないから尿量が多く、脱水がないので口も渇かない。
 4、口に薄い唾液がたまる。

 冷蔵庫の普及のため、
 多くの人が冷たいものを食べすぎておなかを冷やしている。
 
 人参湯の人で四肢が冷えるには、附子を加えた附子理中湯がよい。
 
 又、下痢の水分が多いときは、茯苓に朮、附子を組んだ真武湯がよい。
 
 お腹が冷えて冷たく感じ、ガスが溜まり、腸の蠕動が盛んになり、
 腸がウネウネと動き、
 嘔吐し、腹痛の甚だしいときは、大建中湯がよい。
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当帰飲子

[組成]
 当帰・芍薬・川キュウ・地黄・白しつ藜・防風・荊芥・何首烏・黄耆・甘草・生姜

[効能]
 皮膚を潤して、痒みを止める。

[解説]
 主に老人性皮膚そう痒症に用いる。
 
 老人は、皮膚の老化がすすみ、
 皮膚は薄くなり皮脂腺・汗腺が萎縮し皮脂の分泌が減少して
 皮膚の保護ができなくなるので、表皮が乾燥して皸裂や乾燥した粃糠様落屑が生じる。
 
 夏季には発汗や皮脂の分泌が多いので症状があまり顕著でないが、
 秋以降は空気の乾燥や気温の低下のため発汗・皮脂の分泌が衰えて症状が悪化する。

 初期には冬季だけに症状があらわれるが、次第に良好な時期が短くなる。
 入浴すると皮膚が湿潤するのでその夜はかゆみが少ないが、
 以後は入浴による皮脂の脱落のためにかゆみが増強する。
  
 当帰・地黄・何首烏・山茱萸・胡麻仁などは、皮膚の老化を防ぎ萎縮を予防し、
 皮脂の分泌を高め、皮膚の乾燥・小皸裂・粃糠様落屑などを改善する。
 黄耆も皮膚の機能を高め調整する。
 
 したがって、これらの薬物を含む四物湯・六味丸・八味丸などは、
 皮膚を滋潤し老化を防ぐ効果がある。
  
 かゆみには、止痒の効果をもつ防風・荊芥・白シツ藜・蝉退など
 とともに鎮静作用のある釣藤鈎・夜交藤・合歓皮などを配合するとよい。
  
 当帰飲子は、四物湯を基本にして皮膚を滋潤する本治の効能とともに、
 かゆみを止める標治の薬物が配合されており、老人性皮膚そう痒症によく適応する。
  
 このほか、体質的に皮脂の分泌が悪く乾燥し落屑のみられるものや、
 病後あるいは皮膚疾患が治癒したのちに乾燥とかゆみを訴えるものにも用いてよい。

 特異な例としては、
 硫黄浴によって皮脂腺が障害された状況でかゆみが生じた場合にも効果がある。
  
 ただし、老人性皮膚そう痒症でも、
 冬期湿疹といわれるような湿疹化した状況に対しては効果が弱い。

 また、軽度の発赤・充血には効くが、発赤が強いときや皮疹が平坦ではなくて
 丘疹傾向を呈し、充血・発赤・腫脹をともなうときには効果がなく
 このようなときは消風散や温清飲を合方します。

 肥厚・苔癬化・表皮突起の延長・角質増殖・錯角化などにも効果はなく
 湿潤・浮腫・分泌が多いものに用いると悪化する。
 したがって、Vidal苔癬・痒疹・固定性じんましんには効かない。
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当帰四逆湯
 
[組成]
 当帰・芍薬・桂枝・細辛・木通・大棗・甘草

[効能]
 手や下肢の血行を良くし、四肢を温め、痛みを止める。

[解説]
 本方は、厥陰病篇にあるが、厥陰病の四逆湯の四肢厥冷とは異なり、
 
 手足厥寒、脉細にして絶せんと欲す。・・・・・・というように、
 血行不良のため、手足が冷えてつめたいときに用い、血行をよくして、手足を温める。
 
 厥寒はつめたく、寒を自覚する。
 厥陰病は熱病のショック時の四肢厥冷で、
 本方の手足厥寒とは全く異なり厥冷は冷を自覚しない。

[運用の実際]
  当帰四逆湯・当帰四逆加呉茱萸生姜湯は、
  動脈機能障害による手足の血行不全や寒冷刺激による
  自・他覚的な四肢の冷えなどで、脈も細くふれにくいものに適応する。

  当帰・桂枝・細辛は、四肢・体幹の外表血管を拡張して血行を促進し、局所を温める。
  桂枝は上半身の血行をよくし、当帰は下肢の血管を拡張し、
  細辛は体を温めて鎮痛作用がある。
  下肢、足の動脈を拡張して血流をよくする薬物は少ない。

  白芍・炙甘草は、骨格筋・平滑筋のけいれんや緊張をゆるめ鎮痛する。

  木通は、四肢・関節の水滞を利尿効果によって除くので、
  浮腫による知覚・運動のまひに効果があるが、
  温める作用はなく、浮腫がないときには不要です。

  呉茱萸・生姜は、腹中を温め鎮嘔・鎮痛に働くので、
  外表だけでなく内臓も冷えて腹痛・嘔吐のあるときに加える。

  一般に以下の状況に応用するとよい。

1.凍瘡(しもやけ)・凍傷の予防と治療
  凍瘡で指趾が紫色を呈する場合にはうっ血をともなうので、
  桃仁・紅花・川キュウなどの活血化お薬を配合する必要がある。

2.動脈機能障害
  急性・慢性の動脈血行障害に有効で、レイノー氏病にもよいといわれる。

3.腰痛・坐骨神経痛
  寒冷刺激や血行障害によるものにもよい。

4.腹痛・嘔吐
  下肢が冷えて、冷えた血液により腹腔内が冷却されたり、
  冷たい飲食物で冷やされたりして、腸の蠕動が亢進し腹痛・腹鳴・頻回の軟便
  あるいは下痢・腰痛・悪心・嘔吐などが生じたときに用いる。

  呉茱萸・生姜を加え、蜀椒・附子・乾姜などと配合するとよい。

5.月経異常・月経痛
  基礎体温が低く、月経周期の延長・月経痛をおこす人は、冷えによることが多い。
  当帰は、外表だけでなく腹中も温め、子宮のけいれん痛をしずめ月経を正常化する。

  したがって、寒冷による月経異常・月経痛によい。

[適応症]
 凍瘡(しもやけ)、レイノー現象、四肢の血行障害、腰冷痛、脱疽(バーヂャー)



当帰四逆加呉茱萸生姜湯

[組成]
 当帰・桂枝・細辛・芍薬・木通・大棗・甘草・呉茱萸・生姜
[効能]
 手足の血行をよくし、温めるだけでなく、お腹の冷えも温める。
[解説]
 手足逆寒、脉細にして絶せんと欲す。若し、内に久寒ある者・・・・・・・
 に本方を用いることになっている。
 
 内に久寒ある・・・・・・とは、胃や腸も冷えている。呉茱萸湯との合方と考えられる。
[適応症]
 レイノー現象、脱疽、しもやけ、腰冷痛、腹痛、嘔吐、悪心、生理痛
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当帰芍薬散

[組成]
 当帰・川キュウ・芍薬・白朮・茯苓・沢瀉

[解説]
 本方はもともと、婦人の腹痛、妊娠中の腹痛を治すためにつくられた方剤です。

 当帰、川キュウは血行をよくし、体を温める。
 当帰・川キュウ・白芍で平滑筋のけいれんによる腹部を緩解する。
 
 川キュウは頭痛など上半身の血行をよくし、
 当帰は四肢、下半身の血行をよくして温める作用がある。
 
 白朮、茯苓、沢瀉には利尿作用があり、体内の過剰な水分を尿に排出して浮腫を治す。
 
 水肥り、浮腫のある人は、外気の影響を受けて、冷え易く、
 浮腫のため血行が悪く冷え症の者が多い。
 本方は、浮腫があり、血行が悪い人の冷え症に用いられる。


 日本では古来より、妊娠浮腫・妊娠腎・習慣性流産・妊娠時の腹痛・
 婦人の腹痛・月経痛・月経困難症・帯下・冷え症などさまざまに応用されて来た。

 ただ、現在の日本ではエキス剤の運用の面に重点をおいていて
 患者の病態に対して処方を組み立てる、ということをしない。

 当帰芍薬散のような原始的方剤を単方で用いるべきではないだろう。

 すでに江戸時代の《衆方規矩》には、妊娠中は紫蘇和気飲を加減して用いており、
 現在よりも、はるかに病態に適した運用になっている。

 紫蘇和気飲がなければ、エキス剤では
 当帰芍薬散に、香蘇散や半夏厚朴湯を合方して用いればよい。
 理気剤が加わっただけで、当帰芍薬散よりすぐれ、飲みやすく、つわりにも奏功する。
 
[効能]
 安胎の効がある。
 婦人の腹痛、妊娠中の腹痛。
 浮腫を除く。
 血行をよくして、体を温める。

[運用の実際]
 一般に以下のような状況に用いる。

1) 妊娠の腹痛
 婦人科的に異常のみとめられない妊婦の腹痛に用いる。
 切迫流産(陣痛様疼痛・出血)には、キュウ帰膠艾湯や四物湯を用いる。

2) 浮腫
 妊娠中の浮腫(妊娠腎・妊娠腎炎)・妊娠中毒症・子癇前駆症・
 慢性腎炎・脚気の浮腫などに使用する。
 妊娠中には香蘇散を合方し、妊娠嘔吐には小半夏加茯苓湯を合方する。

3) 習慣性流産
 妊娠可能ですぐに妊娠しても、妊娠の持続ができず流産するものに用いる。
 原因のわからない妊婦の咳にも有効。

4) 帯下
 白色半透明の多量の帯下で、臭気も膿色もないものに用いる。
 水太りで冷え症のひとに多い。
 乾姜・附子を加える方がよく、エキス剤なら人参湯や苓姜朮甘湯
 または真武湯を合方する。

5) 冷え症
 顕性・非顕性の浮腫(水滞)があり、
 このために血行が障害されて冷える人によい。

 皮膚の色があおく血色がない・水太りして筋肉は軟弱で力がない・疲れやすい・
 体が重だるく動作がにぶい・筋肉の不随意のけいれんなどがみられる。

 貧血様にみえるが、血色素が少いのではなく、
 浮腫のために血管が圧迫されているための現象です。

 胃の冷えで悪心・嘔吐があるときには呉茱萸・半夏・生姜を加え、
 エキス剤なら、呉茱萸湯または小半夏茯苓湯を合方する。

 下腹部の冷えで腰痛・下痢のみられるときには乾姜・蜀椒を加え、
 エキス剤では人参湯・大建中湯・真武湯を合方する。

 身体内部に水滞があり、胃内停水(溜飲)などが多いときには、
 心悸亢進・目まい・立ちくらみ・肩こり・頭にものをかぶったような感じ(頭帽感)
 などが発生し、天候が悪いときに増悪する。
 この場合には桂枝・甘草を用いる(苓桂朮甘湯との合方)。

 当帰四逆湯・当帰建中湯なども本方と似ているが、
 本方のように水滞のある冷えではなく、浮腫など湿に関係のない冷えに適応する。

[適応症]
 月経痛、妊娠の腹痛、流産の予防。
 冷え性、浮腫があり、手足の冷えに。
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大青竜湯

[適応症]
 1.浮腫。
 2.熱病・・・・・浮腫のある者の熱病。

[組成]
 麻黄・桂皮・杏仁・石膏・甘草・生姜・大棗

[効能]
 1.浮腫(水腫)を利尿して治す。
 2.発汗作用。
 3.抗炎症、解熱作用。

[解説]
 麻黄・甘草は利尿作用と、発汗作用がある。
 桂枝を併せると、発汗も利尿の作用も増強される。
 杏仁も利尿作用があり浮腫に用いられる。
 
 熱性疾患の発熱のあるときは発汗し、一般の熱のない病では利尿によって水を除く。

 石膏は消炎解熱作用がある。

 1.浮腫
  金匱要略には、溢飲に(浮腫)用いて、小青竜湯とともに、浮腫の治療をする。
  当にその汗を発すべし、としていますがこれは誤りで、その尿を利すべしとすべきです。

  前述のように、無熱のときはほとんど利尿によって浮腫は治る。

 2.熱病の発汗と解熱
  熱病の治療に、漢方では脉浮で悪寒のする時期は、体を温めて発汗療法を行なう。

  麻黄杏仁桂皮甘草は、麻黄湯で強力な発汗剤です。
  漢方は発熱して高熱でも、まだ悪寒のある時期は、解熱剤を与えて熱を下げない。
  むしろ温めて、体温を上昇させ、発汗させて治す。

  解熱薬を用いて熱を下げるのは、悪寒がなくなり、
  体があつくなり汗が出るときになってからです。

  高熱で、あつく、身体中から汗が吹き出し、
  布団や衣類を脱ぎ捨てるようになると、知母・石膏等で解熱をする。

  麻杏甘石湯は、「表証なく裏に熱ある者に用いる。」といわれるように、
  体の内部の熱、炎症を治す。

  本方を用いる熱病は、悪寒がして、体表は寒く、汗が出ない。
    (普通は、体表もあつくなり、汗が出てあつくなると、白虎湯で解熱させる・・・が)
  しかも、体内はあつく、外寒、内熱である。
  そこで桂麻で体表を温めて、石膏で内熱を治める。

  このような患者は、平素体に浮腫(滞在性の浮腫、水腫)のある人がなる病態で
  浮腫、水が多いため、温めても、悪寒がとれず、内部では熱が上がってあつくなる。

 3.熱病で、浮腫がある者
  浮腫が皮膚にあればしびれ、筋肉にあると身が重く動きにくい。

  浮腫のある人は、あまり熱は高くなりにくい。
  浮腫、水滞のある者は、痰も多い。

  麻黄・甘草・石膏の組合わせの方剤に、越婢加朮湯があり、甘草麻黄湯があり
  麻杏甘石湯もあるが、小青竜湯加杏仁石膏も面白い。
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小青竜湯

[適応症]小青竜湯(傷寒論)

[組成]
 麻黄・桂枝・芍薬・細辛・乾姜・五味子・半夏・甘草
[効能]
 発汗、利尿、鎮咳、平喘(喘息を治す)、体を温める。

 本方は、麻黄、甘草を主とする利尿剤で、大青竜湯と共に溢飲(浮腫)に用いる。
 また、麻黄・桂枝・細辛を主とする発汗剤でもある。
 
 主として、無熱時は利尿し、有熱時には発汗する。共に体内の水分を除く。
 半夏・五味子・麻黄・芍薬は鎮咳作用があり、鎮咳剤として用いる。

 漢方では、症状によって、病態を寒熱に区別します。
 本方の乾姜・桂枝・細辛は体を温める作用があり、気道の寒証に用いる。
 
 上気道炎では悪寒があり、くしゃみ、鼻水が噴出し
 下気道にも及ぶと、更に、薄い痰が多量に出る。
 
 上気道、下気道を合わせると、クシャミ、水っ鼻、ゴロゴロ、ゼロゼロ・・・となる。
 寒証には附子を加えると、更に有効です。
 
 上気道では麻黄附子細辛湯、
 下気道に入れば、小青竜湯、
 さらに加附子とすれば、麻黄附子細辛湯との合方となる。

 小児は痰を飲み込むから喀出しない。昔、小児喘息とか喘鳴を伴った気管支炎、
 喘息様気管支炎・・・・などといわれた病で、ゴロゴロ、ゼロゼロ、痰声が聞かれる。
 
 熱証では、
 鼻では鼻閉塞が、気管支炎では濃く硬い痰また膿性喀痰で、
 気管支喘息でもゼロゼロの水気の多い痰でなく、ヒュー、ヒューという。
 その治療は、抗炎症作用(清熱)のある薬物で、麻杏甘石湯がその代表です。
 
100%寒証というものも100%熱証も少なく、中間が多い。
小青竜湯加附子。小青竜湯。小青竜湯加(杏仁)石膏。麻杏甘石湯などで対応する。

エキス剤では、小青竜湯に附子と麻杏甘石湯を、症状(証)に応じて配合すればよい。
 

[運用の実際]
 小青竜湯は複合処方であるためさまざまな方意がある。

1) 鎮咳去痰剤として
 @ 呼吸器系の感染症に
  感冒・インフルエンザ・上気道炎・気管支炎などの咳嗽・喀痰に用いる。

   i) 悪寒・発熱・頭痛・身体痛・関節痛などの表寒を呈するとき。
     発熱は一般にたかくなく、発熱がないときにもよい。

   ii) 稀薄で白い大量の痰(寒湿痰)・鼻みず・くしゃみを呈するとき。
     痰・鼻みずはうすく白色で、黄色や緑色ではない。

     なお、痰が多いときでも、
     痰が黄色・緑色を帯び、高熱があったり悪寒がないなどの状態であれば、
     熱証とみて清熱(消炎・解熱)の石膏を加える(小青竜湯加石膏)。
     去痰の杏仁を加え小青竜湯加杏仁石膏としてもよい。
     エキス剤では、小青竜湯と麻杏甘石湯を合方すればよい。

 A 喘鳴をともなう気管支炎様の症状に
  小児喘息・喘息様気管支炎などと呼ばれる状態ですが、
  気管支喘息のように呼吸困難はなく、また決して炎症によって生じるものでもない。

滲出性体質の小児にみられ、
体内の水分が過剰なために冬期に寒くなるとゴロゴロ・ゼーゼーと喘鳴をともない
水様の鼻みずやよだれを出す。この状態に用いる。

 B 気管支喘息
  喘息発作の初期でヒーンヒーンと呼吸困難がつよく、
  口渇があり額に汗が出て起坐呼吸し、痰がほとんどでないときは麻杏甘石湯を用いる。

  咽で喘鳴や痰の音がする場合には、射干麻黄湯をよく用いる。

  痰の量が多くゴロゴロ音がするときには小青竜湯が適するが、
  一般に小青竜湯加杏仁石膏を用い、蘇子・桑白皮を加える。

  エキス剤では小青竜湯と麻杏甘石湯を合方するとよい。
  すなわち、気管支炎・気管支喘息には小青竜湯加杏仁石膏が繁用される。

2) アレルギー性鼻炎に
 クシャミを連発し、みずばながでるときには、小青竜湯や麻黄附子細辛湯を用いる。

 寒けや手足の冷えがつよければ小青竜湯に附子を加える
  (小青竜湯合麻黄附子細辛湯に相当する)。
 麻黄附子細辛湯は、「少陰病」「脈微細でただ寝んと欲す」などといわれるが、
 最もよく使用するのは、クシャミ・鼻みずのでる感冒やアレルギー性鼻炎です。

 虚実や体格などに関係なく、非常によく奏功する。
 これに咳と痰をともなうときには小青竜湯を用いる必要がある。

 アレルギー性鼻炎で、粘膜が浮腫状となり鼻閉がある場合には、麻黄湯がよい。
 また3月頃だけにおきる季節的なアレルギー性鼻炎にも奏功する。

 粘膜が腫脹して炎症性発赤があり、
 クシャミが出て鼻汁が多いが、鼻汁がやや粘稠なときは小青竜湯加石膏を用いる。

3) 浮腫に
 麻黄には利水の効能があり、石膏を配合すると利水の効果がつよくなる。

 麻黄・石膏を組み合わせた基本処方は越婢湯で、
 大青竜湯・小青竜湯加石膏も同様の配合となり、浮腫に用いられる。
 小青竜湯加石膏は越婢湯よりも利水の効果がつよいといわれている。

 @ 急性腎炎 
  急性腎炎には越婢加朮湯がよく用いられる。皮膚化膿症・扁桃炎などによる腎炎や、
  浮腫とタンパク尿がつよいときに、越婢加朮湯を使用するとよい。

 A ネフローゼ型腎炎
  全身性浮腫・多量のタンパク尿・低タンパク血症・α2グロブリン増加・βリポタンパクや
  コレステロールなど血中脂質の増加を呈するネフローゼ型腎炎、あるいはステロイドに
  反応するタイプや膜性腎症には、越婢加朮湯・小青竜湯加石膏を用いる。
  メサンギウム増殖の慢性腎炎には浮腫を除く利尿以外に効果はない。

 B 肋膜炎
  胸水のたまる湿性肋膜炎に、
  越婢加朮湯・小青竜湯加石膏・小青竜湯加杏仁石膏を用いる。
  乾性肋膜炎には、柴陥湯か柴胡枳桔湯を用いる。

4) 解表剤として
  辛温解表の麻黄・桂枝・細辛が配合されているので、感染症の初期の表寒に用いる。

 利尿障害のある人は、体内に水滞(痰・湿)があり、
 寒さにより発汗や不感蒸泄が減少すると
 水滞がつよくなり、鼻みず・クシャミなどが発生する。

 小青竜湯は、このように水滞のある冷え症のものが
 感冒・インフルエンザに罹患して表寒を呈したときに用いる。

 この状況には、麻黄湯・麻黄加朮湯も使用しますが、
 水滞も冷えもより強いものに対しては小青竜湯を用います。

[適応症]
 感冒、鼻炎(アレルギー性鼻炎)、気管支喘息、喘息様気管支炎、浮腫。
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麻杏甘石湯

[組成]
 麻黄・杏仁・甘草・石膏
[効能]
 1.抗炎症、解熱作用
 2.利尿作用。
 3.気管支筋の痙攣を除く。
[解説]
 石膏に抗炎症解熱の作用があり、麻黄・杏仁に利尿作用がある。
 
 それで麻黄と石膏の組み合わせは、炎症性の浮腫に使います。
 
 やけどの水疱なんかも炎症性の浮腫ですし、
 局所的なものでも、全身性の浮腫にも使います。腎炎にも使います。
 
 炎症性の浮腫がおこるのは
 局所に侵襲があると、まず動脈性の充血が起きて、
 毛細血管が拡張して赤くなり、血流が停滞します。
 それから細静脈の側でうっ血が起こって、血液成分が滲出します。
 それが滲出性の浮腫です。  これに麻黄と石膏を使います。

 痔核の嵌頓による疼痛に用いて30分でよくなる。
 
 血栓性静脈炎に有効。
 
 肺炎、大葉性肺炎の滲出性炎症によい。
 
 熱証の気管支喘息に用いる。
  熱喘は、口渇があり、痰は少なく、切れが悪い。
  気管支の筋肉に痙攣があり、ヒュー、ヒューという喘で、ゴロゴロと痰喘はない。
 
 寒喘には小青竜湯加附子を用いる。 その中間が、小青竜湯加杏仁石膏。

[適応症]
 1.痔核嵌頓。及び血栓性静脈炎。
 2.気管支喘息。(熱証)
 3.肺炎
   気管支炎・・・・・小青竜湯加杏仁石膏蘇子桑白皮。
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麦門冬湯

[組成]
 麦門冬・半夏・粳米・人参・大棗・甘草
[解説]
麦門冬湯は「咳止め」、すなわち鎮咳去痰剤の一種と考えて用いればよい。

半夏には鎮咳作用があり、
麦門冬、粳米、人参、大棗、甘草は体を潤し、水分を保つ作用がある。

鎮咳の主薬が半夏で、溶解性去痰薬の麦門冬・人参(党参)・粳米・炙甘草を配合した。

中国では、麦門冬湯を、肺胃の陰虚に対する補益剤に分類し、
滋潤性の麦門冬を主薬とし、人参(党参)・粳米・炙甘草で滋潤性を高め、
気道を潤して咳を止めると考え、溶解性きょ痰の作用を主として
鎮咳の半夏の作用を従とみている(半夏は乾燥性)。

中国の北方は空気が乾燥しており、
日本は湿度が高いのでこのようなことは少ないと考えられる。

日本でも、痩せて津液の少ないもの(陰虚)が乾燥によって発病する事もあるが、
中国のように滋陰益気の処方と考える見方にとくにこだわる必要はない。

 北京などは、夏季も雨は降らず、空気は乾燥して温燥になる。
 日本では夏は高温のとき多湿で、自然環境では温燥はおこらない。
      (人為環境で暖房などの行き過ぎでおこることもあるが)

 秋から冬にかけて異常乾燥注意報などのでるときは、涼燥がおきる。
 しかし涼燥は温燥より軽症です。

 燥症には、このような外燥のほかに、内燥といって、痩せて水分の少ない人がいる。
 内燥の人は外燥の影響を受け易い。

 体に水分の少ない脱水し易い人は空気の乾燥する季節に、燥のカゼを引く。
 内燥の人は、マスクをすれば、マスクと鼻腔、口腔の間に水分が貯まり、予防になる。
 部屋に少し加湿をする。ノド飴もよい。

 中国の増液湯(玄参・麦門冬・生地黄)、
 瓊玉膏(人参・生地黄・茯苓)などを服用して内燥を予防する。

 目標とする症候は、痰が少量で切れにくく、咽が乾燥して刺激感があり、
 咳が連続してこみあげ、甚しければ顔が真赤になるものです。
 
[運用の実際]
1. 痩せて枯れて水気の少ないものに適し、老人によくみられる。
  小児や肥満体(水太り)に使うことは少ない。

2. 痰が多いものには適さない。服用すると痰がますます多くなる。

3. 消炎の効果が弱いので、炎症が強いときには適さない。 この場合には、
  本方に消炎作用のある淡竹葉・石膏を加えた竹葉石膏湯を用いるとよい。

  エキス漢方では、桔梗石膏のエキス、白虎加人参湯エキスを合方する。
  また、抗生物質や消炎解熱剤を併用し、本方を単に鎮咳去痰剤とするのもよい。

4. 以前は肺結核によく使用し、喀血・血痰には効果をもつ黄連・生地黄・阿膠などを、
  咳のため嗄声となったときには桔梗・玄参などを加えて用いた。

[効能]
 鎮咳、潤燥作用。
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半夏厚朴湯

[組成]
 半夏・厚朴・紫蘇葉・茯苓・生姜

[適応症]
 悪心、嘔吐、咽喉異物感、閉塞感、
 食道下部噴門部の痙攣、上部消化管ジスキネーシス。
 胆道のジスキネーシス。過敏性腸症候群。気管支喘息、咳嗽、嗄声。
 陰嚢水腫、急性腎炎の浮腫。軽症のうつ病。

[効能]
 鎮嘔、制吐作用、及び鎮咳作用。
 消化管、気道の平滑筋の痙攣を制する。
 利尿作用。抗うつ作用。

[解説]
 本方は金匱にある「婦人の咽中炙臠あるが如きは半夏厚朴湯之を主る」
 の文章が適応症とされている。この症状の患者は、注意してみると時々遭遇する。

 噴門、食道下部の痙攣で強くはない。
 一種の上部消化管のジスキネーシスと考えている。

 その原因に精神的なこともある。 厚朴がこの痙攣をゆるめて、
 紫蘇が気分を晴れやかにしてこれを治す主薬です。

 半夏・生姜・茯苓は小半夏加茯苓湯で、悪心、嘔吐に用いる。
 半夏には鎮咳作用があり、咳を止めるのに用いられる。
 厚朴は平滑筋の痙攣、緊張をゆるめる作用があり、食道、消化管のみならず
 気管の痙攣にも用いられ、気管支喘息に用いられる。
 茯苓には利水作用があり、組織間、細胞間の水を血中に入れる。

 陰嚢水腫の大きい人に使って治した、という文献もある。
 湿疹の内攻による腎炎の浮腫に用いる。水を除くには朮を加えたほうがよい。
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四逆散

[運用の実際]
 四逆散は、柴胡・枳実・白芍・甘草という
 疏肝解欝の効果を主とした向精神薬の配合として、心身症・神経症に用いることが多い。

 小柴胡湯加減や大紫胡湯のように柴胡・黄ゴンという清熱(消炎・解熱)の効果を
 主目的にした配合ではないので、発熱性疾患に用いることは少い。

 柴胡は、
 いらいら・緊張・不安・憂うつなどの精神的ストレスを解消する「疏肝解欝」の作用をもち、
 またこれらのストレスにともなう自律神経支配領域の運動機能異常や、
 背部・胸脇部の筋緊張亢進による膨満感・異和感・こりなどに効果がある。
 また、女性の精神的ストレスによる月経不順・乳房の腫脹などにも有効である。

 白芍は、
 平滑筋・骨格筋の痙攣と痙攣性疼痛を緩解する作用(柔肝・平肝という)があり、
 よく甘草と配合する(芍薬甘草湯)。
 また、頭部の充血でふらつき・めまいの時に用いると、脳血管を収縮させて鎮めるので、
 桂枝・川キュウなどによる脳の充血性ののぼせ・ふらつきの副作用を防ぐために配合。

 枳実・枳穀は、
 自律神経支配下の消化管などの中空臓器平滑筋の運動異常を正常化する。
 たとえば、胆のうジスキネジーのように、胆のうは収縮するが
 オッディ氏筋のけいれんにより通過障害があって季肋下・心下部の疼痛がおきたり、
 幽門の機能的閉塞で、胃の蠕動が亢進し心下部痛・悪心・嘔吐がおきるときや、
 過敏性結腸のけいれん性便秘、あるいは膀胱神経症のような
 頻尿・残尿感・排尿障害がみられるなどの、さまざまな機能異常に有効。

 柴胡・白芍の配合は、
 精神的ストレスによるいらいら・緊張・不安・憂うつ・めまい・ふらつき・胸脇部の痛み
 などにより効果があり、さらに当帰・川キュウを配合して月経異常によく用いる
  (逍遥散の基本的配合)。

 柴胡・枳実の配合は、
 自律神経下の筋肉のけいれんをのぞき疼痛をしずめ運動を順調に行わせる。

 白芍に木香・烏薬を配合しても同様の効果がある。

 以上のような効果をもつところから、
 本方は反すう症・逆流性食道炎・食道けいれん・幽門けいれんなどの
 上部消化管の運動障害、胆道ジスキネジー・胆石症・胆のう炎・
 けいれん性便秘型の過敏性結腸症・膀胱神経症などに応用する。

 逆流性食道炎・胆のう炎など炎症をともなうものには、
 黄ゴン・黄連・山梔子・大黄・金銀花・連翹などの清熱薬を配合する。

 大柴胡湯・梔子大黄湯・黄連解毒湯などと合方するとよい。

 過敏性結腸でも、けいれん性便秘型には四逆散が適するが、
 冷えによるものには桂枝加芍薬湯・当帰建中湯などが、
 また痛みをともなわない下痢型には甘草瀉心湯がよい。

 膀胱の機能異常には烏薬が奏効するので配合し、
 下痢のしぼり腹や裏急後重には木香を配合するとよい。

 精神的ストレスの状態に関しては以下のような配合を応用するとよい。
 ゆううつ感には香附子・紫蘇葉・薄荷を、
 いらいら・興奮・怒りっぽいときには黄連・山梔子を、
 心悸亢進には茯苓・桂枝・竜骨・牡蠣・黄連・鉄・磁石などを、
 不眠には黄連・茯苓・釣藤鈎・夜交藤などを、
 頭が重く足が軽い・ふらつくなどには竜骨・牡蠣・磁石・石決明などを配合する。

 なお青皮は枳実・枳穀より作用がおだやかで、精神的ストレスによる機能異常にも有効、
 柴胡と併用すると緊張・いらいら・脇痛などに有効。

 ヒステリーの転換反応には、
 炙甘草・大棗を大量に使用するとよい(甘麦大棗湯・甘草瀉心湯などはこの意味をもつ)。
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逍遥散

[運用の実際]
 逍遥散は四逆散の変方と考えてもよい。
 柴胡・白芍・炙甘草に薄荷・茯苓を配合し、精神的ストレスを緩解する。

 薄荷はゆううつ感・精神的な原因による胸のつかえや脇肋の膨満感に効果があり、
 柴胡・白芍・甘草とともに精神的ストレスによる無月経や月経不順に有効。
 茯苓は精神的な心悸亢進・不眠に効く。
 (柴胡・白芍については四逆散・大柴胡湯などを参照されたい)。

 以上の効能から、精神不安・いらいら・ゆううつ感などの心身症・神経症によく用いる。

 本方は当帰と芍薬の配合があるので、とくに婦人に対してよく用いられる。
 当帰や芍薬は,下垂体ー卵巣や子宮に作用して月経障害を調整するらしいが、
 この基本が四物湯であり、月経障害には四物湯にさまざまな加減を行って対応する。
 
 ただ、四物湯には精神的ストレスによる
 情動中枢・自律神経中枢・下垂体などの失調を改善するための薬物の配合がなく、
 そのレベル以下の異常の調節が主になるものと考えられる。

 逍遥散は、四物湯の方意と精神的ストレスによる機能失調に対する配慮の、
 両者をかねそなえたものです。
 一般には以下のような状況に用いる。

1) 月経前期症候群
 月経前期症候群は、浮腫をともなう月経前期浮腫と、
 精神的障害が主な月経前緊張症の、両者を統称したものです。

 日常、非常によくみられ、30歳の終わりから40歳台が多い。
 排卵のあと黄体ホルモンの多い時期に浮腫が生じ、月経とともに減少し、これをくり返す。
 有経の婦人がほぼ1ヶ月の周期でむくむ場合に、もっとも多いのが月経前期浮腫。

 逍遥散には、利水の茯苓・白朮が配合され、
 四物湯のうちで浮腫の可能性のある熟地黄を除いてているので、この状況に奏効する。
 浮腫がつよい場合には五苓散を合方するとよい。

 なお、月経前にいらいら・怒りっぽい・頭痛・肩こり・乳房が脹って痛いなどの
 精神症状を呈するものが、月経前緊張症です。この状況にも逍遥散が適している。

 さらに、のぼせ・頬部の紅潮・目の充血・ひどく怒りっぽい・鼻出血・寒くなったりカーッと
 熱くなって汗がでる・不眠・よく目がさめるなどの熱性がつよいときには、
 山梔子・牡丹皮を加えた加味逍遥散を用いる。
 したがって、本方では四物湯のうちで上部の充血を助長する川キュウはのぞかれている。

 月経前緊張症には、柴胡桂枝湯・小柴胡湯合桂枝茯苓丸なども使用する。

 尾台榕堂は《類聚方広義》で、柴胡桂枝湯を
 「婦人ゆえなく憎寒壮熱・頭痛眩暈、心下支結、嘔吐悪心、肢体酸軟あるいはまひ、
 欝々として欠伸するもの。俗にこれを血の道という。この方によろし」と述べており、
 古方派のなかにはこうした婦人の心身症に柴胡桂枝湯を応用するものも多かった。
 
 小柴胡湯合桂枝茯苓丸は、柴胡桂枝湯加桃仁・牡丹皮・茯苓に相当し、
 全く異なった処方でもよくみれば似ているのである。

 月経が閉止するときには桃仁・紅花・香附子・益母草を、
 月経痛には当帰・白芍を増量し延胡索・香附子を加える。

2) 更年期症候群
 月経が不順になる・体があつくなったり寒くなったりする・午後になるとほてり汗がでる・
 のぼせる・顔が赤くあつい・めまい感・鼻出血などの症候に用いる。

 加味逍遥散として使用するほうがよい。
 川キュウはこのような状況にはよくないので除いている。
 当帰芍薬散の適応する状況はのぼせなどなく顔色もあおい。

3) 乳腺症
 月経前に乳房が脹り痛みがつよくなるときに用いる。

4) 神経症
 いらいらして怒りっぽい・怒ると顔が赤くなるなどの状況に用いる。
 のぼせがつよく上部から出血がみられるなどのときには、加味逍遥散がよい。

5) 心身症
 一般に本方の適応するものは、
 全身倦怠感・頭痛・肩こり・背筋痛・不眠など愁訴が多いことが特徴です。

 過敏性結腸のけいれん性便秘型に用い、「大便秘結して朝夕快く通ぜぬというもの、
 何病にかぎらずこの方を用いれば大便快通して病も治す」というごとくです。
 加味逍遥散の方がよい。

 四逆散が適応する状態よりも、
 のぼせ・いらいらがつよく湿の多い(水肥りの)ものに適する。

 膀胱神経症で、頻尿・残尿感・排尿痛・下腹部膨満感のあるときに応用する。
 山梔子を加えて用いる方がよく効く。

 慢性の膀胱炎で難治だが、炎症症状は軽度で菌が少ないときにも、
 山梔子を加えて使用すると効果がある。方意は五淋散に似る。

 炎症がつよいときには竜胆瀉肝湯・八正散などを用いる。

6) 慢性肝炎
 一般に平肝流気飲を基本に加減するとよい。
 エキス剤では、加味逍遥散・小柴胡湯合当帰芍薬散を基本にし、
 症状によって合方して応用するとよい。


加減方

加味逍遥散

[運用の実際]
 逍遥散に牡丹皮・山梔子の清熱止血薬を加えたもので、
 逍遥散の適応に準じ熱証のあきらかなものに用いる。

 寒くなったりあつくなったりする・あつくなると汗がでる・熱がでる・のぼせる・
 顔が赤くほてる・頭痛・いらいら・怒りっぽい・不眠・感情の起伏がはげしい、など。
 鼻出血・歯齦出血・吐血などの出血がみられる、気温が高いと症状がつよく低いと楽、
 などの症候があるときに逍遥散に牡丹皮・山梔子を加えた本方を使う。

 産前・産後で口内や舌にびらんが生じ痛むとき、
 けいれん性便秘、膀胱神経症などに用いる。

 にきびなども、月経前に増悪し、
 小さな丘疹で圧出しても水分だけが出てあとが赤くなるものには効果がある。

黒逍遥散 

[運用の実際]
 逍遥散の適応症で血虚の症侯が顕著なもの。
 とくに月経量が少ない、月経周期の延長または無月経のものに適している。

 逍遥散に補血の地黄を加えたものです。

 血虚のものは、よく食べるが太らずに痩せ、皮膚は乾燥してカサカサする。
 血虚に対しては熟地黄を配合する。

 また、手のひら・足のうら・胸がほてりあついとき(五心煩熱)、
 夕方から夜間の発熱、鼻出血・歯齦出血・血性帯下・血尿・不正性器出血などの、
 熱証や出血に対しては生地黄を配合する。

 進行性指掌角化症・家婦湿疹は、夏季にはよく秋から冬にかけて悪化し、
 まず指紋がなくなり皮膚が薄くなり縦にしわができて皸裂・発赤・ほてりが生じ、
 月経時に増悪する。このように、進行性指掌角化症が基本にあるものに用いる。
 華岡青洲は、四物湯を合方し地骨皮・荊芥を加えて使用した。

 ただし、進行性指掌角化症よりも接触性皮膚炎の傾向がつよい家婦湿疹には、
 消風散の加減か防風通聖散に地黄・白シツ藜を加えて用いる。
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小柴胡湯 @
 
[運用の実際]
 小柴胡湯を応用するときに
 「胸脇苦満」や「往来寒熱」がなければ使えないという考えを捨てると
 それだけ広く使えるようになる。腹証などもあくまで参考にすべきもので、
 これにとらわれると自らの足をひっぱることになりかねない。
 
 《傷寒論》にも「傷寒、中風、柴胡の証あり、ただ一証をみればすなわち是なり、ことごとく
 具わること必ずとせず」と述べていることを知るべきです。
 
 小柴胡湯は、柴胡・黄ゴンという消炎解熱薬を主に配合し消炎剤としてつくられているが、
 半夏・生姜・人参・炙甘草・大棗という健胃薬の配合があり胃薬ともみることができ、
 また止咳キョ痰の半夏に人参・大棗・甘草・生姜を配合した鎮咳薬とも、
 柴胡・甘草・大棗という向精神薬ともみることができる。
 
 以上のことから次のように応用するとよい。

1. 消炎解熱剤として

《傷寒論》では、発熱性疾患に対し汗法・吐法・下法という治療法を示している。
小柴胡湯は一名「三禁湯」といい、汗・吐・下の三法を行わずに
消炎解熱する時期(少陽病)に用いる処方で、
「和解法」といわれる治療法の代表処方になっている。
 
汗法を行うのは、感染症の初期で表証を呈する時期(太陽病)です。
 
吐法を行うのは、食中毒など腐敗物や毒物が胃内にある場合や、
気道に粘稠な痰が多量につまり喀出できないときであるが、あまり使われない。

下法を行うのは、太陽病の時期で治癒せずに炎症がはげしくなり、高熱・悪寒はなく
悪熱・全身の発汗・はげしい口渇・尿量減少(濃縮尿)が生じ(陽明病の前期)、
つづいて腸内の水分が減少し腸管まひが生じ、
腹部膨満・便秘がおきた時期(陽明病の極期)です。

消炎解熱の効果をもつ大黄・芒硝に枳実・厚朴などを配合し
承気湯類で瀉下して治療する。嘔吐のあるときには用いない。

和解法(和法)を用いる少陽病は、
太陽病の表証でも陽明病の裏証でもない、中間の半表半裏証を示す。

半表半裏証では、往来寒熱が一般的で熱型は弛張熱を呈するが、
微熱のときには往来寒熱にはならないこともある。

脈は弦が多く、舌質は紅・舌苔は薄白であまり変化がない。

症状は、口が苦い・咽のかわき・唾液がねばる・食欲がない・
悪心・嘔吐・胸脇部が脹って苦しい・頸がこわばるなどがある。

和解法の代表処方である小柴胡湯は、柴胡・黄ゴン・半夏の組み合わせが特徴で、
柴胡・黄ゴンは消炎解熱に、
半夏は鎮嘔・制吐・鎮咳作用をもち胃・気管支のカタルに有効。
人参は心下部のつかえ・痛みに、大棗は半夏の燥性をおさえるために、
生姜は半夏を補助して嘔吐を止め健胃効果を出すために、加えられている。
以上の配合によって上記の少陽病の症候を緩解する。

発熱性疾患に対する小柴胡湯の主薬は消炎解熱の柴胡・黄ゴンです。

軽度の炎症には柴胡・黄ゴンは少量でよい。
しかし、発熱や炎症がつよいときには大量の使用が必要で、
さらに石膏・知母・黄連・山梔子・竜胆草・連翹・金銀花などの消炎作用をもつ清熱薬を
加えなければならないことも多い。

白虎湯・黄連解毒湯・小陥胸湯・涼隔散などを合方することもある。

 1) 発熱性疾患

  初期で表証を呈する時期には解表法(発汗法)が適し
  悪寒・無汗には麻黄湯・葛根湯、
  悪風・自汗には桂枝湯、
  熱感には銀翹散・葛根湯加石膏を用いる。
   
  ただしこの時期にも、麻黄・葛根などで食欲がなくなり
  悪心や胃部停滞感をおこす胃の弱いものには、最初から小柴胡湯を合方するとよい。

  葛根湯が適応する状態で悪心があれば、
  半夏を加えた葛根加半夏湯を用いることになっているが、
  小柴胡湯を合方する(柴胡・黄ゴン・半夏・人参を加える)のがよい。

  また、口が苦い・唾液が粘る・悪心などの胃症状をともなう表証には、
  小柴胡湯を主にして桂枝湯・葛根湯・麻黄湯などを配合する。
 
  銀翹散・葛根湯加石膏を用いる表熱には、小柴胡湯合葛根湯加石膏を、
  扁桃炎・中耳炎などで化膿傾向があれば桔梗石膏を加えて用いるとよい。
  エキス剤では小柴胡湯+葛根湯加桔梗石膏です。
 
  少陽病の症候とともに悪寒・頭痛などの表証がみられるときには
  桂枝を加えて発汗させる(柴胡桂枝湯)。無汗・肩こりには葛根湯を合方する。

  関節痛がつよいものは水分が多いためで、舌苔も厚膩のことが多いが、
  これにはさらに蒼朮を加える。
  口渇が強く高熱があれば石膏を加える(白虎湯を合方する)。
  便秘があれば大黄を、便がかたいときには芒硝を加える。
 
  なお、小柴胡湯加大黄の人参のかわりに
  蠕動促進の枳実と鎮痙の白芍を加え、甘草をのぞいたものが大柴胡湯です。

  高熱が持続し発汗が多いと、口渇がはげしく水分をいくらでも飲みたがり、
  飲んでもすぐに口が渇き、尿量は少い。これは高熱による発汗のための現象です。
  口は乾燥し舌苔も黄色を呈する。
  小柴胡湯に消炎解熱の効果がつよい石膏・知母を加える(柴白湯)。
  エキス剤では白虎加人参湯を合方する。

  痩せて体の水分が少いと、脱水による口渇が生じるが、この状態には半夏を減去し
  (半夏は燥性が強く脱水を促進)、天花粉(カ楼根)を加える(柴胡去半夏加カ楼湯)。
  さらに麦門冬・沙参・生地黄などを加えるとよい。
 
  体内は脱水し、口渇して水分を飲みたがるが、消化管内には水分が過剰にあり、
  水様物の嘔吐・下痢がみられ尿量が少いときには、茯苓・白朮・沢瀉を加える。
  エキス剤では五苓散・猪苓湯を合方する。柴苓湯でもよい。
 
  発熱して悪心・嘔吐のあるときには小柴胡湯がよい。
  とくに小児にこの症状が多く、熱があって乳や食べたものを吐くときに用いる。
  したがって小児の熱性疾患には小柴胡湯を中心に加減・合法を行う。

  熱病がほとんど治癒したが、動いて無理をすると熱がでるとき、
  あるいは病後の耳鳴にも用いるとよい。
 
  このほか、西洋医学の解熱剤・消炎剤・抗生物質などを使用するときに、
  胃障害の防止のために小柴胡湯を併用するとよい。

   特殊な状況としては以下のようなものがある。

  @ 発汗禁忌の発熱性疾患

   発熱があっても、多量の出血のあと・産後などの貧血や体力低下があるもの、
   あるいは自汗の多いものには、発汗療法を行えない。
   また、膀胱炎などを併発しているときに発汗法を行うと、
   尿が濃縮して高浸透圧となり、症状が増悪して血尿があらわれたりする。
   このような状況では、小柴胡湯を基礎にした和解法で対処する。
   膀胱炎などには猪苓湯を、血尿には四物湯・キュウ帰膠艾湯を合方する。

  A 弛張熱を呈する発熱性疾患

   腎盂炎・胆のう炎・産褥熱など深部臓器の化膿性炎症では
   弛張熱がよくみられる。この熱型のものに用いる。

   腎盂炎で高熱のときには、小柴胡湯に知柏地黄丸を併用する。

   胆のう炎・胆石症には、腹痛・便秘をともなえば大柴胡湯を標準にする。
   小柴胡湯に白芍(腹痛に対し)・大黄(便秘に対し)を加えれば大柴胡湯に近似する。
   エキス剤では小柴胡湯か大柴胡湯に桔梗石膏・芍薬甘草湯などを合方すればよい。

   慢性の場合には、桂枝茯苓丸・大黄牡丹皮湯合桃核承気湯を併用する。
   産褥熱には、小柴胡湯に四物湯を合方したものを基本にする。

  B マラリアおよび類似熱型を呈する発熱性疾患

   マラリアは日本では育たないので、これらには小柴胡湯がもっともよい。
   南方の発生地ではマラリアの治療は困難で、
   一般に常山・草果・青蒿などを加えて用いているようです。

  C 月経期の発熱・性器の炎症による発熱  

   月経期間中の発熱には小柴胡湯を用いる。
   卵巣・卵管・子宮などの炎症で、発熱と下腹部痛があり
   悪心をともなうときには、小柴胡湯合桂枝茯苓丸・柴胡桂枝湯がよい。

 2) 化膿性炎症

   急性・慢性の扁桃炎・扁桃周囲炎・中耳炎・副鼻腔炎
   あるいはセツ・癰などの化膿性炎症に応用する。

   一般には葛根湯加桔梗石膏がよい。とくに身体上部の炎症に適する石膏は、
   強い消炎作用をもち化膿性・非化膿性炎症に効果がある。

   桔梗は排膿・キョ痰に働く。このほか金銀花・連翹・ヨクイニンなどを配合してもよい。

   ヨクイニンはうすい膿で量が多いときに、石膏は膿が濃厚なときによい。

   胃が弱く食欲がなくなり口が苦いなどの症状には小柴胡湯加桔梗石膏を用いる。

   小柴胡湯加桔梗石膏・葛根湯加桔梗石膏・葛根湯加桔梗石膏合小柴胡湯などは、
   抗生物質であまり効果のない上記疾患にもよく効く。
   ただし、炎症のつよいときには大量を要する。

 3) 呼吸器系の炎症 

  @ 急性炎症  
   気管支炎には、一般に小青竜湯加杏仁・石膏・蘇子・桑白皮がよい。
   エキス剤では小青竜湯と麻杏甘石湯を合方する。

   食欲不振・悪心・嘔吐・胸脇部の脹った感じや痛みがあれば小柴胡湯を併用。

   肺炎では、表証(太陽病)から、高熱・はげしい口渇を呈する陽明病に移行すれば
   麻杏甘石湯を、少陽病に移行すれば柴胡枳桔湯を用いるのが標準です。

                 
         麻黄湯       陽明病  麻杏甘石湯
   太陽病{      ―――<
         葛根湯       少陽病  柴胡枳桔湯


  柴胡枳桔湯は、小柴胡湯から人参をのぞき、枳実・桔梗・カロニンを加えたものです。
  人参は痰の量を増加させるので、咳嗽のあるときにはのぞくのが定石です。

  枳実・桔梗・カロニンはキョ痰・排膿作用がある。
  カロニンは、咳をすると胸にひびいて痛み、咳をするのが苦痛で、
  痰がきれにくいものに対して有効です。 炎症がつよければ石膏を加える。   
 
  エキスでは、小柴胡湯に小陥胸湯と桔梗石膏や小陥胸湯と排膿散及湯を合方する。
  ただし、炎症がつよければ大量に使用しないと効果がない。
  なお、小柴胡湯合小陥胸湯が柴陥湯です。

  A 肺結核
   小児の結核で、初感染があってとくに症状をみとめないとき、
   微熱があり食欲のないときに、小柴胡湯のみを用いることが多い。

   結核のシューブで滲出性病変があり、血沈が亢進し、午後には体温上昇がみられ、
   盗汗がでるときには、秦キュウ・鼈甲が経験的に奏効する。

  B 肋膜炎
   胸水のたまる湿性肋膜炎には、
   越婢加朮湯・小青竜湯加石膏(小青竜湯と麻杏甘石湯の合方)を用いる。

   乾性肋膜炎で胸痛のあるものには、柴陥湯・柴胡枳桔湯が基本です。

 4) 肝炎
   急性肝炎には、小柴胡湯加黄連・山梔子を用い、
   黄疸があれば茵チン蒿湯・茵チン五苓散などを合方する。
   エキス剤では小柴胡湯に少量の黄連解毒湯を合方する。
   慢性肝炎には平肝流気飲を加減して用いる。

 5) その他
   そけい部や外陰部の湿疹・頑癬には、
   小柴胡湯に連翹・蒼朮・白シツ藜などを加えて用いる。
   頭部には小柴胡湯に黄連解毒湯を加えて用い、
   四肢とくに前腕・下腿には当帰拈痛湯を用いる。

                            小柴胡湯 Aに続く 
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小柴胡湯 A

2. 向精神薬として
 
柴胡は疏肝解欝の効能をもち、中枢に作用して情動異常をしずめ、
視床下部から下垂体などの上位に作用して
自律神経系・内分泌系の調整をするらしく、いらいら・不安・緊張感を緩解する。

半夏にも鎮静作用があり、
炙甘草・大棗は大量に用いるとヒステリックな反応を鎮静する
(甘麦大棗湯・甘草瀉心湯などはこの例)。
このように、小柴胡湯は向精神薬としての効果がある。

怒りっぽい・いらいらなどがつよいときには黄連を加え、
エキス剤では三黄瀉心湯・黄連解毒湯などを合方する。
 
不安感・ゆううつ感には、紫蘇葉・香附子・厚朴・薄荷などを加えるとよく、
エキス剤では香蘇散・半夏厚朴湯などを合方する。

不眠には、
鎮静・催眠作用のある釣藤鈎・夜交藤・合歓皮・茯神・黄連・酸棗仁を加える。

心悸亢進・耳鳴・体の動揺感・頭が重く足が軽く浮遊感のあるときなどには、
牡蠣・竜骨・石決明などを加える。 柴胡加竜骨牡蠣湯はこの代表処方。

このほか、婦人の心身症・自律神経や内分泌の異常などに、
小柴胡湯・四物湯・当帰芍薬散・桂枝茯苓丸・香蘇散などを配合して用いる
 (四物湯は卵巣・子宮などに作用し内分泌・自律神経の異常を調整するらしい)
キュウ帰調血飲第一加減はこの処方のひとつです。
 
小柴胡湯をはじめ 柴胡桂枝湯・柴胡桂枝乾姜湯・
柴胡加竜骨牡蠣湯・大柴胡湯・四逆散・逍遥散などは、
以上に述べた観点から、すべて神経症・心身症に用いる向精神薬といえる。


3. 胃腸薬として
 
半夏・生姜は制吐・鎮嘔作用をもち、
人参・半夏・生姜・大棗・炙甘草は消化吸収促進に働く
 (人参の胃腸の働きをよくするのは、すぐにではなく、長期に服用して
 根本的に改善する、アトニーの人が服用すると胃のもたれ・つかえが生じる)
ので、胃腸薬として用いることができる。

また、柴胡・炙甘草は胸脇部の脹った痛みや鈍痛に有効。

柴胡・黄ゴンは胃腸障害をおこさない消炎解熱薬であるから、
本方は軽度の炎症をともなう胃腸疾患に適している。

胃炎・食道炎などで、充血・ビランによる症状がつよいときには、
黄連・山梔子を加える (少量の黄連解毒湯を合方する)。

胸痛にはカロニンを加える(小陥胸湯の合方)。
心下部痛と圧痛・むねやけがあるときには、小陥胸湯と合方する。
 
胃炎でも、炎症ではなく寒冷刺激による胃カタルのようなときには、
乾姜・肉桂・呉茱萸などの配合された人参湯・呉茱萸湯・安中散などを用いる。
 
胃腸・胆道などの平滑筋けいれんによる腹痛には白芍を加える。
エキス剤では芍薬甘草湯を加え、
冷えの傾向があれば桂枝加芍薬湯・小建中湯などを、
冷えがつよければ大建中湯を合方する。

炎症をともなわないときには黄ゴンを除く。
 
空腹時の痛みの多くは冷えによるので安中散などがよい。

食後すぐに痛むものは熱証(炎症)のことが多いので、黄連・山梔子を加える。
小陥胸湯を配合するかエキス剤では少量の黄連解毒湯を合方する。
 
消化管の運動異常で、
食道・胃・胆道など上部のジスキネジーには
陳皮・枳穀・枳実・厚朴などを、
過敏性結腸など下部のジスキネジーには
枳実・厚朴・檳榔子・木香・大黄などを配合。
膀胱には烏薬がよい。
 
反すう・食道への逆流・食道けいれん・幽門けいれんなどには、
半夏厚朴湯・橘皮枳実生姜湯を、
胃液の量が多ければ茯苓飲を、それぞれ合方する。
 
胃十二指腸潰瘍はストレスが関与することが多い。
小柴胡湯・大柴胡湯・四逆散・柴胡桂枝湯などに、出血があれば
四物湯・三黄瀉心湯・黄連解毒湯・桂枝茯苓丸・通導散などを合方する。
激痛には解労散を使用する。

暴飲暴食などで下痢するときには、蒼朮・白朮・茯苓・沢瀉・猪苓などを加える。
冷えには乾姜・附子・肉桂を、
痛みには白芍・木香・厚朴などを加える。
エキス剤では、小柴胡湯に平胃散を、また五苓散を合方(柴平湯・柴苓湯)。


4. 鎮咳キョ痰薬として

半夏には鎮咳・キョ痰作用がある。

鎮咳作用をつよめるには麻黄・杏仁・厚朴・五味子などを、
キョ痰をつよめるには桔梗・枳実・貝母などを加える。
 
半夏は燥性がつよいので、
滋潤性の人参・大棗の配合がいる(とくに大棗が大切)。

ただし痰が多量のときには、人参・大棗を除去すべきです。

また、身体の水分が少いときには、
半夏を除いて天花粉(カロコン)・地黄・麦門冬・沙参を加える。
 
炎症がつよいと、
痰が粘稠で切れにくく咳をすると胸痛し、痰が黄色・緑色の膿状となる。
このときは、消炎に黄連を加え、
胸痛をのぞき痰をうすめて喀出しやすくするカロニンを加える
(小陥胸湯との合方)。

カロニンと桔梗・枳実を加えると柴胡枳桔湯になる。

消炎に石膏を加えると小柴胡湯加石膏になる。

逆に、うすく水様の痰が多くでるものは冷えによるので、
乾姜・五味子などを加える。
エキス剤では小青竜湯・苓甘姜味辛夏仁湯を合方する。
 
神経性の咳嗽には、
小柴胡湯合半夏厚朴湯(柴朴湯)がよく、分心気飲とともによく用いる。
 
百日咳には、痙咳期の前に本方を用いると痙咳がおきない。
痙咳期にも本方を用いる。 難治のときには桂枝茯苓丸を併用する。
 
気管支喘息の体質改善には、
15歳位までは、小柴胡湯合半夏厚朴湯か大柴胡湯合半夏厚朴湯がよく、
成人ならさらに桂枝茯苓丸の併用あるいは防風通聖散合通導散を用いる。

気管支炎・肺炎などには、小柴胡湯加桔梗石膏や
小柴胡湯合小陥胸湯・柴胡枳桔湯・小柴胡湯合麻杏甘石湯などを用いる。
 
肺化膿症・化膿性気管支炎・気管支拡張症などには、
葦茎湯・肺癰湯・黄連解毒湯加桔梗石膏などを合方する。
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大柴胡湯

[運用の実際]
 本方は、傷寒論に
「太陽病、経を過ぐること十余日、かえって二三日これを下し、
後四五日、柴胡の証なおあるものは、まず小柴胡湯を与え、
嘔止まず、心下急、欝々微煩するものは未だ解せずとなす。
大柴胡湯を与えて下すときはすなわち癒ゆ」 とあるように、
発熱性疾患で少陽病と陽明病の病態が同時にみられるときに使用する処方です。

つまり、小柴胡湯(少陽病に対する)と小承気湯(陽明病に対する)の
合方加減とみることができる。

熱病で悪心・嘔吐のあるときには、
半夏・生姜で鎮嘔し、
柴胡・黄ゴンで消炎・解熱するのがよく、これが小柴胡湯です。

ところが、条文のように悪心・嘔吐があるときに、承気湯類の大黄・芒硝
など消炎性の下剤で瀉下すると、よけいに症状が増悪する
(この意味で、承気湯類は腸カタルには使えるが、胃腸カタルには用いられない)

この状況のときにX線透視をすると、
胃の緊張がつよく穹部は膨満して胃体部から幽門前庭にかけて狭小になり、
蠕動は亢進して過蠕動となっているにかかわらず、
幽門はけいれん性に閉塞して胃内容は十二指腸へ通過しない、、、らしい。

このために、悪心・嘔吐が頻発するのが、「嘔止まず」「欝々微煩」で、
心下部を圧診すると臍部近くまで硬く、痛み嘔吐しそうになるのが「心下急」です。
同時に心下部から腹部にかけてけいれん性疼痛が生じることも多い。

この状態には枳実芍薬散が適し、
枳実で幽門を開き蠕動を調整し、
白芍で消化管平滑筋のけいれんをしずめ腹痛を止める。

さらに、半夏・生姜(小半夏湯)により悪心・嘔吐をとめ、
柴胡・黄ゴンで消炎・解熱し、
そのうえで大黄により消炎と瀉下を行うのが大柴胡湯です。

けいれん性疼痛がなければ、白芍は不要であり、小柴胡湯加枳実でもよい。
腹部膨満があれば厚朴を加える。

以上のように、大柴胡湯は柴胡・黄ゴンに枳実芍薬散・小半夏湯を加え
さらに大黄を配合した処方と考えてよい。とくに大切なのは枳実の配合です。

なお一般的に、大柴胡湯を使用する目標として「胸脇苦満」をあげていますが、
胸脇苦満がないとはいわないが、小柴胡湯の適応する状態とは異なり
「心下急」「嘔止まず欝々微煩」「心下痞硬」「心下満痛」という状態が主であって、
胸脇苦満が目標ではない。

四逆散と比較すると、
四逆散には黄ゴンや半夏の配合がないので、消炎や鎮嘔・鎮咳の効果はない。
ただし、大柴胡湯と同じく白芍・甘草・枳実の配合があるので
平滑筋けいれんによる疼痛・運動異常のジスキネジーに奏効する。
 
大柴胡湯は一般に以下のように用いるとよい。

1) 感染症

 感冒・インフルエンザ・肺炎・麻疹・腸チフスなどで、
 少陽病と陽明病を兼ねた時期に用いる。

 大黄を加えて瀉下するのは、
 柴胡・黄ゴンと同じく消炎・解熱の作用を利用する意味もあるので、
 小柴胡湯の適応する状態よりも炎症がつよく高熱がみられるためです。

 単に油性の下剤(当帰・麻子仁など)を用いて排便させても意味はなく、
 また大黄で便秘や肥満を解消するものでもない。

 化膿性炎症には石膏・連翹・金銀花・蒲公英・黄連などを配合する。

2) 消化器疾患

 急性胃炎・慢性胃炎・胃酸過多症・胃十二指腸潰瘍・
 肝炎・胆のう炎・胆石症・膵炎などに応用する。

 黄疸には茵チン蒿・山梔子を加え、
 嘔吐がはげしければ半夏・生姜を増量し、
 水様の吐物があれば呉茱萸(黄連を配合)・茯苓を加え、
 腹痛が強ければ白芍を増量して甘草を加え延胡索・川レン子・木香などを配合し、
 腹部膨満には厚朴を加える。

3) 肥満・新陳代謝疾患・動脈硬化症

 大黄は大腸性の下剤で、効果発現は服用後6〜8時間を要する。
 枳実は消化管の蠕動をすみやかにして食物を下方に送るので、
 大黄による瀉下効果を急速にしたいときには、
 枳実を配合すると1〜2時間に短縮される。

 とくに腸管まひがあるときには必要で、高熱・うわごとなどがみられるとき
 には一刻をあらそうので、枳実の配合がいる(大承気湯がその例)。

 このことは、食物の通過も早いため
 食物が消化吸収される前に小腸を通過して栄養障害をおこすことを意味する。
 古人は「気を降しすぎる」のでよくないといっており、虚弱者には注意がいる。
 枳穀なら作用がおだやかなので、その場合には枳実を枳穀にかえるとよい。

 中年以降の肥満で、食欲亢進・便秘傾向・脂肪太りのものに、
 以上の効能を利用する。  一般に甘草を加えて服用させる。

 ただし、消化吸収の悪いものに用いると、
 栄養障害がすすんで体重減少・脱力感が生じ、
 水太りのものでは体重は減らず脱力感がおきて動けなくなる。

 通導散・承気湯など、枳実の配合されているものを用いるときにも注意がいる。

 なお、大黄は大腸性の下痢であるから、
 栄養物の消化吸収には関係がなく、下痢はしても太ることがある。
 以上の効果を利用して応用するのです。

4) 眼科・耳鼻科・咽喉科の疾患 

 結膜炎・紅彩毛様体の炎症・角膜炎などの眼科の炎症性疾患、
 中耳炎・鼻炎・副鼻腔炎・扁桃炎・咽喉炎・耳下腺炎などの耳鼻咽喉の炎症、
 歯科の炎症などに用いる。
 
 炎症がつよいときには、石膏・黄連・山梔子・竜胆草などの消炎薬を配合する。

5) 向精神薬として

 柴胡・白芍は、精神的ストレスに有効で、
 不安・緊張・いらいら・興奮を主とする神経症・心身症に使用する。

 枳実・白芍は自律神経支配下の平滑筋の運動異常に奏効する。
 
 胃十二指腸潰瘍・胃酸過多症・高血圧症・脱毛症・円形脱毛症・
 精神性インポテンツ・不眠症・筋緊張性肩こりなどに応用する。

 脳動脈硬化症・脳血栓症などで感情の起伏がはげしいものや、
 脳出血後後遺症の筋拘縮・運動まひにもよい。

6) 気管支喘息

 体質改善の目的で小柴胡湯の代りに用いる。
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柴胡桂枝湯

[運用の実際]
 一般に以下のような状況に用いる。

1) 発熱性疾患に

《傷寒論》には、
「傷寒六七日、発熱、微悪寒、支節煩疼、微嘔、心下支結、
外証いまだ去らざるもの」 とあり、
発熱・微かな悪寒・関節痛・頭痛・肩こりなどの表証があり(太陽病)、
また悪心・心下部の痞塞感などの少陽病の症候がある状態に使用する。

桂枝湯(太陽病)と小柴胡湯(少陽病)の合方とみることができる。

このことから次のように使用する。

 @ 感冒・インフルエンザなど

   発熱・悪寒・頭痛・関節痛などの症状がごく軽度なもの、
   胃が弱くて風邪薬や解熱鎮痛剤が飲めないもの、
   風邪薬で胃が悪くなり感冒症状が残っているもの、
   風邪の症状がいつまでたっても残り、ひどい症状のないもの
   (治りぞこないの感冒)などに用いる。

 A 重篤な症候のない場合

   感冒・気管支炎・中耳炎・肺結核・肋膜炎などと診断されたが、
   微熱・かすかな自汗・軽い咳・軽度の頭痛・体がだるい・
   口が苦い・唾がねばるなどがみられるだけで、
   重篤な症候はなく、ただ何となく病人であるというときに用いる。

 B 発熱時の腹痛に用いる

2) 腹痛に

「心腹卒中痛するものを治す」とあるように、
急性胃炎・胃潰瘍・胃酸過多症・肝炎・胆石症などの腹痛に用いる。

   白芍・甘草は平滑筋けいれんによる腹痛を緩解し
    (この状況には桂枝湯より白芍を増量した桂枝加芍薬湯の合方がよい)
   柴胡・黄ゴンは消炎・解熱作用をもつので軽度の炎症に効果があり
    (炎症がつよければ清熱薬を配合する)、
   柴胡・白芍・甘草・大棗は精神的ストレスを緩解するので
   胃潰瘍・胆石発作・過敏性結腸などのストレス性腹痛に効果がある。

3) 向精神薬として

   上記の作用により、
   神経症・心身症・不眠・月経前症候群・てんかんなどに応用できる。

4) 体質改善に

   かぜをひきやすい人、軽いかぜをくり返し腹痛をおこしたり
   自家中毒をおこす子供、などの体質改善に用いる。

   扁桃腺炎・咽喉炎んなどで高熱をだすときや腎炎・リウマチなどには
   柴胡清肝散を用いる方がよい。
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柴胡加竜骨牡蠣湯

[運用の実際]
 本方は小柴胡湯に
 鉛丹・竜骨・牡蠣・茯苓・桂枝という向精神薬を配合したものです。

 これらの向精神薬は、
 いらいら・不安感・不眠などの精神不安をしずめ落ち着かせる作用をもち、
 安神薬(「神」は「意識」「魂」の意味で、安神は鎮静の意味)と呼ばれる。

 茯苓は不眠・心悸亢進を、 桂枝も心悸亢進をしずめるので、
 両者は心悸亢進によく配合される(例えば苓桂朮甘湯・苓桂甘棗湯など)、
 鉛丹は毒性がつよいので一般にはのぞいている。

 《傷寒論》には、
 「傷寒、八・九日、これを下し、胸満煩驚、小便不利、譫言、一身ことごとく重く、
 転側すべからざるもの、柴胡加竜骨牡蠣湯これを主る」 とあり、

 熱性疾患で少陽病の時期で小柴胡湯を中心にした和解法を行うべきなのに、
 瀉下法を使用したために脱水がおき(小便不利すなわち尿量減少)、
 熱は下らず、気分がいらいらし驚きやすく、不眠・うわごと・身体が重くて
 寝返りも出来ないという状況に用いるとされている。

 小柴胡湯に上記の鎮静薬と大黄を加え、
 抗炎症作用のある大黄・柴胡・黄ゴンで熱をさますという処方です。

 痙攣を伴うときには、
 白芍・釣藤鈎・黄連・地竜・石決明・羚羊角などの鎮痙薬を加えるとよい。

 本方は、このような発熱性疾患に用いるだけでなく、
 不眠・驚きやすい・心悸亢進などの神経症状に対し、鎮静薬として使用する。

 たとえば、
 頭が重く足が軽くて歩いても雲のうえを歩くように体がゆれる、
 ちょっとした物音や不意のことで驚きやすく心悸亢進がおきる・冷汗がでる・
 手足がふるえる・呼吸が早くなる、ねつきが悪く眠りが浅く夢を見てとびおきる、
 地の底に落ちて行くような感じがする、ひとりで外出できない、
 高い所から下を見ることができない、不安感、いらいら、
 等のさまざまな症候に用いる。

 不安神経症・対人恐怖症・高所恐怖症・強迫神経症・
 気が小さい人・脳動脈硬化症・高血圧症・心臓神経症などが対象になる。

 便秘がなければ大黄はのぞく。
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柴胡桂枝乾姜湯

[運用の実際]
 本方は、以前に肺結核が多発していた時期によく用いられた。

 結核患者で、微熱や弛張熱を呈し、朝は熱が低くて午後から体温上昇がみられ、
 眠ると盗汗がでて熱が下り、体力も低下して痩せて疲れやすく、
 両頬部の紅潮・頭汗・動くと心悸亢進・立ちくらみ・
 不眠・多夢・口渇・尿は濃く少量などの症候を呈するものに本方の加減を使用した。

 体力があるときには解労散・秦ギョウ扶羸湯を、
 虚弱者には緩痃湯を用いた。

 解労散は四逆散に鼈甲・白芍・茯苓を加えたものです。

 緩痃湯は柴胡桂枝乾姜湯に鼈甲・白芍を加えたもので、
 浅田家では姜桂芍別と呼んでいる。

 秦ギョウ・鼈甲は結核性の発熱に有効であるところから加えられている。

 なお、安西安周は結核性腹膜炎の腹部硬結に
 姜桂芍別を用いて非常に効果があったという。

 ただし、このような結核性疾患に対する治療法は、
 ストレプトマイシンなどの出現以後はもはや問題にならない。

 なお、緩痃湯とは高階家の命名で「痃癖」(マラリアの脾腫)をゆるめる意味であり、
 鼈甲は脾腫を縮小させる効果をもつ。

 もともと柴胡桂枝乾姜湯は《金匱要略》で「瘧」(マラリア類似疾患)に用いており、
 瘧疾で「寒多く微熱」あるいは「寒だけで熱のないもの」に使用する
 という指示のある処方 (口渇があるときには柴胡去半夏加カロ湯)。
 そして瘧の肝腫脾腫には鼈甲煎丸を用いている。

 したがって柴胡桂枝乾姜湯に鼈甲・白芍を加えたものを
 マラリアの脾腫に用いるが、 現在では使用する状況がない。
 
 《傷寒論》には
 「傷寒五・六日、すでに発汗しまたこれを下し、胸脇満微結、小便不利、渇して
 嘔せず、ただ頭汗出で、往来寒熱、心煩するは、これいまだ解せざるなり。
 柴胡桂枝乾姜湯これを主る」 とある。
 
 発熱性疾患に発汗法・下法を行ったが治癒せず、
 往来寒熱・いらいら・胸脇部の膨満感・心下部のつかえという少陽病の症候があり、
 小柴胡湯・柴胡桂枝湯を投与したい状況です。

 ところが、口渇があり尿量が少く、悪心・嘔吐がない。

 これは発汗・瀉下による脱水・口渇・尿量減少が生じたためで、
 天花粉(カロコン)で生津し牡蠣で止汗し、燥性の半夏・生姜をのぞいている
 (高熱による口渇なら石膏を用いる)。

 乾姜・甘草・桂枝は下法で生じた下痢・腹痛を止めるための配合。

 牡蠣は発汗を止め熱を下げ、また鎮静作用によって心悸亢進を緩解する。

 消化管内に水分が多く、溜飲・下痢があれば、茯苓・呉茱萸を加える。

 熱病におけるこのような状態は現在では殆どみられない。
 
 一般には、産後・病後・栄養不良・虚弱者などで感冒や感染症が慢性化し、
 炎症症状は強くないが、上記症状がみられる場合に用いる。
 
 もっともよく用いる状況は、
 柴胡加竜骨牡蠣湯が適応するような神経症・心身症で、
 痩せたり下痢をするような虚弱者に対してです。
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大建中湯

[適応症]
 お腹を冷やして、腹痛のあるとき、腸の蠕動亢進がみられ、
 その動きは見えることもあり、手で触れることもある。
 腸重積。胆石、尿路結石の痙攣性疼痛に。
 蛔虫症・・・・蛔虫の運動を麻痺させる。
[組成]
 蜀椒・乾姜・人参・膠飴
[効能]
 腹部の中空臓器の平滑筋の痙攣を止め、蠕動運動を正常化する。
 お腹の冷えを温める。
[解説]
 蜀椒は、乾姜を助けて内臓を温める作用があり
 消化管の蠕動亢進、胃腸、胆管、尿管の蠕動亢進、痙攣を抑制し、
 それ等によっておこる痛みに用いる。
 なお、胃粘膜に対する刺激性が非常に強く、
 充血させ胃酸の分泌を亢進させるので、膠飴を入れて刺激性を緩和する。
 似た作用のある薬物に、
 芍薬・厚朴・木香などもあり、組合わせて使うこともある。
 
 大建中湯は乾姜でお腹を温め、蜀椒で痙攣を除き、冷えによる腹痛を止める方剤です。
 人参は、上腹痛、胸痛を止める作用があって処方中にいれる。
 胆石、腎石で発熱などの熱症のときは、
 熱を抑える薬物又は方剤を併用しなければならない。

 一般には、寒冷刺激により腸の蠕動が亢進して
 腹痛が生じ、嘔吐をともなうときに使用する。

 なお、人参湯・大建中湯を用いる嘔吐には吐物に酸味はなく、
 吐物に酸味がある場合には安中散や呉茱萸湯がよい。
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小半夏加茯苓湯


[適応症]
 悪心、嘔吐に用いる。
 つわり、妊娠悪阻。胃(腸)疾患に伴う悪心、嘔吐。
[組成]
 半夏・生姜・茯苓
[効能]
 鎮咳、制吐作用。
[解説]
 半夏は中枢性、末梢性の鎮嘔作用があり、生姜には末梢性の止嘔作用がある。
 本方は、悪心、嘔吐の基本方剤の一つです。

 五苓散は、利水剤(利尿剤)で嘔吐の方剤ではない。
 水逆の嘔吐だけに用いる。悪心はない。
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甘草乾姜湯


[組成]
 甘草・乾姜
[効能]
 腹中を温める。
[解説]
 乾姜に甘草を配合した甘草乾姜湯は、温裏薬の基本方剤です。

 甘草乾姜湯はいろんな方剤の中に含まれていて
 人参湯、小青竜湯、半夏瀉心湯、苓姜朮甘湯・・・・など無数にある。

 人参湯は胃腸の冷え、小青竜湯は呼吸器の冷えに用いる。

 肺が冷えると、涎沫を吐すという。
 鼻水、クシャミ、涙、薄い多量の痰が出る。咳が出る。

 胃腸などお腹が冷えると、口に飲み込めないような唾が出る。
 下痢腹痛がある。共に、尿量が多く、尿色は薄い、口渇はない。

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苓姜朮甘湯

[適応症]
 浮腫、とくに下半身の浮腫。腰冷痛、腰痛腰以下冷痛、腰重。
 婦人の白色大量の帯下。夜尿症。
[組成]
 茯苓・白朮・乾姜・甘草
[効能]
 身体を温め、過剰の水を除く。
[解説]
 温裏(身を温める)の甘草乾姜湯に茯苓、白朮という利水剤を配合した方剤です。
 
 水肥り、体に浮腫のある者は、外気の冷えによって、浮腫のある所は特に冷える。
 人間は立っているから、腰以下が特に冷える。
 
 水滞があって、皮膚に浮腫があれば皮膚にしびれ感がおきる。
 筋肉に水がたまると、痙攣がおきる。こむら返りと言われるものはこの一種です。
 
 それと同時に、身体が重くなり動作が鈍くなる。
 立つときも「よっこらしょ、どっこいしょ」と手を着かないと立てなくなる。
 “腰重きこと五十銭を帯ぶるがごとし”ことに婦人の高齢者に多い。
 
 婦人で水滞があって下半身の冷えがあるとき、よく白色帯下が大量にあることもある。
 乾姜(や附子)で温めると良くなる。
 
 水肥りの子供でよだれの多いような者は、冷え性で尿量も多い。
 従って、とくに冬期は夜尿症になる傾向がある。
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苓甘姜味辛夏仁湯

[適応症]
 鎮咳、去痰剤で体が冷えて寒く、手足は冷たく浮腫がある。
 小青竜湯の証で、麻黄の用いられない者に。
[組成]
 茯苓・甘草・乾姜・五味子・細辛・半夏・杏仁
[効能]
 体の冷えを温め、鎮咳去痰の作用がある。
[解説]
 この方剤は、甘草乾姜湯で冷えを温める。更に細辛が加わる。
 手足が冷えると言えば附子を加える。(言わなくても加えたほうが良く効く)

 肺のほうが冷えるとクシャミ、水っ鼻が出る。
 薄い(色も粘度もともに)痰が多量に出る。
 寒い風邪に当たると症状が悪化する。

 普通上気道なら、クシャミと鼻水と咽痛で麻黄附子細辛湯。
 下部気道にまで入ると咳と薄い痰が出る。
 半夏、五味子など咳止めを加え、小青竜湯になる。

 麻黄が心疾患で使えないとき、発汗療法の行なえない患者は、
 麻黄・桂枝・芍薬を除き、茯苓・杏仁の利水薬を加えて水を抜く。

 小青竜湯は溢飲の代表方剤、
 溢飲とは水が(汗、尿に)排泄されず、浮腫(水滞)になっている。
 形腫れる(浮腫のある)者は杏仁を加えて之を主らせる。

 麻黄を入れると、其人遂に痺す(ショック状態になる)を以って、之を入れない。
 若し逆って之を入れると、必ず厥す。
 (麻黄は発汗のゆきすぎと、脉がはやくなり、心悸亢進などの副作用があるからです。)
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麻黄附子細辛湯

[適応症]
 クシャミ、水っ鼻、(涙)咽痛といった上気道のカゼに用いる。
 アレルギー性鼻炎、クシャミ、鼻水型。
 少陰病の初発。
[組成]
 麻黄・附子・細辛
[効能]
 体を温め、発汗作用、利尿作用がある。
[解説]
 本方は、少陰病の初発の用いるためつくられた方剤です。
 そのため本方の使用が制限されるが、少陰病でないとつかえないことはない。

 昔「万病に傷寒あり、傷寒に万病あり」と誰かがいった。
 従って傷寒論で万病が治るのだと。 私は決してそうは思わない。

 少陰病の方剤としてつくられた麻黄附子細辛湯が
 アレルギー性の鼻炎や元気者の鼻カゼに非常によく効くことも多い。

 アレルギー性鼻炎も発病したときは、クシャミ、鼻水、涙と水が噴き出す症状で、
 経過が長いと、分泌物は少なくなるが粘くなく粘膜が浮腫状に腫れて鼻閉になる。

 麻黄附子細辛湯は、クシャミ、鼻水型によく効く。 鼻閉型には効果が悪い。

 クシャミ、鼻水は、寒い風に当たるとか
 クーラーで冷えた部屋にいると増悪し、温まると軽くなる。

 反対に鼻閉型は、温かい部屋に入るとか、寝て布団を覆い、
 体が温まると症状が強くなり、冷たい空気を吸うと軽くなる。

 鼻閉型は麻杏甘石湯がよい。

 実際には、100%クシャミ型は数が多いが、100%鼻閉型は少なく、
 長期のアレルギー性鼻炎では、混合型が多い。

 混合型には、麻黄附子細辛湯加杏仁石膏、又は小青竜湯加附子杏仁石膏を用いる。

 細辛附子と杏仁石膏の分量を症状によって加減する。
 エキス剤では、小青竜湯と麻杏甘石湯を症状に応じて、適度に合方して用いる。

 次に最も多く使用するのは、鼻水、クシャミ、咽痛などではじまるカゼです。
 このカゼの一般的なのは、少陰病ではない。

 人間少し寒い目に会うとクシャミ、鼻水が出て、カゼ引きとなる。
 虚弱者、易疲労性、疲れ易い・・・・など何の関係もない。
 よく太っていても、元気でピンピンしていても、寒い、クシャミ、水っ鼻とくれば、
 麻黄附子細辛湯が一番よく効く。 少陰病に拘泥するから使えない。

 昔日本ではクシャミ、鼻水に小青竜湯が推薦されてきた。
 小青竜湯は無効でないが効きが悪い。

 若し小青竜湯を使うのなら、附子を加えた小青竜湯加附子がよい。
 附子を加えると、小青竜湯合麻黄附子細辛湯になる。

 麻黄附子細辛湯はクシャミ、鼻水、咽痛の上気道の薬方であり、
 小青竜湯は、更に咳や痰の気管、気管支まで及んだときの方剤です。

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補中益気湯

[組成]
  黄耆、人参、白朮、甘草、生姜、大棗、陳皮、当帰、柴胡、升麻
[方意]
  本方は主役の黄耆を中心に、
  各生薬を以下のような薬能のもとに組み合わせて構成されている。
  
  ・黄耆、人参、白朮、甘草、生姜、大棗、陳皮
     ・・・・元気を補い、消化吸収機能を高める。
  ・黄耆、柴胡、升麻
     ・・・・升提作用、すなわち筋肉のトーヌスを正常化させ、
        アトニー状態(中気下陥)を改善する。
  ・黄耆、当帰
     ・・・・自汗・盗汗を止める。
  ・黄耆、人参、当帰
     ・・・・肉芽の発育を促進し、難治性潰瘍や褥瘡の治癒を早める。
[応用]
  本方の本方の口訣
  ・手足倦怠、手足が堕ちるようにだるい
  ・言語軽微
  ・眼勢無力
  ・口中白沫
  ・食失味
  ・好熱湯
  ・脈散大而無力
<応用例>
 1、疲労
  a.急性疲労
  b.慢性疲労(易疲労)
 2.体力の低下
  a.病後
  b.手術前・後・・・術前・術後の体力回復、胃切除後の貧血、ダンピング症候群
          術後の吃逆、膀胱マヒ。大小便の失禁
  c.夏まけ
  d.妊娠中・・・・虚弱者、アトニー体質の陣痛微弱、弛緩性出血、子宮収縮不良の予防
        低蛋白血症、貧血の立ちくらみ、耳鳴、心悸亢進、妊娠中毒症の予防・治療
        ・・・・・柴蘇和気飲と併用。
  e.産後・・・・・産後の体力回復
        ・・・・・?帰調血飲第一加減と併用、産後の脱肛・子宮脱
  f.放射線、コバルトの障害の予防

 3.アトニー体質
  a.胃腸アトニー・・・・・食欲不振、弛緩性便秘、腹部膨満
  b.弱視、眼精疲労
  c.括約筋の緊張低下、脱肛、子宮脱
  d.膀胱の収縮力の低下

 4.その他
  a.アトピー性皮膚炎(主に小児期)
  b.皮膚感染症・・・・ヘルペス、伝染病軟属腫、伝染病膿痂疹、多発性感染膿瘍など
  c.二日酔い
   
   *アルコール性肝障害には、加味益気湯を用いる
  [加味益気湯]補中益気湯加茵陳、山梔子、猪苓、茯苓、沢瀉、蒼朮、滑石、黄連


[運用の実際]
1.疲労
   肉体的・精神的な疲労で、倦怠無力感・手足がだるいなどがみられるときには、
   体力の有無にかかわらず用いる。頑健なものが無理をして生じる急性疲労には
   1服あるいは数服でよく、虚弱者の慢性疲労には回復するまで連用させる。

2.体力の低下
 (1)病後 
   感冒その他の疾患で、症状は一応おさまったが、
   体がだるくて起きられない・うとうとしていつまでも寝ていたい・
   手足がだるい・倦怠感。自汗盗汗などがみられたり、仕事をするとすぐに疲れる・
   出勤する元気がないなどの、十分な体力の回復がないとき。
   あるいは、退院時で体力が十分でないとき。

   食欲不振・嘔気があるときには六君子湯がよい。

 (2)手術の前後
   体力が弱っているときに術前に用いる。また術後に体力の回復を目的に用いる。
   胃手術後の貧血・ダンピング症候群などの予防や治療に使用する。
   手術後の吃逆・膀胱まひ・尿や便の失禁に用いる。

 (3)夏まけ
   暑さのため体がだるい・疲れる・食欲不振などがみられるとき。

 (4)妊娠中
   虚弱者・アトニー体質の陣痛微弱や弛緩性出血の予防の目的も含めて使用する。
   低タンパク血症や貧血の立ちくらみ・耳鳴・心悸亢進、
   あるいは妊娠浮腫・妊娠腎・妊娠中毒症などの予防と治療には、
   紫蘇和気飲(当帰芍薬散エキス・香蘇散エキスを合方すればよい)とともに用いる。

 (5)産後
   産後の体力回復にきゅう帰調血飲と併用する。
   産後の脱肛・子宮脱にも用いる。

3.アトニー体質
 (1)胃・腸アトニー
   消化管の筋緊張や運動が低下し、
   食欲不振・腸内ガス排出が不十分なための腹部膨満感・
    弛緩性便秘などがみられるときに、補中益気湯を中心に運用し、
   ときに麻子仁丸や理気剤を併用する。

 (2)眼精疲労・弱視
   体力・筋力の虚弱なものは、眼筋も弱く疲労しやすい。
   眼精疲労をおこして調節に時間がかかりピントがあいにくくなる。
   また、近視の子供に視力回復の目的で遠方と近くを反復して見させる訓練をするが、
   これによってますます眼筋が疲労して調節できにくくなることがある。
   このような状況に用いるとよい。

 (3)括約筋の緊張低下
   肛門括約筋・膀胱括約筋の緊張低下があると、
   腹圧が加わったりひどく笑ったりすると尿や便をもらしたり、
   尿意や便意をもよおすとトイレまで我慢できないことが多い。

   また、ガスを出そうとして大便がでたり、
   硬い便では大丈夫だが下痢便で失禁したりという、
   尿や便の失禁がみられる。このような状態に用いるとよい。
   括約筋の弛緩による脱肛にも用いる。

 (4)膀胱の収縮力低下
   膀胱の緊張と収縮力が弱いために、
   いっきに排尿でず途中で休止して排出する二段排尿や、二段目が滴下する場合、
   あるいは軽症で尿線が弱く排尿時間が延長する場合に用いる。

 (5)子宮脱
   子宮支持組織の弛緩による子宮の脱垂に用いる。

4.薬物の副作用防止
   抗生物質・抗ガン剤・消炎剤などによる肝臓障害・胃腸障害・貧血の予防に。
   人参湯・六君子湯・小柴胡湯などでもよい。下痢するときには五苓散を併用する。

5.放射線・コバルト照射の副作用防止
   放射線による宿酔などの副作用をおさえ、元気に治療を完了することができる。

 
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匠の治療術〜ホメオパティ〜

山本巌先生はかつて、「病人を治すため」に次の3原則を挙げた。
   
   @病に対する正しい認識をもつ。
   
   A患者の病態を出来る限り正確に把握する。
   
   Bその病態に最も適合した方剤を与える。

一見当たり前のことだけれども、現実には正しく施行されていないことが多い。
そのため、これは何十年たっても変わることのない規矩といえると思う。

ふり返れば西洋医学は、医学の進歩というより科学・工学の急速な進歩により
病に対する認識と病態生理の把握において、その精度を増した。

これらの免疫学を含めた西洋医学のミクロ的な分野の進歩に加えて、
漢方のマクロ的な病態把握(気・血・水・寒の概念)や漢方方剤を融合させたい。

現代医学では、慢性病の約8割は治るものではなく、
対症療法によって進行をすこしでも遅らせることが主眼で、
そしてそれは世間一般からも当然のように受け入れられています。

ところが、西洋医学と漢方との融合によって、新たな治療手順も生まれる結果、
それらの慢性病のいくつかは完治も可能となるのです。

ここでは一例としてウィルス性慢性肝炎の新しい治療手順を簡単に挙げた後、
次に漢方のいくつかの治療法則を述べ、
最後に応用の一つとしてホメオパティ理論を紹介します。

ウィルス性慢性肝炎の治療法

現代医学では、インターフェロン療法以外は、
GOT(AST)・GPT(ALT)だけを診て、
これを抑え進行をすこしでも遅らせることに終始している感があります。

ウィルス性の慢性肝炎を本当に治し、肝硬変、肝がんにならないためには、
まず肝炎ウィルスを排除しなければならない。

ウィルスを排除するのは、人体のもつマクロファージやNKリンパ球、
とくにキラーTリンパ球ですから、これを活性化することが必要です。

慢性肝炎でも活動性肝炎の状態のときは陽証ですから、瀉法で抑えるにしても、
活動期以外は生体側が肝炎ウィルスに負け続けているため、
陰証を呈しているとして、補法によって陰を補うことを中心とする。

明らかに生体が虚していて、かつ陽証を呈しているときは、瀉法と補法を併用する。
この瀉法と補法の同時併用は従来の漢方界の常識では考えられない手法であるため、
おしかりを得るかもしれませんが、実際うまく効果があるのだから認めて頂きたい。

慢性肝炎は「山本巌の虚実論」に記したように、
生体側が虚で、ウィルス側が実である結果、病状は陰証を呈することが多く、
このときの治療は、生体側の虚を補って実にすればよいということになる。

そうすると、実になった生体がウィルスと抗争できるようになって陽証を呈する。

具体的には、キラーTリンパ球が肝細胞に「やどかり」しているウィルスを
肝細胞ごと攻撃するため、
肝細胞からもれでる酵素であるGPT(ALT)などが急上昇することがあります。

しかし、GPT(ALT)などが急上昇は病気が悪くなっての上昇では決してなく
良くなる道筋の一つの現象ですから、医療者側もこの点は是非知っておいて欲しい。

でないと折角の治るチャンスを潰してしまいかねない。

GOT(ALT)やGPT(ALT)などの血液検査の上昇が、
良くなってのものか、悪くなってのものかの判断材料はあります。

良くなっている場合は、体調が良く、GPT以外の検査値
(リンパ球や血小板、赤血球、コリンエステラーゼなど)も好転しています。

なにより、GOT(ALT)などの上昇はピークの後、ほんの一ヶ月前後で、
ストンと下がるため、比較的早く結果として確認できます。
(詳細は「B型肝炎、C型肝炎の治り方」のページをご覧ください)

漢方界でも
ウイルス性肝炎の慢性期に小柴胡湯や柴胡桂枝湯などを使う傾向が強いようですが、
これではただ単に漢方処方を使っているだけで、漢方医学ではないし治癒率は低い。

ぜひとも「病人を治すため」の上記の3原則を熟慮して頂きたいと願っています。


漢方の治療法則

漢方治療は随証治療といって、病人の証に随って薬方を運用するにしても、
そこには治療法則があり、数多い病変に対応する法則があります。

これを治則といって、治則には治療の順序も含みます。
ここで、まずは代表的な「治則」と「治療の適応と禁忌」について記します。


治則

@汗・吐・下・和・温の法ならびに利法
 汗法−−−からだの表面の病邪を発汗作用によって駆逐する。
 吐法−−−表位から上焦にあって実している病邪を吐き出させる。近年は用いない。
 下法−−−裏位の実している病邪を下痢作用によって駆逐する。
 和法−−−汗・吐・下の法を適用できない状態のときの病邪を体内で和解させる。
 温法−−−からだの一部、または全体が寒の状態を呈するときには温め、生命力を鼓舞する。
 利法−−−病に水毒が関与するとき、過剰の水毒を駆逐する。

A補瀉の法
 病状が陰証を呈する場合や、免疫力・体力・自然治癒力の低下しているときにはこれを補う。
 生体のもつ治癒力を増強して病気に対抗させる方法を補法とする。
 
 瀉法とは病状が陽証を呈する場合、これを瀉する手法。

B先補後瀉の法
 虚と実、または陰と陽の証が混在するときには、まず虚(陰)を補法によって補い、
 次に実(陽)の症状を瀉法によって攻める。
 
 しかしながら現実には実(陽)を先に攻めるべき場合もあり、
 このケースも治験例を集約したうえで治則に入れるべきかと思います。
 
 でも虚実の判定に迷うときは、まず虚として治療するほうが安全でしょう。

D先表後裏の法
 病邪が表位と裏位に混在している場合は、まず表を治して後に裏を治す。
 
E先裏後表の法
 裏の症状が急迫している場合は、まず裏を治し後に表を治す。

F表裏とも同時に治す
 表証と裏の虚が同時にある場合に、裏の虚が重篤でない場合には、
 表裏を同時に治療する場合がある。

G急性病を治し、後に慢性を治す
 慢性病があり、その治療をしていても、急性病になった場合は先に急性病を治す。

H寒なる者は熱し、熱なる者は寒す

I潤・燥の法



治療の適応と禁忌

病状によって、どのような治療をすべきか(適応)を知ること、
および、どのような治療をしてはいけないか(禁忌)を知ることは、
治療に当たるものにとっては非常に大切なことです。

1.発汗法の適応
 ◇太陽病で表証がいまだ残っているものは、病邪の一部が裏にはいって
  便秘、口渇などの症状がある場合でも、まず表邪を解す(とりのぞく)。
 ◇陽明病で汗が多く出て、悪寒のあるものは、まず桂枝湯で表を治し、そのあとで裏を攻める。
 ◇お血の証があっても表証のあるものは、まず表証を治してからお血を治す。
 ◇下痢して腹部膨満し、身体疼痛する者は、表証もあるが裏も虚しているから、
  まず裏を温めてのちに表を治す。
 ◇少陰病でも発病の初期で裏証のないときは、
   麻黄附子甘草湯で少しばかり発汗してよいことがある。

2.発汗法の禁忌
 ◇少陽病は発汗してはならない。
 ◇少陰病で脈が細・沈・数の者は、病気が裏にある証拠であるから、発汗してはならない。
 ◇陽気のない者は発汗してはならない。
 ◇咽喉の乾燥する者は発汗してはならない。
 ◇小便の近い者は発汗すると血尿になることがある。
 ◇外傷で出血の甚だしい者は、身疼痛のような表証があっても発汗してはならない。
 ◇鼻血する者は発汗してはならない。

3.瀉下の適応
 病人が、便秘であっても下痢であっても、内位が邪で実している者は下さなければならない。

4.瀉下の禁忌
 ◇太陽病で、外証のいまだ治っていないときは、下してはならない。これは逆治になる。
 ◇太陽病と少陽病の併病で、心下が硬く、頸項がこわばり、めまいする者は下してはならない。
 ◇急性病で、嘔気が多ければ、陽明病の証があっても下してはならない。
 ◇陽明病で、心下?満する者は、下してはならない。
 ◇太陰病での腹満は下してはならない。
 ◇すべての虚証のものは下してはならない。


匠の治療術
 
 治療法則と治療術との関係は「学と術」「たてまえと本音」との関係のように、
 同じようでいて現実は異なることがあるものです。

 学問もあまり単純明快なものは現実から離れたものが多い。
 それに比べて数学は、答えが一つなので天国のような学問です。

    先生「1本10円のエンピツが12本でいくらになる?」
    生徒「ハイ、100円です」
    先生「もっと勉強しなさい」
    生徒「それでは80円にまけときます」
                    (大阪では値切るとき、勉強して、という)
 
 理論と現実とのギャップを上手く言い得ているこの笑い話のように、
 現実の世の中では、1本10円のエンピツは12本で120円にはならないのです。


治療法の1つの分類法としてアロパティとホメオパティの分類があります。

アロパティとは
熱病には寒冷の薬物を、下痢には下痢止めをといった反対の治療を行なうことで
漢方の虚すれば之を補い、寒すれば之を温めるといった治療法と同じです。

ホメオパティとは
冷え性には冷やす薬を、熱証には温める薬物を用いる同類療法で、
正気の虚に対して、すこし虚してやることにより正気の反発力を引き出す治療法です。

たとえば、冷たい水に手を入れると冷たいけれども、
水から手を出して拭けば、しばらくするとホコホコ手が温まってくる。

冷え性を温剤などで温めるような、体をおだてる治療法ではなく
すこし冷やして、体の温かくなろうとする力を引き出すスパルタ式の治療法です。
もちろんごくごくわずかの瀉剤で行ないます。

風邪をひきやすい子供に厚着をさせず
むしろ冷水マサツなどで風邪をひかない丈夫な体に育てるのに似て、
老人、小児、虚人に対して、人参や黄耆などの補剤で補うのではなく、
実証に使う漢方処方のごく少量を用いて虚人の反発力や活力を引き出す。

このような発想は従来の漢方にはうかがい知ることができません。
漢方のどの書物を見てもこのようなことは書かれていないはずです。

その点、このページを読んだ方は多大な利益を得た、と思って下さい。

ただ、何事も基本があっての応用ですから、
病の認識、病態生理、方剤学、薬物学、治則などの基本を知り
そして修練したうえで、これらの応用は慎重に行なって下さい。

このような「名人のさじ加減」とも言える手法は
「同じ漢方処方でも量の加減によって効能が変化する」ことを知れば応用できます。

また「患者さんの性格によって漢方処方を決める」こともあり、
こうなると漢方の運用も2次元ではなく、3次元、4次元となってきて面白い。

いくつもの処方があるのですが、ここでは防風通聖散を挙げてすこし解説してみます。

防風通聖散

防風通聖散の運用を歴史的に見つめても面白い。

中国の宋の時代、劉河間(1110〜1200)は
防風通聖散を大量に用い、三焦の実熱、表裏の熱証を双解する処方として火熱に用いた。

一貫堂の森道伯(1867〜1931)は
現在の量を使って臓毒を(ほとんどが今は食毒)汗下(又は尿)で除去した。

そして山本巌の師であった中島紀一(随象)は、
老人、小児、虚人の正気の虚に対して
少量の防風通聖散で、虚を虚して正気をふるい立たせる方法を確立した。

すなわち、防風通聖散も量の加減によって効能が変化する。

大量に使うと清熱剤になり、現在の量を使うと解毒剤になり、
少量にして使うと補益剤となって補中益気湯に似てくる。

一般の漢方界から見ると、ひっくり返ってしまうような話かもしれません。

ところがこのような目で見ると、現状のおかしなことが目につきます。

例えば、防風通聖散のエキスをダイエットに使っていることがあるようですが、
エキス含有量が多くはないため防風通聖散の少量を服用していることになります。

これではダイエットではなく、食欲がでて、逆に太ってしまいかねませんね。

考えてみると、一般の人からみて考えも及ばない術を「名人芸」といわれますが
私は、これが「名人芸」ではなく普通の知識となって、そして学になればと想います。

                                       
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『漢方一貫堂医学』

漢方一貫堂医学@

恩師山本巌先生は西洋医学はもちろん、漢方の古方、後世方や折中派、中国医学についても
熟達していて、そして、それぞれにとらわれることなく、一つの臨床医学体系を作り上げました。

従来の日本漢方や、中医学と比べても効く確率が非常に高く、再現性もあります。

山本巌先生から、全ての基本の基本として、次のように教えて戴いた。

≪病人をより良く治すためには≫

@病に対する正しい認識をもつこと。

 病そのものを正しく理解しなければ治療の方針も立たないし、
 相手を知らなければ、どう戦うべきかも分からない。孫子も曰く「彼を知り、己を知れば百戦百勝す」と。

A患者の病態を出来る限り正確に把握する。

 病態の把握が明確であればあるほど、より良い治療法を施しやすい。
 そのための情報は客観的・定量的で正確なものが多いほどよい。

 そこで西洋医学の病態生理を診断の主体とし、東洋医学の病理観を加えたい。

Bその病態に最も適合した方剤を与える。

 その病態に最も適合した方剤をつくるためには、薬物の薬能を熟知して(薬物学)、
 どのように組み合わせて方剤をつくるか(方剤学)を理解しなければならない。

        
私はこの三つの基本に次の二つを付け加えています。

             C「病の認識と治り方」の理解を患者さんと共有する。

             Dより良く治すために、生活養生の重要性を知る。


以上を読んでみると当たり前の事ですね。  でもこの当たり前の事が
他の漢方、古方や後世方、中医学、そして西洋医学の最前線でもなされていない。

山本巌医学の良くなる確率が他と比べて非常に高い原因の一つはここにもあると思います。

古今東西、権威の有無などよりも、病人をより良く治す医学が良い医学ですね。

また、山本巌医学では、漢方一貫堂医学の処方や病理観、病態生理観なども使われていますが
    (ただ、漢方一貫堂医学は、山本巌医学の全てではなく一部分ですので誤解なさらないように)
この漢方一貫堂医学もまた一般の漢方家にはあまり知られていない。

そこで漢方一貫堂医学を知ることも非常に有意義ですので、これから述べて行きたいと思います。




漢方一貫堂医学A    「森道伯先生」

漢方一貫堂医学の創始者、森道伯先生は
幕末の慶応3年(1867年)11月7日水戸に生まれ、明治・大正・昭和にかけて漢方界で活躍された。

ちょうど幕末のころ、水戸藩の内部紛争のために父の白石又兵衛は藩を逃がれ、
一方で道伯は忠実な下男に守られて笠間に行き、森喜兵衛の養子となった。

道伯が12歳のときに養父の森喜兵衛が死に、その翌年母と共に江戸に出た。
たまたま仙台で産科の名医として知られていた遊佐大蓁が東京に来た時に森道伯はこの門に入った。
これが道伯が医家としての生活のはじめです。

道伯は遊佐大蓁に3年間師事し、その後下谷に開業していた清水良斉について医を学んでいた。
清水良斉がある日突然旅に出たため、森道伯は35歳にして、その後をつぐことになった。

森道伯は明治35年に人心の頽廃(たいはい)を憂え
同志と共に日本仏教同志会という会を創立して社会救済運動をおこし、
その際、機関誌「鐘の響」という雑誌を発行して、これに施療券をつけ貧困者の救済にあたった。

また日露戦争が終わると、まっさきに戦死者の大追悼を催して戦没軍人の冥福を祈った。

ひときわ森道伯の名を高からしめたのは、大正7年に起こったインフルエンザの世界的流行に際して、
いままで得た医学の蘊蓄(うんちく)を傾けて漢方で患者を救済したことです。

この時、インフルエンザの型を胃腸型、肺炎型、脳症型の3つに別けて
胃腸型には香蘇散を主として、これに茯苓、白朮、半夏を加えた処方を活用し、
肺炎型には小青竜湯に杏仁、石膏を加えた方剤をもって見事にこれを治し、
また高熱のため脳症を発するものには升麻葛根湯に白朮、川キュウ、細辛を加えた処方を運用された。

関東大震災の時には森道伯は私費を投じて、居所保護法の建議案を提唱し、
しばしば東京市内の各所で辻説法を行なった。

その人格を慕い、またその学を継ぐべく門人が数多く集まった。

時はすでに大正末期ですが、門人の中に漢方を専門にして医を業とするものが多いため、
医師会の圧迫を受けたことに対して道伯は漢方医道復興大講演会を催して、2時間半にわたる大講演をぶった。

昭和5年、某宮家から森道伯に下命があって、内々に漢方治療されたということで、
森道伯の漢方がいかにすぐれていたかということがこの一事でも知られます。

森道伯は昭和6年1月15日に65歳で亡くなりましたが、一面では宗教家であり、気概の高い医家でありました。
その悟りの境地における縦横無尽の医術は、先生に接し治療を受けた者は、神医と賛歎したほどでした。


一貫堂医学の特色は、森道伯が晩年に至って完成した臨床体系、三大証の分類と、五方の運用です。
治療上の基準として現代人の体質を三つの証に大きく分類され、
三大証分類によって、従来の漢方医学の中に、新たなる異色ある一つの医学体系を樹立された。

従来の漢方医学とは趣を異にし、古方派、後世派、折衷派医学の流派を超越した別個のものです。

三大証とはオ血証体質、臓毒証体質、解毒証体質をいい、
オ血証体質には通導散、臓毒証体質には防風通聖散、解毒証体質には
年令によって柴胡清肝湯、荊芥連翹湯、竜胆瀉肝湯をあてています。

一貫堂医学におけるこの三大証の分類によると、体質と疾病との因果関係を明らかに掌握でき
問診や触診をしなくても、患者の既往症および将来罹患する疾病を予知することができるといいます。

森道伯先生の医術の偉大さは、その術と道とが渾然融合した点であったのでしょう。

そのため、三大証分類は、その医学の形式を医術に、またさらに医道にまで到達しなければ、
森道伯先生と同様の真価を発揮できないかも知れない。

ゆえに、森道伯先生の三大証分類の活用の妙は、その運用者の力量によるものであって、
その意味から、さらに各自の画竜点晴が必要であると思われる。

以下その三大証と五処方の運用の大略を要約します。

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漢方一貫堂医学B     一貫堂医学の三大証分類 

森道伯先生は、晩年において現代人の体質を三つの証に大きく分類され、
三大証分類によって、従来の漢方医学の中に、新たな異色ある一つの医学体系を樹立された。

三大証分類とは、一つはオ血証体質、二つ目は臓毒証体質、つぎに解毒証体質の
三つの体質であり、それぞれの体質に特徴的な漢方処方を専用している。

一、オ血証体質=通導散証
二、臓毒証体質=防風通聖散証
三、解毒証体質=柴胡清肝散証・荊芥連翹湯証・竜胆瀉肝湯証となる。


西洋医学にくらべて漢方医学の長所は、なんといっても原因療法という点です。

疾病の原因の一つは内因がより重大な役割を演じる。
例えば慢性化膿性疾患の場合、疾病の本体は細菌ではなくて、それを培う体内毒素であり、
また、諸疾病の症状はからだの細胞の自然良能的反応(細菌排毒素に対する免疫反応)である以上、
解毒浄化作用によって、からだの細胞の機能を復活旺盛にすることが真の治療法であるはずです。

それゆえ、抗生物質や近年のステロイド剤などによる治療法は、
原因療法に似て非なる『とりあえずの処置』であり対症療法です。
(必要なときは対症療法も良いけれど、それを真の治療法と勘違いしてはいけない)

この場合、体内に蓄積された様々な毒素の解毒浄化を計れば、疾病の治癒はもちろんのこと、
疾病の内的原因消失の結果、体質改善になり再び病気を起こしにくくなる。これこそ真の治療法ですね。

一貫堂の治療法は、原因療法による体質改造を主とし、いわゆる対症療法的手段はほとんどとらない。

『外因は変化の条件であり、内因は変化の根拠である。外因は内因をとおして作用を起こす』

私たちの病気というものは、
様々な毒素の体内蓄積や遺伝的体質が内的原因となり、そこへ外因が乗じて起こると考える。

そして、この内因である体内の毒素をさらに漢方医学的に分けたのが三大証分類なのでしょう。
(そのほか多少付け加えるべき毒と称するものもあるけれど・・・・・・)

これらの毒は病気の内的原因ですが、また病気によって二次的に産出されて病気の悪化の要因にもなる。
ゆえに、これらの諸毒を駆遂することが、病気の治療法となり、また同時に予防法ともなるのです。

この相関関係を知れば、この三大証体質の分類に拠り、
体質の識別によって体質と疾病との因果関係と一定の規則を理解できる。
既往の疾病および、現在からさらに未来に起こるべき疾病までも予断することができ、
そしてその予防法を講じて未然に防ぐことも可能になる。

たとえばオ血証体質者は、自ら苦痛を訴える前に、
患者が常に頭痛、頭重、眩暈、上逆、肩こり、動悸などのいずれかに悩んでいることを予知できる。

また、臓毒証体質者には、熱性伝染病に対する危険性を感じ、
将来の動脈硬化症、委縮腎等を予期して、その予防法を教示できる。

そして、解毒証体質者においては、小児期扁桃炎や中耳炎、鼻炎、気管支炎などに
罹りやすかった既往を推測でき、抵抗力の薄弱を理解できる。

            オ血証体質――通導散証

オ血証体質とは、オ血を体内に保有する体質者のことを言う。
このオ血を、多量に腹内(オ血の大部分は腹内特に下腹部あるいは骨盤腔内に在る)に保有する患者は、
一種の体質を形成し、このような体質者をオ血証体質と言う。

オ血とは、汚れて変化した清浄でない非生理的血液と言うべきもので、
毛細血管内に鬱滞して循環の不十分な血液を言い、血液の機能が失われたばかりでなく、
この存在が人体にいろいろの障害を起こさせることになる。

すなわち、オ血は血液としての機能欠如の結果、病原性菌に対する抗菌性を失っている。
ゆえに、このような血液の存在は、病気を防ぐ役に立たないだけでなく、
細菌に対して栄養分を与えることにもなり、絶好の培養基となる。

このオ血は疾病のため血液が汚されて生じることもあり、発病まえに腹内に蓄積されたオ血のこともある。
このオ血の存在は疾病を起こす内的原因をなし、このオ血の無い者、あるいは、少ない者は、
外的原因(中でも細菌性外因を意味す)があっても、疾病に罹る危険が無く、また少ない。
           
オ血証体質とは漢方独特の理論によるもので、
桃核承気湯、大黄牡丹皮湯などの駆オ血剤があるけれど、
森道伯はさらに通導散を加えて、これを大いに活用し、その方面の治療の完璧を期したのです。

            臓毒証体質――防風通聖散

臓毒証体質とは、現代の卒中風性体質者のイメージで良いと思う。、
臓毒とは食毒、風毒、水毒、梅毒の四毒を挙げ、これら諸毒の蓄積、溜滞したものを言い
この臓毒体質者の疾病治療には、もっぱら防風通聖散を用いて体質改善をする。

風毒   脳溢血、膿漏眼、中耳炎、神経痛、リウマチ等はみな風毒とする。

食毒   食毒とはいわゆる食物に因る慢性自家中毒と言える。
     新陳代謝障害を来たし内的原因となる。

水毒   腎臓の排水障害のため、排出されるべき液状老廃物が体内に偏在されて
     病気の原因をなす。病変を証明しえない程度の腎臓機能障害に因る水毒を重視する。

            解毒証体質――柴胡清肝湯―荊芥連翹湯―竜胆瀉肝湯

解毒体質とは、昔多かった結核性体質者をイメージしてよいと思う。
解毒証体質とは解毒剤、すなわち、四物黄連解毒剤によって治療に当たる体質を言う。

この解毒証体質に対しては、柴胡清肝散 、荊芥連翹湯、竜胆瀉肝湯の三つを用い、
柴胡清肝散 の場合は小児期の解毒証体質者、荊芥連翹湯は青年期の解毒証体質者、
竜胆瀉肝湯は青年期ならびにそれ以後の解毒証体質者にそれぞれ専用している。

この体質の者は、淋病、耳鼻、痔、神経衰弱等の疾患に罹りやすく、これらの疾患は小児のいわゆる
疳の病と言われる病気を初め、みな肝臓と関係が深く、腹診上、肝経の緊張あるいは肝臓腫大を認める。
ゆえに、解毒証体質とは、肝臓の解毒を必要とするいろいろな体毒を持っている体質と見なす。
この体質者は青年期以後も肥満することは少ない。

柴胡清肝散証は、風邪、気管支炎、喉頭炎、扁桃炎、咽頭炎、鼻炎等の炎症性疾患に犯されやすい。
小児期にこの柴胡清肝散証の強い者は、青年期になると荊芥連翹湯証となる。
また、青年期や、それ以後の解毒証体質には竜胆瀉肝湯を運用する。

このように解毒証体質は、その大部分は父母より遺伝され、年齢に従って変化消長を来たす。
すなわち幼年期はその毒が最も強く、かつ大部分の小児に認められるが、青年期に達すれば大多数は
強健となり、そのうちの少数が依然として解毒証体質を持っていて、肺結核、肋膜炎等を病みやすい。
さらに壮年期以後になれば、解毒証体質は少なくなり、結核の危険性も少なくなる。

蓄膿症、中耳炎を治す荊芥連翹湯は四物黄連解毒剤に治風剤をつけ加えたもので、
淋病を治す竜胆瀉肝湯は、この解毒剤に利尿剤と、さらに肝臓の薬剤を加味した処方です。

以上の五方がオ血証体質、臓毒証体質、解毒証体質の三大証に対する一貫堂医学の主方ですが、
これらのものは、それぞれ単独に用いるだけでなく、通導散と防風通聖散の合方、
また竜胆瀉肝湯と通導散の合方というように、しばしば合方して用いる場合も少なくありません。

森道伯先生が大正末期から昭和の初期に完成したところのこの臨床体系は、戦後からいままでの間、
どちらかというと応用する機会が少なかったのですが、近年日本人の生活環境の変化に伴って、
これらの体質改善を必要とする人が増えています。

山本厳先生がすばらしいのは、当時でも決して主流とはいえない(むしろ少数派だった)一貫堂医学
をも、すべて臨床で追試し、非常に効果があることを確認した上で自らの医学体系に組み入れたことです。

山本厳医学は、さらに現代西洋医学で明確にされた病態生理を取り込み、
現代西洋医学で好転できない様々な病態を、生薬の組み合わせによって
すみやかに改善できることを明確にし、医学にしたことも特記される点の一つでしょう。
現時点でいまだ日本漢方の主流となっている古方や中医学と比べても、また内科的には西洋医学と比べても
有効率の非常に高い山本厳の医学は決して代替医療レベルではなく、世界に冠たる臨床医学大系だと思う。


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漢方一貫堂医学C 
   
 オ血証体質 ――通導散
                 (もちろん、オ血ならすべて通導散を服用するというのではありません)
    
漢方では、桃核承気湯、大黄牡丹皮湯などの駆オ血剤がありますが、
森道伯先生はさらにこの通導散を加えて大いに活用し、治療上、駆オ血の完璧を期さんとした。
通導散の処方内容は
当帰、大黄、芒硝、各3.0、枳実、厚朴、枳穀、陳皮、木通、紅花、蘇木、甘草、各2.0、以上1日量。

次のように考えるとわかりやすい。
大承気湯(大黄、芒硝、枳実、厚朴)に当帰、紅花、甘草を加えて駆オ血をはかったものが加味承気湯、
さらに蘇木、木通、陳皮を加えて駆オ血作用を強くしたのがこの通導散。

大承気湯は、腹堅満、大便不通であれば、あらゆる場合に運用され、
頑固な頭痛、胃腸病、眼疾、発狂、頑固な便秘等に与えることが多い。

加味承気湯は、腹にオ血が停滞して張り、痛み、便秘の場合に兼用剤としたり、
月経不通、月経痛、胃酸過多症、胃潰瘍ならびに胃潰瘍の場合の止血剤、
そのほかオ血を認める胃腸病、二日酔い、胃癌等に用いられる。

オ血がひどいときはさらに強力な破血剤が必要なために蘇木を加えて駆オ血作用を強力にした。

「万病回春」の折傷門、通導散の条を見ると、「跣撲傷損極めて重く、大小便通せず、
及ちオ血散せずして、吐腹膨張、心腹に上攻し、悶乱して死に至る者を治す」とある。

跣撲傷とは倒れ打ったために生じる傷を言い、吐腹とは下腹のこと。
強い打撲をうけると皮下および組織内に出血を起こし鬱血を来たす。
そして、出血ならびに鬱血した多量の血液はオ血となり、溜滞したオ血はいろいろな障害を引き起こし、
千変万化の症状を来たす。このような病理機転が通導散証を現す。

通導散の薬能は、大承気湯で腹堅満、大便不通を治して上衝を下し、蘇木、紅花をもってオ血を破り、
血熱を冷まし、木通で心火を清くして小便を通利させる。そして、この強力な薬理作用は、
当帰によって和血をはかり、陳皮によって峻下に因る胃腸の気を理し、甘草によって峻剤を緩和する。

それでも通導散は非常な峻剤であるから、つぎのように注意をしている。
「先ず此の薬を服して、死血オ血を打ち下し、然る後まさに損を補う薬を服すべし。酒を飲むべからず、
愈々通ぜず。亦人の虚実を量りて用う」「利するを以て度と為す。ただし、妊婦小児は服すなかれ」

通導散は、もともとは打撲に因るオ血駆除剤ですが、あらゆる原因のオ血に使用しているうちに
現在では、むしろ内科疾患や婦人科疾患に多く用いられるようになった。

望診
通導散は強烈な駆オ血作用のある薬方なので、望診によっても大体の推定ができる。
赤ら顔で、また爪の色も暗赤色の者に用うべき処方と思えばよいでしょう。

一般にオ血の特有の徴候は、頭痛、頭重、眩暈、上逆、耳鳴、肩こり、動悸、便秘等。
我々が日常オ血を原因と見て、駆オ血の治療を行う病気は
脳溢血、片麻痺、喘息、胃腸病(特に胃酸過多症、胃潰瘍、胃癌)、肝臓病、痔症、虫垂炎、
神経性疾患(神経衰弱症、ヒステリー)、動脈硬化症、常習性便秘、眼病、泌尿生殖器疾患、
バセドウ病、発狂、心臓病。また婦人科疾患のほとんど、特に子宮、喇叭管、卵巣の炎症に用いる


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漢方一貫堂医学D 
     臓毒証体質 ―防風通聖散証

防風通聖散の処方は
 当帰、川キュウ、芍薬、防風、荊芥、薄荷葉、連翹、麻黄、山梔子、白朮、生姜 各1.2
 大黄、芒硝 各1.5石膏、黄ゴン、桔梗、甘草 各2.0滑石 3.0以上1日量。

防風、麻黄は、風熱の皮膚に在るものを汗によって排泄する。
薄荷、荊芥は、風熱が頭部に上衝するものを除く。
大黄、芒硝は風熱を肛門より通じて出す。
滑石、山梔子は、小便より毒を排除する。
桔梗、黄ゴン、石膏は風熱が胸部に入って肺を病み、また胃の病となるときこれを除く。
連翹、黄ゴンは諸経絡に入った熱を冷ます。
当帰、川キュウ、芍薬は風邪に因り病を起したときは、肝血を和らぎ補う。
甘草、白朮は脾胃を補う。
以上によって、防風通聖散は、皮膚、肛門、腎臓の三排泄部より三焦の実熱を駆遂する。
本方は、発表と同時に攻裏の作用があるため、ヨク汗シテ表ヲ傷ケズ、裏ヲ傷ケズといわれる。

防風通聖散は発表攻裏の作用によって、表裏、内外三焦の実熱を消散させ、
臓毒、すなわち、風毒、食毒、水毒、梅毒も同時に駆遂排除する。

臓毒証体質者の青年期から壮年期には諸種の熱性伝染病にかかり易い傾向がある。
虫垂炎を起し易い者はこの体質者に多く、丹毒はほとんどこの証の者に限られている。
これらは食毒、風毒が原因なので、防風通聖散によって予防的に駆毒処置もできる。
また、青年期の脚気、胃腸病も食毒に起因するもので、この体質者に多い。

壮年期には、さらに神経痛、脊髄炎、腎臓疾患、糖尿病、神経衰弱症(壮年期の)常習性便秘症、
セツ、ヨウ、痔疾などを起こし易くなる。また、喘息とこの体質者とはつきものと考えていい。
以上はいずれも食毒、水毒、風毒等に原因するので、みな防風通聖散の治すところになる。

壮年期以後の時期は、前記の病気以外に動脈硬化症、脳溢血、萎縮腎等を病むので、
臓毒すなわち四毒に原因すると見て、防風通聖散によってその予防または治療に当たる。

望診
防風通聖散の体質者の皮膚は黄白色を特色とし、日本人で色白の者に多い。
壮年期以後の飲酒家は赤ら顔の者もあるが、他の部分の皮膚はやはり白い。
皮膚の色が強く赤色を帯びるのはオ血のサインなので、同時に駆オ血剤を兼用する。

また体格は一般に骨格たくましく、脂肪型あるいは、筋肉型が多い。
労働者は労働のため脂肪の沈着がなく、筋肉型となり、運動不足とか美食家は脂肪型を来たす。
一見して将来脳溢血を起こしそうな風貌の者をイメージすれば、大体間違いない。

後で述べる解毒証体質者とは反対で、青年期、壮年期までは比較的健康な体質だが、
壮年期以後は臓毒(特に食毒、水毒)に起因する脳溢血、動脈硬化症、腎臓疾患等の危険が多い。

防風通聖散の腹証は腹内に臓毒が充満していて、近年ではメタボと称せられる。
具体的に言えば、
A 全腹筋の硬満、特に臍を中心とする部分に著明に緊満した状態を呈するもの。
B 腹部一円に濡満したもの、すなわち、腹筋を触れないもの。
C 軟弱な腹で防風通聖散を用いることがあるが、この場合は一つの異型、変症と見る。

森道伯は防風通聖散を使用するに当って、いろいろな注意をしています。
痔出血のあるものには、出血を増すことがあるため、薄荷葉を去って用いる。
また慢性腎炎で脾胃の弱ったものには、脾胃に負担をかけないために分量を減らして用いる。
防風通聖散は発表攻裏するため、皮膚病で一時悪化の微をみても瞑眩と考えてよい。
また肺結核患者には、防風通聖散の証はないのが普通で、もし誤って用いると悪化することもある。


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漢方一貫堂医学E 
      解毒証体質 ――柴胡清肝湯―荊芥連翹湯―竜胆瀉肝湯
                   
柴胡清肝散、荊芥連翹湯、竜胆瀉肝湯は何れも四物黄連解毒湯を基本としている。

一貫堂の四物黄連解毒湯の薬能は「血を養いて火を潰す」です。
当帰、川キュウ、芍薬、地黄、黄連、黄ゴン、黄柏、山梔子、連翹、柴胡、甘草 各2.0等量で一日量。

黄連解毒湯は心、肺、肝、脾、腎、小腸、大腸、胆、胃、膀胱、心包、三焦の実火の瀉火剤。
四物湯は「血を養い血熱を冷まし、また血燥を潤す」。プラス連翹、柴胡、甘草で、肝に働いて肝血を和す。

三大証体質を顔色でみていくのも面白い。
オ血症体質者の顔色は比較的赤ら顔で、臓毒証体質の者は白色、
解毒証体質者の顔色は、一般に浅黒い皮膚の色を呈している。
蒼白色から青黒色に至るまで色度の深浅はあるが、総じて汚れた曇色の印象を受ける。
骨骼は概してやせ型であり、筋肉型でもある。
また解毒証の強い者は、手や足の裏に油汗をかいたり、皮膚にかすかに銀色の光沢を認める。

(一)柴胡清肝散

柴胡清肝散は幼児期の解毒証体質を主宰する処方で、小児の病気の大部分はこの処方で治療する。
処方は
当帰、川キュウ、芍薬、地黄、黄連、黄ゴン、黄柏、梔子、連翹、甘草、桔梗、牛蒡子、天花粉、薄荷葉 各1.5、
柴胡 2.0、大人1日量。
本方は四物黄連解毒湯加桔梗、薄荷葉、牛蒡子、天花粉。

柴胡清肝散は肝、胆、三焦経の風熱を治すが、この三経絡は、喉頭、頚部、耳前耳後中を経絡する。
小児期の解毒証体質者はこの部分の病気になり易いため、柴胡清肝散 が小児期の解毒証体質を主宰する。

【望診】以上のような小児はたいてい青白い顔色か、また浅黒いことが多い。
そして、体格はやせ型で、首が細く、胸が狭い。そのほか顎下頚部淋巴線腫大を認めることもある。
虚弱で、つねに風邪気味で、気管支炎、扁桃炎を発病しやすく、肺門淋巴線肥大と診断される小児が
柴胡清肝散証に相当する。また、風邪のあと中耳炎を起こしやすく、アデノイドを起し易い。

腹証は、肝経に相当して緊張を認める。この肝経の緊張は、肝臓の解毒作用の一つの現象であって、
解毒証体質と肝臓機能との関係を証明する。また一般に腹筋の緊張が強く、腹が軟かでない。
また腹診をするとき、くすぐったがるような腹壁の異常過敏症は解毒証体質に特有であり、
柴胡清肝散証だけでなく、荊芥連翹湯証、竜胆瀉肝湯証などにも同様にこの現象を認める。

柴胡清肝散証の者のかかりやすい病気は、結核性疾患、肺門淋巴腺肥大、頚部淋巴腺炎、
肋膜炎、扁桃炎、咽喉炎、鼻炎、アデノイド、中耳炎、乳様突起炎、神経質等。

(二)荊芥連翹湯

荊芥連翹湯は柴胡清肝散の変方であり、青年期の解毒証体質者を主宰する。
当帰、川キュウ、芍薬、地黄、黄連、黄ゴン、黄柏、梔子、連翹、甘草、荊芥、防風、薄荷、枳穀 各1.5、
柴胡、桔梗、白シ 各2.0、以上十七味1日量。
この処方は四物黄連解毒湯加荊芥、防風、桔梗、薄荷葉、枳穀、白シであり、
柴胡清肝散去牛蒡子、天花粉加荊芥、枳穀、白シ、防風とも言える。

薬能として、耳鼻両方の病気を同一の処方で治すことができるので使いやすい。
荊芥連翹湯の薬理は、四物黄連解毒剤の薬効に加えて、荊芥、防風、薄荷、枳穀によって
頭面の風熱を追い、桔梗、白シによって頭面のキョ風、特に排膿を主る。

そして、柴胡清肝散と荊芥連翹湯との薬理作用の相異点は、
前者は主として肝経、胆経、三焦経の病気を治すのに反して、後者は陽明経の病気を主治する。

幼年期の柴胡清肝散証が長じて青年になると、荊芥連翹湯証になる。
ゆえに、幼年期扁桃炎、淋巴腺肥大等にかかる者は、青年期になると蓄膿症や、肋膜症を起こし、
肺尖カタルと変わり、神経衰弱症を病む。

【望診】柴胡清肝散証の者にくらべると、皮膚の色はさらに色度を深めてドス黒くなっている。
一般に長身で、筋肉型、やせ型で、俗に言うところの骨っぱい体格の者。
また、皮膚がかすかに銀色の光沢を認める者は解毒証が強い。
青年時代に憂鬱な印象を与える者は解毒証体質であり、荊芥連翹湯証。

腹証は、まず腹筋の緊張が強く、柴胡清肝散の腹証と異なるところは、
肝経の緊張のほかに、胃経に相当して、心下にやや顕著な腹筋の拘攣を認める。
それは荊芥連翹湯は陽明経の風を去る処方であり、白し、枳殻を有するからです。

長尾折三氏著「開業医生活二十五年」では、神経衰弱の者はみな腹直筋の緊張を認めると発表していて、
これは偶然にも荊芥連翹湯証の腹証を指摘したものであり、この腹証を呈する神経衰弱は荊芥連翹湯で治る。

荊芥連翹湯証の者のかかりやすい病気は、結核性疾患―特に肺結核、肺尖カタル、肋膜炎、
結核性痔漏、蓄膿症、神経衰弱症、腎嚢風(インキン・タムシ)中耳炎、禿髪症、乳様突起炎等。

(三)竜胆瀉肝湯

竜胆瀉肝湯は解毒証体質者の下焦の病気に主として用いられ、青年期以後に応用されることが多い。
竜胆瀉肝湯の処方は、
当帰、川キュウ、芍薬、地黄、黄ゴン、黄柏、梔子、連翹、甘草、薄荷葉、竜胆、沢瀉、木通、車前子、防風
各 1.5 以上16味、一日量。
四物黄連解毒湯から柴胡を去って、薄荷葉、竜胆、沢瀉、木通、車前子、防風を加えたもので、
荊芥連翹湯より荊芥、桔梗、白シ、枳穀のキョ風剤を去り、竜胆、沢瀉、車前子、木通の瀉肝利水剤を加えた。

竜胆瀉肝湯証は、同じ解毒証体質でも結核性疾患とは比較的無関係で
たまに壮年期の肺尖カタル、腎臓結核、睾丸結核、結核性痔漏、女性の軽症腹膜炎等に応用することも
あるが、概して婦人病や泌尿生殖器病、花柳病など、下焦、すなわち臍部より下の疾病によく用いる。

泌尿生殖器病は肝臓の解毒作用を必須とし、腹診上著明な肝経の緊張ないし肝臓腫大を認める。

【望診】青年期以後の男女で、皮膚の色の浅黒い者は多少にかかわらず竜胆瀉肝湯証を持っている。

腹証は肝経の顕著な緊張を認め、臍下、臍傍より両脇下にかけて著明な抵抗を触れる。
すなわち、病毒が肝経を伝って肝臓に伝搬され、肝臓において解毒作用が行われているとみる。

竜胆瀉肝湯証のかかりやすい病気は、結核性疾患、軽症肋膜炎、腹膜炎等のあるもの、
痔核、痔漏、眼病、胃病、淋疾、膀胱炎、睾丸炎、梅毒、女性泌尿生殖器炎性疾患など。


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師語録


腹症について

日本で発達したお腹を診るという腹証。日本漢方では、腹診は大変盛んです。

東洋医学会などの慢性疾患症例報告を見ると、
柴胡剤プラス駆お血剤が多くて、そのほとんどが腹証によるとされています。

学会や症例報告のときに、必ず
「その時の腹証はどうでした?」などと質問する人もいます。

外から腹を診て、それで病がわかり、薬方処方が的確に決まれば便利ですが。
名人でない限り、ちょっと無理でしょうね。 

そういう意味では、この腹証中心ということは、非常に問題があるし、
わけがわからないものをそれだけで診るという悪癖になってしまいます。

中国では尺診と言うのがあります。
尺膚を見るのですが、 尺膚とは、前腕の内側の皮膚のことです。

中国では他人に肌を見せない。 そこで尺膚を診て、体の皮膚を想像したんです。
だから脈診が主で、腹診はやらなかった。

『傷寒論』の時代には腹診をやっていたかもしれません。
日本では東洞の時代は庶民の診療をやっていたから、腹診は容易にできたと思います。

一番最初に『腹証奇覧』という腹証の本を作ったのは、稲葉文礼という人ですが
彼は、字も読めなかった。

勉強もせずに酒ばっかり飲んでいるので「お前のようなやつは、仕様がないから」って、
師匠が腹の診かたを教えてくれたのを、絵心はあったのか
勝手に腹証の本を書いて、酒代にしただけの話なんですよね。

腹証の本もいろいろありますが、
同じっていうのは一つもなく、どれが正しいのかもわからない。

そういうものでは普遍性がなく、学問として成り立たないですね。

腹証として胸脇苦満ということを現代に伝えたのは湯本求真だと思うんです。
筋肉の緊張が強いとか、肋骨弓下に手を押し込もうとすると入らないとか、
ウーッと苦しいというのを、胸脇苦満の腹証だと。そういう腹証に対して柴胡を使うと。

現代漢方界では、柴胡となるとすぐに胸脇苦満といいますが、
もともと熱病に使うときでも必発の症状じゃないんですよ。

小柴胡湯の条文に「往来寒熱、胸脇苦満、黙々として飲食を欲せず、心煩喜嘔」
といろいろな症状をあげているけれど、その『傷寒論』に、
「柴胡の証はいろいろあるけれども、そのうちどれか一つの症状があればよい」
と書いています。

胸脇苦満がなきゃ柴胡剤が使えないということじゃないんです。

もう一つ大紫胡湯の適応になったら、「嘔止まず、心下急、鬱々微煩」とあるだけで、
胸脇苦満なんて一言も出てこないですからね。

胸脇苦満というのは自覚症状だと思うんです。胸脇というのは胸と脇でしょう。
これが脹って苦しいというのが胸脇苦満だと。

そのほかに胸中満、胸満胸痛、脇下満などという症状が
小柴胡湯の適応症状に挙げられています。熱病のときによくみられる症状なんです。

私は、その腹証のある人に柴胡剤と称する薬が有効かどうかは、疑問だと思うんです。
ここが硬いものに使って効くかといったら、効かないのがほとんどです。

診察すれば胸脇苦満という腹証をもった人間はたくさんいますけれども。
その人が自分で胸脇苦満を訴えるかといったら、訴えていない。
しかも、それに薬を使ってその胸脇苦満が消失するかといったら、消失しませんね。

同じようなことですけれど、四逆散を使う目標に、
「二本棒」といって腹直筋の緊張が強いことをあげているんです。

昔、和田東郭が薬方と腹証に疑問をもって、吉益東洞に「教えてくれ」といったら、
「弟子にならんと教えない」と。 弟子になってから、
「先生は長いこと薬を服んでおられるから、お腹はきれいでしょう。いっぺん見せてくれ」と。

四逆散を使ったからといって簡単にそんなもの消えるはずがないんです。

胸脇苦満というものを参考にはします。まったく無関係とはいいません。 効きますから。
自覚症状の胸脇苦満にはよく効きます。そのときエライ先生は隠れた腹証というんです。

つぎに、小腹急結を左下腹部のここが痛み駆お血剤が効く、としたのは昭和の某名医です。
だから、あとは皆、それを真似て言うだけのことです。

そんな腹証だけにこだわっていたら、桃核承気湯なんて薬はほとんど使えません。
でも、そんな腹証がなくても、三叉神経痛や歯が痛いというのには実によく効くんです。

だから、駆お血剤が効く病態をお血と言うべきなんですね、逆にね。
私は、お血というのは一種の臨床的仮説というふうに考えている。

これがお血だと言えないからそういうふうにしないと仕方がない。
駆お血剤を使って良くなる病態を逆にお血と言った方がいいんじゃないかと。

最初に問診で訴えを聞き、腹診をして証が決まるとすれば、
体が痒い、痒いという、いわゆる風湿の病であるにも関わらず、胸脇苦満があり
お腹を診ると、結構、女の人なんかは小腹急結がありますね。

そうすると、これは小柴胡湯と桂枝茯苓丸を投与してしまいますが、
それではナカナカ効かないですね。

そういう腹証があったからといって、いまある病気と関係があるかどうかということは、
また別問題で関係ないことが多いのです。

皮膚病を治すのに、皮膚の病態が分からず腹証だけでは、やっぱり無理ですね。
脈診とか腹診から得られる情報だけでは、病態の正確な把握はむつかしい。

皮膚の病は、例えば湿疹、皮膚炎とはどういう疾病でどんな状態なのかというのを知らず、
薬物の作用もわからず、方剤の意味も知らずに、腹診で方剤を決めるのはおかしいですよ。

薬を知らず、方剤学がわからず、病態の把握ができなくて、
望聞問切の四診だけでは、名人でない限り山勘みたいなもんになってしまいますね。



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漢方エキス剤の効かせ方

<はじめに>
 
漢方方剤のエキス製剤化と、医療用として保険適用になったため
近年は漢方が流行しその方剤が非常に多く使用されるようになった。
 
そして現在、漢方方剤が急激に普及してはいるが、
果たして充分な効果をあげているのだろうか。

この点についてはどうも疑を感ぜずにはおられない。
 
普及を急ぐより、
もっと充分に検討すべき問題がまだ多く残されていると思う。
 
まず漢方と言えば、
小柴胡湯、八味丸、当帰芍薬散、茯苓飲といった既製の方剤を
「証に随って」即ち「証を診断して」与えるものだと考えられている。
 
このような漢方は昭和になってつくられたものである。

「証」とは、もともと中国でも「症」のことで症状ならびに症候群をさしていた。
また、方剤の証とは、方剤の適応症のことであった。

それを漢方的診断に昇格させたのは昭和の漢方家たちである。
 
これは西洋医学が病名診断であるのに対し
漢方の特徴が症の診断であると主張したところにある。

それは良いのだが、症は即ち治療法そのものの診断であり、
〇〇湯の証と診断すれば、その湯で治るというところに理論の飛躍がある。

例えば、大柴胡湯の証と診断すれば、
胆石症であろうと、胃潰瘍も湿疹でも糖尿病であっても治ると、いうのである。

漢方家が大柴胡湯の証だと診断しても決して、
そう上手く病は治るものではない。

もし、証が治療法(治癒させる法)そのものの診断であれば
漢方の四診だけでは、そう簡単には証の診断はできない。

漢方の四診などで全く同じ証だと診断しても、
全く異なった病態のことはしばしばある。

昔は結核も癌も梅毒も鑑別はできにくかった。
そして、それ等の病はいづれも過去の中国医学では治せなかった。

漢方であろうと、薬物療法を行なう場合は
患者の病態に最も適合する方剤をつくって与えなければならない。

ところが世の中厳密にいえば全く同じ病人など二人といない。

従って百の病人がいれば百の処方が必要であり
万の病人には万の処方が必要であろう。

「証に従って方を処す」「随証治之」とは既製方剤を与えることでなく、
その病人の証に随って方を処すことなのである。

病態には個人差があり、総て全く同じではないが、
同一の疾病では病態も似た共通の部分が多く
薬物に対する反応も又類似しているものである。

従って既製服や定食が間にあうように、処方を固定してもある程度は適合する。

処方を固定して方剤をつくった場合、
さらによりよく病人に適合させるには、症に応じて加減をしなければならない。

中国では病人を診察し、
その患者に自由に処方する医師が多く、時方派とよばれる。

書籍、古典などの既製方剤を中心に加減するものもある。 経方派とよぶ。
経方とは経典に法っとって診察を行うという意味であろう。
 
即ち、中国ではエキス製剤を使用しないから仕立て屋のようで、
日本はレナウンやスリーMのような既製服の販売ということになる。
 
既製服はそれでも上肢、下肢の長さを適するように加減をする。



<エキス方剤の効かせ方>

漢方は医学としてまことに幼稚である。

病態の把握がいまだに原始的五感による四診でしかない。

これでは病態の把握も困難で、
病に対する認識を得る手がかりができない。

また、主観的、定性的で学問とはなり難い。
医学とするには、できる限り客観的、定量的であるべきだ。
 
方剤の面では、なぜそのような方剤を処方してあるのか、
ということは問わない。  適応症もはっきりしない。

これでは、まるで判じ物かクイズ番組に似ている。

当ることもあれば当らないこともある。 こんなことでは診療はできない。
 
しかし現実には大量のエキス製剤が販売されている。
しかも適応症は医師が見ても全く理解に苦しむものである。

目下、これ等のエキス方剤をどう効かせるかということが焦眉の急である。

では当面はどうすべきか。

    1,方剤の適応症を明確にすること。
    2,病人に適合するように、合方、加法を行う。
    3,方剤の適応症に絞って使用する。
    4,適量を使用する。
    5,使い方。

1 方剤の適応症を明確にする。
 
 漢方エキス方剤といえども薬物である以上、薬としての作用がある。
 薬物としての作用がなければ効かない。

 どのような作用があって、どのような病態に用いればよいのか、
 その適応症を明確にしなければならない。

 方剤の基本は個々の生薬(薬物)であり、
 個々の薬物にも、それぞれの作用(薬能)がある。

 個々の生薬も単一の物質ではなく、いろんな作用をもっている。

 その薬物のどういう作用を利用し、
 他の薬物と配合して、病態に適合するようにするか。

 これがわからなければ方剤の適応症を明確にすることはできない。

 即ち、さらに必要なのは薬物の薬能であり、方剤学の勉強である。

 しかし現在つくられている薬能も、
 方剤学についても、真に幼稚というか不十分である。

 現実には不十分でもこれを勉強して
 それを基盤としさらに発展させていかねばならないのである。

2 方剤の合方、加法

 本来は病人を診て、その病態に最適の方剤をつくって与えるべきである。

 ところが現在では既に方剤が固定化してつくられている。
 それを病人に適合させるためには合方、兼用、加法しかない。

 即ちエキス剤に加法は可能でも減法はできない。

 湯本求真は日常の診療は三〜五方の合方、兼用、加減を行って与えていた。

 浅田宗伯はあまり多剤を合方しないかわりに比較的多くの方剤を用意した。

 数少ない方剤で対処するには、数多くの合方、兼用、加減が必要であり、
 数多くの方剤を用いれば合方は少なくてすむ。

 合方、兼用をしないように新しい方剤をつくる。
 後世の方剤の方意は、古い方剤の合方加減であると思えばよい。

 また、エキス剤では桂枝など揮発成分の主な薬物は
 揮発して時間と共になくなるから桂皮末を加えるとよい。

3 方剤の対象を絞る

 固定化した方剤を単独(単方)で用いる場合には、
 その方剤の適応症に絞って用いることである。

 我々日常診療を行っている医師はそれぞれ自分の診療体系を持っている。

 そして漢方の勉強などする時間もない方々もおられる。

 こんなときは、病人に対してエキス剤を色々と合方したりするより、
 診療体系のなかに、エキス方剤の適応症に限って用れば良い。

 この病態には必ずこの方剤が効くと
 実証されているものにだけ用いればよいと思う。

 ほとんど漢方方剤だけで治療しようというときは、
 個々の生薬を病人の病態に最も適合するよう処方すればよい。

 その中間が、合方、兼用、加減になる。

4 適量を与えること

 最適量を与えることは当然のことながら
 実際は適量を使用されているとは思われない。

 薬物に対する個人差もあれば、病状にもよって変わりますが、
 現在のエキス方剤の有効量は特殊なものを除いて1回5〜10g。

 それ以上を頓用させることもある。

 薬味の多い後世方の方剤は多量使用しなければ効かなく、
 薬味の少ない方剤は少量で効く傾向がある。

 薬効の判定は、服用させると空腹時は約5分、
 食後は約15分位で自覚症状は消失し、持続は3〜5時間である。

 私は昔昭和36年に大阪にきてエキス剤の作られたことを知った。

 どれ位の分量で有効なのか、煎剤と同じように効くのかどうかをテストした。

 やはりメーカーの提示している適量は少なく、
 私は茶匙に一杯服用させ、効果が悪ければ更に半杯を追加して様子を見、
 そして、量は患者自身が決定するようにさせた。 茶匙一杯は約5gである。

 この方法は桂枝湯服用法に準じたものである。

 効かない場合も、証のとり方が悪いなどといわずに
 もう少し増量してみることも必要ではないか。

 こんどエキス剤の製法が変わってからも
 毎日多くの人にテストを行ったが、一回量5〜10gが標準だと思う。

 生薬は品種、産地、天候、施肥などの条件によって、
 その成分にバラツキが生じ効果は恒に一定でない。

 従って生薬を配合してつくった方剤をその力値を同じにすることはむつかしい。
 昔は、経験を重ねることで、生薬の力値を判断したものである。

 生薬を配合するときグラム数を一定にするよりも、
 力値を推定してその方剤の効力が同じになるようにすべきであろう。

 ウィスキー、ブランデーのメーカーやインスタントコーヒーのメーカーなどは、
 味も香りもほとんど同じようにつくっている。 現在ではこれは不可能に近い。

 そこで一定の力値を服用させるために、効果を病人自身に判定させるのである。

 『患者さんが師である』と言う所以である。



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 気  

患者の愁訴と器質的病変が一致しないことは多い。
器質的病変がみつからないと、「気のせい」とされ、時には安定剤などを投与される。

こうした器質的病変の証明だけでは患者の悩みを説明するに足るものではない・・・
という事実に対して、西洋医学に対し、隔靴そう痒の感をぬぐえなかった。

器質的病変の証明をおろそかにしてよいということではないが、
西洋医学が病理解剖学を基礎として発展してきたことに一つの原因があると思う。
‘病’とは異常であり、その証明がどうしても形態学的、器質的な変化とされてきた。

X線診断にしても、現在ではまだ形態学が主流であって、X線機能学はおくれている。
そのため、器質的変化のない機能異常だけの疾患が捨てられてきた。

また情報の量が増加するにつれて、人間の能力には限りがあるため、
次第に個々の臓器の医学へ分化の道を進むことになり、
胃腸科、循環器科、脳神経外科、眼科・・・
これらがまたさらに分化することになる。

全体のなかから部分だけを切り出して、今日の科学文明をつくってきた。
・・・しかし全体は部分のよせあつめではない。  
部分をいくつ集めても、決して全体にはならない。
生体は部品の集合体ではなく、むしろ一つの細胞から機能に従って分化したものです。

病人も生きている。形態と機能を同時に把えなければならない。
そのため最近では,部分的修理から、臓器相互の相関が重要だと唱えられつつある。

消化器系や循環器系のような自律神経の支配を受ける臓器は、
臓器自身の異常のほかに自律神経の異常が関与してくる。

また患者の訴える自覚症状は更に複雑で、器質的変化、機能異常だけでなく、
不安、緊張、ヒステリーなどの精神状態が非常に大きく影響する。

情動が自律神経の中枢に影響を及ぼし、自律神経系や内分泌系に異常をおこし、
ストレス潰瘍をはじめ、いろいろの機能的、またさらに器質的病変を生ずることもある。

機能異常は神経支配、さらに人間全体として、自然や社会にどう適応してゆくか・・・・
人格形成過程にまで遡る必要がでてくることもある。

食って、生殖し、社会をつくって、その中で生きている人間としてとらえなければならないし、
心と身体、内部環境を外部環境の変化にどう適応させていくか、という問題もある。

東洋の医学、漢方が人間を部分に分解せず、生きたまま、全体としてとらえること。
人間を、自然の環境や社会、集団のなかでとらえる点に、私はひかれるものがあった。

漢方医学は、宗教的な習慣のためか屍体解剖が行われず、
人体構造をはじめ、形態学や病理解剖学的知識の発達がなかった。
その反面、人間を部分に切りはなすことなく、全体として把えることになった。

そして人間を全体として把えるとき、
眼にみえる肉体という物質と、その機能という把え方は非常によいと思う。
生きた人間を生きたまま、大きく気と血、機能と物質として
気血の調和を健康、不和を失調とする。

現代医学には環境衛生学という学問もあるが、実際の臨床の現場では活用されていない。
近年、心療内科ができ、心身一如をめざして心身医学がつくられつつある。

東洋医学はもっと広い意味をもつ、と考えている。
そして「気滞」は、現実には単独で存在するものではない。

漢方独特の寒熱、水滞、血の併存、また器質的疾患との合併もある。
そのため実際には、それぞれを考慮して方剤を組むことが必要なのです。

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血 @

血の重要性

中国の医学には血血という独特の概念がある。

とは血液停滞して流れない状態、
血とは停滞している血だと説明している。

漢方でも血という病態は非常に重要である。

それは駆血剤、駆血という治療が非常によく効く治療法で、
現代医学の難治といわれる疾病に対してもなおよく治すことができるからである。

私の師、中島紀一先生は、
「諸悪は血だ。病(やまい)百のうち百まで血で解決する。
 血というものを重視せよ……」 といわれた。

血を採りあげ、これを強く強調され、また日常の診療に応用された医師に
湯本求真がいた。湯本求真は昭和漢方をつくる礎石となった重要な人物である。

事実、彼の診療録をみれば、感冒や急性病以外の慢性疾患では
ほとんど総てといっていいほど駆血剤を使用している。

私は、
「治らない病は血を考えよ。
 難治性のの病、慢性疾患のほとんど総てに血が咬んでからみあっている。
 癒らない病、ことに女性は血の存在に注意せよ。
 だが、血が単独に存在することは少ない」 と言いたい。

現在ではエキス製剤による漢方というまことに変則的漢方が横行し、
合方はいけないなどと全く真の病態を無視しているが、
血も単独ではほとんど存在せず、
多くは複雑にからみあって存在している点に注意すべきである。
 
湯本求真も実際の診療録では三方〜五方の合法兼用で、
そのほとんどに駆血剤を合法していた。

中島紀一先生も、日常の診療ではほとんどの患者に
血剤を合法して用いられ又単独で用いることはほとんどなかったのである。

感冒や急激な運動、急激な過労によって発生した肩こり、頭痛などは
葛根湯加川キュウ大黄、川キュウ茶調散、清上ケン痛湯…などで治る。

ところが慢性の肩こりで年中肩がこっているような患者は、
葛根湯加川キュウ大黄 などなど…だけでは治らない。

30%〜70%ぐらいは改善されるが、いくら増量しても治らなくて胃が悪くなる。

血薬を加えるか、駆血剤を合法するとそのほとんどが治るのである。

しかしまた、駆血剤単独でも治らない。

古人のなかにもこの血を重視された方々がいた。
 
原南陽は甲字湯という方剤をつくり、
血を現する方」として、婦人の病たるや、血に属するもの十中八九である。
……と言っている。
 
又男女にかかわらず、種々の疾患に応用し
外に針鍼をやり絡を利して血を出す刺を併用している。

刺絡では、中神琴漢も応用し、駆血剤その他と併用して治療している。

そして刺絡のような物理的瀉血の療法も非常に有効な治療法であるが、
現在では全く忘れられてしまった感がある。
このような有効治療法は必ず後世に伝えるべきである。

古来刺絡の名手として、その他山脇東門、荻野台州、三輪東朔などは有名である。
しかし、名も知られずに死んだ名手もいたであろう。

打撲のあと駆血剤を服用すると、疼痛や内出血の血腫が速やかに消失する。

挫傷どころか、刺創や切創の痛みも数分で止まる。
また癌の痛みにもよく効くのである。

手術後におきる腸管の癒着やケロイドも駆血剤がよく効く、
また再手術の前に服用すると予防できる。

又手術後もいろんな障碍に応用して思わぬ結果が得られる。

分裂病の幻視幻聴にもよく。腱鞘炎も治り、弾揆指も簡単に治る。

調栄活絡湯はギックリ腰の名方である。

乾癬、扁平苔癬など炎症性角化症から、強皮症、SLEもよくなる。

クローン氏病、潰瘍性大腸炎も駆血剤で治り、
慢性難治性疾患は総て血を考えればよいとさえ思うくらいである。

産後に女性は色々な病気が発生する。リューマチ、喘息、血の道症など。
又産前に一度治ったように思っていた病気が再発することも多い。

古人は産後に“古血”が出てきていないと考え、
古血を排出させる駆血剤を服用して治したのだと思う。



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血 A

西洋医学では,このような血に対する認識がない。
ところが、そのような眼で患者を診ていると非常に多いのである。

古人は“血の道症”といったり、“悪露盡きずして……”と称している。

即ち悪露とは排出されるべき悪い血で
充分に体外へ排出されないので残っていると考えたのであろう。

以上のような考え方が正しいのかどうかは今後に検討する必要があろう。
しかし、駆血剤はそれ等の病いに対しても非常によく効くのである。

最近中国でも血の研究が非常に重視され盛んに研究されている。
しかし、現在ではまだこの重要な血という病態は明確にされていない。

それは中国の医学が何千年も以前から存在し、
血というのも古い時代につくられた病態に対する概念で、
一種の臨床的な仮説としてつくられたものだからだろう。
 
古代の医学者は、人体の内部における病変を知る方法をもたないため
外に顕れた症状から推測するだけだったのである。

そして、
ある病態は血液が停滞しているためにおきた現象であろうと推測して
血」なる概念を導入したと思われる。

時代により多少の変遷はみられるが、基本的には現在もあまり変化はいていない。
 
最近では、日本でも小川新氏を中心に「血総合科学研究会」がつくられ
血の研究が近代医学的にも精力的にやられるようになった。

中国も中西結合の医学の一環として取り組み
臨床の観察と実験的研究からその病態の解明が進められている。

ことに最近は微小循環や、血液レオロジー、血液凝固現象等の
近代医学的進歩の知見から、この血という現象を解明しようと努力がなされている。
 
しかし、古人がつくった臨床的な仮説と、
近代医学の眼が捉える血液の停滞現象との間には大きな距離がある。
 
私の考えでは
血の血という概念と、現代医学の血液を同じように考えている傾向がみられる。

血は、血液や血流と全く関係がないというのではないが
血の病態はもっともっと広いものであろう。

血とは駆血剤を与えると改善される病態である」……と私は答えたい。

血という概念も
年代や医家によってそれぞれに判断や意見が異り全く同じではない。

しかも実際この血という病態は非常に複雑である。
おそらく単一の病態ではなく、いろんな病態を包括していると思われる。
 
また、駆血薬、活血化の薬物も数多くの種類があり、
そのなかの一つの生薬にも数多くの生物活性の物資を含んでいる。
 
私はむしろ血とは、駆血薬、駆血剤を用いてよくなる病態と定義して、
その病態を明確にするのが良いのではないかと考えるのである。

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 水 @  

ちかごろは浮腫、水滞の病人が非常に増加してきた。

この浮腫は腎性浮腫、心性浮腫、低蛋白血性浮腫といったものではなく、
また甲状腺機能低下によるものではない、いわば特発性浮腫に属するものである。

これ等の水、湿証になやんでいる患者は非常に多く、
日常の診察で診、接しているが、西洋医学ではこの病態に対する認識がなく、
病態の把握も、その対応もできていない。

腰痛、四肢痛、転筋、四肢のしびれ、身重、関節炎、神経痛
などといった訴えで、西洋医学の治療で良くならない人でも
湿、水滞と診断して、利水剤を応用すれば良くなる患者が非常に多いのである。

穿刺による水を抜くことも不要になるであろう。
私から見れば、穿刺などは井戸水をくむ感じしかない、

また、アレルギー性鼻炎などは、クシャミ、水様性鼻汁、鼻粘膜の水腫の症状で
水滞よりも、むしろ体外に水を出しているが、これもやはり一種の水証である。
やはり漢方薬によって速やかに良くなる。 漢方では20〜30分で効果がわかる。



体内環境だけではなく体外環境も考えたい。
日本では空気が多湿であって、梅雨を中心に、春から夏にかけての期間は湿度が高い。
従って外環境の湿度が身体に作用して、湿証を増悪させ、即ち外因として働く。

また、天候の悪いときは、その症状が悪化する。
だから天候の悪く雨のくる前に悪化し、
天気の良い快晴で湿度の低いときはその症状が楽になるといった特徴がある。



また、近年、我国でこの病気が非常に増加した最大の原因は、
食物の変化で、そして私は甘い物の食べ過ぎが最大の原因であろうと信じている。

甘い食品の盲点として果物と蜂蜜がある。
一般に果物はビタミンCがあり、蜂蜜は薬だという考え方をもっている。

果物は、数多く売るために、年々歳々品種を改良して甘く、
より甘い果物をつくっている。そしてビタミンCのように酸ぱいものが入っていない。
今では水菓子ではないか。

昔はイチゴも酸ぱくて、砂糖や練乳をつけて、せめて2ヶ個しか食べられなかった。

桜んぼうも酸ぱいだけで甘みは全くなかった。

ブドウは種のあるところが非常に酸ぱくて、種を出さず、
皮を除くとそのままつるつるとのみ込んだものである。

蜜柑もすっぱくて、歯がぎしぎしした。そして一個食べられなかった記憶がある。

瓜は、捨てる種のところが甘く、食べる外皮に近い部分は甘味がなかった。

今では食べるものが次第に甘くなり、少し位の甘さは甘味を感じなく、舌がぼけている。
皆な知らず知らずにうまさにつられて、糖分の過食が進行している。

甘い物を食べても、
アレルギー性鼻炎のように、内に蓄まらず外に水の噴き出すものもある。

水湿の貯まるのは、肥満傾向のもの、中年以後の人に多く、
外に出すのは痩せ型の人、若い者にその傾向が強いと思う。

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 水 A 

 症状
   一見して、顔貌、皮膚、動作で見当はつく。
   毎日よく注意して見ていると、次第に眼力がよくなり、望診で診断がつく。

   肥満の人に多いが、水肥りのものは、肥っていても軟らかい。
   ことに皮膚が軟らかい感を受け、脂太りとは異なる。

   眼瞼の浮腫、たるみも参考になる。ことに午前は上部に浮腫があり、
   午後には下肢が腫れる。

   動作が鈍く、運動が緩慢になる。即ち敏捷に動けない。
   私はX線の消化管透視をするときに、姿勢の変換をさせるが、
   透視台の上でどうして体を動かせないかと不思議に思うことがある。

   このことの裏返しが、患者の自覚症状として、体が重いと感じる。
   体を動かそうと思うが体が動けないのである。
   疲れてだるい、倦怠感とは違って、動かそうと努力するが動かないのである。

   階段につまづいて前に倒れる。それは足を上げたつもりで、
   実際には上がっていないのである。極端に言うと、力の抜けただるさでなく、
   力を入れようとしても動かない、泥田の中で動くように感じる。

   立ったり座ったりする時、ヤッコラショ、ドッコイショといって手をついて
   立たねばならなくなる。

   こわばる。

   寝てイビキをかくようになる。

治療

 1 皮膚に浮腫がおきるときは、肌表の水を除く黄耆や、発汗作用のある、麻黄、防風、
   きょう活、細辛、生姜、紫蘇‥‥などを配合する。

 2 稍々、湿が深く、筋肉に貯まると、こわばり、身重で体が重く、動きが悪くなり、
   筋肉の痙攣、コムラ返り、腓腹筋の圧痛などがおきる。
 
   中医薬できょ風湿薬といわれる独活、木爪、五加皮、清風藤及びヨク苡仁などを配合。

 3 関節水腫などのときには、麻黄、石膏や防已(木防已)や?風湿薬の独活、桑枝、
   い霊仙、秦ぎょう、ヨク苡仁、(これ等は関節炎即ち湿熱に用いる)。

   反対に炎症がなく冷えている水腫は、附子、干姜などを配合する。
   RAの関節の水腫には牽牛子。
        
 4 めまい、心悸亢進などは茯苓、朮、沢瀉 桂枝を加える。
   緑内障には、麻黄、石膏に朮を加える。

 5 上半身は発汗で水を除き、下半身は利水によって除くとされる。

 6 下痢、消化管の水を除く
   蒼朮、白朮、茯苓、附子、猪苓、沢瀉、枳実、ヨク苡仁、滑石、呉茱萸と厚朴、かっ香、
   縮砂など芳香化湿薬と分類される薬物を配合する。

   又清熱解暑薬に分類されている白扁豆なども用いる。

 7 湿や水滞ではないが、腎石、尿路結石、膀胱炎などの利尿を必要とするとき、
   滑石、金銭草、車前子等を配合して用いる。

 8 胸水、腹水、心不全による肺水腫など症状が重く、急を要するときは、
   逐水薬という利尿と瀉下の作用を併用した薬物を一時用いる。長期には体力が弱る。

 9 肝硬変のような、静脈系のうっ血のためにおきる腹水には、
   活血化オの薬物を配合する。当帰、赤芍、紅花、牡丹皮、など。
  

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ヒバリ型とフクロー型

私は人間を大別して、ヒバリ型とフクロー型の二つに分けている。

ヒバリ型の者にはあまり理解できないかも知れないが、
フクロー型の人に読んでもらうと、成る程と共感してもらえると思う。

1. ヒバリ型

朝は早起きで、寝付きもよく、若い頃は不眠などとは縁が遠い。
雑音のひどい所や、狭い所など、どんな場所にでも横になれば、すぐに眠れる。

病気とは無縁で、めったに病気にならない。
健康診断もめんどうだから受診しない者もいる。

いつも元気で、仕事でも遊びでも
朝からテキパキとドンドンこなしていく。

このようなヒバリ型の人は若い時によいが、高齢になり
一旦病気になると、乗るか反るかの大病をする。生命保険の加入などの時に、
高血圧や糖尿病などを指摘され、急には保険に加入出来なくて困ることもある。

2. フクロー型

それとは反対に、弱虫の者もまた多い。年がら年中いろいろと身体の苦情が絶えない。

体がしんどい、疲れ易い、体力がない、頭が痛む、肩が凝る、胃が痞える、重苦しい、
吐き気がし、胃が痛む、めまいがする、手足が冷え、朝は起きにくい夜は眠られない。

不定愁訴といわれ、非常に訴えが多いが自覚症状だけで、たいした検査所見もなく
自律神経失調症、肝臓が少し悪い、血の道だ、更年期障害だ、などといわれる者も多い。

前者をヒバリ型とすれば、この方はフクロー型である。
このタイプの人間は、世の中に20%〜30%も居る。

「朝寝の宵っ張り」で午前中が最も悪い。
早く起きても、頭がボーッとして、はっきりしない、学校の授業も能率が悪い。

事務員も午前中はよくミスをおこして困る。
丁度春の霧がかかったような頭である。 日曜休日は昼近くまで寝ていたい。

朝はいつまでも床に居たい。やっとのことで起きてみると、
近所のヒバリ型の奥さんが、元気な声を立てて、掃除も終わり、
洗濯物を干しているのを見て、いったいあの人たちはどうしてあんなに元気なのか、
私はなんでこんなにしんどいのか、何処が悪いのであろうかと思う。

朝食は欲しくない。 食べないと体に悪いからと考えて、
無理に口へ入れることにはしているが、決して起きた直後は食べたくない。
起きてから時間の経過とともに食欲がでてくるのである。

午前中は眠く、午後も5時位までの間ならば昼寝の出来る者もいる。
朝は頭の働きも悪く、体を動かすのも大儀である。

午後になって3時を過ぎると、大抵は体の調子がよくなる。
午後の7時8時頃からが一日中で最も体調の良い時である。

体も元気、食べ物もおいしくて、沢山食べられる。頭の動きも非常に良い。
様々の不定愁訴もこのときばかりは引っこんでいる。即ちスロースターターである。

しかし、早く眠らなければと思って床に着くが、頭の中が冴えて眠られない。
10時11時に寝ようとしても1時間も2時間も眠ることの出来ない者が多い。

このタイプの子供を持った親は、朝早く起こさなければならないから、
どうにかして早く眠らせようと、床に付ける。

しかし子供は床に入っても眠らない。 眠れないのである。
早く眠ったとしても、早く起きれるというものではない。

勉強するのも、仕事をするのも夜がよい。午前中は能率が悪い。
仕事は重労働はしんどい。 美術家、小説家、デザイナーなどの
自由業、自家営業で夜に出来る仕事などがよいかと思う。

太っている者もあるが、比較的痩せ型が多い。冷え症でことに手足が冷たい。
冬期は“さむがり”だが、暑い時期よりも寒い時期の方が元気で、活動し易い。

暑さに弱く、春なども、寒い日から急に南風が吹いて生温かくなると、
体の力が抜けて、コンニャクのようにグニャグニャになる。

暖かい所にいると気分が悪くなる。従ってあつい風呂や、長湯は出来ない。
頑張っていると脳貧血をおこして倒れる。だから常に「鳥の行水」となる。

皮膚の血色は一般には悪く、朝起きた時が一日中で最も蒼い。
女子は化粧をしているから誤らないようにしなければならない。

発病の年齢というのもおかしいが、
症状が現れ、苦しみを訴えるようになるのは、20才ごろ位からが多い。

女性の場合は結婚して、最初の子供を出産した頃からが最も多い。
30才台は最もつらい時期で、40才を過ぎるとだんだんと訴えが少なくなり、
60才を過ぎればほとんど元気である。

70〜80才も元気で長生きをする。 その点でもスロースターターである。 
交通事故や癌にでもならなければ嫌われる位長生きをする。


近年になって小児科で起立性調節障害を取り上げているように、
学童の時期から症状を訴える者もあり、そうでなくても片鱗がうかがえる。

子供のうちから、朝は起きれず、夜はおそくまで遊んで、なかなか眠らない。
学校に遅れそうになるので親は何度も起こしに来る。

ひどいのになると、目覚まし時計を自分で止めて、また眠り、
「今朝は目覚ましがならなかった」という者もいる。

朝食は欲しくないし、また食べる時間もないため、
そこそこにして学校に行き、夏は朝礼で脳貧血をおこしてブッ倒れる。

午前中、第2時限〜第3時限の授業中によく頭痛を訴えるが、
正午になって給食を食べると、頭痛もよくなり、元気に運動場で遊んでいる。
このような子供は学校に何人かいるものである。

ヒバリ型の子供が、早寝早起きで、両親が寝ている枕許で遊ぶのと対照的である。

ヒバリ型は、勤務の二交替、三交替などもすぐ順応して困らない。
航空機での移動のためにおきる時差も問題にならない。

昼であろうと夜であろうと疲れるとすぐ眠れる。
眠りから醒めると、すぐ頭がはっきりして、体の疲れもとれて活動が出来る。

それに反してフクロー型はなかなか順応出来ない体質である。
枕や寝床が代わっても寝られないと訴える者も多い。

この体質は換えることは出来ない。
ヒバリ型はフクロー型になれないし、フクロー型もヒバリ型にはならないのである。

学生時代短距離等は強い者もいるが、卒業後に訓練しないとガタッと弱くなる
友達や家族と一緒に山に登るとき、初めはエーカッコして一番に行くが、
すぐ息が切れ、ハアハアいって先にヘバル、というのもこのタイプである。

心身の鍛練は必要でしかも大切である。若い時鍛えておくとそれだけ強くなる。
弱いからといって鍛えなければ益益駄目になる。しかし無理はよくない。

いくら鍛えたところで、猫は虎にならない。しかし、このタイプは要領がよくなる。
試験の山をかけるのもうまい。体力を補うため自然と身につくのであろう。

ヒバリ型は若い時によいが、老人になると困る。
フクロー型はスロースターターで若い時代は弱いが60才にもなれば元気である。

若い時がよいか、老いてからがよいか、どちらかであって、両方良いのは少ない。
働き盛りがしんどいので困るが、それは仕方のない事である。

人生はそれぞれで、このタイプの人は細く長くをマイペースとして決してあせらず、
人生の後半にかけて力を出すよう一生の設計をしなければならない。

古今東西を問わず、若い時には弱く、養生をしたお陰で長寿を保った、
などという人は大抵フクロー型が多いと思う。

そして養生訓なども、やはり書いた者のタイプに似たのが出来ている。



フクロー型のこれらの症状に対して、苓桂朮甘湯はよく効く。
軽症の人は数日で効果は見える。 自覚症状の好転が素晴らしい。

外出前に服用すれば気分が悪くなったり、脳貧血をおこすこともない。
めまい、頭痛、肩凝り、倦怠感がなくなり、息切れや動悸も減少する。

片頭痛もおきなくなり、手足が温まり、朝は起き易く、胃内停水は減少する。

嘔き気、胸焼け、心下部の膨満感や、胃痛も治まり、頭もはっきりして、
気分も晴れやかにやる気が出る。 学校の成績もよくなったりもする。
 
色々の書に、のぼせを苓桂朮甘湯の特徴としてあげている。
しかし、顔が赤く充血するのぼせには、かえって悪くなる者が多い。

苓桂朮甘湯は、桂枝に対して芍薬が入っていない。
従って脳に血液の多い赤ら顔、高血圧、よく腹を立てて頭に血がのぼる者には悪い。

苓桂朮甘湯が患者からクレームの多い薬の一つである所以である。
その時のめまいは芍薬一味3g位を水煎して服ませると5分間位で止まる。


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『漢方一貫堂医学F』

私(山本巌)は一貫堂医学に興味を持ち、臨床に非常に多く利用してきた。

しかし、森道伯先生に拝顔した事も無ければ、
矢数道斉先生に直接ご指導をいただいた事も無い。

私は一貫堂医学がある事に気づいたのは、昭和40年4月号の
漢方研究誌(小太郎漢方)の漢方処方物語(森道伯の巻)の記事を読んでからであった。

これは、横浜市立大学の歴史学をやっておられた
石原明先生の口述を載せられたものであった。

これは面白いと感じ、矢数格著「漢方一貫堂医学」を求めて勉強した。

私は、本を読むだけではなくて診療に実践したのであった。
ところが、その結果が非常に良かったので、見ておられた西山英雄先生が
それなら関西で唯一、一貫堂医学を知っておられる中島隨象先生に就いて
勉強をしてみなさいと、御紹介を戴いたのである。

私が最初に試みたのが、柴胡清肝散であった。

解毒体質の子供は中耳炎…慢性化膿性中耳炎になり、
悪臭の膿性耳漏(ミミダレ)のため耳鼻科に通院して難治であり、
また、一度治癒してもかぜを引くと再発し反覆を繰り返す子供に使用した。

急性中耳炎には葛根湯加桔梗石膏でもよくなるが、
慢性難治性や再発を繰り返す患者には、その後体質改善と称して
柴胡清肝散を再発しなくなるまで、半年でも一年でも持続して服用させた。

皆治るものだから、耳鼻科に通院していた小学生達が群れをなしてやってきた。

次は、慢性扁桃腺炎。反覆する扁桃腺炎に、柴胡清肝散を使ったのである。

急性扁桃腺炎には、小柴胡湯加桔梗石膏、駆風解毒湯加桔梗石膏ですぐに治る。
抗生物質のように、効きの悪い薬は使い物にならないと森田等先生も言われた。

しかし、再発を繰り返すものは解毒体質で、その後、柴胡清肝散を
半年、一年と持続して服用させ、体質改善と称していたのである。

面白いくらいよく効くのである。

私は、同様のように荊芥連翹湯を蓄膿症に応用した。

慢性鼻炎、慢性副鼻腔炎、蓄膿症で膿漏(膿性鼻汁)のひどい時、
葛根加桔梗石膏などで一時よくし、その後で荊芥連翹湯で長期に
再発しないように服用させて、解毒体質を改善して再発しないように治した。

荊芥連翹湯は、ザ瘡(にきび)の体質改善に応用した。

次は、竜胆瀉肝湯の使用によりこれら一貫堂の方剤を
いかに優秀でよく効くか、実際に使って驚き、有頂天になった。

そして、こんなによく効く薬をなぜみんなが使わないのだろうか。

…不思議でしかたがない。


一貫堂医学とは

一貫堂医学は、森道伯先生の死後、先生の医術を後世にまで残されようとして
矢数道斉先生を中心に矢数有道先生、矢数道明先生が力を合わせて、
矢数格著「漢方一貫堂医学」(発行は医道の日本社)によって、その全貌を示されている。

一貫堂医学とは
森道伯先生のすばらしい医術の一端を何も知らなかった我々にも残されるため、
道斉矢数格先生が矢数有道先生、矢数道明先生と尽力されてつくられた医学である。

矢数格先生は、森先生の漢方治療によって九死に一生を得られ、
まさに絶滅に瀕した漢方を復興させるため、
弟有道先生、道明先生と共にやろうと勧誘され、力を合わされた。

森先生は術の人で、文字や言葉では伝えることが出来ない。術を伝えることは
以心伝心であるとし、門人に直接指導されたが、文章とし、学として残されなかった。

森道伯先生から教えられた矢数格先生も、また同じような術の人であった。

従って、矢数格先生の医術を知りたくても格先生の残された学はなく、文章では、
漢方の臨牀誌第7巻、第7号の「常陸紀行」のような形でしか知ることは出来ない。

矢数格先生は、矢数有道先生、矢数道明先生と謀られ、森道伯先生の一貫堂医学という
今迄にない漢方医学を後世にまで残されるため、協力してつくられた。

昭和8年、一貫堂医学大綱がつくられ、格先生の口述を検討され、有道先生が筆受されて、
ここに三大証分類、五方による治療という一貫堂医学の大綱が出来たのではないかと思う。

矢数有道先生は、戦死された。森道伯先生生誕百年祭と矢数格先生古稀の祝いを兼ねて
「漢方一貫堂医学」が矢数道明先生の尽力によって医道の日本社から出版された。

私が一貫堂医学を勉強しその恩恵に浴することが出来たのは、このおかげであった。

誠に有難いことであった。
と同時に、矢数格先生の漢方も残していただきたかったのである。

中島先生は、森先生より道斉矢数格先生の医術を重視されたと思う。


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『漢方一貫堂医学G』

一貫堂医学の特徴

一貫堂には、元々古方の弁証論治もあれば、後世方の弁証論治もあった。
この点は他の漢方と大きな差はない。
一貫堂医学の独特のものは、三大証、五方による治療の部分である。

日本漢方は、古方派は傷寒論・金匱要略を範とする弁証論治をおこない、
後世派では、曲直瀬道三流の弁証論治をする。
(と言うが、しかし、日本の漢方家の多くは、口訣派である……)。

一貫堂医学の独特の弁証論治は、オ血体質、臓毒体質、解毒体質という体質分類であり、
オ血体質者には通導散、臓毒体質者には防風通聖散、
解毒体質者には柴胡清肝散、荊芥連翹湯、竜胆瀉肝湯によって治療するというものである。

私はよく知らないが、この三大証という体質分類はおそらく
矢数先生が考えられたのではなかろうかと拝察申し上げているのですが。

この三大証は、一挙に出来たものではなかった。
オ血体質に対する通導散の治療体系が出来上がったのが関東大震災の後、
千葉に一時疎開されたときのことであった。(石野信安先生によれば)。

従って、もし森先生が長生きをされたなら
この体質的分類を進めて、五大証…十大証に進んだかもしれない。

一貫堂医学は三大証で終わっているが、
これで終わらせるものではなく、我々、後人は、更に発展させるべきだと思う。

体質といえば、リウマチも喘息もアトピーも皆、体質で把える事が出来る。

人間の体質にも、色々と数多くあり、もし森先生が長生きをされていたら、
体質の弁証論治もまだまだ発展したものと思われる。

私も一貫堂を知る以前に、フクロー型、ヒバリ型に分類し、
フクロー型は、キュウ帰調血飲を用いていた。

私は、解毒、臓毒、オ血の三大体質がすべてだと思わない。
また、臓毒にオ血を兼ねたものも多い。
一つの体質でも、典型的なものからいろんなバリエーションがある。

体質と病

現在でも時々、卒中体質などという懐かしい言葉を聞く事があります。

主として戦前には、腺病質などといわれる体質があった。
これは、一貫堂のいう解毒体質と似た部分がある。

腺病質も頚部淋巴腺の腫大、耳下腺腫大、扁桃腺炎をおこし易く、
また結核になり易い体質である点は似ている。しかし必ずしも一致しない。

その他小児科で、滲出性体質、胸腺淋巴性体質、神経炎体質などを教わった。
ともあれ、体質と疾病の間には、深い関係があると考えられていた。

夫が、長い間結核を患い、その妻が看病する。
しかし、一向に結核の感染・発病しないものもいる。
私も、結核なんぞならないであろうと思っていた。

学生時代に、結核病棟をマスクもせずに歩いていて、
内科教授にお目玉を食らった事があった。

それなら、どの様なタイプのものが結核に罹り易く、
どの様な体質のものが罹患し易いのだろうか。

森道伯先生の時代、もっとも重要な病は、
結核と中風(脳血管障害、脳出血、脳梗塞など)であった。

先生は、非常に勘の鋭い方であったと推測されるが、
それだけでなく、病人の声を聞いて声と病気の関係を見つけようと努力された。

一時が万事で、望診、切診なども非常に詳細に弁証されたに違いないと思う。

このようにして、一貫堂の三大証がつくられたと思う。

門人の方々もこれをまねて、臓毒症だ、解毒証だと診断されたと言う。

森先生は、細部にわたって伝える事は出来ない、以心伝心である。
ということで文章では残されなかった。
矢数先生によって、文字・文章で伝えられる部分を残されている。

まとめ

@一貫堂医学は、森道伯先生の医術を遺すため、
 矢数格先生が道明先生・有道先生と協力してつくられた医学である。

A一貫堂医学は三大証分類と、五方による治療という体質的分類という弁証と、
 それに対する五方による治療…論治…をする今迄に全くなかった医学である。

B私は、世の中のすべての病が三大証分類で出来るものではなく、
 もし森先生が長生きされたならまだまだ多くの体質分類を行ったであろうと思う。

そして、森先生の亡き後、私達が受け継いでいかねばならない問題であろう。

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『漢方一貫堂医学H

三大体質、五方以外

一貫堂と言えば、三大体質、五方とくる。
しかし、この体系は大正末期から、昭和のはじめにかけて
出来たものだから、それ以前の一貫堂もあったであろう。

「漢方一貫堂医学」矢数格著では、
森道伯先生は古方を多く用いられたように記載されているが、
古方ばかりでなく後世方も多用されていたと拝察する。
スペインカゼの香蘇散加減を用いられていること。
第四篇、第二章……並びに第五篇の
一貫堂医学による治験例をみても納得できるであろう。

わたしは、三大体質・五方を勉強しながら、
四篇・五篇の自分が使っているなじみの方剤を使ってみることにした。

五積散(和剤局方)

18味からなる方剤でいろんな生薬が入ったため、いろんな病に使える。
局方の適応症に
@中寒
Aカゼ引き(寒邪に感冒し)
  a.頭痛、身痛、肩こり、悪寒するとき。
  b.嘔吐、腹痛など、お腹がやられたとき
B内生冷に傷られ
(冷えたジュース、果物などでお腹を冷やし。冷蔵庫病で)、胸隔脹満し。
C外からの風、寒、湿気に感て、経路に着いて腰脚が痛んでいる者。
D婦人の難産、無月経。
を挙げている。
しかし、一度にはみんなやれないから、私はまず、中寒から始めた。

中寒

毒に中ると中毒であるが、中寒とは、寒邪に中ったということである。

今では、冷蔵庫病、クーラー病がその代表であるが、
この頃は冷蔵庫でなんでも冷やして飲む傾向がある。

クーラーなどで下肢を冷やすと冷えた血液が腹に帰って、腹の中を冷やす。
腹の中を冷やすのが臓腑の中寒。

クーラーなどで外部から
体表(皮膚、筋肉、関節、骨)を冷やす事を経絡の中寒と言う。

衆方規矩や古今方彙では、
臓腑の中寒は理中湯、経絡の中寒は五積散となっている。

適応症のBは、臓腑の中寒だから、
五積散を用いるときは、肉桂、干姜を多くする。
エキス剤などは、人参湯と五積散を合方するのもひと工夫である。

腰痛

局方適応症の上記のCにあげたように、
又腰腹股攣急、腰冷痛に用いるを主とし、臂痛等にも有効である。

上熱下冷等にも挙げているが、
この腰痛、脚痛など皆冷えが原因でおきたものである。

牛山活套にも、腰痛門に
「総じて腰痛、腿痛の證、筋骨疼痛するものは経絡を温散すべし五積散主方也」
と述べている。

私も次ぎに、腰痛に五積散をやってみた。

腰痛だけでなく、下肢の痛みも、それから肩や肘の方にも使用した。

まあ、腰が痛いと言えば五積散と言うふうにである。それでもよく効いた。

ポイントは、冷えによる腰痛で、どれが冷えた腰痛かわかりにくいときは、
風呂に入って温めているときその痛みが軽くなるかどうか、尋ねてみる。

腰痛なら70%、風呂に入って軽くなるやつは、ほとんど100%効く。

冷えているかどうかの鑑別

@温めると良くなる。温かいものを好む。

A下痢や嘔吐で水分を失うときでも、尿量は減らない。また尿の色も白い。

B口が燥わかない。(水分を欲しがらない。)
これは、冷えると発汗が減るからであろう。

キュウ帰調血飲

[組成]
 当帰 川キュウ 熟地 白朮 茯苓 陳皮 烏薬 
香附子 牡丹皮 干姜 益母草 大棗 甘草

[解説] 
本方は、産後の諸症(諸病)のためにつくられた方剤である。

女性にとって妊娠出産は大仕事であり、
身体や精神的にも少なからざる異常をもたらすものである。

漢方では一般に、産前は和気飲(紫蘇和気飲)に加減して治療し、
産後は調血飲に加減し応じる。

キュウ帰調血飲は、出産直後から2〜3ヶ月ぐらいの間、
体力の低下のひどいときに用いる方剤である。

そのため、気血虚損、脾胃怯弱、去血過多、飲食節を失し
………と記載されている。

そのために、駆オ血の薬は少くして、体力を補う薬の配合がある。

産後は、体力低下に対して温補すべきで、白芍は寒性だから除いているのだが、
当帰などを多く入れると除くほどのものではない……と思う。

キュウ帰調血飲第一加減

[組成]
 当帰 川キュウ 乾地黄 茯苓 陳皮 烏薬 香附子 
 牡丹皮 干姜 益母草 大棗 甘草 
 肉桂 枳穀 木香 芍薬 桃仁 紅花 牛膝 延胡索

[解説]
キュウ帰調血飲には、30種類の加減法がある。

そして一貫堂のいう第一加減は、3番目の加減法で本当は第三加減である。

しかし、出産直後はキュウ帰調血飲で、
その他では一番多く使用するのが第一加減である。

出産の後、いろんな病気に対して用いる。

問診で、2〜3年前の出産でも、よく尋ねてみて関係があれば使用してみる。

芍薬、桃仁、紅花、牡丹皮、益母草、牛膝、延胡索と駆オ血薬を多く配合して
産後のオ血による病に広く応用している。

@出産を契機としておきてくる病に用いる。
関節リウマチ、潰瘍性大腸炎、血脚気

Aフクロー型

キュウ帰調血飲第一加減は今でも非常に使用例が多い。

わたしの使用する方剤中1位から5位ぐらいであろう。

キュウ帰調血は、何の薬かと聞くと大抵は知らない。

後世方では、産前なら和気飲(紫蘇和気飲)、
産後なら調血飲(キュウ帰調血飲)加減である。これは、常識…のはずである。

したがって、キュウ帰調血飲は産後一切の変調に用いる方剤、
産後の下肢麻痺でも、潰瘍性大腸炎でも、
リウマチであろうと実によく効く方剤である。
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『漢方一貫堂医学I

一貫堂医学と漢方舎

私(山本巌)が、漢方舎(中島隨象先生)に入門することになったのは、
伊藤先生より数年おくれる。

直接の動機は西山英雄先生からご紹介いただけたからである。

私が一貫堂方を多く使用しているのをみられ、
それなら関西で真に一貫堂を知る唯一の
中島先生にご指導を受けなさい、という親心からであった。

医学を勉強するためにはいろいろな書を読んだ。
しかし実際の診療には、まず湯本流変則合方を真似てやることにした。
西山先生は、湯本流はおかしいと反対をされた。

だが病人が治らなければ意味はない。
医療から見放された病人ばかりだから変則でもなければ治るまいと、
いっさいかまわずやったのである。

難症には、体質改善的な治療が必要だと思っていたところへ、
昭和40年ごろに一貫堂医学と出会ったのである。
一貫堂医学は矢数格先生の著書だけを頼りに独学で診療に応用した。

三大体質、五方といった非常に実践的、臨床的で類型化した医学は、
現代医学にも通じるものである。

また、「漢方一貫堂医学」矢数格著(医道の日本社)中に、
大正7年のスペインカゼに、
脳症型には升麻葛根湯に白シ、川キュウ、細辛を加減し、
肺炎型には小青竜加杏仁、石膏、
胃腸型には香蘇散加茯苓、白朮、半夏を与えるという。
現在でも応用でき、実用的で便利な面をもった一貫堂医学に興味を引かれた。

術は言葉や文章では伝えられないといわれながら、
西洋医学のように類型化によって誰にでも実践できる面をもっているのである。

しかも初心者でも非常に再現性が高い。

私が感知できた面での一貫堂医学でも、
数多くの方々を指導していずれもよい成績をあげていた。
この点でも一貫堂医学を高く評価している。

もちろん、森先生、矢数先生をはじめ
一貫堂門下の先生とは全く知己がなく、
したがって書籍による以外知りようがなく、真の一貫堂は未知である。

同じ一貫堂出身の先生でも、
人によっては多少の差があるだろうぐらいにしか考えていなかった。

ところが漢方舎では全く違っていたのに驚いたのである。

一貫堂医学の三大体質、五方ということが全然ない。
使用されている方剤の基本は同じようであるが、
病の認識と方剤の使用方が全く異なる。そのため非常な混乱に陥った。

薬方が違っていれば、まだ混乱をまぬがれたかも知れないのに。

いままでの一貫堂医学的考え方を捨てなければ、
中島流は素直に受けられない。それでいて毎日の診療には
一貫堂方を三大体質、五方的に使用していたからである。

中島流漢方の大網

「病は邪によっておきる。邪は瀉さねばならない。
 したがって病の治療は瀉法である」

「補は体力を補なうもので、直接病を治療するものではない」
異論や反論はあるだろうが、中島流の基本方針であると判断した。

「諸悪の根元は血である。血というものを重視せよ。
 病百のうち百までは血で解決する。」
先生はオ血という言葉を使用されず、血証という言葉を多く用いられる。

中島先生のもとに、最初見学したときのことである。
先生が、「導」と処方に書かれたが、調剤を見ると、石の粉で白くなっている。
こんな通導散を見たことはなかった。

この粉は、石膏末と滑石末で、
中島先生の「導」は、通導散合防風通聖散を通導散と言っておられた。

また、「竜」竜胆瀉肝湯も竜胆瀉肝湯合防風通聖散のことである。

これは一貫堂(私が学んだ)とは、全く異なるものである。

そして、中島先生は、
臓毒証(臓毒体質)、解毒証(解毒体質)などとは一言も言われなかった。

また、中島先生自ら、オ血という言葉も口にされることなく血証と云われた。
(一般に血証とは出血を意味するが…)

駆オ血剤のみならず、四物湯も血の方剤である。
したがって温清飲を基本にした、竜胆瀉肝湯も血の薬ということになる。

「血証で下焦に抜けるものは竜胆瀉肝湯を用いよ」
以上は中島先生が私に示してくださった規矩である。

そして個々の疾病や患者のことなどはほとんど教えていただけなかった。
人には、それぞれの器というものがあり、
その器でしか、ものを量ることはできない。
そしてほかの諸先生をどのようにご指導されたかもわからない。
だから本当の中島流漢方はもっと違ったものかも知れない。

そこで私は先生に質問させていただいた。

「先生、病とは何ぞや」……と。

「病は邪である。」

「治法は」

「瀉である。」

「補は」

「正気を補うのみ」

その時先生は、言われた。
「諸悪の根源は、血である。血というものを重視せよ。
 百病のうち百まで、血で解決できる。」

以上のことを、教えて下さった。

良師は、規矩を教えて、準縄を教えずとか、
その後は技術的なことは、何一つ教えていただけなかった。

中島隨象先生の大綱であると考える。

中島流の漢方は、一貫堂医学より古方の考え方に近い。
ただ使用する方剤は、非常な複方で古方とは異なるが……。

先生は私達に、難波抱節の書いた許学士の言葉を以って示された。
「仲景の書を読み、仲景の法を用い、
 未嘗て仲景の方を守らず、乃ち仲景の心を得るとなす。」

中島隨象先生は、邪を瀉すのは防風通聖散を主とし、
大黄、芒硝で中焦の邪を大便にしてから肛門から、
防風、麻黄、荊芥、薄荷は皮膚から発汗などにより、
滑石、朮、山梔子は尿路から、桔梗、石膏など気道から邪を駆遂する。
……の如く体内の邪を除く基本方剤とし、
これに色々と配合して治療されていた。
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『漢方一貫堂医学J

分心気飲は理気の剤ですが、先生はむしろ水増しのように使用されている。

通導散、竜胆瀉肝湯などその作用は強い。
ところが分心気飲で水割りにしておられるのである。

強い瀉剤もストレートでなく水割りにして使用し、虚弱な者にも使用されていた。
これは非常に重要なことであると考える。

伊藤良先生が、中島先生の診療を受けられたとき、中焦の虚と診断され、
中を補い、陽を升すと話されながら防風通聖散を用いて治療されたそうである。

防風通聖散といえば、巷間で食毒だ、脂肪太りだ、ベンベンたる太鼓腹だといわれる。
ところが老人、小児、虚人に限らず、先生は用いられる。
通聖がなんで中を補うのか。

人参、黄耆で補わず、汗下で瀉し、虚人の反発力や活力を引き出すのである。
附子、乾姜で寒を温めるのではなく、冷やすことで体が温まる活力を生ぜしめる。
体をおだてるのでなくて、スパルタ式に鍛えるのだ。
しかも、ごくわずかに薄めた水割りの瀉剤をもってする。

この点ではホメオパティ療法に似ている。
ここに漢方舎、中島流の真骨頂があるのではなかろうか。

〔付〕ホメオパティ
治療法には、アロパティとホメオパティの分類がある。
アロパティとは、熱病に寒冷の薬物を、
下痢には止瀉の薬物といった反対の治療を行うことである。

中国の虚すれば之を補い、寒すれば之を温めるといった治療法と同じである。

ホメオパティとは冷え症には冷やす薬を、
熱症には温める薬物を用いる同類療法である。

冷たい水に手を入れるとつめたいが、
水から手を出して拭えばしばらくするとホコホコと手が温まってくる。
だから冷え症を附子などで温めるより、少し冷やして体の温かくなろうとする力を
引き出すのだといわれる。

このような発想法は過去の漢方にはなかったのではなかろうか。

用薬

漢方舎では個々の生薬の薬能を非常に重視し、
処方数を少なくして加減法を行うことによって運用を広くする。

先生の処方を真似て同一処方を用いても効かないのは、
個々の生薬の薬能を知り、
加減することによって患者の病態に適応させられないからである。

「虎を描いて猫になる」の類となるのである。

大黄は先生の最も重視している生薬で排毒、駆オ血の要になると考えている。
大黄の使用量を各人に対してどのようにして決定するかは、私にはよくわからない。
患者のどういう病態でとらえているのかがさっぱりつかめないのである。

桂枝茯苓丸は、打撲時の内出血を吸収する効が悪く、
通導散や治打撲一方に比べて紫斑の消失が遅い。
これは桃仁、紅花、牡丹皮などの駆オ血薬はそのままでは作用が弱く、
大黄を用いることによって強く発揮されるのである。

先生は補中益気湯すら大黄を入れて用いられる。

そして非常に少量の方剤を用いながら、うまく効かすことのできる最大の鍵は
大黄の使い方いかんにかかっていると思われる。

芒硝は冷えた人に用いない。
石膏は焼石膏を少量用いられるため、
おそらく清熱の効を使っていないのではないかと思う。

半夏は鎮咳制吐作用を重視し、気剤として中枢性の鎮静作用もよく言われる。
太った人には常に少量配合するように指導される。

用薬は多味少量、処方数を少なく、運用を広くする点が大切だといわれる。

術の上達は容易でない。
これを誰でもが、なんとかある程度の効果をあげるように
型(学)をつくらねばならないと考えている。

女性の生理なども体臭から診断される。
嗅覚とあの髯と何か関係があるのではないかと想像する。

漢方では、四診によって病態を把握することがすべてであるため、
五感の能力はきわめて大切である。
しかも注意力を集中して、修練を重ねるとますます能力に磨きがかかる。

「蟹は甲羅に似せた穴をほる」というが、
不問診をされる先生の世界を感知することは困難である。

血圧測定による弁証論治

中島先生は、血圧という情報で病態を捉え、
それに対する方剤を与えて治療されている。

先生のカルテには、血圧と方剤の処方は必ず記載されているが、
病名、脈証、腹症などは例外でしかない。

私は、先生の弁証論治の主役は、血圧が最も重要な情報だったと思っている。
その詳細はわからないが、記載しておかねばならない。

 @最低血圧が高いときは、通導散を使え。

 A最低血圧が低下する場合は、竜胆瀉肝湯、黄連解毒湯を用いる。

 B最高も最低も、ともに低いときは、キョウ帰調血飲の加減を用いる。

 C最高血圧が140〜130と低くても、最低血圧が100o以上であれば通導散を用いる。

初診時に最低が100o以下では、通導散はもったいない。危険なことはないが……。

最低血圧が高いときは、性器出血、腸出血など出血があっても
止血剤を用いるのはよくない。通導散でオ血を除くべきだ。

出血があると最低血圧が下がる。最低が下がると竜胆瀉肝湯を用いる。

月経時は、最低血圧が下がる。しかし。月経時には、キュウ帰調血飲第一加減を用いる。

また、尿中に蛋白や糖が出るときも最低血圧は下がる。また、発汗しても下がる。

糖尿病も最低血圧が下がれば、竜胆瀉肝湯を用いる。

腎不全も普通、通導散を用いる。尿中に赤血球が出ると竜胆瀉肝湯を合方する。

最低血圧が高く、蛋白尿があるときは、地黄を加える。

以上のような弁証論治をしておられた。血圧診は、脈診とは全く異なった情報である。
そして中島隨象先生独自のものである。

尺診

先生は尺診を重視される。

尺膚が乾燥して、キメが荒く、ざらざらした人は竜胆瀉肝湯、
なめらかな皮膚は通導散を用いる。
その他漢方舎独特の新療法もあるが割愛する、

日本海軍の訓練による百発百中も、アメリカの電探(レーダー)に敗けた。
不器用なものは機械を発明する。勘の悪いものは学問をつくる。
先生の勘や感覚にはついていけないわれわれには、中島漢方を知ることは不可能である。
しかし、できる限り受けつぎたい。

またそれを現代向きに誰もが使える漢方にしてみたいと思うのである。
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『漢方一貫堂医学K

中島紀一先生の系譜

中島紀一先生は、明治31年2月1日生まれで、それで紀一と命名されたと伺っています。
先生は、中学を卒業すると、千葉薬専に入学された。
その千葉薬専時代、大正6年の春に頚部淋巴腺炎(おそらく結核症と考えられる)に罹り、
当時、内科学で著明な教授井上善次郎先生の診察を受けられた。
しかし、治らないから休学して療養するようにいわれた。
友人の松岡先生が矢数格先生を紹介されて、
矢数先生の治療を受け、腫瘍も一週間で減退し、三ヶ月で全治された。
中島先生は、薬専を卒業され、内務省の東京衛生試験所に2年ほど勤務されたが、
千葉医専に入学され、大正14年3月に卒業された。
卒業後は、船医として2年ほど勤務された。
その後、兵庫県立病院の眼科に勤務し、昭和4年、神戸に内科の診療所を開設された。
その時、32〜33歳であったといわれます。

1.一貫堂との関係
 
 A.矢数格先生

中島先生は「矢数格先生七回忌記念文集」に、
矢数道斉先生は、私の命の恩人であるという文を記載しておられる。

「思えば大正7年私の腋窩淋巴腺炎を治していただいて以来、殆ど毎三年、
記載するのも忌まわしい各科の病気を治してもらいました。
両脛の長期の狼瘡の数多い深い瘢痕を見つけるにつけ、先生独特の疎肝散を、
自動車をひっくり返して右腕の複雑骨折で、尺骨の仮関節と瘢痕を見つけるにつけ、
再度の自動車事故で助骨骨折、肺臓破裂で一週間喀血に通導散。
その後の助膜肺炎に小青竜湯等の味を思うにつけ今更なき命を救っていただき、
瘢痕や仮関節はそのまま当時を語りますが、
機能は完全に戻り、筆もとれパンクの車輪も上げられます。
この事は先生神に通じた処方のおかげでありました。」

私は以上の文をみて、薬学専門学校を卒業され、
内務省の東京衛生試験所に勤務されていたにもかかわらず、
また医学へ転向されているのは、
矢数格先生の教導に、大きな力があったと思うのである。
矢数格先生は、箱根を越えられてない。教導は、電話であったと思われる。

 B.森道伯先生

中島先生と森道伯先生との出会いは、
「森道伯先生生誕百年記念文集」に中島先生が記載されています。

「大正八年の初夏、森先生との出会いとなります。
和泉橋の衛生試験所から近くの下谷一貫堂の矢数先生を訪ね、
初めて森先生を紹介されました。……………初めて先生に診て戴いた。
温かく大きな手で脈をとり、腹を撫でられ『瀉肝だ』と言われた。」

初対面のときは、一貫堂に矢数格先生を訪ねて、森先生を紹介されている。
中島先生が千葉医専を卒業されたのが、大正14年3月、後2年は船医であった。
大正15年は昭和元年であった。森先生が亡くなられたのが昭和6年の1月であった。
それでも数回は、会っておられたようです。
しかし、森先生との接点は、どおも短すぎるように思われる。

2.難波抱節の書

昔の師は、門弟によく書を書いて与えたようである。
そして、難波抱節も多くの書を与えたであろう。

その中に許学士の
「仲景の書を読んで、仲景の法を用い、未だ嘗て仲景の方を守らず、仲景の心を得るとなす」
という文を書いて与えられた。この文は多かったと思う。
中島先生は、抱節の書を一つ持っておられた。
この書を私(山本巌)に下されたのである。
もう一つ同じ文章を森田幸門先生の奥様に書いてもらったものを持っておられた。
先生は私達に、傷寒論ばかりでなく既成の医学に盲従するな、
その学を通じて、その心を得よと教えられている。
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『漢方一貫堂医学L

通導散 万病回春

[組成]
 大黄 芒硝 枳実 厚朴 陳皮 木通 当帰 紅花 蘇木 甘草

[解説]
本方は、万病回春の折傷門に出ている方剤で、折傷はオ血の凝滞が多い。

即ち、地震で家屋倒壊や交通事故のクラッシュ症候群のように、
内出血多く、その出血が凝滞して体内に滞り血液が吸収されると熱が出る。

その跌僕傷損極めて重傷、大小便も出ず、オ血は散せず、肚腹(お腹が)膨張し、
それが心腹に上攻して、悶乱死至らんとする者に用いると、
最も良くオ血を散じ、死血、オ血を打ち下す。
その後に損を補う薬をやったら良い。
と書いてある。即ち、非常に強力な駆オ血剤である。

漢方一貫堂医学には、
大承気湯に当帰、紅花、甘草で加味承気湯となり
蘇木、枳殻、陳皮、木通で通導散になる。…と解説して戴いた。

ところで、通導散は、孕婦小児は服する勿れと書いてある。
挫傷で内出血が多く、
そのため……悶乱死に至らんとする重症の者に使用する方剤である。

私は、非常に強い駆オ血剤で使用は非常に気を使った。
大黄、芒硝、枳実(枳殻)即ち、大承気湯で体内の毒物を大便に瀉下させて除く。
それに蘇木、紅花、当帰という活血、破血、去オの薬を配合したものである。

桃核承気湯、桂枝茯苓丸などでは、破血効果は弱い。
紫色に内出血しているとき、紫色の出血班がどれくらい服用すれば消えるか
を試してみるとよくわかる。
私は、治打撲一方を用いていた。
そしてクラッシュ症候群の腎不全など、治打撲一方も通導散の代用になると思う。
ただ、悶乱死に至る場合はどうであろうか。

私は、森道伯先生がどうして通導散を知ったのだろうかに興味があった。
通導散を使用される機会など日常の診療にそうあるものではない。
なぜなら、本方は、折傷の治療が目的でつくられたものである。

おそらく森先生が大正の年の、関東大震災のとき、
一瞬にして折傷の病人が爆発的に生じ、
それに対して膨大な通導散を使われたであろうと想像する。
そしてこれ以降、この通導散を折傷だけでなく、
桂枝茯苓丸、桃核承気湯、大黄牡丹波湯などに代えて、
一般の駆オ血剤として使用されるようになられたのではないかと思う。

このことに就いて石野信安先生は、次のような文を残しておられる。
「…関東大震災の時、千葉に一時疎開されていた森道伯先生は、
ここで通導散の治方を確立され、一貫堂五方の一つを編み出したのであった。
蒙放磊楽な道伯先生が、通導散を手中のものにされるまで、
色々な場面があったのであろう。」(矢数格先生七周忌記念文集より)

そして折傷には通導散で終わってしまえば、何の進歩もなかった。
しかし、この強力な駆オ血作用のある蘇木、紅花、当帰を
大黄、枳実を配した通導散を、
一般の駆オ血患者に応用して非常な効果をあげられた。
そこに森道伯先生の偉大さがあると思う。

石野先生の文を続けます。
「昭和6年頃、東京一貫堂では、
通導散、五積散、加味承気湯が用いられていたやに思われたが、
当時千葉では、五積散、養胃湯加減、二陳湯加厚朴枳実、
小柴胡湯小症気湯合方が当時のメモに残っていて、懐かしさがこみ上げてくる。
千葉の大病院で見離された難疾も来ていたことを思い出す。

次の例もその一つである。
昭和三年、56歳の大○八○氏は幽門狭窄で嘔吐頻発、
手術しても駄目だと宣告されていたのに、通導散合養胃湯で快癒され、昭和六年
元気になって来られた同氏をまのあたりにみた記録が残っている。…」以上。

通導散は、出典が万病回春の折傷門にある方剤で、破血力が強い。
そこで、折傷のみならず、一般のオ血の治療にも応用したのである。
通導散は、孕婦小児は服する勿れという注意があり、分量も注意が必要である。

そして今日では、外科の挫傷ばかりでなく、
内科や婦人科の駆オ血剤として広く用いるのである。
日本漢方では、古今方彙、万病回春にあり、また牛山活套の折傷門にもある方剤だが、
一般にあまり使用されず、一貫堂が使ってから広く(でもないが)使用され、
その名称が知られるようになった。
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『漢方一貫堂医学M

解毒証体質      結核に罹り易い体質→→→解毒証体質

解毒体質などと言う変な名称であるが、これは、四物黄連解毒湯で
体質を改善しなければならない体質のことである。

四物とは四物湯(当帰・川キュウ・芍薬・地黄)のこと、
それと黄連解毒湯(黄連・黄ゴン・黄柏・三梔子)を合方した方剤である。

そして毒とは、化膿性炎症のことである。炎症のことを熱と呼ぶが、化膿性炎症が熱毒で、
これを治療することが清熱解毒である。
それで、解毒証…解毒体質と名づけられたと思う。
解毒証の体質者年齢によって化膿性炎症のおきる部位が異なり、三種に分類している。

〔A〕柴胡清肝散
幼時は、中耳炎や扁桃腺炎、頚部淋巴腺炎等の側面が化膿性炎症をおこすため、
外科枢要の柴胡清肝の意を取り入れて作ったと、私は考える。
外科枢要は、鬢疸を治す方剤でビン(耳の前)に出来るセツのこと
側頚部のおできに用いる方剤である。

〔B〕荊芥連翹湯
この体質の者は、青年期には
蓄膿症や膿疱性ザ瘡といった正面の化膿性炎症をおこすようになる。
そのため、白シを加えている。10歳くらいから青年期の方剤である。

〔C〕竜胆瀉肝湯
解毒証体質の者は、青年期から淋病、尿道炎、膀胱炎、ソケイ淋巴腺炎、婦人の外陰炎、
子宮内膜炎、卵管炎等の化膿性炎症がおきる。また、尿路結石になり易い。
婦人良方や蘭室秘蔵の竜胆瀉肝湯に
四物黄連解毒湯を配して一貫堂の竜胆瀉肝湯をつくった。
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『漢方一貫堂医学N

防風通聖散証へのアプローチ

中島隨象(紀一)先生は、
防風通聖散の適応についての質問に答えて、まず丹毒をあげられた。

防風通聖散は、『宣明論』の「中風門」に記載され、
『万病回春』や『古今方彙』をはじめ後世方の書ではほとんど中風門にある処方でる。

そして一貫堂医学では臓毒ならびに臓毒体質者の疾病に用いることになっている。

臓毒体質は肥満卒中体質といわれ、脳出血の予防や治療にも用いられる。
そのため非常にとらえどころに苦しむのである。

防風通聖散証は、
『宣明論』や『古今方彙』の中風と一貫堂の臓毒体質を結び付けて、
脳出血、脳梗塞などの中風と考えられがちである。

ところが『宣明論』や『古今方彙』の中風とは熱病のことなのである。
「一切の風熱、大便閉結、小便赤渋し、頭面に瘡を生じ、目は赤く痛み、
或は熱が風邪を生じて舌強り、口噤或いは……」という記載をみれば明らかである。

中風といっても、一切の風熱といっている。
大便閉結(口渇、舌燥)、譫妄、驚狂は承気湯を用うべき中焦の実熱を意味し、
小便の赤渋は下焦の熱盛を意味し、山梔子、滑石、(竹葉)などを用いる。
頭面の瘡(癰)、目赤等は上焦の熱を意味する。
舌強、口噤の筋肉の痙れんなども脳の出血によるものではなく、
熱によって風(筋肉の痙れん)を生じたと記している。
譫妄、驚狂の症も諸熱のためである。

風刺疹して肺風となり或いは癘風となるなどは皮膚の表面における熱性の病変である。
中風門に記載されているので現在の人は脳血管障害の中風と勘違いする。

防風通聖散と熱病

中島先生は、丹毒を防風通聖散の適応症の代表にあげられた。
オーソドックスに言えばまさに最適であるが、現在では診ることはない過去の病気である。
したがっていまの医師は知らない人も多い。

丹毒は悪寒戦慄を伴い、高熱を発して稽留し40℃以上数日間も持続、
頭痛、譫語、食欲不振、高熱に伴う全身症状を示し、
肺炎、腎炎、敗血症を起こすこともあり、老人、幼児は予後が悪かった。

皮膚の病変部位は境界が明確、多く鋸歯状をなし、
発赤浮腫があり、中央部に水疱をみることもある。
ブレンネンド、または丹毒といわれるように、燃える炎のような赤さである。

それでは、なぜ本症が防風通聖散の代表的な適応と言えるのかということである。

通聖はそもそも、三焦の実熱と表裏双解がその方意である。

この丹毒は表裏の熱盛で皮膚の表にも、裏の三焦にも実熱が盛んである。

口渇、舌燥、苔厚く黄褐、大便秘結すれば
中焦の熱盛で、潮熱、譫語する。石膏ならびに承気湯を用いる。
小便赤渋すれば、下焦の熱盛であって
山梔子、滑石、竹葉などを用いるべき病態を意味する。

もし現在ではなにを適応とするのか、と問われるなら私は麻疹の最盛期をあげたい。

麻疹の初期は主として表に病がある。
したがってカタール期には升麻葛根湯などが代表であろう。

発疹の最盛期以後は表にも裏にも熱が盛んで、大便秘結、口舌乾燥、
舌苔厚く乾き、腹満し、小便赤渋とするときは本方の適応なのである。

昔は梅毒も通聖の適応となった。
それは梅毒性疾患が、皮膚、骨や内臓に炎症性の病変を示したからである。

しかし、通聖は梅毒にも有効であったと思われるが
単独では、やはり無理だったのである。

表裏双解の方剤であるため、
皮膚の炎症性疾患に用いられ、ことに昔は化膿性疾患に使用された。
頭瘡、鬢疽、面庁など頭部、顔面などの癰、尋常性毛瘡、蜂窩織炎などがある。

これ等の疾患も初期の表を主とする場合は荊防敗毒散に加減して用いるが、
高熱持続し、口渇、舌燥、大便秘結、小便赤渋など
裏熱の症状がでてきたとき用いるのである。

防風通聖散は『宣明論』が出典で
劉完素(1110年頃〜1200年頃)によってつくられたとされている。

劉完素は疫病など数多くの熱病を診て、
風、寒、暑、湿、燥、火のうち火を最も重視し寒涼の剤を多用した。

表と裏の三焦に熱盛んな場合に用いる方剤として
三焦の実熱、表裏双解の通聖をつくったと考えられる。
清熱に用いるときは、清熱薬を大量に用いなければならないこともある。

通聖は承気湯→涼隔散→石膏、滑石を加えて三焦の実熱に対し、
薄荷に麻黄、荊芥、防風等を加えて表裏双解をねらったものである。
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『漢方一貫堂医学O

一貫堂の排毒体質と通聖

現在日本の漢方解説書をみると、脂肪太り、
重役タイプの太鼓腹、便秘型、卒中体質に用いるといわれ、
脂肪太りのやせ薬として宣伝されるむきもある。

こうした考え方の基礎には一貫堂の臓毒体質というとらえ方がある。

一貫堂においても、表裏双解、三焦の実熱に対する方剤という意味で、
丹毒など熱病の治療に使用されることは勿論であるが、
それに加えて臓毒体質者の疾患に応用された。

臓毒は古来、直腸がんのことであるが、一貫堂でいう臓毒はこれと異なり
風毒、食毒、水毒、梅毒の四毒であると説明されている。

肺炎、腸チフス、丹毒などの急性熱病に罹患する以外には
中年をすぎるまで病気をしない者がいる。
胃腸が丈夫で、消化吸収、同化作用がすぐれ、食欲もあり、
食べるものはおいしく、よく食べて元気である。朝は早くから起きてよく働く。

若いときは非常に元気である。ところが、中年以後になっても食欲はあり、
空腹でなくても食べると入るので消化機能も同化作用もおとろえない。
しかし、次第に運動不足となり、異化作用が衰えてくる。

現在の日本のように、高たんぱく、高脂肪等の栄養価の高い米国型の食事となり、
アルコール飲料も多く飲む、自動車などの車会社をつくり、忙しくて運動不足となる。
摂取した栄養は消費されなく、脂肪組織も増殖して肥満となり、代謝が衰えると、
高脂血症、高尿酸血症、糖尿病、脂肪肝、動脈硬化、冠動脈硬化、
高血圧症、脳動脈硬化症、狭心症、心筋梗塞、脳血管障害、腎不全、痛風など
多くの成人病になる体質である。したがって臓毒は現在では主として食毒と考えた方がよい。

しかし、だからといって通聖を服用すれば直ちに肥満が治るものではない。
やはり、栄養の過剰摂取を改めること、運動不足をなくし、
摂取したエネルギーを十分に消費し、
発生した過剰の中間代謝産物を除くのが防風通聖散の働きである。

このような考え方は劉完素の熱病に対する治療からは生まれない。
むしろ劉完素よりあとから出た張子和の三法の考え方を引き継ぐものであろう。

張子和は、邪の停溜が病であると考えたのである。
「人間は先天的に固有の病はない。外界から浸入し、或いは内部から発生する邪気による。
邪気に中って発病したなら、当然これを取り除かねばならない。これを行うに三法がある。
汗、吐、下である。邪が去らないうちに補を行うのは、盗賊がまだ門の内に居るにもかかわらず、
室内のものを整頓するようなものである……」と張子和は言った。

そしてこの病邪を除去するのが治療であるとしたため、攻下派といわれるようになった。

一貫堂医学によれば、臓毒とは体内にあるある種の毒で、
風毒、食毒、水毒、梅毒の四素を臓毒に相当するものと述べている。

前述した中年期以後に発生する成人病に相当するものは、
ほとんどが食毒と推定される。梅毒はすでに過去のものである。
したがって一貫堂医学では
通聖は臓毒(そのほとんどが食毒である)を汗、下(排尿は下に属す)によって除去するものである。
清熱というより、去邪に重点がおかれているわけである。
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『漢方一貫堂医学P

漢方舎と防風通聖散

漢方舎では、防風通聖散を
丹毒をはじめとする三焦の実熱、表裏の熱証を同時に双解する場合にも用いる。

また、体内の毒物、例えば水銀などの重金属でも汗法により除く。

気道から、胆汁から、大小便に至る総ての解毒排出の方法を用いて
体内の毒、邪を除く主薬として用いる。

さらに漢方舎で隨象先生は、老人、小児、虚人の正気の虚に対して
非常に薄くした少量の瀉剤をもって、
虚を虚して正気をふるい立たせる治法を確立されたのである。

カゼをひきやすい子供に厚着をさせず、
むしろ空気浴、冷水摩擦などで、鍛えることによって
カゼをひかない丈夫な体に育てるのと似ているのである。

中国医学の原則が、「虚すればその正を補ない、実すれば邪を瀉す」にある。

中島流漢方独自の真髄は、ホメオパティ療法にも似た発想で、
ややスパルタ式教育とおなじく、
攻めることによって正気の反発力を引き出す治療を行うところにある。

大雑把に物質代謝面からみた体質であるが、
胃腸の働きが弱く消化吸収から同化作用が悪い体質の者は気虚になり、
四君子湯類や補中益気湯の類である。

同化作用は非常によいが
中年から異化作用が衰えて、脂肪の沈着や中間代謝産物の排泄が充分でなく
成人病になる者は臓毒体質で防風通聖散を用いる。
小児のときから、エネルギー代謝が亢んでいくら食べても太ることはない。
"七儲の八使い"で、陰虚で解毒体質者である。
幼児のときから中耳炎、小児で扁桃炎、蓄膿症……のように
炎症を起こしやすく、結核に罹患する。

こうした人には六味丸や柴胡清肝湯、荊芥連翹湯、龍胆瀉肝湯の三方を用いる。
漢方舎では、さらに通聖などで異化作用を促進させて、
同化作用を喚起する方法もとるのである。

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病人の治し方

これからの漢方に本当に大切なことは
第一に、その病に対する認識をもつこと。
そして病態をできるだけ正確に把握すること。
その病態に合わせた薬方を作るということ。
それから適用量。
くどいようですが、これこそが重要です。

個々の生薬の働きや、生薬の組み合わせにより
どういう働きをするかということを知った上で、
その病態に対してどう作用するか、、、、。

たとえば、戦争をする時には、まずは敵を知ること。
敵を知って己れを知って百戦危うからず、といわれます。

自分がどういう武器を持って、どのように対処できるか、
そして、相手を充分に良く理解していれば、
それは、百戦しても勝つという、そういうことなんですよ。

あらゆる手段で情報を集めないと、病というのは、捕まえられない。

現代でも日本の漢方家は四診(望診・聞診・問診・切診)を最重要視し、
西洋医学の病の認識や病態生理、諸検査にあまり目を向けない。

昔はね、病人から情報を得るには、その四診しか方法が無かったんです。
だから、それはやむを得ないんです。

原始的な四診だけでは、ガンと結核、梅毒などの区別もつかなかった。
現代の種々の慢性疾患の識別もできない。
しかも望診、聞診で、ガンが診断できても、既に手遅れですよ。

四診だけでまた、その脈を診て病気の全部を判断できる、わかるというのは、妄想です。

ただ、西洋医学的なものだけで判断をしても、そうはいかないんです。

例えば胃潰瘍なんていうのは、内視鏡で見たらわかる。
それが、競馬に負けてそのストレスで胃に穴があいたなんてことだったら、どうでしょう。

潰瘍だけ診断して治療しても、それで十分でしょうか。

私は、扁桃腺炎で、月にひどい時は2回も熱を出す子供を、
その扁桃腺が起こらんように治してくれって言われて治したんですよね、

それは小学校5年生の女の子でしたが、
両親は学校の先生なんですよ。

その女の子は解毒体質だから、柴胡清肝散をやったら、
半年も経たないうちに扁桃腺炎がだんだん起きにくくなった。
熱も出なくなって、出ても、ごく軽く済む様になり、学校も休まなくなった。

そしたら今度、親が連れてきて、
「この子、夜尿症になったから治してください」って言うんですね。

「この子いつから夜尿症になった?」って聞いたら、
「その扁桃腺炎が治ってからなった」っていう。

それで「いつから小便を夜しないようになったのか?」って訊いたら、
「3歳の時から全然しない」と。、、、、

扁桃腺がよくなったと同時に夜尿症が出てきたんですね。

それでよく聞いてみると、
その子は一人っ子で、両親が学校の先生ですから鍵っ子で、

その扁桃腺で熱が出るとどうしたかといえば、
両親が学校を休んで、その子を世話して、医者に連れて行ったりしておったんです。

その子ども自身、まだ、母親に対して乳離れができてなかったんですよ。
扁桃腺で熱のあるのはつらいが、母親が世話してくれる時が親に甘えるチャンスだった。

扁桃腺炎を起きなくすることは、子供から母親を奪うことになる。
母親に対して乳離れができてないから、それで夜尿症になったのです。

可哀想な事をしたと思いました。

人間、真空の中で生きているのではない。
自然環境、人為環境、家族、社会環境のなかで生きている。

だから病を見る場合も広く深く、いろんな面から把握しなければならない。

そんな意味から、中国やわが国の古代人の物の見方、
バランスを常に整えようとするような東洋医学の病気のとらえ方、
これは大切にしなければならないんです。

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      生薬解説

あ行


阿膠   茵陳蒿  鬱金(宇金)  烏薬  延胡索  黄耆   
黄ごん   黄柏   黄連     遠志

か行

艾葉    莪朮    かっ香    葛根     滑石    か呂根
か呂仁  桔梗    菊花    枳実    きょう活   杏仁
金銀花  苦参     荊芥    桂皮    決明子    玄参
膠飴
    紅花    香附子   粳米     厚朴     牛膝
呉茱萸  牛蒡子  五味子このページのトップへ

さ行

柴胡     細辛     山帰来     山査子     山梔子     三七
山茱萸   山椒    山豆根    酸棗仁     山薬      三稜
地黄     紫根     紫蘇葉     シツリシ    芍薬      車前子
縮砂    熟地黄   小茴香     生姜     小麦      升麻
蜀椒     辛夷    地骨皮     地竜      青皮      赤芍
石膏     川キュウ   川骨      蝉退      蒼朮     桑白皮
蘇子
     蘇葉     蘇木

た行

大黄    大棗   大腹皮    沢瀉    丹参    知母
地楡   鶏血藤   丁香    釣藤鈎    猪苓    陳皮
冬瓜子  当帰    桃仁     独活    杜仲   土別甲このページのトップへ

な行

人参

は行

貝母    麦門冬    薄荷     半夏     白し     白朮
檳榔子   茯苓    炮附子     防已     防風    樸そく
蒲公英   牡丹皮    牡蛎

ま行

麻黄   麻子仁    木通     木防已    木瓜    木香

や行

益母草  ヨクイニンこのページのトップへ

ら行

竜骨    竜胆     連翹
    漢方処方解説
あ行

安中散
      葦茎湯    茵陳蒿湯    烏薬順気散    越婢加朮湯    
黄連解毒湯   乙字湯 
か行

霍香正気散
   葛根湯    甘草乾姜湯    桂枝湯     桂枝加芍薬湯
五積散      呉茱萸湯    五苓散
さ行

柴胡加竜骨牡蠣湯
     柴胡桂枝乾姜湯     柴胡桂枝湯     四逆散  
四君子湯     四物湯     小柴胡湯@     小柴胡湯A     小青竜湯 
小半夏加茯苓湯     逍遥散      四苓散      参蘇飲 
た行

大建中湯
     大柴胡湯      大青竜湯      猪苓湯      当帰飲子 
当帰四逆湯    当帰芍薬散 
な行
人参湯    
は行
麦門冬湯     平胃散    補中益気湯
ま行
麻黄湯     麻黄附子細辛湯    麻杏甘石湯
や行
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ら行
苓甘姜味辛夏仁湯     苓姜朮甘湯